御用聞き営業はなぜ価格競争に巻き込まれるのか ── IT営業が「仮説提案型」に変わるための第一歩

こんにちは。ゆうせいです。

この連載では、IT営業の方に向けて、ソリューション営業とネゴシエーション(交渉)の基本を全10回でお伝えします。第1回のテーマは、営業スタイルそのものです。「お客様の要望を丁寧に聞いて、正確に見積もりを出しているのに、最後は価格で決まってしまう」という悩みを持つ方に読んでいただきたい内容です。

読者の疑問:要望どおりに提案しているのに、なぜ受注できないのか

IT営業の現場では、次のような場面がよくあります。

  • お客様から「システムの更新を検討している」と声がかかる
  • 要件を聞き取り、持ち帰って見積もりを作る
  • 提出すると「他社も検討しているので、もう少し安くならないか」と言われる
  • 値引きをしても、最終的に他社に決まる

要望は正確に聞き取り、見積もりにも間違いはありません。それでも受注できない理由は、営業の腕が悪いからではなく、営業のスタイルが「御用聞き型」になっているからです。

結論:御用聞き型は、比較される土俵に自分から乗っている

先に結論をお伝えします。

お客様の要望をそのまま持ち帰る営業は、お客様が決めた要件の範囲で、他社と同じ条件で比べられます。同じ条件で比べられれば、違いは価格しか残りません。つまり、価格競争は営業スタイルの結果として起きています。

この状態から抜け出す方法が、仮説提案型営業です。お客様の課題について「こうではないか」という仮説を持って訪問し、お客様と一緒に課題を整理したうえで提案します。課題の整理から関わるので、比較の土俵そのものを営業が作ることができます。

背景:なぜ御用聞き型になってしまうのか

御用聞き型の営業が悪いわけではありません。既存のお客様と長く付き合い、要望に素早く応えることで信頼を得てきた営業は多くいます。しかし、次の3つの環境変化によって、御用聞き型だけでは成果が出にくくなっています。

  1. お客様が事前にインターネットで情報を集め、要件をある程度固めてから営業を呼ぶようになった
  2. クラウドサービスの普及で、同じ要件を満たす選択肢が増えた
  3. 新規開拓では、そもそも「要望」を聞かせてもらえる関係がない

特に3つ目は重要です。新規のお客様は、まだ困りごとを話してくれません。要望を聞きに行く営業は、話を聞かせてもらえる関係ができるまで何もできないことになります。

用語の説明:御用聞き型営業と仮説提案型営業

ここで2つの言葉を整理します。

御用聞き型営業

お客様に「何かご要望はありますか」と尋ね、出てきた要件を持ち帰って見積もる営業です。江戸時代の商人が得意先を回って注文を聞いていた姿に由来する言葉で、要望に応える速さと正確さが価値になります。

仮説提案型営業

お客様の業界動向や会社の状況を調べ、「御社の課題はこの点ではないでしょうか」という仮説を持って訪問する営業です。仮説が当たっているかどうかをお客様との対話で確かめ、精度を上げてから提案します。

2つの違いを表にまとめます。

観点御用聞き型仮説提案型
最初の問いかけ「何かご要望はありますか」「御社の課題は〇〇ではありませんか」
課題を決める人お客様お客様と営業が一緒に
会話の中心要件と価格価値と効果
競合との関係同じ条件で比較される比較の軸を営業が作る
得意な場面既存顧客の深耕新規開拓と横展開

具体例:同じお客様への2つのアプローチ

ある中堅企業の情報システム部門から、「基幹システムの保守期限が近いので更新を検討したい」と連絡があったとします。

御用聞き型の営業は、次のように進めます。

営業「現在のシステムで困っている点はありますか」
お客様「特に大きな問題はありません。同じ機能で、今より安くできれば助かります」
営業「承知しました。現行と同等の機能で見積もりを作成します」

この会話の後、営業は見積もりを作り、お客様は他社の見積もりと並べて比べます。違いは価格だけです。

仮説提案型の営業は、訪問前に調べたことをもとに、次のように進めます。

営業「御社の採用情報を拝見したところ、現場の担当者を増やしていらっしゃいますね。システムの利用者が増えると、承認の手続きに時間がかかるという声が出やすいのですが、御社ではいかがでしょうか」
お客様「実は、申請から承認まで数日かかるという不満が現場から出ています」
営業「それでは、今回の更新では、承認の流れを見直すことも一緒に検討しませんか」

この会話では、お客様自身が「承認に時間がかかる」という課題を言葉にしています。営業が課題の整理に関わったので、提案の評価軸は「安いかどうか」から「承認の問題が解決するかどうか」に変わります。

ここで注意したいのは、仮説は当たっていなくてもよいという点です。仮説が外れていれば、お客様は「そこではなく、こちらが困っている」と教えてくれます。外れた仮説も、お客様の本当の課題を引き出すきっかけになります。

練習問題1

次の営業の発言のうち、仮説提案型に当てはまるものはどれでしょうか。

  1. 「来期のご予算で、何か計画されているものはありますか」
  2. 「御社と同じ業界では、法改正への対応で帳票の修正が増えています。御社でも同じ状況ではないでしょうか」
  3. 「現行システムと同じ機能で、お見積もりをお持ちしました」
  4. 「ご要望があれば、いつでもお声がけください」

解答と解説

正解は2です。

2は、業界の動向から「帳票の修正が増えているのではないか」という仮説を立て、お客様に確かめています。仮説が当たっていればそのまま課題の整理に進めますし、外れていれば「うちは帳票よりも〇〇が問題です」という情報が得られます。

1は予算を尋ねているだけで、課題についての仮説がありません。3は要件をそのまま形にした御用聞き型の典型です。4は相手が動くのを待つ姿勢であり、新規のお客様からは連絡が来ません。

営業とは何をする仕事か

営業スタイルを変える前に、営業という仕事の定義を確認しておきます。

営業とは、お客様の未解決の課題を発見し、価値で応える事業活動です。この定義は、次の3つの要素に分けられます。

事業を営む

商品を売るのではなく、お客様と一緒に事業を作るという視点を持ちます。1回の取引で終わるのではなく、長い付き合いを出発点に置きます。

課題を発見する

お客様がまだ言葉にできていない課題まで踏み込みます。そのための道具が仮説です。仮説を持って訪問し、対話で検証する姿勢が起点になります。

価値で応える

商品ではなく、課題が解決した後の状態を売ります。「導入すると業務がどう変わるか」をお客様と共有することがゴールです。

私自身は、営業を「お客様の中に仲間を広げ、そのお困りごとを解決し、社内の仲間を食わせる仕事」と考えています。お客様の社内に味方が増えるほど、課題の情報が集まり、仮説の精度が上がります。

実務での使い方:明日からできる3つのこと

仮説提案型への転換は、一度に全部を変える必要はありません。次の3つから始めてください。

  1. 担当しているお客様を1社選び、そのお客様の業界ニュースと採用情報を30分調べる
  2. 調べた内容から「課題は〇〇ではないか」という仮説を3つ書き出す
  3. 次の訪問で、仮説のうち1つを「〇〇ではありませんか」という形で尋ねてみる

3つ目の問いかけは、お客様に負担をかけません。当たっていれば話が進み、外れていればお客様が正しい課題を教えてくれます。どちらに転んでも、御用聞き型の「何かありますか」より多くの情報が得られます。

練習問題2

担当しているお客様(または想定するお客様)を1社思い浮かべてください。次の3つを書き出してみましょう。

  1. そのお客様の業界で、ここ1年に起きた変化を1つ
  2. その変化によって、お客様の社内で増えていそうな仕事を1つ
  3. 増えた仕事について、お客様に確かめる問いかけを1文

解答例

  1. 業界の変化:電子帳簿保存法の改正で、取引先からの請求書が電子データで届くようになった
  2. 増えていそうな仕事:電子データの請求書を印刷して保管する作業や、紙と電子の両方を管理する手間
  3. 問いかけ:「電子で届く請求書が増えて、保管や照合の手間が増えているとお聞きすることがあるのですが、御社ではいかがでしょうか」

このように、業界の変化から仕事の変化を推測し、お客様に確かめる1文を作るのが仮説構築の基本です。

注意点:仮説提案型でやりがちな失敗

仮説提案型に切り替えるときに、次の失敗がよく起きます。

  • 仮説を「正解」だと思い込み、お客様の反論を聞かない
  • 調べたことをすべて話してしまい、営業が話す時間が長くなる
  • 仮説を伝えた直後に商品の説明を始めてしまう

仮説は、お客様に話してもらうための呼び水です。営業が話す割合は3割以下、お客様が7割を目安にしてください。ヒアリングの具体的な方法は第4回で扱います。

まとめ

  • 御用聞き型営業は、お客様が決めた要件の範囲で比べられるため、価格競争に入りやすい
  • 仮説提案型営業は、課題の整理から関わることで、比較の軸を営業が作ることができる
  • 営業とは、お客様の未解決の課題を発見し、価値で応える仕事である
  • 仮説は当たらなくてもよく、外れた仮説もお客様の本当の課題を引き出すきっかけになる
  • 明日からは、担当顧客1社の業界を30分調べ、仮説を3つ書き、1つを問いかけることから始める

仮説を作るには、お客様を知ることと同じくらい、自社の強みを知ることが必要です。次回は、自社の強みと弱みを整理し、どのお客様に何を訴求するかを決めるSWOT分析とTOWS分析の使い方を解説します。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。

学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。