なぜ、ITシステムの要件定義は難しいのか?

ITシステムの要件定義は、システム開発の初期段階で行われる非常に重要なプロセスです。これが成功すれば、後の設計や開発がスムーズに進む一方で、失敗すると多大なリスクを抱えることになります。なぜ、そんなに要件定義が難しいのか?これにはいくつかの理由があります。

1. 利害関係者の要望をまとめることの難しさ

システム開発では、さまざまな利害関係者(ステークホルダー)が登場します。例えば、ユーザー、経営層、エンジニア、外部パートナーなどです。これらの人々はそれぞれ異なる視点やニーズを持っており、時にそれが相反することもあります。

たとえば、ユーザーは操作が簡単なシステムを望む一方で、経営層はコスト削減や効率化を重視します。このように、要望が対立することがあるため、すべての要求をバランスよく取りまとめることが難しくなります。システム開発者は、関係者とのコミュニケーションを通じて、どの要望が最も重要かを判断しなければなりません。

例え話

複数の人が一緒に料理を作る状況を想像してみてください。ある人はスパイシーな味付けを求め、別の人は甘口を好む。さらに、コストを抑えたい人もいれば、見た目にこだわりたい人もいる。全員の意見を尊重しながら、最終的に全員が満足する料理を作るのは大変ですよね?システムの要件定義もこれと似ています。

2. 要件が曖昧であることが多い

もう一つの難しさは、要件が明確に定義されていない場合が多いことです。システムの利用者や発注者自身が、具体的に何を求めているのか、どのようにシステムを使いたいのかがはっきりしていないケースがよくあります。

例えば、「使いやすいシステムにしてください」と言われた場合、それが具体的にどういう意味なのかを解釈するのは難しいです。何をもって「使いやすい」とするのか、人によってその定義は異なるため、具体的な基準や指標が必要です。しかし、これを明確にするには、技術的な知識やユーザーの業務に対する深い理解が必要です。

例え話

たとえば、「居心地の良い部屋を作りたい」と思ったとき、どんな家具を使い、どんな照明を設置するべきかを考えなければなりません。しかし、「居心地の良さ」は人によって異なるので、ある人は明るい部屋を好み、別の人は暗めの部屋を望むかもしれません。同じように、システムの「使いやすさ」も具体的な要件を定義しないと、異なる解釈が生まれてしまうのです。

3. 技術的な制約や複雑さ

システム開発では、技術的な制約が多々あります。特に、すでにあるシステムやインフラに新しいシステムを統合しなければならない場合、古い技術との互換性を保ちながら新しい要素を取り入れるのは難しい作業です。さらに、開発期間や予算などの制約もあり、それらをすべて考慮しながら最適な要件を定義するのは至難の業です。

例え話

これは、古い家に新しい設備を導入するようなものです。最新のエアコンや照明を導入したいけれど、古い配線がそれに対応できるかどうか、電力の問題はないか、予算内で工事ができるか、といった多くの課題に直面するでしょう。システム開発でも同様に、既存の環境に新しい技術をどう組み合わせるかを考える必要があります。

4. 要件が変化することへの対応

システム開発が進む中で、要件が変更されることは珍しくありません。新しいビジネスニーズや市場環境の変化、技術の進歩などにより、当初の計画が見直されることがあります。これに柔軟に対応しながらも、プロジェクト全体のスケジュールやコストを守ることは非常に難しいのです。

例え話

例えば、映画の撮影中に脚本が変更されるような状況を想像してみてください。新しいシーンを撮影するためには、キャストのスケジュールを調整し、予算を再計算し、既に撮影したシーンとの整合性を取る必要があります。同じように、システム開発でも途中で要件が変わると、計画全体に影響が及びます。

要件定義を成功させるために

要件定義を成功させるためには、いくつかのポイントがあります。

1. 十分なコミュニケーション

利害関係者全員とのコミュニケーションが非常に重要です。特に、技術的な専門用語を使わずに、分かりやすい言葉で意見を集約することが求められます。また、定期的なミーティングを開催し、要件が確定するまでに繰り返し確認するプロセスも有効です。

2. プロトタイピングの活用

プロトタイピング(試作品の作成)を利用することで、具体的なイメージを共有しやすくなります。実際に動くものを見せることで、利用者のニーズに対する理解が深まり、要件がより具体的になることが期待されます。

3. アジャイル開発の導入

アジャイル開発は、システムを小さな単位で段階的に開発していく手法です。これにより、要件変更に柔軟に対応でき、各フェーズでフィードバックを得ながら開発を進めることができます。

終わりに

要件定義が難しい理由は、利害関係者の要望をバランスよく取りまとめ、曖昧な要求を明確化し、技術的な制約に対応しつつ、要件の変化にも柔軟に対処する必要があるからです。しかし、要件定義はシステム開発の成功を左右する非常に重要なプロセスです。コミュニケーションをしっかりとり、プロトタイピングやアジャイル開発などの手法を活用することで、スムーズなプロジェクト進行が期待できるでしょう。

これから要件定義に関わる機会がある方は、まずは小さなプロジェクトからでも経験を積んで、徐々に難易度の高い案件に挑戦してみると良いでしょう。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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