プログラミング・タイピング・ゲームによる 新入社員の早期戦力化と顧客増

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1 論文要旨

テーマ:プログラミング・タイピング・ゲームによる新入社員の早期戦力化と顧客増

要旨:
当社が注力している新入社員研修において、新たな顧客獲得と既存顧客の満足度向上を目的としてJavaプログラミングのソースコードをタイピングゲーム形式で入力するWebシステム(以下、本システムという)を開発した(Java写経タッチタイプゲームへのリンク)。顧客に利用いただいたところ、タイピングスピードの向上に大きな成果が得られた。また、同時に当社サービスに対する認知度も向上した。

Java写経タッチタイプゲーム
図 1 システムイメージ

2 目的・背景

当社はIT技術者教育を専門にする研修会社である。創業は2000年で、ニッチな領域ながらも北は北海道から南は九州まで全国に顧客がいる。当社の営業品目の中では新入社員研修は売り上げの約4割を占める重点商品である。期間も3か月と長く、容易にスイッチングされないことから今後も主力としていきたい領域である。

近年、この新入社員研修において顕著なのがキーボード操作に不慣れな受講者の増加である。当社の研修において新入社員の方々には、IT技術を好きになってもらう、少なくともIT技術を嫌いにならないことを第一の目標に置いている。その点においてキーボード操作に慣れることができるかどうかというのがキーポイントの一つであると20年以上の講師経験から断言できる。

では、なぜ、キーボード操作に慣れていないのかと言えば、スマホの台頭と若者のPC離れである。リンクの図は、株式会社ジャストシステムが行ったメディアごとの利用時間に関する動向調査の結果である。棒グラフ上の数値は1日当たり何分間それぞれの機器を使用しているかを表したものである。年齢層が下になるほどパソコンの比率が下がり、スマートフォンの比率が高くなっていることが見て取れる。特に新人研修の対象者である20~24歳ではスマホがPCに迫る勢いである。

2.1 海外の事例

インターネットを通じて海外の同様の取り組みを調査した。1件だけ米国に類似のシステムがあった。しかし、内容はランダムなソースコードの断片が画面に表示され、それを打ち込むというもので、本システムのように体系的にプログラムの文法を身につけさせるものではなかった。

2.2 国内の事例

類似の取り組みは皆無であった。もちろんタイピングゲームのWebシステム自体は10指に余るほどあったが、それらはすべて一般的な文章を入力させるものであり、本システムのようにプログラミング言語の文法を同時に身につけさせるものはなかった。

3 方法

この章では、本システムのシステム構成と集客方法、苦労した点、工夫した点について述べる。

3.1 システム構成

本Webアプリケーションのシステム構成は以下の通りである。
OS:Linux
CPU:48コア
メモリ:512GB
RAID構成:RAID 10
Webサーバー:nginx
プロトコル:HTTP/2
開発言語:PHP 7.2.1、HTML5、JavaScript

3.1 システム構成

本システムへの集客方法としては、①プレスリリース、②Googleからの自然流入、③YouTubeからの流入を利用した。ここでは、その中でも最も効果のあった③YouTubeからの流入について述べたい。
当社はYouTubeにおいてかねてからチャネルを開設して技術の解説動画を配信していた。しかし、決して視聴者数は多くなかった。そこで、本システムのソースコードを解説する動画を掲載したところ、今までの10倍以上の視聴者が得られた。また、本システムからYouTube、YouTubeから本システムへの相互の動線が作られたため、互いを回遊することでさらにアクセスが増えるという好循環が生まれたようである。

3.2 苦労した点

本システムで最も苦労したのは、スタンドアロンでキーボードを打っているのと同様の臨場感をWebシステムでどうやって実現するかという点であった。そこでAjax(ウェブブラウザ内で非同期通信を行いながらインターフェイスの構築を行う技術。Googleマップでの実装が有名)を活用して、押されたキーの色をリアルタイムで濃くするという表現を採用した。
また、タイプ音を加えてはどうかというアイディアも存在した。MP3音源を使って正解音と不正解音を鳴らす仕様としたところ、ユーザーの一部から仕事中に音が聞こえるのはまずいという意見が出て、取りやめた。この早期のフィードバックはありがたい顧客の声であった。

3.3 工夫した点

次に工夫した点について述べる。それは以下の2点である。
1点目に101個の問題(ソースコード)があるうち、一番目のHello Worldのソースコードがデフォルトで選ばれるようにした点である。そのことによりユーザーに使い方の解説をしなくても、いきなりチュートリアル的にゲームを進めることができるようになり、ユーザビリティの向上につながった。
2点目に多言語展開をした点である。Javaは根強いニーズのある言語であるがエンジニアに大人気の言語とまでは決して言えない。そこで、C言語やPHP、Pythonなどの他言語をラインナップに加えることにした。他の言語の問題数はまだまだ不足しているため今後も増やしていきたいと考えている。

4 結果

結果を研修受講者のキーボード入力スピードの向上と弊社のWebアクセス数の増加の2点から述べたい。
まず、キーボードの入力スピードは劇的に向上した。以下のグラフはその一例である。
ある顧客先において19名の新入社員に対して約4か月間、毎日練習と記録を繰り返してしていただいた時のWPMの結果(Words Pre Minutes:1分当たりの正タイプ数‐誤タイプ数×3)である。
※なお、グラフに上下運動があるのは日ごとに問題の長さや難易度が異なるためである
最も入力速度が遅い受講者でも51.3 WPM が135.4 WPMと2倍以上に向上しており、最も早い受講者の場合は、350を超える日もあった。

全員にタイピング速度の向上が見られた
図 2 全員にタイピング速度の向上が見られた

研修受講者に対して行ったアンケートには、「タッチタイピングやショートカットなどの基本から教えてくれるのでとても良い」とのコメントがあった。また、顧客である育成担当者からは、「御社に変えてから新入社員の成長スピードが早い」とのお言葉をいただいた。ありがたいことである。

他方で弊社Webページへのアクセスについては本システムの運用開始から徐々に増加し、直近では月2万ビューと開始前の30倍近いユーザーが訪れている。次ページのグラフはグーグルアナリティクスのデータである。

図3 運用開始からの当社Webサイトのページビューの伸び

SEO(Search Engine Optimization, 検索エンジン最適化)としての効果は明らかであり。以下の通り複数のキーワードで検索順位1位を獲得することができた。

その要因として多くの検索キーワードで1位を取っているという事実がある。以下の図5は検索順位チェックツールとして有名なSEOチェキのスクリーンショットである。「Java 写経」、「Java タッチタイピング」、「Java タイピングゲーム」などの多くのキーワードで1位を獲得していることがうかがえる。

いろいろな検索キーワードで検索1位を獲得しているpng
いろいろな検索キーワードで1位を獲得している

5 考察・課題

5.1 タイピング速度とIT技術の習得度について

今回は明らかに受講者のタイピングスピードが速くなった。しかし、それがIT技術の習得に結びつかないのであれば、顧客の期待に応えているとはいえず効果は限定的である。

プログラミングは覚えるものではなく、理解するものであるという意見があるがどうだろうか?確かに、プロのエンジニアであってもプログラムのメソッド名や変数の数などを詳細に覚えているわけではない。良い技術者ほど丁寧にWebやドキュメントを調べてから実装しているようである。

しかし、さすがにfor文やif文は覚えているのではないだろうか?基本的な記述方法まで調べなければならないのは未経験の言語の場合だけであろう。基本的な文法は頭というよりも指が覚えているものである。

なお、実感として、入力速度の向上は研修の最後に行ったシステム開発演習実施時に顕著に感じることができた。つまり、明らかに研修後半になるにつれ、課題作成時のスピードが上がったのである。よってこの点は確かに効果があったといえる。

5.2 Webからの流入増による顧客数の増加について

先に述べた通り、Webからの見込み客は大きく増加した。さらに増やすにはどうしたらよいだろうか?また、PVが増えても研修申込につながらなければ意味がない。その点に関してはどうするべきであろうか?
PVをさらに増やす策として、①SNSの活用と②クイズコンテンツを増やす③他のプログラミング言語展開の3点を考えている。このうち、③は既に手を打っており効果も確認済みであるため、他の2点についてここで考察したい。
①SNSの活用については、ゲームのスコアをTwitterでつぶやくような仕様を考えている。それを見た人が本システムを利用してくれるという仕掛けである。技術的にもスコアを変数に入れてTwitterのAPIに渡すだけなので実現可能だと思われる。②のクイズコンテンツを増やすということに関しては、現在は技術の解説しか挙げていないが、参加型のコンテンツを増やすことにより、より多くのPVを得られるものと考えている。
なお、最後に本システムが研修申込につながったかどうかの判断であるが、なかなか難しい問題である。定量的にデータが用意できているわけではないが、既存顧客から新たにJavaの新人研修を打診されたことは付記しておきたい。

6 まとめ

以上、見てきたとおり、本システムが受講者のタイピング速度とプログラミング能力の向上に役立つサービスであったことは論を待たない。また、当社Webサイトを訪れる人の数を増やし、間接的にではあるが、お問い合わせ増と売上向上に貢献したことも状況証拠からみてとれる。
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、これまでのような対面型の営業手法には限界がある。これからも本システムのようなITエンジニア教育に関するWebサービスを提供していきたいと考えている。それにより当社のブランド価値を高めるべく新たな集客手法を開発していく所存である。

以上。