セルフ・キャリアドックとは?IT企業で推進するメリット・デメリットから好事例まで詳しくご紹介

従業員のキャリアプランを実現するために企業ができるサポートとして、セルフ・キャリアドックという取り組みがあると知ったけれど、具体的に何から始めればよいのかわからず困っている人はいませんか?

この記事では、セルフ・キャリアドックをIT企業で推進するメリット・デメリットから好事例まで詳しくご紹介します。

セルフ・キャリアドックとは?

セルフキャリアドックでキャリアアップする人

セルフ・キャリアドックとは、企業が人材育成におけるビジョン・方針に基づきキャリアコンサルティング面談やさまざまなキャリア研修を組み合わせて、従業員が主体的にキャリア形成ができるようサポートすることとその仕組みを指します。

企業にとっては組織の活性化、従業員にとっては自分のキャリアを定期的に見直したり、考えたりすることで仕事へのモチベーションアップにつながるでしょう。

セルフ・キャリアドックの導入率

OFF-JTを受講する男女のビジネスマン

2021年に厚生労働省が発表した「能力開発基本調査」において、7,064の事業所(有効回答52.6%)に対しキャリアコンサルティングを行う仕組みの導入状況についてたずねた所、次のような結果が出ました。

解答正社員、正社員以外どちらもある正社員のみある正社員以外のみあるキャリアコンサルティングを行う仕組みがない不明
割合26.1%15.4%0.8%57.2%0.5%

またOFFーJTの実施状況、計画的なOJTの実施状況については次のような結果でした。

 正社員と正社員以外両方実施した正社員のみ実施した正社員以外のみ実施した実施していない不明
OFFーJT28.6%40.5%1.3%29.5%0.2%
計画的なOJT22.5%36.6%2.7%37.9%0.3%

OFF-JTを実施した企業は70.4%、計画的なOJTを実施した企業は61.8%であることから企業はキャリア研修には比較的熱心に取り組んでいると言えますが、キャリアコンサルティングを行う仕組みを持つ企業は42.3%でまだ半数に満たないのが現状です。

このことからセルフ・キャリアドックを推進するためには、従来企業が行ってきたOFF-JTや計画的なOJTだけではなく、キャリアコンサルティングにも取り組むことが重要だと言えるでしょう。

参考:厚生労働省「能力開発基本調査」

セルフ・キャリアドックが注目される背景

セルフキャリアドックが注目される背景の1つである働き方改革

セルフ・キャリアドックが注目される背景には、どのようなことがあるのでしょうか。

3つご紹介します。

働き方改革の推進

2019年4月から開始された働き方改革においては、企業の従業員が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できるようにするのを目的に働き方改革関連法が制定され、8種類の労働法において次のような改正が行われました。

・年次有給休暇の取得義務化

・時間外労働の上限規制

・正規労働者と非正規労働者など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

しかしこれらを実現するためには企業が就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作り、従業員一人一人が生産性を向上させる必要があるでしょう。

セルフ・キャリアドックは企業がキャリア形成をサポートし従業員が定期的にキャリアを見直すことができるため、働き方改革を実現する上で効果のある施策として注目されるようになったのです。

参考:厚生労働省「『働き方改革』の実現に向けて」

人生100年時代に向けた人材育成への取り組み

人生100年時代とは、今後人間は100年間生きることを前提とした人生設計の必要性があることを示した言葉です。

ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットが「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」で、先進国の2007年生まれの人のうち50%が103歳まで生きると予測し、人生100年時代という言葉を提唱しました。

日本でも急激な少子高齢化が進んでいるのを背景に、2017年9月から首相官邸において「人生100年時代構想」が発信され、労働者が何才になっても必要な能力・スキルを身に着けられるようにするためのリカレント教育、高齢者雇用の促進などに取り組むこととなったのです。

従業員が定期的にキャリアを見直すことができるセルフ・キャリアドックは、人生100年時代を生きる上で重要な施策だと言えるでしょう。

参考:内閣府「人生100年時代構想」

参考:厚生労働省「『人生100年時代』に向けて」

仕事と子育て・介護の両立

2020年に内閣府が発表した「男女共同参画白書 令和2年版」で、週間就業時間60時間以上の雇用者の割合を調べた所、次のような結果となりました。

 男女合計男性女性30代男性40代男性
2019年6.4%9.8%2.3%12.4%12.4%

子育て期であるはずの30代~40代の男性において、週に60時間以上働いている人が男女平均の約2倍だったのです。

このことから企業が子育て期にある従業員にセルフ・キャリアドックを行い、仕事と子育て・介護の両立に向けた支援を行うのは有効な手段だと言えるでしょう。

参考:内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書 令和2年版」

セルフ・キャリアドックをIT企業が行うメリット

キャリアコンサルティング面談をするビジネスマン

セルフ・キャリアドックをIT企業が行うメリットは次の6つです。

・従業員が自分のキャリアについて主体的・能動的に考えて行動できるようになる

・人材の流動化が高まる

・公平なキャリア形成につながる

・従業員満足度(ES)が高まる

・ビジネスキャリアだけではなくライフキャリアも目を向けるため従業員全体のワークライフバランスがよくなる

・離職率が下がる

厚生労働省が公表している「セルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業好事例集」に掲載されているIT企業、株式会社インテージの事例では、キャリアコンサルティング面談における「満足度」「有効性」「今後の利用意向」はいずれも 100%だったことがわかっています。

参考:厚生労働省「企業・学校等においてキャリア形成支援に取り組みたい方へ」

セルフ・キャリアドックをIT企業が行うデメリット

セルフキャリアドックをネガティブに感じているビジネスマンの男性

セルフ・キャリアドックをIT企業が行うデメリットは次の2つです。

・キャリアコンサルティングを行う人の心理的負担が大きい

・セルフ・キャリアドックをネガティブに誤解される可能性がある(転職の助長や秘密を守ってもらえないなど)

しかしセルフ・キャリアドックを段階的に実施することでキャリアコンサルタントの心理的負担を軽減し、実施目的を丁寧に説明することで誤解は解けるため、これらのデメリットは解消できる場合が多いでしょう。

IT企業におけるセルフ・キャリアドックの進め方

セルフキャリアドックでキャリアコンサルティング面談を受ける女性

IT企業における望ましいセルフ・キャリアドックの進め方とは、どのようなものなのでしょうか。

5つのSTEPにわけてご紹介します。

【STEP1】人材育成ビジョンを明確にする

セルフ・キャリアドックを行う前の事前準備として、まず理想的な従業員像を定義しそれを実現するための人材育成方針を明確にしておく必要があるでしょう。

人材育成ビジョンが明確になったら、経営者が先頭に立ってセルフ・キャリアドックの導入を全ての従業員へと周知します。

【STEP2】実施計画の策定

人材育成ビジョンに基づいてセルフ・キャリアドックをどのように進めるかを実施計画として策定しますが、実施計画にはキャリア研修とキャリアコンサルティング面談の具体的な内容を含めましょう。

また次の3つのツールを準備します。

・キャリアコンサルティング面談で使用する面談(記録準備)シート

・キャリアコンサルティング面談の結果をキャリアコンサルタントから人事部門に報告するための全体報告書

・キャリア研修とキャリアコンサルティング面談改善のためのアンケート様式

実施計画の確実な実行のために進捗管理表を使って管理するのがおすすめです。

【STEP3】社内の環境整備

セルフ・キャリアドックを導入するため、社内の環境を整えましょう。

具体的には次のようなことを行います。

・セルフ・キャリアドック推進の責任者を決める

・セルフ・キャリアドック実施に向けた規定を就業規則や社内通達で発信する

・社内キャリアコンサルタントを育成するか社外キャリアコンサルタントを確保する

・キャリアコンサルティング面談で得られた情報の共有化ルールを定める

・社内のキャリア自律意識を高める

丁寧な環境整備がスムーズなセルフ・キャリアドックの導入と実施につながります。

【STEP4】セルフキャリアドッグの実施

セルフ・キャリアドックは次のような段階を踏んで実施するとよいでしょう。

  1. 対象従業員への説明会の実施
  2. キャリア研修
  3. キャリアコンサルティング面談
  4. 振り返り

振り返りではアンケートを実施し、その内容を基に改善を続けるとセルフ・キャリアドックが多くの従業員にとってもっと役立つものとなるでしょう。

【STEP5】フォローアップ

セルフ・キャリアドックの実施後、キャリアコンサルタントと人事部門において次のようなフォローアップを行います。

・報告書の作成と共有

・個々の従業員へのフォローアップ

・組織的な改善措置の実施

・セルフ・キャリアドックの継続的な改善

セルフ・キャリアドックを一度で早期に成功させようとするのではなく、ステップを踏んで導入し長い期間をかけて自社にとって望ましい形へと改善し続ける姿勢が大切です。

参考:厚生労働省「企業・学校等においてキャリア形成支援に取り組みたい方へ」

IT企業におけるセルフ・キャリアドックの好事

オンラインでキャリアコンサルティング面談をする2人

厚生労働省では、従業員の自律的なキャリア形成支援について他の模範となる取組を行っている企業を表彰する「グッドキャリア企業アワード」を行っていますが、この中から2022年にイノベーション賞を受賞したヤフー株式会社の事例をご紹介します。

ヤフー株式会社では、リモートワーク中心の働き方の中でオンラインでも対話ができるよう「YJぴあさぽ」を導入しました。

YJぴあさぽはキャリアコンサルタントなどの資格を持つ社員が対話を通じて従業員を支援する取り組みですが、次のような効果がありました。

・従業員のキャリアに対する理解が深まった

・ビジネスキャリアだけではなくライフキャリアを大切にすることで生産性が上がった

YJぴあさぽを利用した従業員の満足度は91%と非常に高く、ヤフー株式会社では今後もこの取り組みを続けるとしています。

参考:厚生労働省「グッドキャリア企業アワード」

セイ・コンサルティング・グループではIT企業のセルフ・キャリアドックをサポートしています

セイ・コンサルティング・グループではセルフ・キャリアドックをしたいIT企業さまに対し、OFF-JTをサポートしています。

セイ・コンサルティング・グループでは、次の7つを研修の標準メニューとしています。

・新人エンジニア研修2023

・ヒューマンスキル

・プロジェクトマネジメント

・ビジネススキル

・ヒューマン・リソース・マネジメント

・ネットワーク&セキュリティ

・プログラミング

・Webマーケティング・その他

しかしこれらの研修メニューはあくまでも標準メニューですので、お客さまのニーズに合わせて柔軟にカスタマイズが可能です。

セイ・コンサルティング・グループが電話営業・訪問営業をせず、派手なパンフレットを作らなくてもお客様にセルフ・キャリアドックのパートナーとして選ばれている理由を知りたい方は、次のリンクもクリックしてみてください。

研修メニュー - セイコンサルティンググループ (saycon.co.jp)

まとめ

セルフ・キャリアドックとは、企業が人材育成におけるビジョン・方針に基づきキャリアコンサルティング面談やさまざまなキャリア研修を組み合わせて、従業員が主体的にキャリア形成ができるようサポートすることとその仕組みを指し、IT企業にとってはワークライフバランスや従業員満足度の向上につながります。

この記事も参考にして、ぜひ自社に合った形でセルフ・キャリアドックを進めてみてください。