社員の福利厚生に「農園」は最高?ちょっと待って!自然農法のリアルな現実(雑草・害虫編)

社員の福利厚生に「農園」導入、増えていますね

最近、社員の福利厚生やチームビルディングの一環として「社内農園」や「契約農園」を導入しようと検討されている人事担当者の方が増えていると聞きます。 「自然の中でリフレッシュできる」「収穫の喜びをチームで分かち合える」「健康意識が高まる」…など、たくさんのメリットが期待できますよね!

特に「どうせやるなら、農薬や化学肥料を使わない『自然農法』で!」と考えるケースも多いのではないでしょうか。響きもいいですし、安全な野菜が食べられるのは魅力的です。

でも、ちょっと待ってください! 「自然農法」と聞くと、どんなイメージを持ちますか? 「種をまいたら、あとは自然が育ててくれる」「手間いらずで、おいしい野菜ができる」…そんな風に思っていませんか?

もし、そうした「楽ちん」なイメージだけで導入を決めようとしているなら、少し危険かもしれません。 今回は、福利厚生として農園を導入する前にぜひ知っておきたい、「自然農法」のシビアな現実、特に「雑草」と「害虫」との闘いについて、詳しく解説していきますね。

そもそも「自然農法」って何でしょう?

まず、「自然農法(しぜんのうほう)」という言葉の確認から始めましょう。

これは、非常に簡単に言えば「畑をできるだけ自然の状態に近づけて、作物の力を引き出す農法」のことです。 特徴としては、

  • 畑を耕さない(不耕起:ふこうき と言います)
  • 農薬(殺虫剤や除草剤)を使わない
  • 肥料(特に化学肥料)を使わない

といった点が挙げられます。土の中にいる無数の微生物や虫、生えてくる草など、すべてをひっくるめた「生態系(せいたいけい)」のバランスを活かそう、という考え方なんです。

「農薬を使わないなんて、安心!」 「肥料もいらないなら、コストもかからなそう!」 確かにそう聞こえます。ですが、ここには大きな「落とし穴」があります。

現実その1:雑草との終わりなき対話(という名の闘い)

農薬、つまり「除草剤(じょそうざい)」を使わないということは、どうなると思いますか?

…そうです。雑草が、それはもう元気いっぱいに生えてきます!

雑草を「放置」すると、どうなる?

福利厚生で農園を利用する社員の皆さんは、おそらく農業のプロではありませんよね。週末や業務の合間に、楽しくリフレッシュするのが目的のはずです。 「まぁ、少しくらい草が生えていてもいいか」と放置してしまうと、畑はあっという間に「雑草の楽園」になってしまいます。

雑草は、私たちが育てたい野菜よりも、はるかに生命力が強いことがほとんどです。 雑草がはびこると…

  1. 野菜の「日なた」を奪う:雑草が覆いかぶさり、野菜が光合成(こうごうせい:光を浴びて栄養を作ること)ができなくなります。
  2. 野菜の「ごはん」を奪う:土の中の養分を、野菜より先に雑草が吸い取ってしまいます。
  3. 野菜の「家」を奪う:後でお話しする「害虫」たちが隠れたり、卵を産み付けたりする絶好の住処になってしまうのです。

結果、どうなるか。 「苗を植えたはずなのに、何も収穫できない…」「どこに野菜があるか分からない」 こんな悲しい事態になりかねません。

自然農法の知恵「草マルチ」とその手間

もちろん、自然農法では雑草をただの「敵」とはみなしません。 刈り取った雑草を、野菜の根本(株元:かぶもと)に敷き詰める「草マルチ」というテクニックがあります。 これは、刈った草で地面を覆う(マルチングする)ことです。

この「草マルチ」には、

  • 土が乾くのを防ぐ(保湿効果)
  • 新しい雑草が生えるのを抑える(光を遮るため)
  • 草がゆっくり分解されて、やがて土の栄養になる

といった素晴らしいメリットがあります。 ですが、考えてみてください。この「雑草を刈って、運んで、敷き詰める」作業。 真夏の炎天下で、これを継続的に行うのは、想像以上の重労働です。

「リフレッシュ」のつもりが、「過酷な草むしり」になってしまい、社員の皆さんが「もう行きたくない…」となってしまう可能性は、十分にあるのです。

現実その2:害虫との「共生」という名の試練

次に、「殺虫剤(さっちゅうざい)」を使わない場合の「害虫」問題です。 農薬を使わない畑は、虫たちにとっても最高のレストランです。

アブラムシ、ヨトウムシ(夜盗虫:夜に活動するイモムシ)、アオムシ、カメムシ…。 柔らかい新芽は食べられ、せっかく実ったトマトの汁は吸われ、キャベツの葉は穴だらけに…というのは日常茶飯事です。

「益虫」はすぐには来てくれない

自然農法では、「害虫(がいちゅう)」を食べる「益虫(えきちゅう)」の力を借ります。 例えば、アブラムシを食べてくれるテントウムシや、アオムシに寄生するハチなどですね。生態系のバランスが取れれば、特定の虫が異常発生することは少なくなると言われています。

しかし! この「バランスが取れた状態」になるまでには、何年もかかることが普通です。

農園を始めた初年度。社員の皆さんが楽しみに育てていた野菜が、目の前で虫に食べられていくのを見て、「気持ち悪い」「もう触りたくない」「食べるところがなくなった」と、モチベーションが一気に下がってしまう…。 これは、非常に現実的なリスクです。

手で一匹ずつ虫を取り除く(テデトールと呼ばれたりします)覚悟と手間を、参加者全員が共有できるでしょうか?

福利厚生として導入するメリットと覚悟

もちろん、自然農法の農園には素晴らしいメリットがあります。

  • 本物の自然体験:農薬に頼らない、ありのままの生態系に触れる体験は、何物にも代えがたい学びになります。
  • 食育効果:「食べ物がいかに大変な手間をかけて育つか」を実感でき、食への感謝や安全への意識が格段に高まるでしょう。
  • 究極の達成感:もし、そうした困難(草むしりや虫取り)をチームで乗り越えて野菜を収穫できたなら!その喜びと達成感は、他のどんなレクリエーションよりも強い絆を生むかもしれません。

一方で、人事部として認識しておくべきデメリット(覚悟)は明確です。

  • 「労働」と「疲弊」:「リフレッシュ」の範囲をはるかに超えた「肉体労働」になる可能性が高いです。
  • 「失敗」による意欲低下:雑草や害虫に負けて収穫ゼロが続くと、「どうせやっても無駄」という空気が蔓延します。
  • 管理責任:管理が行き届かず雑草だらけになると、景観が悪化するだけでなく、虫が大量発生して近隣から苦情が来るリスクもゼロではありません。

まとめ:導入前に「どこまでやるか」を決めましょう!

自然農法は、決して「楽な農業」ではありません。 むしろ、自然の力を引き出すために、人間の細やかな観察と、膨大な手間(特に草と虫の管理)を要求する、とても奥深く、プロフェッショナルな技術なんです。

もし人事部として「福利厚生農園」を導入されるなら、まず次のステップを踏むことを強くお勧めします。

  1. 目的の明確化:「リフレッシュ」が目的なのか、「本格的な自然学習」が目的なのか、それとも「収穫(食べること)」が目的なのか。目的によって、やり方は変わります。
  2. 管理体制の検討:誰が中心になって管理するのか? プロ(農家さんや指導員)のサポートをどの程度入れるのか? 「参加者の自主性」だけに頼るのは危険です。
  3. 「お試し」から始める:いきなり広い面積で始めるのではなく、まずは小さな区画から。そこで「自然農法の現実」を体験してもらいましょう。

「こんなはずじゃなかった」 そう後悔する前に、雑草や害虫のリアルな現実を、導入前に参加希望者へしっかりと説明しておくこと。 それが、福利厚生農園を成功させる一番の近道かもしれませんよ!