KerasとPyTorchは「良きライバル」
こんにちは。ゆうせいです。
前回の記事で、KerasがTensorFlowという巨大なエンジンの「親切な運転席」である、というお話をしました。では、機械学習の世界でKeras/TensorFlowと並んでよく名前を聞く「PyTorch」は、どのような立ち位置なのでしょうか?
一言で言うと、KerasとPyTorchの関係は「良きライバル」です! ⚔️
彼らは協力関係ではなく、同じ目的(=ディープラーニングのモデルを簡単に作ること)のために、それぞれ異なる思想で開発された、競合する二大フレームワークなのです。
今日は、この二つの巨人がどう違うのか、そしてあなたはどちらを選べば良いのか、徹底的に比較していきましょう!
Keras (tf.keras
) - TensorFlow軍を率いる司令官
まず、Kerasの立ち位置を再確認しましょう。
現在のKerasは、Googleが主導するTensorFlowという巨大なエコシステムの中で、「公式の使いやすい司令塔(高レベルAPI)」という役割を担っています。
例えるなら、巨大PCメーカーDell(=TensorFlow)が展開する、高性能ゲーミングPCブランドAlienware(=Keras)のようなものです。パワフルなDellの技術を背景に、誰でも簡単に最高のゲーミング体験ができるように、美しく設計されています。製品への組み込みや、エコシステム全体との連携に強みを持っています。
PyTorch - 自由を愛する独立勢力
一方のPyTorch(パイトーチ)は、Meta(旧Facebook)が主導して開発した、Kerasとは独立したフレームワークです。
PyTorchは、例えるなら「秋葉原で最高のパーツを買い集めて、自分で最強のPCを組む」ような体験を提供してくれます。一つ一つのパーツの性能を最大限に引き出し、内部の配線まで自分の好きなようにこだわれます。
その特徴は、なんと言っても柔軟性の高さと、Pythonとの親和性です。まるで普通のPythonライブラリを扱うかのように、直感的でデバッグのしやすいコードが書けるため、特に学術研究の分野で絶大な人気を誇っています。多くの最新論文は、まずPyTorchで実装されるのが現在のトレンドです。
直接対決! Keras vs PyTorch ⚔️
では、具体的にこの二つのライバルを様々な角度から比較してみましょう。
- 書きやすさ (Ease of Use)
- Keras: シンプルさの極み。モデルの構築は、
model.add()
で層を積み重ねていくだけ。まさに「プラグアンドプレイ」で、とにかく早く動くものを作りたい場合に最適です。 - PyTorch: 非常にPythonらしい。クラスを継承してモデルを定義するため、オブジェクト指向に慣れている人には極めて自然に感じられます。自由度が高い分、少しだけ記述量は増えます。
- Keras: シンプルさの極み。モデルの構築は、
- デバッグのしやすさ (Debugging)
- PyTorch: こちらの圧勝と言われることが多いです。PyTorchの計算は「Define-by-Run」という方式で、Pythonのコードが実行されるのと同じように、一行ずつ処理が進みます。そのため、
print()
文を挟んだり、標準のデバッガーを使ったりするのが非常に簡単です。 - Keras: TensorFlowの「Define-and-Run」という方式に基づいています。これは、先に計算グラフという設計図をすべて構築してから、データを流し込む方式です。効率的ですが、途中で何が起きているか把握するのが少し難しい場合があります。
- PyTorch: こちらの圧勝と言われることが多いです。PyTorchの計算は「Define-by-Run」という方式で、Pythonのコードが実行されるのと同じように、一行ずつ処理が進みます。そのため、
- エコシステムと製品化 (Ecosystem & Production)
- Keras/TensorFlow: 産業界での実績が豊富。学習したモデルをサーバーで動かすための TensorFlow Serving や、スマートフォンなどのエッジデバイスで動かすための TensorFlow Lite など、製品化(デプロイ)のためのツール群が非常に充実しています。
- PyTorch: こちらも TorchServe などのツールで追い上げていますが、歴史的な経緯から、研究から製品化まで一気通貫でサポートするエコシステムは、まだTensorFlowに分があると言われています。
で、結局どっちを選べばいいの? 🤔
あなたの目的によって、最適な選択は変わります。
こんな人には Keras (tf.keras
) がおすすめ!
- Webサービスやスマホアプリなど、作ったモデルを製品に組み込むことが最終目標の人 📱
- とにかく最速でプロトタイプを作りたい、ビジネスサイド寄りの人 🚀
- Googleの提供する強力なエコシステム全体に魅力を感じる人
こんな人には PyTorch がおすすめ!
- 機械学習の研究者を目指している、あるいは最新の論文を読んで実装してみたい人 🎓
- より柔軟で、Pythonらしいコーディングがしたいプログラマー 👨💻
- モデルの内部で何が起きているか、細部まで完全にコントロールしたい人
結論として、初心者が最初に学ぶなら、どちらを選んでも間違いではありません。 ただ、近年の研究分野での勢いや、コミュニティの盛り上がりを見ると、PyTorch に少し風が吹いているかもしれません。
まとめ: ライバルがいるから、もっと強くなる
KerasとPyTorchは、お互いに切磋琢磨するライバルです。この健全な競争があるからこそ、機械学習の世界は日進月歩で進化しているのです。
どちらか一方を選んだからといって、もう一方を学べなくなるわけではありません。機械学習の根幹となるアイデアは共通しています。大切なのは、まずどちらか一つをしっかり学び、何か面白いものを作ってみることです。
さあ、あなたはどちらの武器を手に取りますか? 冒険の始まりです!