【新人エンジニア向け】損失回避バイアスを知って開発リスクを減らそう
こんにちは。ゆうせいです。
損失回避バイアスとは「人は利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛を大きく感じやすい」という心の癖(バイアス)を指します。エンジニアの仕事でも、このバイアスが原因で新しい技術へ踏み出せない、自分のコードを変更しづらい、といった場面が見られます。いったいどのような仕組みになっているのか、一緒に学んでみませんか?
損失回避バイアスとは
損失のほうを大きく感じる人間の特徴
心理学や行動経済学では、人は同じ程度の損失と利益を比べると、損失のほうを強く意識すると考えられています。例えば、1,000円を手に入れる喜びよりも、1,000円を失う悲しみのほうが上回るような感覚を想像してみてください。
新人エンジニアの方が「コードを直すとバグが増えるかも」「新しい技術に手を出して失敗したらどうしよう」と行動を控えてしまうのも、このバイアスが影響しているかもしれません。
図1:損失と利益の感情曲線
損失側 利益側
←---------------------->
┌─────┐
感情強度 │ │ 利益
│ │
│ 損失 │
└─────┘
- 左側(損失)で感じるマイナスの大きさのほうが、右側(利益)で感じるプラスより大きくなりやすい傾向を図示しました。
エンジニアリングで損失回避バイアスが起こりやすい状況
1. コードリファクタリングに踏み切れない
「動いているコードをいじると壊れるかもしれない」という恐怖心から、保守しにくい構造を放置する場合があります。
例え話
友人とノートを共有しているとき、少し間違いがあっても「修正したらさらにややこしくなるかも」と手を出せない状態と似ています。
2. 新技術や新ツールを試さない
「新ツールを導入して本当に生産性が上がるのか」と考えたときに、「上がらないリスク」のほうを大きく見積もるので現状に甘んじがちです。
3. 余裕のある実験環境を作らない
コードをテストするためのブランチやサンドボックス環境を整えればリスクを低減できますが、「それを作る手間が無駄になるかもしれない」と考えて避けるケースも見られます。
行動経済学との関係:プロスペクト理論
損失回避バイアスは、プロスペクト理論と呼ばれる行動経済学の理論で説明される代表的な現象です。
- プロスペクト理論:人の意思決定プロセスが、論理的な計算だけではなく心理的影響によって歪みやすいという理論
数式で示すと
- 英語表記:
- Expected Value = (Potential Gain × Probability of Gain) - (Potential Loss × Probability of Loss)
- 日本語表記:
- 期待値 = (利益 × 利益が出る確率) - (損失 × 損失が発生する確率)
しかし、実際には人間の心は上記のように数式通りには動きにくく、損失部分を過大評価する傾向があるとされています。
損失回避バイアスがもたらすメリットとデメリット
視点 | メリット | デメリット |
---|---|---|
リスク管理 | 「変更でバグを生むかも」という慎重さが安全運用につながる | 過度に慎重になり、新機能の導入や改善へのチャレンジ精神が失われやすい |
学習姿勢 | やたらに冒険しないため、既存技術の習熟が進む | 新技術を試すタイミングを逃し続け、スキルの幅がなかなか広がらない |
チーム開発 | リスクを避けようとするため、レビュー段階で問題を見落とすリスクが低下(慎重な確認を行う) | 「誰かがダメ出しするかもしれない」と恐れ、本当に必要な意見交換まで消極的になり、チームの活気が失われる |
損失回避バイアスを和らげるための工夫
1. サンドボックス環境やブランチを用意
実験的なコード変更を行う専用のブランチを作り、動作確認が済んだらメインに統合するとリスクが低減できます。
(main) ──┬─── サンドボックスブランチ ── 実験・検証 ──┬───> (main)
└───────────────────────────────┘
安全装置があると感じることで損失への恐れを軽減できるかもしれません。
2. 小さな成功体験を積む
メリットが得られそうな範囲で、少しずつ新ツールや新技術を導入してみてください。大きな変更でなくても、成功の感覚を得られればチャレンジ意欲が高まるはずです。
3. チームでフィードバックを積極的に行う
失敗したとしても責められにくい文化や仕組みがあると、損失への不安が和らぎます。コードレビューをポジティブに活用して、挑戦をサポートし合う姿勢をつくってみてください。
図表:損失回避バイアスの影響度イメージ
状況 | 損失回避バイアスの強さ | 行動傾向 |
---|---|---|
大幅リファクタリング(未知領域) | 高 | 積極的に避ける |
既存コードの軽微な修正 | 中 | やや後ろ向きになる |
動作には影響しない微修正 | 低 | そこまで気にならない |
例題:新しいライブラリ導入を検討する際の心理
- 利益が得られる期待
- コードの保守性が向上し、開発速度も上がるかもしれない
- 損失が起こるリスク
- チームに導入コストがかかる
- バグが潜むかもしれない
- 学習コストが発生する
損失回避バイアスによって、成功確率を高く見積もるよりも失敗の可能性を肥大化させてしまう場合があります。実際の確率を冷静に見積もれるよう、周囲の意見や実験的検証を取り入れてはいかがでしょうか?
今後の学習の指針
- 小さなリスクテイクを習慣化
完璧を求めすぎず、テスト環境やブランチを活用して少しずつ新しい試みに挑戦してみてください。 - コードレビューの活発化
仲間の視点を借りれば、個人的に大きいと感じていたリスクが実は小さいことが判明するケースも多いです。 - プロスペクト理論の理解を深める
行動経済学の考え方は実生活でも幅広く応用できます。自分の思考をメタ認知して、より柔軟な意思決定を意識してみると良いでしょう。 - 失敗の捉え方をプラスに転換
エラーやバグも学習機会とみなし、フィードバックサイクルを作ると損失回避バイアスが穏やかになります。
損失回避バイアスは誰にでも起こり得る自然な心理現象ですが、エンジニアとしては適度に付き合いながら進歩していきたいですよね!小さなチャレンジを続けて学びを重ねる姿勢を大切にしてみましょう。
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投稿者プロフィール
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- 代表取締役
-
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。
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