エピクテトスの哲学

エピクテトス(Epictetus)は、古代ローマの哲学者で、特に「ストア派」の哲学者として知られています。ストア派哲学の特徴は、感情や外部の出来事に左右されず、理性と徳を重んじる考え方です。エピクテトスは奴隷から解放された身分の哲学者であったため、その教えは非常に実生活に根ざしており、誰でも日常で実践できるような実用的な内容が多く含まれています。彼の思想の核心は、物事には「自分のコントロール下にあるもの」と「コントロールできないもの」があると見極めることにあります。この考え方を中心に、彼の哲学を深掘りしていきましょう。


エピクテトスの「コントロールできること」と「コントロールできないこと」

エピクテトスの思想の柱となる考えは、「自分がコントロールできること」と「できないこと」を見分けることです。人間の悩みや苦しみの多くは、自分の力でどうにもならないことに囚われてしまうことから生まれると考えました。例えば、「天気」や「他人の感情」「過去の出来事」は自分で変えられません。しかし、自分の「考え方」や「態度」「選択」は自分次第でコントロール可能です。

例え:テストの結果に対する考え方

高校生の皆さんが経験する「テスト」の例で考えてみましょう。テストの結果そのものは、勉強の成果や運、あるいは試験問題の難易度など様々な要素で決まるため、完全にはコントロールできません。しかし、結果に対する「受け止め方」や「次に向けての行動」は自分の意志で決められます。「できること」に集中し、「できないこと」には執着しないというエピクテトスの哲学は、このように日常生活で応用が可能です。


「アタラクシア」と「アポケア」:平穏と自己充足

エピクテトスが目指した人生の理想は、「アタラクシア(Ataraxia)」と呼ばれる「心の平穏」にあります。この心の平穏とは、怒りや不安といった激しい感情から解放された状態のことです。何かに依存したり、外部の出来事に左右されることなく、内面の安定を保つことが大切だとされます。

エピクテトスの哲学の中で「アポケア(Apokeia)」、つまり「自分の力で生きること」も重要な概念です。外部の出来事や他人の評価に頼らず、自分の価値観や信念に基づいて生きることが、自己充足をもたらすとされています。この考え方は、現代で言う「自己肯定感」や「内的動機づけ」とも通じるものがあります。


エピクテトスの「エンキリディオン(Enchiridion)」

エピクテトスの教えを集約した著作に『エンキリディオン(Enchiridion)』があります。エンキリディオンとは「手引き書」を意味し、彼の弟子であるアリアノスがエピクテトスの講義内容をまとめたものです。この本は、短い章に分かれたアフォリズム(格言)集のような構成で、哲学的な考え方が具体的なアドバイスとしてわかりやすく提示されています。たとえば、「君の敵は君の外にはいない。君の内にあるのだ」といった教えは、現代でも多くの人の心に響く言葉です。


エピクテトス哲学の現代における応用

エピクテトスの哲学は現代でも実生活に役立ちます。以下にいくつかの例を挙げてみましょう。

1. ストレス管理

エピクテトスの「できることとできないことを見極める」考え方は、ストレス管理に非常に有効です。日々の生活で多くの人が悩む原因は、自分で変えられないことに対する不安や苛立ちです。しかし、エピクテトスの教えに従い、変えられるものにだけ集中すれば、ストレスを減らせます。例えば、学校での成績や友人関係に悩んだ時、自分でコントロールできる範囲内で最善を尽くし、それ以外の部分は「なるようになる」と受け入れることができれば、気持ちも楽になるでしょう。

2. 失敗への恐怖の克服

人は何か新しいことに挑戦する際、「失敗したらどうしよう」という不安に囚われがちです。しかし、エピクテトスの哲学では、失敗を含む結果そのものはコントロールできない要素の一つとされます。したがって、結果よりも「挑戦した自分の意志」や「プロセスに集中する姿勢」に価値を置くことで、失敗への恐れを軽減できます。


エピクテトス哲学のメリットとデメリット

メリットデメリット
感情のコントロールが向上する極端に受け身になりすぎる可能性がある
内面的な強さが養われる変えられないことへの無関心が生じる恐れ
日常生活の悩みが軽減される外部からの評価や社会的な影響力に無頓着になる場合がある

エピクテトスの哲学は、自己成長や心の平穏に繋がる一方で、すべてを「なるようになる」と受け入れすぎると、積極性を欠くことにもつながりかねません。バランスを取りつつ、現実的な実践が求められます。


エピクテトスから学ぶ今後の心構え

エピクテトスの哲学は、自分の内面に焦点を当てて、自分の人生をどう生きるかを見つめ直すためのツールです。今後、この考え方を活用して、日常生活の中でどのように「自分でコントロールできるもの」に集中するかを考えてみると良いでしょう。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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