量子コンピューターとは?新人エンジニア向けに仕組み・できること・暗号への影響をやさしく解説

こんにちは。ゆうせいです。

今回は、新人エンジニア向けに「量子コンピューター」を解説します。

量子コンピューターと聞くと、何でも一瞬で計算できる未来の超高速パソコンを想像するかもしれません。

でも、その理解は少し違います。

量子コンピューターは、メールを書く、動画を編集する、Excelを開く、といった普通の作業を速くする機械ではありません。

特定の種類の問題に対して、普通のコンピューターとはまったく違う考え方で挑む、かなり尖った計算機です。

たとえるなら、万能スポーツ選手ではなく、「この競技だけは世界最強」という専門家のような存在です。

Googleは105量子ビットの量子チップ「Willow」を発表し、特定のベンチマーク計算を5分未満で実行したと説明しています。この計算は、現在の最速級スーパーコンピューターでは約10の25乗年かかると見積もられるものです。ただし、これは量子コンピューターの能力を示すための特殊なベンチマークであり、すぐに日常業務を高速化するという話ではありません。

では、量子コンピューターは何がすごいのでしょうか?

そして、新人エンジニアは何を知っておくべきなのでしょうか?

この記事では、原著作物の表現や構成をそのまま使わず、量子コンピューターの考え方を新人エンジニア向けに再構成して解説します。

まず普通のコンピューターを理解しよう

量子コンピューターを理解するには、まず普通のコンピューターを理解する必要があります。

私たちが普段使っているパソコン、スマートフォン、サーバーは、基本的に「0」と「1」を使って情報を扱います。

この0と1の最小単位をビットと呼びます。

ビットとは、情報を表す最小単位です。

電気が流れている状態を1、流れていない状態を0と考えると分かりやすいです。

bit = 0 or 1

日本語で言えば、ビットは「0か1のどちらか一方を表す情報の単位」です。

普通のコンピューターは、この0と1をものすごい速さで切り替えながら計算しています。

動画を見るのも、ゲームを動かすのも、Webアプリを表示するのも、根本では大量の0と1の処理です。

たとえるなら、巨大な体育館いっぱいにスイッチが並んでいて、それを超高速でオン・オフしているようなものです。

普通のコンピューターが苦手な問題

普通のコンピューターはとても優秀です。

ただし、苦手な問題もあります。

代表例は、組み合わせが爆発的に増える問題です。

たとえば、ダイヤル式の鍵を考えてみましょう。

3桁なら、000から999まで試せば、最大1000通りです。

頑張れば何とかなりそうです。

でも、桁数が増えるとどうでしょうか。

桁数組み合わせ数イメージ
3桁1000通り頑張れば試せる
6桁100万通りかなり大変
12桁1兆通り人間には無理
さらに大きい桁数天文学的な数スーパーコンピューターでも厳しい

普通のコンピューターは速いですが、基本的には候補を順番に調べる必要がある場面があります。

候補が少ないうちは大丈夫です。

しかし、候補が増えすぎると、どれだけ高速なコンピューターでも追いつかなくなります。

このように、候補数が急激に増えて処理が難しくなることを、組み合わせ爆発と呼びます。

巡回セールスマン問題で考える

組み合わせ爆発の例として有名なのが、巡回セールスマン問題です。

巡回セールスマン問題とは、複数の都市をすべて1回ずつ回って出発地点に戻るとき、移動距離が最短になる順番を求める問題です。

言葉だけ聞くと、簡単そうに見えますよね。

でも、都市の数が増えると、回る順番の候補が一気に増えます。

たとえば、5か所なら何とか考えられます。

でも、20か所、30か所と増えると、すべての順番を試すのは現実的ではありません。

宅配ルート、物流、半導体設計、スケジューリングなど、似たような問題は現実の仕事にもたくさんあります。

新人エンジニアが覚えておきたいのは、「コンピューターが速いから何でも総当たりで解けるわけではない」ということです。

速い機械でも、問題の増え方が激しすぎると限界があります。

量子ビットとは何か

ここで量子コンピューターの話に入ります。

普通のコンピューターがビットを使うのに対して、量子コンピューターは量子ビットを使います。

量子ビットは、英語ではqubitと呼ばれます。

量子ビットの特徴は、0と1のどちらか一方だけではなく、0と1が重なった状態を扱えることです。

この性質を重ね合わせと呼びます。

|ψ> = α|0> + β|1>

日本語で言えば、量子ビットは「0の状態と1の状態が混ざった状態として表せる」ということです。

少し難しいですね。

コインでたとえましょう。

机の上に置いたコインは、表か裏のどちらかです。

これは普通のビットに近いです。

一方、指ではじいて回っているコインは、表とも裏とも言い切れない状態に見えます。

この「表と裏の可能性が混ざっている」ようなイメージが、量子ビットの重ね合わせです。

ただし、たとえはあくまでイメージです。

実際の量子ビットは、単に高速で表裏が切り替わっているわけではありません。

量子力学という物理のルールで表される状態です。

測定すると1つに決まる

量子ビットには不思議な性質があります。

重ね合わせの状態にあっても、測定すると0か1のどちらかに決まります。

測定とは、量子の状態を観測して結果を取り出すことです。

ここがとても重要です。

量子ビットが0と1を同時に扱えるからといって、「全ての答えを一気に見られる」わけではありません。

測定した瞬間、得られる結果は1つです。

つまり、候補をたくさん持っていても、最後にランダムな答えが1つ出るだけなら役に立ちません。

宝くじを大量に持っていても、当たりくじを取り出せなければ意味がないですよね。

量子コンピューターのすごさは、「候補をたくさん持てること」だけではありません。

正しい答えが出やすくなるように、量子の状態をうまく操作する点にあります。

量子コンピューターの本質は干渉にある

量子コンピューターを理解するうえで大切なのが、干渉です。

干渉とは、波が重なって強め合ったり、打ち消し合ったりする現象です。

たとえば、水面に2つの波を起こすと、波の山と山が重なれば大きな波になります。

山と谷が重なれば、互いに打ち消し合います。

ノイズキャンセリングイヤホンも、似た考え方を使っています。

外の騒音と逆向きの音の波をぶつけることで、騒音を小さくします。

量子コンピューターも、量子状態の波のような性質を利用します。

間違った答えにつながる可能性を打ち消し、正しい答えにつながる可能性を強めるように計算を設計します。

ここがポイントです。

量子コンピューターは、全パターンを雑に一気に試す機械ではありません。

間違った可能性を消し、正しい可能性を強めるように波を操る機械です。

量子コンピューターを「超高速な総当たりマシン」と覚えないでください。

「干渉を使って正解の確率を高める計算機」と理解しましょう!

量子コンピューターが得意なこと

量子コンピューターは、何でも速いわけではありません。

得意な分野と苦手な分野があります。

分野期待される理由
材料開発分子や原子のふるまいを扱うため、量子の仕組みと相性がよい
創薬薬の候補となる分子の性質を詳しく調べる可能性がある
最適化問題大量の組み合わせから良い解を探す課題と関係する
暗号解析一部の公開鍵暗号に関係する数学問題を高速に解く可能性がある
量子シミュレーション量子の世界を量子の仕組みで再現しやすい

特に自然界の小さな世界、つまり分子や原子の世界は、そもそも量子力学のルールで動いています。

普通のコンピューターで量子の世界を完全に再現するのは大変です。

でも、量子コンピューターなら、量子の仕組みそのものを使って計算できる可能性があります。

これは、英語の文章をわざわざ日本語に直してから考えるより、英語が得意な人が英語のまま読む方が自然、という感覚に近いです。

量子コンピューターが苦手なこと

一方で、量子コンピューターが苦手なこともあります。

普段のパソコン作業の多くは、量子コンピューターで速くなるわけではありません。

作業量子コンピューターが向かない理由
メール作成普通のコンピューターで十分速い
Web閲覧量子計算の得意分野ではない
動画編集GPUなど現在の計算資源が適している
一般的な業務アプリ0と1の通常処理で問題ない
普通のプログラム実行量子アルゴリズムが必要な場面ではない

つまり、量子コンピューターが普及したからといって、あなたのノートPCが急に不要になるわけではありません。

量子コンピューターは、普通のコンピューターを置き換えるものではなく、特定の難問を解くために補完するものだと考えた方が自然です。

これは、包丁と電動ミキサーの関係に似ています。

電動ミキサーは強力ですが、野菜を1枚だけ切るなら包丁の方が便利です。

道具には向き不向きがあります。

暗号への影響が注目される理由

量子コンピューターで特に注目されているのが、暗号への影響です。

インターネットでは、ネットバンキング、ECサイト、メッセージアプリ、クラウドサービスなど、多くの通信が暗号で守られています。

暗号とは、第三者に内容を読まれないようにデータを変換する技術です。

現在広く使われている暗号の一部は、「ある計算は簡単だけれど、逆向きの計算は非常に難しい」という性質を利用しています。

代表例として、素因数分解があります。

素数とは、1と自分自身でしか割り切れない数です。

たとえば、2、3、5、7、11、13などです。

2つの大きな素数を掛け算するのは簡単です。

しかし、掛け算の結果だけを見て、元の2つの素数を見つけるのは非常に難しくなります。

p * q = n

日本語で言えば、2つの素数を掛け合わせると、大きな数ができます。

n -> p and q

日本語で言えば、大きな数から元の2つの素数を見つけることは、数が大きいほど非常に難しくなります。

この「行きは簡単、帰りは難しい」という性質が、現在の公開鍵暗号の一部を支えています。

公開鍵暗号とは、暗号化と復号に異なる鍵を使う暗号方式です。

復号とは、暗号化されたデータを元に戻すことです。

Shorのアルゴリズムとは何か

量子コンピューターと暗号の話で重要なのが、Shorのアルゴリズムです。

Shorのアルゴリズムとは、量子コンピューターを使って、大きな数の素因数分解などを効率よく解くためのアルゴリズムです。

アルゴリズムとは、問題を解くための手順です。

料理でいうレシピのようなものです。

十分に大規模でエラーに強い量子コンピューターが実現すれば、現在広く使われている公開鍵暗号の一部が危険になる可能性があります。NISTも、将来の量子コンピューターが現在広く使われている暗号システムの多くを破る可能性に備えるため、耐量子暗号の標準化を進めています。

ただし、ここで誤解してはいけません。

今すぐ、すべての暗号が破られているわけではありません。

問題になるのは、将来、暗号解読に十分な規模の量子コンピューターができた場合です。

耐量子暗号とは何か

量子コンピューターによる暗号への影響に備えて、耐量子暗号という考え方があります。

耐量子暗号とは、量子コンピューターでも破りにくいと考えられる暗号方式です。

英語では、Post-Quantum Cryptography、略してPQCと呼ばれます。

NISTは2024年に、耐量子暗号に関する3つの連邦情報処理標準、FIPS 203、FIPS 204、FIPS 205を承認しました。これは、将来の量子コンピューターに備えた暗号移行の重要な節目です。

新人エンジニアにとって大切なのは、「量子コンピューターが怖いから終わり」ではなく、「だから次の暗号方式への移行が進んでいる」と理解することです。

技術の世界では、脅威が見えたら対策も進みます。

セキュリティは、攻撃と防御のいたちごっこのようなものです。

一方が進化すると、もう一方も進化します。

今盗んで後で解読する攻撃

量子コンピューター時代のセキュリティで重要な考え方に、「Harvest now, decrypt later」があります。

日本語では、「今収集して、後で解読する」と表現できます。

現在は解読できない暗号通信を今のうちに盗んで保存し、将来、強力な量子コンピューターができたときに解読するという考え方です。

NISTは、十分に強力な量子コンピューターができる前に耐量子暗号を実装しても、長期間価値を持つ秘密情報については「harvest now, decrypt later」の脅威が残ると説明しています。

たとえば、今日の天気情報なら、10年後に読まれても大きな問題はないかもしれません。

しかし、医療情報、国家機密、研究データ、長期契約、個人情報などは、何年も価値を持ち続ける場合があります。

だから、将来の解読リスクを考えて、早めに暗号方式を見直す必要があります。

新人エンジニアが知っておくべきセキュリティ観点

新人エンジニアがすぐに耐量子暗号を実装する場面は少ないかもしれません。

しかし、考え方は知っておくべきです。

観点新人エンジニアが意識すること
暗号方式を自作しない暗号は専門家が検証した標準方式を使う
ライブラリを更新する古い暗号や脆弱な設定を使い続けない
長期保護が必要なデータを考える何年後も漏れて困る情報かを意識する
公式情報を確認するNIST、IPA、ベンダーの情報を確認する
セキュリティを後回しにしない設計段階から守り方を考える

暗号は、自作してはいけない代表的な分野です。

新人エンジニアが「自分で考えた暗号方式」を作るのは危険です。

たとえるなら、消防設備を自己流で作るようなものです。

普段は動いているように見えても、本当に火事が起きたときに役に立たない可能性があります。

暗号は、標準化された方式と信頼できるライブラリを使いましょう。

量子コンピューターの現実的な課題

量子コンピューターには大きな可能性があります。

ただし、実用化には課題も多いです。

課題説明
エラーが起きやすい量子状態は非常に繊細で、外部の影響を受けやすい
量子ビットの安定維持が難しい重ね合わせや絡み合いを長く保つ必要がある
冷却など特殊な環境が必要多くの方式では極低温環境などが必要になる
実用的なアルゴリズムが限られるすべての問題に量子優位があるわけではない
大規模化が難しい実用に必要な規模まで量子ビットを増やす必要がある

GoogleのWillowに関する発表でも、量子エラー訂正の進展が重要なポイントとして説明されています。量子コンピューターは、単に量子ビット数を増やせばよいわけではなく、エラーを抑えながら大規模化することが大きな課題です。

量子エラー訂正とは、量子計算中に発生する誤りを検出し、修正するための考え方です。

普通のコンピューターでもエラー対策はありますが、量子の世界では状態そのものが壊れやすいため、さらに難しくなります。

量子コンピューターを新人エンジニアはどう学ぶべきか

新人エンジニアが、いきなり量子力学の専門書を読む必要はありません。

まずは、IT技術とのつながりから学ぶのがおすすめです。

学習テーマ学ぶ理由
ビットと2進数普通のコンピューターの土台を理解するため
アルゴリズム計算手順の重要性を理解するため
計算量問題が大きくなると急に難しくなる理由を理解するため
暗号の基礎公開鍵暗号やハッシュ関数の役割を理解するため
セキュリティ標準実務では標準やガイドラインが重要になるため
量子ビットの概要重ね合わせ、測定、干渉のイメージをつかむため

量子コンピューターだけを単独で学ぼうとすると難しく感じます。

でも、普通のコンピューター、アルゴリズム、暗号、セキュリティの延長線上に置くと、理解しやすくなります。

急に山頂を目指すな。

まず登山道の入り口から歩きましょう!

よくある誤解

誤解正しい理解
量子コンピューターは何でも速い特定の問題に強い専門型の計算機
量子ビットは0と1を同時に見られる測定すると1つの結果に決まる
全部の答えを一気に試すから速い干渉を使って正解の確率を高める
今すぐ暗号が全部破られる将来のリスクに備えて移行が進んでいる
普通のコンピューターは不要になる普通のコンピューターと量子コンピューターは役割が違う

特に、「何でも一瞬で計算できる」という誤解には注意してください。

量子コンピューターは魔法ではありません。

得意な問題に対して、普通のコンピューターとは違う物理法則を使って挑む計算機です。

まとめ

量子コンピューターは、普通のコンピューターとは違い、量子ビットを使って計算します。

量子ビットには、重ね合わせ、測定、干渉といった独特の性質があります。

新人エンジニア向けに一言で言うなら、量子コンピューターは「正解につながる可能性を強め、間違いにつながる可能性を打ち消すように設計された特殊な計算機」です。

用語意味
ビット0か1のどちらかを表す普通の情報単位
量子ビット0と1の重ね合わせを扱える量子の情報単位
重ね合わせ複数の状態の可能性が混ざっている状態
測定量子状態から1つの結果を取り出すこと
干渉波の性質を使って可能性を強めたり打ち消したりすること
耐量子暗号将来の量子コンピューターでも破られにくい暗号方式

量子コンピューターが期待される分野は、創薬、材料開発、最適化、量子シミュレーションなどです。

一方で、暗号への影響も重要です。

NISTが耐量子暗号の標準化を進めているように、世界は将来の量子時代に備えて動いています。

新人エンジニアは、今すぐ量子コンピューターを実装できる必要はありません。

しかし、「普通のコンピューターとは何が違うのか」「どの分野に影響するのか」「セキュリティでは何が問題になるのか」を知っておくことは、これからのIT人材にとって大きな武器になります。

ordinary computer
        ↓
bit
        ↓
0 or 1
        ↓
sequential processing

quantum computer
        ↓
qubit
        ↓
superposition
        ↓
interference
        ↓
higher probability of useful answers

日本語で言えば、普通のコンピューターはビットを使って0か1を順番に処理し、量子コンピューターは量子ビットの重ね合わせと干渉を使って、有用な答えが出る確率を高める計算を行います。

今後の学習では、2進数、論理演算、計算量、アルゴリズム、公開鍵暗号、ハッシュ関数、量子ビット、Shorのアルゴリズム、耐量子暗号の順に学ぶとよいです。まずは「量子コンピューターは何でも速いわけではなく、特定の問題に強い専門型の計算機である」と説明できるところから始めましょう!

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。

学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。