P値に関するよくある誤解
P値(P-value)は統計学における重要な概念であり、仮説検定の結果を評価する際によく使われます。しかし、実際の意味や使い方については誤解されがちな点も多く、正確に理解することが難しい概念でもあります。ここでは、P値に関するよくある誤解をまとめ、丁寧に解説していきます。
P値とは何か?
まず、P値の定義をおさらいしましょう。P値は、「帰無仮説(null hypothesis)が正しいと仮定した場合に、観察されたデータまたはそれよりも極端なデータが得られる確率」を表します。帰無仮説とは、「効果がない」または「差がない」といった仮定のことで、例えば「新しい薬と従来の薬に効果の差はない」といった仮説がこれにあたります。
たとえば、P値が0.05であれば、「帰無仮説が正しいと仮定したときに、観察されたデータが偶然に起こる確率が5%である」と解釈されます。このP値が小さいほど、データが帰無仮説の下で偶然に観察される可能性は低くなり、帰無仮説を棄却する(効果があると考える)根拠となります。
では、次にP値に関して広く存在する誤解について見ていきましょう。
誤解1: P値は「帰無仮説が正しい確率」を示す
正しい理解: P値は「帰無仮説が正しい確率」ではありません。
この誤解は非常に多いものです。P値が0.05の場合、多くの人は「帰無仮説が正しい確率は5%だ」と解釈しがちですが、これは誤りです。実際には、P値は「帰無仮説が正しい場合に観察されたようなデータが得られる確率」を示しているのであって、帰無仮説そのものの正しさを示しているわけではありません。
例えるなら、コインを投げて表が出る確率が50%だからといって、「次に投げたときに表が出る確率が50%」と混同するのに似ています。P値はデータの結果を基にした確率であり、仮説自体の真偽に直接関わるものではないのです。
誤解2: P値が小さいほど仮説が「正しい」
正しい理解: P値が小さいからといって、必ずしも対立仮説が正しいわけではありません。
たとえば、P値が0.01だからといって「効果が強い」とか「新しい薬が必ず効く」とは限りません。P値は単に、観察されたデータが偶然に起こる可能性が低いことを示しているに過ぎません。実際の効果の大きさやその重要性は、別の指標(例えば効果量や信頼区間)で評価する必要があります。
この誤解は、統計的有意性(statistical significance)と臨床的または実質的な有意性(clinical or practical significance)を混同することに繋がりがちです。統計的に有意でも、その効果が現実世界で意味があるかどうかは別問題です。
誤解3: P値が0.05未満なら仮説が証明された
正しい理解: P値が有意水準を下回っても、仮説が「証明された」わけではありません。
統計学においては、仮説が「証明された」とは言いません。仮説検定では、帰無仮説を棄却するかしないかを判断するに過ぎず、対立仮説が正しいと結論付けることはできません。あくまで「帰無仮説が正しいと仮定することが難しい」と示唆されるに過ぎないのです。
たとえば、P値が0.03であっても、それは「効果があると証明された」とは言わず、「帰無仮説を棄却するのに十分な証拠が得られた」という程度の表現が適切です。科学における仮説検定は、あくまで証拠に基づいた判断であり、絶対的な結論を導くものではありません。
誤解4: P値が大きい場合、帰無仮説は真である
正しい理解: P値が大きくても、帰無仮説が真であるとは限りません。
P値が大きいとき、多くの人は「帰無仮説が正しい」と考えがちですが、実際にはそれも誤解です。P値が大きいということは、観察されたデータが帰無仮説のもとで起こりうる範囲内にある、つまり「偶然で説明可能な範囲にある」というだけです。しかし、それが即座に「帰無仮説が正しい」ことを意味するわけではありません。
例えると、サイコロを振って6が出なかったとき、それが「サイコロが公正である証拠だ」とは言えないのと同じです。6が出なかったのはただの偶然であり、サイコロの性質について何も結論付けることはできません。
誤解5: P値が0.05は絶対的な基準
正しい理解: P値のカットオフである0.05は、あくまで便宜的な基準に過ぎません。
P値が0.05を下回ったら「有意」とし、それ以上なら「有意でない」とするのは一般的ですが、0.05という基準自体に絶対的な意味はありません。この基準は、統計学の歴史的な慣習であり、研究者や分野によっては異なる有意水準を採用することもあります。たとえば、より厳しい基準として0.01や0.001を使う場合もあります。
また、P値が0.051であれば有意でないと判断し、0.049であれば有意であるとすることには、少し強引なところがあります。科学的な結論を出す際には、P値だけでなく他の要素(効果量、信頼区間、データの質など)も考慮することが大切です。
今後の学習の指針
P値に関する誤解を解消するためには、単にP値の数値だけに頼らず、仮説検定全体の意味や文脈を理解することが重要です。次のステップとして、P値と効果量や信頼区間との関係を学び、それらを統合的に解釈するスキルを身につけると良いでしょう。
また、P値に依存しすぎず、研究の質やサンプルサイズ、データの信頼性を総合的に評価する力を養うことも大切です。科学的な結論は、複数の視点からの証拠の積み重ねで導かれるものです。
投稿者プロフィール
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セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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