これまで学んできたAIの理論やアルゴリズムは、今やさまざまな分野で活躍しています。
この章では、AIが実際にどのように社会に実装されているのかを、医療、金融、製造、エンタメ、そして社会課題という5つの視点から具体的に見ていきます。

6.1 医療分野での活用事例

医療はAIの恩恵を最も強く受けている分野のひとつです。
診断支援・画像解析・創薬・電子カルテ分析など、幅広い用途があります。

画像診断支援

  • ディープラーニングによる画像認識(CNN)を用いて、X線・CT・MRI画像から異常部位を検出
  • 例:肺がんの早期発見、糖尿病網膜症のスクリーニング

自然言語処理によるカルテ分析

  • 医師の記述(自由記述)をNLPで解析し、病名や投薬傾向を構造化
  • 例:診断精度の向上や医療ミスの低減

創薬・タンパク質構造予測

  • AIが膨大な化合物をシミュレーションし、候補薬を高速にスクリーニング
  • DeepMindのAlphaFoldはタンパク質の立体構造予測で大きな注目を集めました

6.2 金融業界におけるAI

金融は、データが豊富かつリアルタイム処理が求められる分野として、AIとの相性が非常に良いです。

クレジットスコアリング・審査の自動化

  • 個人の信用度をAIが判定
  • 機械学習で「返済能力」「不正リスク」などを予測
  • 人的偏見の排除、審査の迅速化に貢献

詐欺検知(Fraud Detection)

  • 取引履歴や行動パターンを分析し、不正アクセスやクレジットカードの不正使用をリアルタイム検出

ロボアドバイザー

  • 投資信託や資産運用の提案をAIが自動で行う
  • 個人のリスク許容度や目標からポートフォリオを構築

6.3 製造・物流業界での自動化

AIとロボティクスの連携により、「人手を介さない生産・搬送」が現実のものになりつつあります。

異常検知・予知保全

  • センサーデータをAIが解析し、機械の故障を事前に予測
  • 時系列データの分析が中心(RNNやLSTMが活躍)

外観検査の自動化

  • 画像認識によって、製品のキズや不良品を自動判定
  • 人による目視検査より高精度かつ高速に

自動倉庫とルート最適化

  • 倉庫内をロボットが自律移動し、ピッキングを実行
  • AIが物流ルートを最適化し、配送コストや時間を削減

6.4 エンタメ・広告分野でのAI活用

エンタメ業界では、AIが「人の好み」を理解し、最適な提案や創作を支援しています。

レコメンドエンジン

  • NetflixやSpotifyなどが代表例
  • ユーザーの過去の行動から、次に好みそうな作品を推薦

広告のパーソナライズ

  • Web広告では、ユーザー属性や行動履歴を元に広告を最適表示
  • CTR(クリック率)の向上に貢献

AIによる創作

  • 画像生成(DALL·E)、音楽生成、文章生成(ChatGPT)など
  • クリエイティブ支援として人と共創するAIが台頭

6.5 社会課題とAI

AIは便利な一方で、社会に大きな影響を与えるテクノロジーでもあります。
その中でも注目すべきは「雇用」「倫理」「差別(バイアス)」の3点です。

雇用の変化

  • 単純作業や定型業務の自動化により職種が変化
  • 一方で「AIを使いこなす職種」は増加(AIスペシャリスト、データサイエンティストなど)

倫理と説明責任(アカウンタビリティ)

  • AIが「なぜその判断をしたのか?」を説明できないと、トラブル時の責任が曖昧に
  • 説明可能AI(XAI)が求められるようになっています

偏見・差別(AIバイアス)

  • 学習データに含まれる偏りが、そのまま不公平な判断や差別的出力に現れることがある
  • 例:顔認識で特定人種の認識率が低い、女性より男性に高得点をつける採用AI など
  • 公平性の確保・倫理ガイドラインの整備が急務です

まとめ:AIはすでに「社会の一部」

分野代表的なAI活用例
医療画像診断、創薬支援、カルテ分析
金融詐欺検知、審査自動化、資産運用
製造・物流異常検知、倉庫ロボット、検品の自動化
エンタメレコメンド、広告最適化、生成系AIによる創作支援
社会課題雇用の変化、AI倫理、差別回避の取り組み

次章では、「人工知能に関する法律・倫理・ガイドライン」を学びます。