「アンカリング効果」の実験

『ファスト&スロー』(Thinking, Fast and Slow)では、ダニエル・カーネマンが「アンカリング効果」について、電話番号とアフリカの国の数に関連する実験を紹介しています。この実験は、無関係な数値が人間の判断に影響を与える「アンカリング効果」の典型的な例です。

実験の概要

参加者はまず、自分の社会保障番号の下4桁を思い浮かべるように求められました。その後、カーネマンは次のような質問を投げかけました:
「アフリカにある国の数は何か?」
ここで、参加者が無意識に自分の社会保障番号(電話番号のように無関係な数値)を参考にして、アフリカの国の数を推測する傾向があるかを調べました。

結果

この実験では、電話番号(または社会保障番号)の下4桁が高い人は、アフリカの国の数を多く見積もり、下4桁が低い人は少なく見積もる傾向がありました。つまり、無関係な数値が判断のアンカー(基準)となってしまい、推測に影響を与えたのです。

はい、この「アンカリング効果」の実験は追試によって確かめられています。ダニエル・カーネマンと彼の同僚であるアモス・トヴェルスキーが1970年代に行ったオリジナルの研究以来、アンカリング効果は心理学や行動経済学の分野で広く研究され、多くの追試が行われてきました。

追試の例

  • TverskyとKahnemanの再現実験(1974年)
    オリジナルの研究では、被験者にルーレットの数字(無作為に生成された数字)を見せ、その後「アフリカの国の数はその数字より多いか少ないか?」と尋ねました。結果として、無作為な数字(アンカー)によって、被験者が答える国の数に大きな差が出ました。例えば、低い数字を見た被験者は少ない国数を答え、高い数字を見た被験者は多い国数を答えました。
  • EpleyとGilovichの研究(2001年)
    エプリーとギロヴィッチは、さらに精緻な実験を行い、アンカリング効果が無意識のプロセスであり、初期のアンカーが判断にどのように影響するかを調べました。彼らの研究でも、無関係な数字(例えば、無作為に提示された電話番号や誕生日)が、その後の推測に大きな影響を与えることが確認されました。
  • MussweilerとStrackの研究(1999年)
    ムスヴァイラーとストラックもアンカリング効果に関する多くの研究を行い、特に「適合性検討」と呼ばれるメカニズムに焦点を当てました。これは、アンカーの値が与えられると、それに適合する情報をより容易に想起しようとする心理的傾向です。これが、アンカーが判断に影響を与える一因とされています。

アンカリング効果とは?

アンカリング効果は、最初に提示された数字がその後の判断に強い影響を与える現象です。人は、無意識にその「アンカー」を基準にして答えを調整してしまうため、この実験のように正確な知識がなくても、最初に与えられた数に引っ張られてしまうのです。

この実験を通じて、カーネマンは人間の判断がどれほど非合理的であるか、また、無意識のバイアスがいかに強力に働くかを示しています。