ITシステムの設計が難しい理由

ITシステムの設計は、システム開発の中でも特に重要で、かつ難しい工程の一つです。設計段階で適切な決定が下されないと、後の開発や運用で多くの問題が発生します。では、なぜITシステムの設計はこんなにも難しいのでしょうか?その理由をいくつか解説します。

1. システムの複雑性

現代のITシステムは、多くの異なる要素が相互に依存して動作しています。これらの要素を適切に組み合わせて動かすためには、各要素の相互作用を深く理解し、それを基に設計しなければなりません。例えば、データベース、ネットワーク、ユーザーインターフェース、セキュリティ機能など、さまざまな技術や機能がシステムには含まれます。それぞれが専門分野であり、これらを一つの統合されたシステムとして組み上げることは非常に難しい作業です。

例え話

システムの設計は、巨大なパズルを組み立てるようなものです。一つ一つのピース(技術や機能)は異なる形状をしており、それぞれをどのように配置すれば全体としてうまく機能するのかを考える必要があります。ピースが一つでも間違った場所にあると、全体の動作がうまくいかなくなります。

2. 将来の拡張性や柔軟性を見越した設計の必要性

システム設計では、現在の要件を満たすだけではなく、将来的な拡張性や柔軟性を考慮しなければなりません。ビジネスの成長や技術の進化に伴い、システムがどのように変化していくかを予測し、それに対応できる設計を行うことが重要です。

しかし、将来の変化を完全に予測することは不可能です。例えば、新しい技術が登場したり、ビジネスの方向性が急に変わることもあります。そのため、設計者は「柔軟性」を持たせるための工夫を凝らす必要があり、それが非常に難しいポイントとなります。

例え話

未来を見越したシステム設計は、家を建てる時に「増築」を見込むようなものです。最初から十分な土地を確保し、構造を柔軟にしておけば、将来的に部屋を増やすことも容易です。しかし、どの部屋が必要になるのか、何年後に増築するのかはあらかじめ分からないので、計画には多くの不確実性が伴います。

3. 利用者の多様なニーズに対応する必要がある

システムを使う人々のニーズは非常に多様です。同じシステムでも、利用者によって求められる機能や使い勝手が異なります。例えば、あるユーザーは直感的でシンプルな操作を求める一方、別のユーザーは細かい設定や高度な機能を使いたいかもしれません。システム設計では、こうした異なるニーズをバランスよく満たす設計が求められます。

例え話

異なる年齢層やバックグラウンドを持つ人々のために、一つの教科書を作ることを考えてみてください。初心者にも分かりやすい内容でありながら、専門家にも深い理解を提供できるような内容にしなければならない、といった難しさがあります。システム設計でも、異なるレベルのユーザーに対応できる柔軟性が必要です。

4. セキュリティとパフォーマンスのバランス

システム設計において、セキュリティとパフォーマンスのバランスを取ることは非常に難しい課題です。セキュリティを強化するためには、アクセス制御や暗号化、認証プロセスを導入する必要がありますが、それによってシステムのパフォーマンス(速度や効率)が低下することがあります。一方、パフォーマンスを重視すると、セキュリティが脆弱になるリスクが高まります。

設計者は、システムの利用目的や重要性に応じて、どこまでセキュリティを強化するのか、どこまでパフォーマンスを優先するのかを慎重に判断しなければなりません。

例え話

これは、高速道路の設計に似ています。多くの車が安全に走行できるようにスピードを制限したり、事故を防ぐためのバリアやガードレールを設置すると、道路全体の流れが遅くなることがあります。しかし、安全を軽視してスピードだけを優先すれば、事故のリスクが増える。システム設計でも同じように、セキュリティと効率の間でバランスを取ることが重要です。

5. 複数のシステムや技術との統合

現代のシステムは、単独で動作することはほとんどなく、他のシステムやサービスと連携して動作することが一般的です。このため、他のシステムや技術との互換性を考慮した設計が必要です。異なるベンダーや異なる技術を組み合わせることもあるため、標準的なプロトコルやデータ形式の利用、またはカスタムのインターフェースの設計が求められます。

例え話

異なる言語を話す人たちが同じプロジェクトを進めるためには、翻訳者を介したコミュニケーションが必要になることを想像してください。同じ言葉を理解することが難しいため、全員が共通のルールや手順を守らなければ、プロジェクトは進みません。システム同士の統合もこれに似ていて、異なる技術がスムーズに連携するためには、共通の規格やプロトコルを遵守する必要があります。

6. 要件の曖昧さや変更

設計段階で、しばしば要件が曖昧だったり、途中で変更されたりします。設計者は、初期の段階で曖昧な要件に基づいて設計を進めることも多く、その後の要件の変更に柔軟に対応する必要があります。この「変化」に適応しながら、初期設計の意図を維持し、システムの整合性を保つのは非常に難しい作業です。

例え話

これは、建物の設計を進める途中で「やっぱりもう一つ部屋を追加したい」と言われるようなものです。追加することで建物全体の構造に影響が出るため、設計をやり直す必要があります。システム設計でも、途中で要件が変わると、設計全体を再考しなければならないことがあります。

システム設計を成功させるためのアプローチ

1. モジュール化設計

モジュール化とは、システムを小さな独立した部品(モジュール)に分割して設計する方法です。これにより、一部の変更が他の部分に影響を与えにくくなり、システムの拡張や修正が容易になります。

2. プロトタイピング

プロトタイピングとは、システム全体を設計する前に、小さな試作モデルを作成し、それを基に利用者からフィードバックを得る方法です。これにより、要件の曖昧さや変更に対応しやすくなります。

3. アジャイル手法

アジャイル開発手法は、短期間の反復的な開発サイクルを繰り返し、各サイクルごとに設計と実装を行う方法です。これにより、要件の変化や不確実性に対して柔軟に対応

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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