研修内容の理解を深める伝え方:認知言語学「概念メタファー」の仕組みと応用
こんにちは。ゆうせいです。
新しい概念や複雑な業務手順を教える際、どのような言葉を選択するかによって受講者の理解度や取り組み方は変化します。人間は、使用する言葉の枠組みに沿って物事を認識し、行動を決定する性質を持っています。本日は、認知言語学および心理学の概念である概念メタファーについて解説します。
概念メタファーとは何か
概念メタファーとは、時間、感情、組織といった目に見えない抽象的な対象を、空間、物質、動きといった目に見える具体的な対象に置き換えて理解する認知の仕組みを指します。単なる文章表現としての比喩にとどまらず、人間の思考プロセスや行動様式そのものを方向付ける役割を果たします。
高校生の学習に対する姿勢を例に説明します。勉強を「建物を建築すること」という枠組みで捉えている生徒は、基礎を固める、知識を積み上げる、構造を組み立てる、といった言葉を使用し、順序や土台の確実性を重視して学習を進めます。一方、勉強を「旅をすること」という枠組みで捉えている生徒は、目的地に向かう、道に迷う、寄り道をする、といった言葉を使用し、学習の過程で得られる経験や変化を重視します。無意識のうちに前提としている比喩の枠組みが、対象への接し方や評価基準を決定づけている状態が、概念メタファーに該当します。
概念メタファーがもたらす影響
使用する言葉の枠組みが与える影響を考慮せずに研修を進行した場合に生じる不利益を列挙します。
- 研修を「知識を詰め込む容器」として表現する言葉を多用した結果、受講者が受け身の姿勢に終始し、主体的な発言が減少する
- 営業や交渉の業務を「戦場」や「戦争」に例えることで、受講者間に過度な競争意識やストレスを生み出してしまう
- 講師と受講者の間で物事を捉える前提の比喩が異なっているため、同じ用語を使用していても認識のズレが解消されない
一方で、人間の思考が言葉の枠組みに影響を受ける仕組みを理解し、研修の設計に意図的に組み込む利点を示します。
- 複雑な業務システムを、受講者が日常的に触れている身近な事象に置き換えることで、概念の理解に要する時間を短縮できる
- 研修プログラム全体を「ともに山を登る過程」といった協調的な枠組みで設定することで、受講者同士の相互支援を引き出せる
- 抽象的な企業理念や行動指針を、具体的な動作を伴う言葉で表現し直すことで、現場での実践を促すことができる
認識の枠組みを調整し理解を促すステップ
概念メタファーの働きを活用し、受講者の学習姿勢を適切な方向へ導くためには、以下の手順で使用する言葉を見直す手法が有効です。
- 現在使用している言葉の前提を点検する研修の案内文や資料で使用している言葉を書き出し、学習や業務をどのような対象(戦い、建築、植物の成長など)に例えているかを確認します。
- 目的に適合する枠組みを選定する受講者に求めている行動(競争、協調、定着、創造など)を定義し、その行動を引き出しやすい概念メタファーを新たに設定します。
- 一貫した用語で研修プログラムを構成する設定した概念メタファーに基づき、研修内で使用するスライドの記述や口頭での説明に、一貫性を持たせた表現を組み込みます。
- 受講者の発言から認識のズレを読み取る質疑応答やグループワークの際、受講者がどのような比喩を用いて思考しているかを観察し、講師側の意図する枠組みとの間に乖離があれば、言葉を置き換えて説明を補足します。
人間は、提供された比喩の枠組みに従って情報を処理する傾向を持っています。まずは、次回の研修資料の表紙や導入部分を見直し、受講者にどのような姿勢で臨んでほしいかを示す表現を一つ設定する手順から始めてください。言葉の持つ方向付けの機能を利用することで、学習効果を高める環境の構築が可能になります。
セイ・コンサルティング・グループでは新人エンジニア研修のアシスタント講師を募集しています。
投稿者プロフィール

- 代表取締役
-
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。
学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。

