WACCって何?エンジニアが知っておくべき「会社の体温計」を徹底解説

こんにちは。ゆうせいです。

「WACC(ワック)」。

何かの呪文?それとも新しいプログラミング言語の名前でしょうか?

新人エンジニアの皆さんにとって、普段の業務ではあまり耳にしない言葉かもしれませんね。

「お金のことは、経理や経営企画の人たちの仕事でしょ?」

そう思う気持ちも、とてもよく分かります。

ですが、実はこのWACC、エンジニアの皆さんが生み出す「価値」と、とっても深く関わっているんです。

今回は、この「WACC」とは一体何なのか、なぜエンジニアが知っておくと良いのか、例え話を交えながら、できるだけ分かりやすく解説していきますね。

WACCって、結局なんなの?

WACCとは、「Weighted Average Cost of Capital」という英語の略です。

日本語に訳すと「加重平均資本コスト」となります。

…いきなり難しい漢字が並んで、もう閉じそうになりましたか?

待ってください!大丈夫、分解していきましょう。

会社を「家」に例えてみよう

会社を「大きな家を建てるプロジェクト」だと想像してみてください。

家を建てるには、当然ながら「お金(資本)」が必要ですよね。

そのお金を集める方法(資金調達)には、大きく分けて二つの方法があります。

1. 銀行からの借り入れ(他人資本)

一つ目は、銀行などからお金を借りてくる方法です。

これは「借金」ですね。

銀行は、ただでお金を貸してはくれません。

「毎年、利息を○%払ってくださいね」という約束(コスト)が発生します。

これが「負債コスト」と呼ばれるものです。

2. 株主からの出資(自己資本)

二つ目は、株主になってもらう人たちから「出資」してもらう方法です。

これは「仲間(株主)からのお金」です。

株主は、「この会社(プロジェクト)、将来すごい家を建てそう!応援したい!」と期待して、自分のお金を出してくれます。

銀行への利息のように「毎年必ず○%払え!」とは言われませんが、株主もタダでお金を出してくれたわけではありません。

「利益が出たら配当金として還元してほしいな」とか、「会社の価値(株価)を上げて、僕の資産も増やしてほしいな」と期待しています。

この「株主の期待に応える」ために必要なリターンが「株主資本コスト」です。

WACCの正体 = 資金調達の「総合利率」

会社は、この「銀行からの借金(他人資本)」と「株主からのお金(自己資本)」の両方を、うまい具合に混ぜ合わせて(加重平均して)使っています。

WACCとは、この二種類の「コスト」—銀行に払う利息と、株主の期待に応えるコスト—を、集めたお金の割合で平均したものです。

つまり、WACCとは、

「会社がすべてのお金を集めるために、平均して年間何%のコストがかかっているか?」

を示す、「会社の資金調達の総合利率」みたいなものだとイメージしてください。

これが「会社の体温計」と呼ばれる理由です。

WACCが高すぎる会社は、お金を集めるのに苦労している(高熱が出ている)状態かもしれない、というわけです。

なぜエンジニアがWACCを知る必要があるの?

さて、本題です。なぜエンジニアの皆さんが、このWACCを知っておくと良いのでしょうか?

それは、皆さんが開発する製品やサービスが生み出すべき「利益の最低ライン」を、WACCが示しているからです。

WACCは「投資のハードル」

例えば、あなたの会社全体のWACCが「5%」だったとしましょう。

これは、会社が「平均5%のコスト」を払ってお金を集めている、という意味でしたね。

そんな中、あなたが「この新機能の開発には1億円かかります! でも、これで生み出せる利益は、年間300万円(利益率3%)の見込みです!」という企画を提案したとしたら、どうなるでしょう?

経営陣はこう考えるはずです。

「ちょっと待ってくれ。5%のコストをかけて集めた1億円で、3%しか稼げないの? それでは、お金を集めてきたコストすら払えないじゃないか!」

…残念ながら、この企画は通らない可能性が非常に高いです。

会社は、集めてきたお金(資本)を使って、新しいプロジェクト(製品開発など)に投資します。

そのプロジェクトが生み出す利益率は、少なくともお金を集めてきたコスト(WACC)を上回っている必要があります。

WACCは、会社が新しい投資(皆さんの開発プロジェクトも含む)を行うかどうかを判断するための「ハードル」や「最低ライン」として機能しているのです。

自分の技術やアイデアが、この「WACC」というハードルをどれだけ超える価値を生み出せるのか?

この視点を持つだけで、あなたの提案の説得力は格段に変わってくるはずです。

WACCの計算式(おまけ)

「計算式まではいいよ…」という方は読み飛ばしていただいても構いませんが、WACCを理解する上で一つだけ面白いポイントがあるので、紹介させてください。

WACCの計算式は、一般的に以下のように表されます。

(数式が苦手な方も、雰囲気だけ感じ取ってください!)

\text{WACC} = \frac{E}{E+D} \times R_e + \frac{D}{E+D} \times R_d \times (1-T)

登場人物の紹介

  • E : 株主資本(自己資本)の時価
  • D : 負債(他人資本)の時価
  • R_e : 株主資本コスト(株主の期待)
  • R_d : 負債コスト(銀行への利息)
  • T : 実効税率(法人税率など)

なぜか「(1-T)」がくっついている?

この式で、エンジニアの皆さんに注目してほしいのは、右側の「負債コスト」の項にだけ (1-T) というオマケがついている点です。

これは「節税効果」と呼ばれるものです。

実は、銀行に支払う利息(R_d )は、税金を計算するときに「経費」として認められます。

経費が多いほど、税金の対象となる利益は減るので、結果として払う税金が安くなるのです。

一方で、株主への配当(R_e に関連)は、税金を払った「後」の利益から支払われるため、このような節税効果はありません。

つまり、会社にとっては「借金」にも、税金が安くなるという(ちょっとした)メリットがあるのです。

WACCの計算では、そのメリットもしっかり考慮されている、というわけですね。

WACCの注意点(デメリット)

もちろんWACCは万能ではありません。

例えば、株主の「期待」(R_e )なんて、どうやって正確に測るんだ?という問題がありますし、WACCはあくまで「会社全体」の平均値です。

ものすごくリスクの高い新規事業(例えば、AIで恐竜を復活させるプロジェクトとか)に、会社平均のWACCをそのまま当てはめるのは、現実的ではありませんよね。

WACCとどう付き合っていくか

さて、WACCについて、少しは身近に感じてもらえたでしょうか?

新人エンジニアの皆さんに、今すぐWACCを暗記して計算しろ、と言いたいわけではありません。

まずは、この二つの感覚を持つことから始めてみてください。

  1. 会社は、タダでお金を集めているわけではない。
  2. 自分が関わる開発は、その「お金集めのコスト(WACC)」を上回る価値を生み出すことが期待されている。

この感覚があるだけで、上司や他部署の「なぜ、この機能が必要なの?」「それはどれくらい儲かるの?」という質問に対する、あなたの答えが変わってくるはずです。

もし、さらに興味が湧いたら、

  • NPV(正味現在価値)
  • IRR(内部収益率)
  • コーポレート・ファイナンス

といったキーワードで調べてみることをお勧めします。

技術力だけでなく、こうしたビジネスの「共通言語」を身につけたエンジニアは、これからの時代、間違いなく最強です。

あなたの素晴らしい技術が、WACCというハードルを軽々と超え、大きな価値を生み出すことを心から応援しています!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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