【エンジニアの教養】技術トレンドはなぜ「伝染」する?「ミーム化」の正体と付き合い方

こんにちは。ゆうせいです。

エンジニアとして働き始めると、ある日突然、みんなが同じ言葉を使い始める現象に出会いませんか?

「これからはマイクロサービスだ!」

「やっぱりRustがいいよね!」

「コンテナ技術は必須だ!」

まるでウイルスのように、特定の技術や考え方が広まっていく。実はこの現象、単なる流行り廃りではなく、「ミーム化(Memetics)」という言葉で説明できる非常に興味深いメカニズムなのです。

インターネット上の面白い画像のことだと思っていませんか? もちろんそれも一種ですが、エンジニアにとっての「ミーム」は、キャリアを左右する重要な概念でもあります。

今日は、情報がどのように伝わり、私たちの開発現場を変えていくのか、その裏側についてお話ししましょう。

ミーム(Meme)とは何か?

まず、基本から押さえておきましょう。

「ミーム(Meme)」という言葉は、1976年にイギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスが著書『利己的な遺伝子』の中で提唱しました。

彼はこう考えました。生物の体を作る情報が「遺伝子(Gene)」によって受け継がれるように、人間の文化やアイデアも、何かによってコピーされ、受け継がれていくのではないか、と。

その「文化を運ぶ遺伝子のようなもの」を、Gene(遺伝子)に似せて、Meme(ミーム)と名付けたのです。

人の脳から脳へコピーされる情報

具体的には、以下のようなものがミームです。

  • 習慣: 握手やお辞儀
  • 流行語: 「バズる」「エモい」
  • 技術的な慣習: 「Hello World」からプログラミングを始めること

これらは誰かの脳から、言葉や文字を通じて別の誰かの脳へコピーされ、増殖していきます。このプロセスを「ミーム化」と呼びます。

エンジニア界隈で起きる「ミーム化」

では、私たちのいるIT業界に話を戻しましょう。エンジニアの世界は、実はものすごくミーム化が起こりやすい場所なのです。

なぜなら、私たちはGitHubやQiita、Zenn、Stack Overflowなどで、常にコードや知識を「コピー&ペースト(複製)」しているからです。

成功体験がミームになる

例えば、ある有名なテック企業が「うちはこの技術を使って成功しました!」というブログを書いたとします。

すると、それを読んだ世界中のエンジニアが「あのGoogleがやっているなら、それが正解に違いない!」と思い込み、自分のプロジェクトにも導入しようとします。

本来、その技術はその企業の大規模な環境だからこそ必要だったのかもしれません。しかし、文脈(コンテキスト)が切り離され、「この技術=最強」というシンプルな情報だけが一人歩きして広まっていく。

これが、技術トレンドにおけるミーム化の正体です。

ミームの拡散力を数式で考える

ここで、どんな情報がミームとして広まりやすいのか、簡単な数式のイメージで捉えてみましょう。

拡散力 = 有用性 \times 真似しやすさ \times キャッチーさ

  • 有用性: 便利であること。
  • 真似しやすさ: コピペで動く、導入が簡単であること。
  • キャッチーさ: 名前がかっこいい、ロゴが可愛いなど。

ここで重要なのは、すべてが掛け算( \times )であることです。

いくら技術的に優れていても(有用性が高い)、難しすぎて誰も真似できなければ(真似しやすさがゼロ)、その技術は広まりません。逆に、技術的には大したことがなくても、キャッチーで誰でもすぐに試せるものは、爆発的に広まる可能性があるのです。

ミーム化のメリットとデメリット

この現象は、エンジニアにとって良いことなのでしょうか? それとも悪いことなのでしょうか? 両面から見てみましょう。

メリット:巨人の肩に乗れる

最大のメリットは「共通言語」ができることです。

特定のフレームワークや設計思想がミーム化して標準(デファクトスタンダード)になると、私たちは一から説明しなくても、「ああ、あのアレね」とスムーズに開発を進められます。

また、先人たちが苦労して編み出した「ベストプラクティス」を、私たちは模倣するだけで手に入れることができます。これは学習コストを大幅に下げてくれます。

デメリット:カーゴ・カルト(思考停止)

一方で、怖いデメリットもあります。「カーゴ・カルト・プログラミング」という言葉をご存知でしょうか?

かつて、ある島の人々が、飛行機が物資(カーゴ)を運んでくるのを見て、「木の枝で飛行機の形を作れば、また物資が来るはずだ」と儀式を行ったという話から来ています。

エンジニアの世界でも同じことが起きます。

「なぜそのコードが必要なのか」

「なぜその技術を選んだのか」

これらを理解せず、ただ流行っているから、偉い人が言っていたからという理由だけでコードをコピペしたり、技術選定をしたりすることです。

ミーム化は、時に私たちを「思考停止」に陥らせる危険性を持っています。

今後の学習の指針

いかがでしたか?

私たちが普段触れている技術トレンドの多くは、実は生物の進化と同じように、淘汰と複製を繰り返して生き残った「強いミーム」たちだったのです。

「流行っているから」という理由で新しい技術に飛びつくのは、決して悪いことではありません。それはミームの波に乗るということです。

しかし、プロのエンジニアとして大切なのは、その波に飲み込まれないことです。

今後は以下のことを意識してみてください。

  • 「なぜ?」を問う: 流行りの技術を採用するとき、「なぜ流行っているのか」「自分の現場にも本当に必要なのか」を一度立ち止まって考えてみる。
  • 一次情報を探る: 誰かが書いた「やってみた記事」だけでなく、公式ドキュメント(原典)にあたる癖をつける。ミームは伝言ゲームのように、伝わる過程で変質することがあるからです。

ミームを操る側になるか、ミームに操られる側になるか。それはあなたの「考える力」にかかっています!

それでは、またお会いしましょう。ゆうせいでした。


あなたの次の一歩

次に新しいライブラリやツールを導入するとき、「これは流行り(ミーム)だから選んだのか? それとも課題解決のために選んだのか?」と、自分自身に問いかけてみてください。その自問自答が、あなたを強いエンジニアにします。


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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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