DX時代の人的資本経営と人事の再定義 ― IT企業育成担当者が知るべき“競争ロジック”の本質

こんにちは。ゆうせいです。

これまで「人事」と聞くと、配属・評価・研修を行う管理部門というイメージが強かったのではないでしょうか?
しかし、今その役割が大きく変わろうとしています。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)時代においては、「人的資本経営」というキーワードのもと、人事は企業価値そのものに直結する“戦略部門”へと進化しています。

今回は、大湾秀雄教授の講演資料をもとに、IT企業の育成担当者が知っておくべき「人的資本経営の本質」と「人事のDX推進方法」について、やさしく解説していきます。


人的資本経営のパラダイムシフトとは?

「囲い込み型」から「競争型」へ

従来の日本企業では、社員を長く雇用し続ける「囲い込み型」モデルが一般的でした。
このモデルでは「この人はうちの会社で一生働く」という前提で教育投資を行い、スキルの蓄積も社内中心でした。

ところが、DXによる業務変化と労働市場の流動化により、今後は“競争型”の人的資本戦略が必要になります。

例え話:

かつては“囲いの中で育てる農業”でしたが、これからは“市場で勝てる商品(人材)を育てる工場”へと発想を転換する必要があるのです。


日本企業が抱える“人的資本投資の壁”

1. 労働市場の摩擦が大きすぎる

「摩擦」とは、たとえば転職のしづらさ、情報の非対称性、年功賃金など。
これがあると、社員も企業も“外”を見なくなり、人的資本投資が非効率になります。

2. 集権的人事と現場の意欲低下

現場に人材育成の権限がないと、「言われたことをやるだけ」の人材が増え、自己研鑽の意欲が低下します。


IT育成担当者が取るべき5つのアクション

① 「関係的契約」による人的資本開示

人的資本への投資は契約書で明文化できませんが、情報開示を通じた信頼形成が“契約と同じ効果”を持ちます。
たとえば、「リスキル研修に参加した社員は昇進対象になる」などの明示が必要です。

② 職やスキルの標準化(ジョブ型雇用)

標準化により、「誰に・どんなスキルが・どれくらいあるのか」が見えるようになります。
これはIT人材マップの作成やスキルベース人事制度の基盤になります。

③ 社内異動の活性化(ソニー・シスメックス事例)

  • 社内FA制度:高評価社員が自ら異動できる(ソニー)
  • マッチングアルゴリズムによる配属最適化(シスメックス)

④ 人事のDX:データの一元管理と可視化

  • 人材情報の一元化(タレントマネジメントシステム)
  • 各部署がデータでタレントを検索できるようにする
  • 効果検証のためにA/Bテストを導入

⑤ CHRO(最高人事責任者)の権限強化

育成と経営を結びつけるには、CHROがCEOやCDOと連携し、インセンティブ設計やDX推進に踏み込む必要があります。


KPI設計と開示のポイント

KPI(重要業績評価指標)の設計は、「約束の見える化」として非常に重要です。
以下の4ステップで考えましょう:

  1. 課題の可視化(As-isとTo-be)
  2. 中間KPIの設定(スキル習得率、研修参加率など)
  3. 最終KPIの選定(エンゲージメントスコア、昇進率など)
  4. イントラネット・採用サイト等での継続的開示

たとえば…

項目KPI例
キャリア形成支援社内公募制度応募率
スキル育成選抜研修の参加率
ジェンダー平等育児休業取得率の男女差
健康経営有給取得率、残業時間

AI時代における育成戦略の再定義

生成AIの普及により、「分析・創造」などの高度スキルすら代替されつつあります。
これからは「AIと共に働く力」=「AIを使いこなす学び」が求められます。

IT企業におけるリスキリングのキーワード:

  • デジタルリテラシーの全社員展開
  • 学習履歴と業務実績のデータ連携
  • “学ぶ人”を経営人材候補に選抜

最後に ― これから目指すべき学習テーマ

人的資本経営の「本質」は、単なる制度ではなく“組織文化”の転換です。
このパラダイムシフトに対応するため、以下のテーマを今後学んでいきましょう!

  • ピープルアナリティクスによる人材戦略の可視化と最適化
  • 経営に効くKPIのつくり方(ストーリーと数値の融合)
  • AI×人材育成の新しい研修設計(生成AI活用の実践)

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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