【脱・思い込み】エンジニアの「判断力」を劇的に高める数式の正体

こんにちは。ゆうせいです。

エンジニアの仕事をしていると、まるで名探偵のように推理をしなければならない場面によく遭遇します。

「サーバーが重い。アクセス過多か?それともプログラムのバグか?」

「画面が真っ白になった。ネットワークの問題か?コードのミスか?」

こんなとき、直感だけで「犯人はこれだ!」と決めつけてしまうのは危険です。間違った修正をして、さらに状況を悪化させてしまうかもしれませんからね。

今日は、そんなときに冷静かつ論理的に状況を整理し、正しい判断を下すための「判断の数式」をご紹介します。

1. 状況を正しく理解する「判断の数式」

今回扱うのは、データサイエンスやAI(人工知能)の世界でも頻繁に使われる、非常に有名なこの数式です。

P(M|D) = \frac{P(D|M) \times P(M)}{P(D|M) \times P(M) + P(D|M^c) \times P(M^c)}

うわっ、前回よりも記号が増えて複雑そう……と思いましたか?

大丈夫です。これも物語のように読み解けば、当たり前のことを言っているだけだとわかります。

2. 数式を解読しよう

この数式は、一般的に 「ベイズの定理」 と呼ばれています。

一言でいうと、「新しい証拠(データ)を手に入れたとき、自分の予想(仮説)への確信度をどうアップデートすべきか」を計算する式です。

登場人物(記号)を紹介しましょう。

  • M (Model): 仮説 です。例えば「このシステム障害の原因は、データベースの故障である」という予想です。
  • D (Data): 証拠・事実 です。例えば「エラーログに『接続タイムアウト』と出ている」という事実です。
  • P (Probability): 前回同様、 確率 です。

この式が計算しているもの

左側の P(M|D) が求めたい答えです。

これは、「証拠 D (ログ)を見た結果、仮説 M (DB故障)が正しい確率はどれくらいになったか?」を表しています。これを 事後確率 と言います。

右側でやっていること

この計算の肝は、分母と分子の関係です。

  • 分子: 「もし仮説が正しかったとして、その証拠が出る確率」 \times 「そもそもその仮説が正しい確率」
  • 分母: 考えられるすべての可能性(仮説が正しい場合 + 正しくない場合)

つまり、「全体の中で、自分の仮説が正しくて、かつその証拠が出ている割合はどれくらい?」という比率を計算しているだけなのです。

3. エンジニアが知っておくべき専門用語

この数式を使いこなすために、3つの重要な用語を高校生レベルの言葉で覚えましょう。

条件付き確率(Conditional Probability)

P(M|D) のように、縦棒 | が入った書き方のことです。

これは「 D という条件が起きた世界での、 M の確率」という意味です。

普通にサイコロを振る確率とは違い、「偶数が出たとわかっている状態で、それが2である確率は?」のように、前提条件がついた確率のことです。

事前確率(Prior Probability)

P(M) のことです。

証拠を見る前に、「まあ、十中八九こうだろう」と最初に見積もっている確率です。経験豊富なエンジニアは、この「最初の勘」の精度が高いことが多いですが、ここが間違っているとすべてが狂います。

尤度(Likelihood)

「ゆうど」と読みます。 P(D|M) のことです。

「もしその仮説が正解だとしたら、こんな証拠が出てくる可能性はどれくらいあるか?」という「もっともらしさ」を表します。

例えば、「DBが故障している(仮説)」なら、「接続エラーが出る(証拠)」可能性は非常に高いですよね。つまり尤度は高いと言えます。

4. この考え方を使うメリットとデメリット

ベイズ的な思考法を身につけると、仕事の質がどう変わるのでしょうか。

メリット

「新しい情報が入るたびに、考えを柔軟に修正できる」 ことです。

最初は「原因はAだ(確率80%)」と思っていても、調査で「Aなら必ず出るはずのエラーが出ていない」という新しい証拠 D が見つかれば、計算し直して「Aの確率は10%に下がった。むしろBが怪しい」と、スムーズに意見を変えることができます。

「一度言ったからには引けない!」という頑固な態度は、エンジニアにとって百害あって一利なしです。

デメリット

「最初の設定(事前確率)に主観が混じる」 という点です。

P(M) をどう設定するかは、あなたの経験や勘に委ねられています。ここに「自分はミスをしないはずだ」というバイアス(偏見)が入ると、計算結果は自分に都合の良いものになってしまいます。

常に「自分の最初の思い込みは間違っているかもしれない」という謙虚さが必要です。

5. 今後の学習の指針

今日からトラブルシューティングの際には、こう自問自答してみてください。

「自分の仮説( M )が正しいとしたら、今見えている現象( D )は本当に起こり得るだろうか?」

逆に、「仮説が間違っているとしたら( M^c )、この現象をどう説明できるだろうか?」

こうやって複数の可能性を天秤にかける癖がつくと、トラブル解決のスピードは格段に上がります。

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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