ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が当初「映画」テーマパークにこだわりすぎたこととマーケティングマイオピア

森岡 毅さんの書かれた『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? 』を読んで、これはまさにマーケティングマイオピア(Marketing Myopia、マーケティング近視眼)のケースだと感じたので、解説したいと思います。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が当初「映画」のテーマパークにこだわったことと、マーケティングマイオピアについての関係は、ビジネスの成功においてどのように市場や顧客のニーズに柔軟に対応するかという視点で理解できます。これらをそれぞれ詳しく見ていきましょう。


ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「映画」へのこだわり

USJは、もともとユニバーサル・ピクチャーズが持つ映画の世界観を体験できるテーマパークとして2001年にオープンしました。ハリウッド映画の人気キャラクターや有名なシーンを再現したアトラクションが売りで、開園当初は「映画」というテーマに非常に強いこだわりを持っていました。

初期のUSJの戦略

初期のUSJの戦略は、ユニバーサル・ピクチャーズが誇る映画コンテンツを中心に据え、映画好きやアクション映画のファンをターゲットにしていました。しかし、映画に強く依存したコンテンツでは、限られたターゲット層にしかアプローチできなかったり、映画人気の波に左右されたりするリスクがありました。

例えば、USJのアトラクションは開園初期には映画に基づいたものが中心であったため、次第に来場者の関心を引き続けるのが難しくなっていきました。この現象が、後にマーケティングマイオピアに関わってくる部分です。


マーケティングマイオピアとは?

マーケティングマイオピアとは、企業が自分たちの製品やサービスそのものにこだわりすぎて、顧客が本当に求めているものを見失うというマーケティング上の誤りを指します。この考え方は、1960年に経営学者のセオドア・レビットが発表した論文で広まりました。

マーケティングマイオピアの典型例

マーケティングマイオピアに陥ると、企業は自社の製品(この場合、USJにとっては「映画アトラクション」)に過剰な集中をし、変化する市場のニーズや顧客の要望に柔軟に対応できなくなります。

たとえば、鉄道会社が「私たちは鉄道を提供している」と考えるのではなく、「私たちは移動手段を提供している」と広く捉えるべきだという話がよく出されます。鉄道という手段に固執すると、車や飛行機など他の移動手段に対応できず、競争に負けてしまうからです。

USJも「映画」というテーマにこだわりすぎたことで、変化する顧客の期待に応えきれない時期があったと考えられます。来場者の関心は映画に限られず、エンターテインメント全般、特に新しい体験やキャラクターに向かう傾向が強くなっていたのです。


USJの変革とマーケティングマイオピアの克服

USJは一時期、映画アトラクションのみに頼る運営方針が伸び悩み、来場者数が低迷する時期を経験しました。しかし、その後、マーケティング戦略を見直し、映画だけにこだわらず、より広いエンターテインメントや体験型コンテンツにシフトしていきました。これは、マーケティングマイオピアを克服する成功例と言えます。

新たなターゲット層の獲得

USJは、映画だけではなく、人気キャラクターエンターテインメント体験に焦点を当てた新しいアトラクションを次々に導入しました。例えば、「ハリー・ポッター」エリアの開設や、「スーパー・ニンテンドー・ワールド」といった新たなコンテンツがその代表です。

これにより、ファミリー層やゲーム好きの若者、特定のキャラクターや世界観を楽しむ人々など、従来の映画ファン以外の幅広い層をターゲットにすることができました。この柔軟な対応がUSJの復活に繋がり、来場者数も大幅に回復しました。

マーケティング視点のシフト

USJは単に「映画テーマパーク」としてではなく、「総合エンターテインメントの体験を提供する場所」として位置づけを広げました。この結果、映画に限らず、ゲームやアニメ、さらには音楽や季節イベントを通じて、幅広いニーズに対応できるようになりました。つまり、製品(映画アトラクション)ではなく、顧客が求める価値(エンターテインメント体験)に焦点を移したのです。


まとめと今後の学習の指針

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが映画にこだわったことと、その後の戦略転換は、マーケティングマイオピアの典型的な例として考えることができます。映画に依存しすぎてしまった時期には、変化する顧客ニーズに対応できず苦戦しましたが、マーケティング戦略を見直し、幅広いエンターテインメントを提供する方向にシフトすることで成功を収めました。

この事例は、企業が自社の製品やサービスに固執せず、顧客が本当に何を求めているかを常に見極めることの重要性を教えてくれます。今後も市場のニーズやトレンドを敏感にキャッチし、柔軟に対応していくことが、USJのような企業が持続的に成功するための鍵となるでしょう。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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