指標が目標に変わるとき、それはもはや良い指標ではなくなる:Goodhartの法則の基礎知識
こんにちは。ゆうせいです。
現代のシステム開発やチーム運営において、成果を数値で測ることは一般的です。しかし、数値を追い求めるあまり、本来の目的から逸れてしまう現象がしばしば発生します。この現象を説明するのが、イギリスの経済学者チャールズ・グッドハートが提唱したGoodhartの法則です。この法則は、新人エンジニアがチームの生産性を考える上で非常に重要な概念となります。
Goodhartの法則とは何か
Goodhartの法則とは、ある統計的な指標が政府や組織の管理のための目標として採用されると、その指標自体が本来持っていた情報としての価値を失ってしまうという法則です。
具体例として、コブラ効果と呼ばれる有名な話があります。かつてある政府が毒蛇のコブラを減らすために、死んだコブラを持ち込んだ人に報奨金を出す仕組みを作りました。当初はコブラが減るかと思われましたが、人々は報奨金を得るためにコブラを飼育し始めたのです。結果として、野生のコブラは減らず、飼育されたコブラだけが増えるという本末転倒な事態を招きました。
この状況をエンジニアの世界に当てはめて考えてみましょう。
ソフトウェア開発におけるGoodhartの法則
新人エンジニアが関わる現場でも、この法則は頻繁に顔を出します。具体的な比喩として、テストの点数と真の学力の関係で説明します。
学力を測るためにテストを実施するのは合理的ですが、合格点さえ取れば良いという目的になると、丸暗記やカンニングといった手法が横行し、真の学力向上という目的が失われます。開発現場では以下のような事例が該当します。
コードの行数(LOC)を目標にした場合
プログラムの記述量を個人の評価指標にすると、エンジニアは本来1行で書ける処理を、わざと冗長に10行に分けて書くようになります。この行為により、ソースコードの可読性が低下し、保守が困難になるというデメリットが生じます。
バグの修正数を目標にした場合
バグを多く直した人を評価する仕組みを作ると、修正数(スコア)を稼ぐために、わざと小さなバグを作り込んだり、一つの大きな問題を細切れにして報告したりする動機が生まれます。結果として、システムの品質向上という目的が達成されなくなります。
テスト網羅率(カバレッジ)を目標にした場合
テストコードがプログラムをどれだけ通っているかを示すカバレッジを100パーセントにすることを義務付けると、中身のない(何も検証しない)テストコードが量産されることがあります。これにより、数字上のカバレッジは満たされますが、バグを検知する能力は向上しないという事実が残ります。
指標を扱う際のメリットとデメリット
数値を目標に設定することには、客観的な判断材料になるという側面がありますが、副作用も存在します。
指標設定のメリット
- チームの現状を可視化し、共通の言語で議論ができるようになります。
- 達成すべき基準が明確になり、個人の主観による評価の偏りを防ぐことができます。
指標設定のデメリット
- 指標をハック(数字だけを操作)しようとするインセンティブが働き、組織の文化が歪む可能性があります。
- 顧客への価値提供という抽象的で重要な目的が、数字の達成という具体的な手段にすり替わってしまいます。
Goodhartの法則への対策
この法則を完全に回避することは困難ですが、緩和することは可能です。一つの指標(シングルメトリクス)に依存せず、複数の視点から状況を判断することが推奨されます。
例えば、開発速度を測る際には、同時にコードの品質や障害の発生率も監視します。速度を上げようとして品質を犠牲にすれば品質指標が悪化するため、バランスを保つ力が働きます。これは、車の運転において、速度計だけでなく燃料計や水温計を同時に確認しながら走行することに似ています。
学習のまとめ
Goodhartの法則を理解した後の学習ステップを以下に示します。
- 現在のプロジェクトで計測されている数値(ビルド時間、チケット消化数など)を洗い出す。
- その数値が目標になった場合、どのような本末転倒な行動が予想されるか、思考実験を行う。
- 数値の裏側にある「本来の目的」を常に意識し、チーム内でその目的を再確認する習慣をつける。
数字はあくまで道具であり、目的ではないという視点を持つことが、優れたエンジニアへの第一歩です。
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投稿者プロフィール

- 代表取締役
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セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。

