線形代数の世界には、法律の専門家でありながら、数学の歴史を塗り替えた異色の天才が存在します。

こんにちは。ゆうせいです。

新人エンジニアの皆さんは、プログラムを書くときにベクトルや行列を扱ったことがありますか。

画像処理やAIの計算で当たり前のように使われているこれらの概念。

実は、法廷に立つ弁護士としての顔を持ちながら、夜は数学に没頭したひとりの男がいなければ、今の形にはなっていなかったかもしれません。

その名は、アーサー・ケイリー。

今回は、彼がどのようにして行列という魔法の道具を生み出したのか、その物語を紐解いていきましょう!


弁護士と数学者、二つの顔を持つ男

アーサー・ケイリーは、19世紀のイギリスで活躍した人物です。

驚くべきことに、彼は14年もの間、ロンドンで弁護士として働いていました。

「法律の仕事で忙しいのに、いつ数学をしていたの?」と不思議に思いませんか。

彼は、昼間は複雑な訴訟問題を解決し、その合間や夜の時間を使って膨大な数の数学論文を執筆したのです。

まさに、究極の「副業エンジニア」ならぬ「副業数学者」と言えるでしょう。

行列という概念の発明

ケイリーの最大の功績は、行列(Matrix)という概念をひとつの独立した数学的対象として確立したことです。

それまでも行列のような計算は存在していましたが、彼はそれを単なる数字の並びではなく、ひとつの「記号」として扱うことを提案しました。

これをプログラミングで例えるなら、バラバラの変数(x, y, z)を、ひとつの配列やオブジェクトにまとめたような革命です。

行列の足し算と掛け算

ケイリーは、行列同士にも足し算や掛け算ができることを定義しました。

ここで専門用語の解説です。

  • 行列(ぎょうれつ):数字を格子状に並べたものです。エクセルの表のようなものだと想像してください。
  • 成分(せいぶん):行列の中に入っている、ひとつひとつの数字のことです。表の「セル」に入っているデータのようなものですね。

例えば、2つの行列 AB を足すと、新しい行列 C が生まれます。

A + B = C

このシンプルなルールが、現代の3Dグラフィックスや物理シミュレーションの土台となっているのです。

行列がもたらしたメリット

なぜ行列という考え方が、これほどまでに偉大なのでしょうか。

  • 複雑な連立方程式を一瞬で記述できる:何十個もある変数の関係を、たった一行の式で表現できます。
  • 計算の自動化に適している:一定のルールで並んでいるため、コンピューターに計算させるのに非常に都合が良いのです。
  • 抽象化の力:具体的な数字に惑わされず、構造そのものを研究できるようになりました。

知っておくべきデメリット(難所)

一方で、行列には初心者泣かせの落とし穴もあります。

  • 掛け算の順序が重要:ふつうの数字なら 2 \times 33 \times 2 も同じ 6 ですよね。しかし、行列の世界では A \times B B \times A は同じ結果になるとは限りません!これを「交換法則が成り立たない」と言います。これを知らずに計算順序を間違えると、プログラムの結果がめちゃくちゃになってしまうので要注意です。

ケイリー・ハミルトンの定理

ケイリーの名を冠した有名な定理に「ケイリー・ハミルトンの定理」があります。

これは、ある行列 A に対して、特定の式にその行列自体を代入すると、必ずゼロ(零行列)になるという不思議な性質です。

高校数学の最後の方で触れた記憶がある人もいるかもしれませんね。

この定理のおかげで、行列の「べき乗(何乗もすること)」の計算が劇的に楽になります。

新人エンジニアの皆さんは、プログラムで「同じ行列を 100 回掛け算する」という処理を任されたらどうしますか。

愚直にループを回すと計算量が増えて、動作が重くなってしまいそうですよね。

そんなとき、この定理を知っていると、計算を劇的にショートカットできるかもしれませんよ!


ケイリー・ハミルトンの定理ってなに?

この定理を一言でいうと、「どんな正方行列も、自分自身に関する特定の多項式を満たす」というルールです。

これだけではイメージしづらいですよね。

例えて言うなら、この定理は「行列専用のショートカットキー」です。

複雑で重たい計算を、もっとシンプルな足し算や引き算の組み合わせに置き換えてくれる、魔法のような公式なんです。

専門用語をマスターしよう

定理の中身に入る前に、高校生でもわかるように大事な言葉を整理しましょう。

正方行列(せいほうぎょうれつ)

縦の行の数と、横の列の数が同じ行列のことです。

2 \times 2 や 3 \times 3 といった、真四角な形をした行列を指します。

単位行列(たんいぎょうれつ)

普通の数字でいうところの 1 に相当する特別な行列です。

記号 EI で表され、どんな行列に掛けても相手の姿を変えないという性質を持っています。

固有多項式(こゆうたこうしき)

行列の特徴をギュッと凝縮した数式のことです。

人間でいうところの「指紋」や「マイナンバー」のような、その行列固有の情報を表す式だと思ってください。

定理の内容を見てみよう

2 \times 2 の行列 A を例に説明しますね。

行列 A が以下のような成分を持っているとします。

A = \begin{pmatrix} a & b \ c & d \end{pmatrix}

このとき、ケイリー・ハミルトンの定理は次のような式が必ず成り立つと教えてくれます。

A^2 - (a + d) A + (ad - bc) E = O

ここで O は、すべての成分が 0 である零行列(ぜろぎょうれつ)です。

自分の成分を組み合わせて作った式に、自分自身を代入すると、なんと答えが 0 になってしまうのです。

不思議だと思いませんか?

この定理を使うメリット

なぜこの定理がエンジニアにとって重要なのでしょうか。

  • 計算コストの削減行列の 10 乗や 100 乗を計算したいとき、この定理を使って式の次数(パワー)を下げることができます。重たい掛け算を、軽い足し算の形に変形できるのが最大の魅力です。
  • 行列の性質を解析できる行列がどのような動きをするのか、その「性格」を数式から読み解く手がかりになります。

注意すべきデメリット

便利すぎるこの定理ですが、使うときには注意も必要です。

  • 逆は必ずしも真ならず「ある式を満たしているからといって、その行列が特定の形であるとは限らない」という落とし穴があります。定理を適用する方向を間違えないようにしましょう。
  • サイズが大きくなると複雑に今回は 2 \times 2 で説明しましたが、3 \times 3 以上の大きな行列になると、式自体を作るのが一苦労になります。

まとめと今後の学習指針

弁護士という多忙な職業にありながら、知的好奇心に従って数学の世界を広げたケイリー。

彼が整えた行列のルールがなければ、現代のAI技術は数十年遅れていたかもしれません。

エンジニアとして線形代数を武器にするために、まずは以下のステップから始めてみませんか。

  1. 行列の掛け算を手計算で数回やってみて、その「独特のルール」を体に覚え込ませる。
  2. PythonのライブラリであるNumPyなどを使って、行列計算がいかに高速に行われるか試してみる。
  3. 幾何学的な意味(行列が空間をどう歪ませるか)を可視化ツールで見てみる。

数学は一見、無機質な数字の羅列に見えますが、その裏にはケイリーのような情熱を持った人たちの物語が隠れています。

それを知ることで、コードの向こう側にある景色が少し違って見えるはずです。

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。