適合率・再現率・F値の公式の覚え方:分母の違いから整理する評価指標の基本
こんにちは。ゆうせいです。
機械学習や統計のモデルが下した判断の正しさを測る際、正解率だけでなく適合率や再現率といった指標が頻繁に用いられます。しかし、計算式に出てくる記号や用語が似ているため、初学者の段階ではどちらがどの計算を指しているのか混同してしまう場面が少なくありません。
適合率と再現率は、割り算の分母に「モデルの予測結果」を置くか、「実際の正解データ」を置くかという視点の違いによって明確に区別できます。両者の関係性とバランスを測るF値の導出について、基礎から順を追って整理していきます。
混同行列の基本構造と専門用語の整理
分類モデルの性能を評価する際は、モデルの予測と実際の結果を照らし合わせた表を作成します。この対応関係をまとめた表を混同行列と呼びます。
指標を理解する前提として、判定結果を分類する4つの要素と関連用語を整理します。
陽性と陰性
陽性とは着目している状態や検出したい対象に該当することを指し、陰性とは該当しない通常の基礎状態を指します。
高校の健康診断における視力再検査を例に挙げます。視力の低下が疑われて再検査の対象になる状態を陽性、視力に問題がなく再検査が不要な状態を陰性と置きます。
4つの判定結果
モデルの判定と実際の状態の組み合わせは、以下の4つに分かれます。
- 真陽性(TP:True Positive) 再検査が必要と判定され、実際に視力が下がっていた場合です。
- 偽陽性(FP:False Positive) 再検査が必要と判定されたものの、実際には視力に問題がなかった場合です。
- 偽陰性(FN:False Negative) 再検査不要と判定されたものの、実際には視力が下がっていて見逃された場合です。
- 真陰性(TN:True Negative) 再検査不要と判定され、実際に視力に問題がなかった場合です。
分母に着目した公式の覚え方
適合率と再現率の計算式は、どちらも分子に「正しく見抜けた陽性の数(TP)」が来ます。違いが生じるのは分母の選び方です。分母が「予測」に基づいているのか、「実際」に基づいているのかを区別することが、公式を思い出す手がかりになります。
適合率(Precision):分母は「予測」
適合率は、モデルが陽性と予測したもの全体のうち、実際に陽性であった割合を示します。
健康診断の例では、検査で「再検査が必要」と判定された生徒たちを集めたとき、その中に本当に視力が低下していた生徒がどれくらい含まれていたかを計算することに相当します。
分母の「TP + FP」は、モデルが陽性と判定した総数です。分母に予測した集合が置かれている点が特徴です。
再現率(Recall):分母は「実際」
再現率は、実際に陽性であるもの全体のうち、モデルが漏れなく陽性と検出できた割合を示します。
健康診断の例では、学校全体で実際に視力が落ちていた生徒全員のうち、検査によって再検査の対象として正しく拾い上げられた生徒の割合を計算することに相当します。
分母の「TP + FN」は、現実世界における実際の陽性の総数です。分母に実際の正解データが置かれている点が適合率との違いです。

F値(F1スコア)の定義と調和平均
適合率と再現率は、一方が高くなるともう一方が低くなりやすいという相反関係(トレードオフ)にあります。陽性の基準を厳しくすると誤検出が減って適合率は上がりますが見逃しが増えて再現率が下がります。逆に基準を緩めると見逃しは減りますが誤検出が増加します。
この二つの指標の調和を図り、総合的な性能を1つの数値で表した指標がF値です。F値の計算には、通常の算術平均ではなく調和平均が用いられます。
調和平均とは、逆数の平均を取った上でその逆数を求める計算方法です。高校の物理で登場する往復の平均速度の計算を例に挙げます。行きを時速4キロメートル、帰りを時速6キロメートルで歩いた場合、全体の平均速度は単に足して2で割った時速5キロメートルにはならず、移動距離と所要時間から逆数を用いて算出します。片方の数値が極端に低い場合に平均値全体が大きく引き下げられる性質を持ちます。
F値の基本方程式は以下の形になります。
この方程式の両辺をF値について解くことで、一般的に使われる以下の計算式が導かれます。
適合率か再現率のどちらか一方のみが極端に高く、他方が著しく低いモデルでは、F値は低い値に抑えられます。両方の数値がバランスよく高くなった場合にのみ、F値も高い数値を維持します。

指標ごとのメリット
客観的に確認できる各指標の利点は以下の通りです。
- 適合率のメリット 誤った判定を出した際のリスクが大きい状況において、無駄な確認作業や誤報の発生件数を抑えられているかを測る基準になります。
- 再現率のメリット 病気の診断や機器の重大な故障検知のように、見落としが発生した際の損失が極めて大きい状況において、対象を漏れなく捉えられているかを確認できます。
- F値のメリット 適合率と再現率という相反する2つの要素を1つの指標に集約できるため、複数のモデル間で総合的な性能差を比較する際の判断基準として機能します。
指標ごとのデメリット
一方で、各指標が持つ制約や評価上の限界は以下の通りです。
- 適合率のデメリット 検出の基準を極端に厳しくして確実なものだけを数件だけ陽性と判定した場合、適合率の見かけの数値は100%に近くなりますが、大部分の陽性を見逃す結果になります。
- 再現率のデメリット すべての対象を手当たり次第に陽性と判定した場合、見逃しがゼロになるため再現率の見かけの数値は100%になりますが、関係のない陰性まで大量に巻き込む結果になります。
- F値のデメリット 適合率と再現率に対して同等の重みを置く設計となっているため、業務上どちらか一方の重要性が明確に高い状況では、現場の実態に即した評価と乖離する場合があります。
まとめ
適合率と再現率の公式は、分母に着目することで整理できます。モデルの「予測」を基準として誤検出の少なさを測るのが適合率であり、現場の「実際」を基準として見逃しの少なさを測るのが再現率です。そして、その両者の偏りを抑えてバランスを評価する計算が調和平均によるF値です。
これらの評価指標を実務や研究で適切に扱うための学習手順は以下の通りです。
- 自分で簡単な2行2列の混同行列に具体的な数値を設定し、適合率と再現率を手計算で算出する
- データ全体の中で陽性の割合が極めて少ない不均衡データにおいて、正解率という指標が機能しなくなる理由を調べる
- 適合率と再現率のどちらかを優先したい場合に重み付けを調整できるFベータスコアの計算式を確認する
分母の対象が予測なのか実際なのかという視点を持っておくことで、公式の暗記にとどまらず、状況に応じた適切な評価基準の選定につながります。
投稿者プロフィール

- 代表取締役
-
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。
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