座布団一枚で世界が変わる?研修講師と落語家に学ぶ「想像力」を操る話し方

こんにちは。ゆうせいです。

みなさんは、落語を聞いたことがありますか?

おじさんが一人で座布団の上に座って、右を向いたり左を向いたりしながら喋っているだけなのに、なぜか目の前に「お蕎麦屋さん」や「長屋の住人」が見えてくる。

あの不思議な体験、一度味わうと癖になりますよね。

実は、研修講師もこの「見えないものを見せる」という点において、落語家と非常に似ているんです。

「えっ、講師は座布団に座らないでしょ?」と思いましたか?

確かにその通りです。でも、道具を使わずに言葉だけで相手の頭の中にイメージを作り出すという技術は、まさに落語そのものなのです。

今回は、伝統芸能である落語家と、ビジネスの最前線に立つ研修講師の共通点と相違点を探りながら、相手の想像力をかき立てる「話芸」の秘密に迫ります。

研修講師と落語家の共通点:ストーリーテリング

落語家と研修講師の最大の共通点は、物語を語る力、専門用語で「ストーリーテリング」と呼ばれる技術にあります。

何もない空間に絵を描く

落語家は、扇子(せんす)を箸に見立て、手ぬぐいを本に見立てて演技をします。

これを見た観客は、脳内で勝手に「あ、いま蕎麦を食べているんだな」と補完して楽しみます。

研修講師も同じです。

例えば「リーダーシップ」や「モチベーション」といった目に見えない概念を説明するとき、ただ辞書の意味を読み上げても伝わりません。

「ある日の夕方、部下のAさんが疲れた顔でデスクに座っていました。そこで上司であるあなたが声をかけます...」

このように具体的な場面(ストーリー)を話すことで、受講生の頭の中に「職場」という映像を作り出します。

これがストーリーテリングです。

事実やデータを羅列するのではなく、物語として語ることで、相手の記憶に強く残す手法のことです。

落語家も講師も、言葉という絵筆を使って、聴衆の脳というキャンバスに絵を描くアーティストなのです。

一人二役の演じ分け

落語では、演者が右を向いて「八っつぁん」、左を向いて「ご隠居さん」と、声色や表情を変えて複数の人物を演じ分けます。

これを研修講師もよく行います。

「ダメな上司はこう言います『おい、早くやれ!』。でも、優れた上司ならこう言います『何か困っていることはないかい?』」

このように、講師がその場で悪い例と良い例を演じ分けることで、受講生は「あー、自分はダメな方をやっちゃってるかも...」と自分事として捉えることができるのです。

研修講師と落語家の相違点:オチか、応用か

では、講師は落語家のように面白い話をして、最後に「おあとがよろしいようで」と締めくくれば良いのでしょうか?

ここで、両者の決定的な違いについてお話しします。それは、話の「着地点」です。

落語家の着地点は「オチ(サゲ)」

落語の目的は、その世界の中で完結する面白さです。

最後に気の利いた「オチ」がついて、ドッと笑って、現実の嫌なことを忘れる。

これが落語の素晴らしいところです。つまり、非日常の世界を楽しむことがゴールです。

講師の着地点は「学習の転移」

一方で、研修講師の話にはオチは必要ありません(あってもいいですが)。

その代わりに必要なのが「学習の転移」です。

ちょっと難しい言葉が出てきましたね。「学習の転移」とは、研修室という特別な場所で学んだことを、実際の職場や家庭という「別の場所」で使えるようになることです。

落語は「夢の世界」で終わっていいのですが、研修は「現実の世界」に持ち帰ってもらわなければなりません。

「話が面白かった」で終わらせず、「よし、明日会社に行ったらこれを試そう」と思わせる。

つまり、講師の話は現実を変えるためのきっかけでなければならないのです。

想像力を刺激する方程式

ここで、相手に深く理解してもらうためのメカニズムを、簡単な式で表してみましょう。

言葉と記号のバランスに注目してくださいね。

理解の深さ = 論理的な説明 \times イメージの喚起力

やはりここでも掛け算です。

「論理的な説明」とは、筋道を立てて分かりやすく話すこと。

「イメージの喚起力」とは、落語のように相手の頭の中に映像を浮かばせる力のことです。

もし、論理だけで話をすると、正論だけど冷たい、なんだか頭に入ってこない話になります。

逆に、イメージだけで話をすると、面白いけど結局何が言いたいのか分からない話になります。

講師は、この両方を使いこなし、左脳(論理)と右脳(イメージ)の両方を刺激するエンターテイナーであるべきなのです。

ストーリーテラーとしてのメリットとデメリット

講師が落語家のような語り口を取り入れることには、大きな効果と注意点があります。

メリット

  • 共感を生む「実は私も新人時代にこんな失敗をしまして...」という失敗談(ストーリー)は、受講生の共感を呼び、「この人の話を聞こう」という姿勢を作ります。
  • 複雑な話を単純化できる難しいビジネス理論も、「江戸時代の商人の話」などに例えることで、高校生や新入社員でも直感的に理解できるようになります。

デメリット

  • 本質がずれる危険性例え話やストーリーに凝りすぎると、受講生が「例え話の面白さ」だけに注目してしまい、本来伝えたかった理論を忘れてしまうことがあります。
  • 時間のコントロールが難しい物語を語り始めると、どうしても時間がかかります。決められた時間内でカリキュラムを終えるための構成力が求められます。

まとめと今後の学習指針

いかがでしたか?

研修講師は、スーツを着た落語家である、と言っても過言ではありません。

言葉一つで空間を作り、相手を笑わせ、そして最後には「現実を変える勇気」というお土産を持たせて送り出す。

そんな粋な講師になれたら素敵ですよね。

今後の学習へのステップ

もしあなたが、「もっと話に引き込みたい」「説明上手になりたい」と思うなら、ぜひ次のことに挑戦してみてください。

「古典落語」を一つ聞いてみる

YouTubeやCDで構いません。「時そば」や「寿限無(じゅげむ)」など、有名な演目を聞いてみてください。

話の内容よりも、噺家(はなしか)さんの「間(ま)」や「声の抑揚」、そして「どうやって情景を描写しているか」に耳を澄ませてください。

「あ、今は箸を持ったフリをしたな」と想像しながら聞くだけで、あなたの「伝えるための引き出し」は劇的に増えますよ。

話芸の世界は奥が深いです。

さあ、あなたも言葉で世界を作る練習を始めましょう!

それでは、またお会いしましょう!

セイ・コンサルティング・グループでは新人エンジニア研修のアシスタント講師を募集しています。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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