唯幻論・共同幻想論と『サピエンス全史』の共通点:人間を動かす虚構の力

こんにちは。ゆうせいです。

岸田秀氏の唯幻論と吉本隆明氏の共同幻想論が、国家や社会を人間の作り出した幻想として捉える点で一致していることは有名です。社会の本質は幻想であるという考え方は、歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書『サピエンス全史』の中心的な主張と深く関連しています。サピエンス全史では、人類の歴史を動かしてきた重要な要素を虚構という言葉で説明しており、唯幻論や共同幻想論と通底する部分が多く存在します。今回は、サピエンス全史の概念を交えながら、唯幻論、共同幻想論、サピエンス全史の関連性について分かりやすく解説します。

サピエンス全史における虚構の概念

サピエンス全史において、著者のハラリ氏は、ホモ・サピエンスが他の人類を絶滅させ、地球上の覇者となった理由を分析しています。ハラリ氏によると、ホモ・サピエンスは歴史の途中で認知革命と呼ばれる脳の進化を経験しました。認知革命とは、目に見えないものや、実在しないものを言葉にして共有できる能力の獲得を指します。高校生の学校生活に例えるなら、目の前にいない他校の生徒の噂話を共有し、会ったこともない相手に対して共通のイメージを持って盛り上がることができる能力のようなものです。

認知革命の発生によって、ホモ・サピエンスは虚構を信じる能力を手にしました。虚構とは、法律、国家、宗教、貨幣など、客観的には存在しないものの、多くの人が共通して存在を信じている概念のことです。ハラリ氏は、虚構の概念を共同主観的現実とも呼んでいます。例えば、1万円札という紙切れ自体には、本来は紙とインクの価値しかありません。しかし、日本社会に生きる人々が、紙切れには1万円の価値があるという共通の約束事を信じているため、実際に買い物ができます。お札に価値が生まれる仕組みが虚構の具体例であり、サピエンス全史における重要な概念です。

唯幻論・共同幻想論とサピエンス全史の関連性

唯幻論、共同幻想論、サピエンス全史の3つの理論は、いずれも人間が作った目に見えない約束事が社会を動かしているという点で共通しています。

岸田氏の唯幻論は、人間を本能が壊れた動物と見なし、その穴埋めとして社会制度という幻想を作ったと主張します。ハラリ氏のサピエンス全史も、人間が生物学的な限界を超えて、何万人もの見知らぬ他人と協力して国家や大企業を運営できるのは、虚構を共有しているからだと言明しています。つまり、唯幻論の言う本能の壊れを補う仮想のプログラムと、サピエンス全史の言う虚構は、人間の生存戦略として同じ役割を果たしています。

また、吉本氏の共同幻想論との関連性も明確です。吉本氏は、国家や宗教を社会全体で共有される巨大な幻想である共同幻想と呼びました。サピエンス全史の言う共同主観的現実や虚構は、吉本氏の提唱した共同幻想とほぼ同じ意味を指しています。サピエンス全史では、宗教や国家だけでなく、現代の株式会社や人権、資本主義さえも虚構であると指摘しており、吉本氏が提示した共同幻想の網の目が、現代社会の隅々にまで張り巡らされていることを具体的な歴史的事実から証明していると言えます。

サピエンス全史の視点を取り入れるメリットとデメリット

唯幻論や共同幻想論に加えて、サピエンス全史の虚構という視点を取り入れることには、明確な利点と限界が存在します。

サピエンス全史の視点のメリット

  • 人類学や考古学、歴史学の膨大な学術的データに基づいているため、幻想が人類の進化において果たした役割を客観的な事実として把握できる点。
  • 現代の資本主義や人権思想など、既存の社会制度を歴史的に作られたものとして相対化して理解できる点。

サピエンス全史の視点のデメリット

  • 人類の歴史を大きな視点で捉えるため、個人が特定の思想に依存する心理的背景や内面のトラウマを細かく分析するのには向かない点。
  • 虚構という視点を重視するため、経済的な格差や気候変動といった、人間の意識とは無関係に存在する客観的な物質的要因の影響を記述しにくくなる点。

まとめ

ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』は、岸田秀氏の唯幻論や吉本隆明氏の共同幻想論が提示した、社会は人間の幻想によって成り立っているという洞察を、現代の歴史学と科学の知見によって補強し、世界スケールに拡大した理論であると言えます。3つの思想や理論を合わせて学ぶことで、現代の社会制度や文化をより広い視野から見つめ直すことができます。

各思想の関連性をより深く理解するための学習のステップは以下の通りです。

  1. 最初に、『サピエンス全史』の上巻を読み、ホモ・サピエンスが認知革命によってどのように虚構を操るようになったかという歴史的経緯を把握します。
  2. 次に、吉本隆明氏の共同幻想論における国家の成立過程と、サピエンス全史における国家や宗教の成立過程を比較し、共通する構造を整理します。
  3. 最後に、現代の経済システムや資本主義の仕組みを、岸田氏の唯幻論における自己欺瞞という視点と、ハラリ氏の共同主観的現実という視点の双方から検証し、ノートにまとめます。

提示した順序で学習を深めることにより、日本の思想界が育んできた幻想論と、世界の現代思想が提示する虚構論のつながりを論理的に体系化できるようになります。

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。