アンガーマネジメントとは?IT企業で注目される背景からやり方まで詳しくご紹介

社内や社外とのコミュニケーションを円滑にするために自社でアンガーマネジメント研修を導入することとなったけれど、何から始めてよいかわからず困っている人はいませんか?

この記事ではアンガーマネジメントがIT企業で注目される背景からやり方まで詳しくご紹介します。

アンガーマネジメントとは?

アンガーマネジメントができている人とできていない人

アンガーマネジメントとは怒りを適切にコントロールするための手法や心理トレーニングのことを指し、アメリカで1970年代に提唱されました。

アンガーマネジメントでは怒らないことを目標とするのではなく、怒りによってさまざまな課題が引き起こされないよう、適切に怒りの感情をコントロールするのを目標とします。

心理学による怒りのメカニズム

心理学では怒りが起こるメカニズムをどのように説明できるのでしょうか。

怒りは感情の1つですが、感情には次の2つの種類があります。

項目概要
一次感情・最初に感じる素直で直感的な感情 ・意識しなくてもすぐに消える ・分析しにくい
二次感情・一次感情の次に出て来る感情 ・観念や理性に基づいた「~するべき」「~しないべき」という考えを多く含む ・分析しやすい

怒りは一瞬でわいてくるため一次感情だと勘違いされやすいのですが実は二次感情なので、怒りの前の一次感情が何かを考えることで解決の糸口が見いだせ、アンガーマネジメントにもつながるのです。

一方オーストリアの心理学者アルフレッド・アドラーが提唱した「アドラー心理学」では、怒りには次の4つの目的があるとされました。

・支配すること

・優位に立つこと

・権利を守ること

・正義感を発揮すること

どれも人間関係の中でよく見られる感情ですが、これらの目的を達成しようとすることが怒りとなって現れます。

怒りによって目的を達成すると、怒った人にとってはそれが成功体験となるため「怒りっぽい人」が生まれるという仕組みです。

脳科学による怒りのメカニズム

脳科学では怒りのメカニズムをどのように説明できるのでしょうか。

ニューサウスウェールズ大学の心理学部のチームで被験者をけなし、脳にどのような変化があるかをfMRI(脳画像検査の方法)で確認した所、被験者が最初に怒りを感じた時内側前頭前皮質(実行機能を司り対立する考えの区別、成果の予測、社会的なコントロールなどを行う)部分が明るくなりました。

2週間後にけなされたことについてどう感じたかを被験者に確認すると、今度は海馬(脳の記憶や空間学習能力を司り短期記憶から長期記憶への変換などを行う)や島皮質(自分の外側と内側の感覚、今の自分と未来の自分などをつなぐ中継地点の役割を果たす)など脳のさまざまな部分が活性化したのです。

また人間が怒りを感じると血圧や心拍数を上げる働きのあるノルアドレナリンというホルモンが脳で分泌されて興奮状態になります。

同時に脳の中では扁桃体(記憶情報をまとめてそれが心地よいか不快かを判断する)が反応して激しい不快感や恐怖を覚えます。

これらのことから人間が怒りを感じると脳が活性化して興奮状態となり、激しい不快感や恐怖を抱くためエネルギーをたくさん必要とすることがわかります。

参考:National library of Medicine「怒っている脳」

アンガーマネジメントがIT企業で注目される背景

怒りを抑えられずパワハラをしているイメージ

アンガーマネジメントがIT企業で注目される背景には、どのようなことがあるのでしょうか。

3つご紹介します。

職場でのパワー・ハラスメントが顕在化しているため

2020年に厚生労働省が行った「職場のハラスメントに関する実態調査」において、全国の従業員30人以上の企業・団体6,426件を対象にアンケート調査を行った所、過去3年間のパワハラについての相談件数について次のような結果が出ました。

 過去3年間に相談件数が増加している過去3年間に相談があり件数は変わらない過去3年間に相談件数は減少している過去3年間に相談はあるが件数の増減はわからない過去3年間に相談はない過去3年間に相談の有無を把握していない
パワハラ9.2%14.7%9.9%14.4%47.9%3.9%

過去3年間に相談件数が減少した企業や団体が9.9%である一方、増加した企業や団体が9.2%であることから、職場におけるパワハラが顕在化してきているのがわかります。

このことからパワハラを減らし、従業員が心地よく働ける環境を整えるための方法の1つとしてアンガーマネジメントが注目されていると言えるでしょう。

参考:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査について」

IT業界ではコミュニケーションが重視されるため

IT業界の仕事においては、次のような理由からコミュニケーションが重視されます。

・形のないものを商品やサービスとして扱っているためそもそも言葉で内容を表現するのが難しい

・IT技術はICT(情報通信技術)のようにコミュニケーションに活用されることが多いため、コミュニケーションの本質を理解して開発を進める必要がある

・IT人材としてニーズが高いのが上流工程(システムの構想・開発計画・設計などの工程のこと)をこなせるコミュニケーション能力が高い人材である

IT業界ではコミュニケーションをサポートする商品やサービスを開発することが多く、その説明を社内の人や顧客に対して誤解のないよう行う必要があるため、行き違いのないコミュニケーションをするのがそもそも難しい環境に置かれていると言えるでしょう。

コミュニケーションの行き違いがあると怒りの感情はどうしても引き起こされやすくなるため、IT業界はアンガーマネジメントに注目しているのです。

参考:山崎有生「SEのための29歳からのスキル向上計画」

人手不足のため

2021年に厚生労働省が発表した「令和3年雇用動向調査」によると情報通信業の離職者数は14万2千人で、他の産業と比較してもそれほど多い数値ではありません。

しかし2023年に独立行政法人情報処理機構が発表した「DX白書2023」で375社を対象にアンケートを行った所、DXを推進する人材の量の確保について、企業が次のように感じていることがわかりました。

 やや過剰である過不足はないやや不足している大幅に不足しているわからない
日本1.3%9.6%33.9%49.6%5.6%

離職者がそれほど多いわけではないのに人材不足だと感じている企業が83.5%もあるのはなぜなのでしょうか。

2019年に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」でIT人材の需要と供給の差について試算してみた所、次のような結果が出ました。

 2020年2025年2030年
IT人材の需給差30万人36万人45万人

このことからIT人材に対する需要に供給が追い付いていないため現場に人材の不足感があり、中途採用などで多様な背景を持つ人材を採用しなければならない状況にあることがわかります。

多様な働き方や背景を持つ人を受け入れるほど社内でのコミュニケーションは難しくなるため、IT業界ではアンガーマネジメントのスキルが重要視されるのです。

参考:独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」

参考:厚生労働省「令和3年雇用動向調査の概要」

参考:経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」

アンガーマネジメントをIT企業の仕事に取り入れるメリット

会社がアンガーマネジメントを取り入れたため穏やかな環境で働く従業員

アンガーマネジメントをIT企業の仕事に取り入れるメリットは次の3つです。

・怒りによるパワハラを引き起こすリスクが下がる

・適切なコミュニケーションが取れるため生産性が上がる

・従業員のストレスが減り働く環境が良くなる

怒りの感情をコントロールできる人が増えることで、企業にとってのリスクであるパワハラを防ぎ生産性の向上が見込めます。

アンガーマネジメントのやり方

アンガーログをつける人

IT企業の従業員がアンガーマネジメントを身に着けそれを仕事で活かせるようになるためには、どのようなやり方を推奨すればよいのでしょうか。

3つご紹介します。

べき思考を取り払う

べき思考とは「~するべきである」「~するべきではない」という考えにとらわれてしまっている状態を指します。

怒りを始めとした二次感情にはこの「べき思考」が多く含まれるため、まずこれを取り払うことから始めてみましょう。

べき思考を取り払う方法は次の3つです。

・自分の常識や経験を周囲の環境に合わせてアップデートし、守り続けてきた「べき」を疑う

・自分と他人の考え方の違いを認める

・「~するべきである」「~するべきではない」という言葉が浮かんだら「~したい」「~したくない」に置き換えて本当に自分が心からそう思っているか確認する

べき思考を取り払うのはなかなか難しいですが、少しずつでも上記の方法を実践すると自分の心が変化し、怒りを感じにくくなるでしょう。

課題の分離をする

課題の分離とは自分の課題(自分でコントロールできること)と他人の課題(自分でコントロールできないこと)を分けて考えることを指します。

例えば、怒りの原因が電車の遅延など自分ではコントロールできないことだった場合、自分でそれを解決することはできません。

そのため他人の課題に対して怒りを感じているのだとわかったら、怒っても解決につながらないことを理解し、あきらめの気持ちを持つようにするのが大切なのです。

怒りがわいたら、まずその原因が自分でコントロールできることかそうではないのか確認してみましょう。

アンガーログをつける

怒りがわいたらその日時、場所、原因となる出来事、感じた内容、怒りの強さなどの記録を取ることをアンガーログをつけると言います。

アンガーログは怒りを感じたらなるべくその場で記録しますが、蓄積するほど自分の怒りの傾向や何に対してべき思考が働いているのかがわかるでしょう。

アンガーログ専用のアプリもあり、手軽に始められるのでアンガーマネジメントを手軽に実践したい人におすすめです。

参考:App store「アンガーログ」

参考:Google play「アンガーログ」

セイ・コンサルティング・グループではIT企業におけるアンガーマネジメント研修のご相談をお受けしています

セイ・コンサルティング・グループでは従業員の自助努力や自社での限定的な働きかけだけに限らずアンガーマネジメントに取り組みたいIT企業の皆さま向けに、アンガーマネジメントやハラスメントについて正しい知識を持つことのできる研修メニューをご用意しています。

自身の怒りを知る簡易診断から怒りの感情をコントロールするテクニックまで幅広く学ぶため、従業員の皆さまがアンガーマネジメントを「自分事」として捉えやすくなっています。

従業員の皆さまの現状の理解度に合わせたカスタマイズも可能ですので、興味のある方はぜひ次のページもクリックしてみてください。

4.3 IT技術者とDX推進者のための叱る技術 - セイコンサルティンググループ (saycon.co.jp)

まとめ

アンガーマネジメントとは怒りを適切にコントロールするための手法や心理トレーニングのことを指し、怒らないことを目標とするのではなく、怒りによってさまざまな課題が引き起こされないよう、適切に怒りの感情をコントロールするのを目標とします。

この記事も参考にしてぜひアンガーマネジメントに対する理解を深め、自社でも実践できる体制を整えてみてください。