「ノルム」と「絶対値」は別モノ?AI/数学で使う「大きさ」の測り方を徹底解説

こんにちは。ゆうせいです。

AIや機械学習の勉強を始めると、 |x| という記号と、| \vec{v} | という、なんだかよく似た記号に出会いますよね。

|x| は「絶対値(ぜったいち)」、 | \vec{v} | は「ノルム」と呼ばれます。

「どっちも『大きさ』みたいなものじゃないの?」「なぜ使い分けるの?」

そんな疑問を持つ新人エンジニアのあなたのために、今日はこの2つの本質的な違いと、とても重要な関係性を解説していきます!


おさらい:「絶対値」は「1次元」の世界

まずは、私たちがお馴染みの「絶対値」からおさらいしましょう。

絶対値とは、ズバリ**「数直線の上で、0(原点)からどれだけ離れているか」**という「距離」のことです。

例えば、 |-5| は「-5」という点が「0」からどれだけ離れているか? を表し、その答えは 5 です。

もちろん、 |+5| 5 ですよね。

ここで一番大事なポイントは、絶対値が扱うのは「数直線上」、つまり**「1次元」の世界**だということです。

東に5kmも、西に5kmも、0地点からの距離は同じ5km。これが絶対値の考え方です。


「ノルム」は「多次元」の世界の「大きさ」

では、本日の主役「ノルム」とは何でしょうか?

ノルムとは、一言でいうと**「ベクトルの大きさ(長さ)」**を測るための道具です。

「ベクトル」と聞いた瞬間に難しく感じるかもしれませんが、要は「多次元の点」のことだと思ってください。

  • 1次元 (数直線) $\rightarrow$ x
  • 2次元 (平面) $\rightarrow$ \vec{v} = [x, y]
  • 3次元 (空間) $\rightarrow$ \vec{v} = [x, y, z]
  • ...
  • n次元 $\rightarrow$ \vec{v} = [v_1, v_2, \dots, v_n]

絶対値は1次元の [x] という「点」と [0] の距離しか測れませんでした。

でも、私たちがAIで扱うデータは、2次元や3次元どころか、時には数万次元にもなります!

例えば、 \vec{v} = [3, 4] という2次元のベクトル(点)を考えてみましょう。

これは、原点 [0, 0] から「右に3、上に4」進んだ地点のことです。

このベクトルの「大きさ」つまり「原点からの長さ」はどう計算しますか?

...そう、中学校で習った「三平方の定理」ですね!

\sqrt{3^2 + 4^2} = \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5

この「多次元の世界で、原点からの距離(長さ)を計算するルール」、それこそが「ノルム」の正体です。

この計算方法(三平方の定理の拡張)は、最も一般的なノルムで、「L2ノルム(ユークリッドノルム)」と呼ばれます。

記号 | \vec{v} | を使って、こう書きます。

| \vec{v} | = \sqrt{v_1^2 + v_2^2 + \dots + v_n^2}


結論:「絶対値」は「ノルム」の特別な姿

さて、ここで2つの関係が見えてきました。

もし、私たちが扱う世界が「1次元」だったら、「ノルム」の式はどうなるでしょうか?

1次元のベクトル \vec{v} = [-5] のL2ノルムを計算してみましょう。

先ほどのL2ノルムの式に、 v_1 = -5 を代入します。( v_2 以降はありません)

| \vec{v} | = \sqrt{(-5)^2} = \sqrt{25} = 5

あれ...?

一方で、「-5」の「絶対値」は...?

|-5| = 5

...見事に一致しましたね!

そう、これが結論です。

絶対値とは、1次元ベクトルにおけるL2ノルムのことなのです。

「ノルム」は多次元に対応できる、もっと一般的で強力な「大きさ」の定義です。

「絶対値」は、そのノルムという広い概念の中で、たまたま一番シンプルな「1次元」の場合だけを切り取った、特別な姿(特殊ケース)だった、というわけです!

  • ノルム: 多次元(1D, 2D, 3D...)で使える「大きさ」の定義
  • 絶対値: ノルムの「1次元バージョン」

例えるなら、「ノルム」が「乗り物」という広い概念だとすれば、「絶対値」は「一輪車」のようなもの。「一輪車」は「乗り物」の一種ですが、「乗り物」は「一輪車」だけではない、という関係に似ていますね。


なぜエンジニアは「ノルム」を気にするの?

新人エンジニアのあなたが、なぜ絶対値だけでなく「ノルム」を学ぶ必要があるのか。

それは、AIや機械学習が「多次元のデータ」を扱うからです。

例えば、自然言語処理(NLP)では、「王様」という単語を [0.8, 0.1, 0.9, \dots] のように、数百次元のベクトルで表現します。

このとき、「王様」と「女王」という2つの単語ベクトルが、どれくらい「意味が近いか」を計算したくなります。

この「ベクトルの世界の距離」を測るために、ノルムが必須の道具になるのです。

| \vec{王様} - \vec{女王} | のように計算します)

また、機械学習モデルが「過学習(かしがくしゅう)」するのを防ぐ「正則化」というテクニックでも、L2ノルムやL1ノルム(L1は \sum |v_i| という計算)が使われます。

「ベクトルの『大きさ』そのもの」をペナルティとして扱うことで、モデルが複雑になりすぎるのを防いでいるのです。


まとめと今後の学習指針

いかがでしたでしょうか?

絶対値とノルムの違い、スッキリ整理できましたか?

  • 絶対値 |x| : 1次元の「数直線上」での、0からの距離。
  • ノルム | \vec{v} | : 多次元の「ベクトル空間」での、原点からの大きさ(長さ)。
  • 関係: 絶対値は、ノルムの1次元における特殊なケース。

あなたがこれからAIやデータサイエンスの世界で戦っていくなら、「距離」や「大きさ」を測る尺度は、絶対値だけでは全く足りません。

ぜひ「ノルム」という、多次元空間を自在に測るための強力なメジャー(巻き尺)を手に入れてください。

今後の学習としては、今日少しだけ触れた「L1ノルム」と「L2ノルム」の違いについて深掘りしてみることを強くオススメします。

なぜこの2つが使い分けられるのか? それぞれどんな特性があるのか?

これが分かると、機械学習の「正則化」という重要なテクニック(Lasso回帰やRidge回帰)の理解が一気に深まりますよ!

一緒に頑張っていきましょう!

セイ・コンサルティング・グループの新人エンジニア研修のメニューへのリンク

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。