360度評価とは?メリットから導入企業における成功事例まで詳しく解説

自社でもできるだけ公平な人事評価をするのと風通しのよい社風を作るのを目的に360度評価を取り入れたいと考えているけれど、社内のコミュニケーションに影響がないか心配で今一歩踏み出せないという人はいませんか?

この記事では、IT企業において360度評価を導入するメリットから成功事例まで詳しく解説します。

360度評価とは?

360度評価の実施について人事部のメンバーが話し合う様子

360度評価とは1人の従業員に対して上司、部下、同僚など複数の人で多角的に評価を行う制度です。

2020年にリクルートマネジメントソリューションズが企業の人事担当者600人を対象に行ったアンケート調査において、360度評価の実施についてたずねた所次のような結果でした。

360度評価の実施について割合
現在実施しており、今後も継続していく予定23.2%
現在実施しているが今後は実施しない予定2.7%
現在実施しているが今後はわからない5.5%
以前実施していたが、今は実施しておらず今後実施する予定2.3%
以前実施していたが、今は実施しておらず今後も実施しない予定1.7%
以前実施していたが、今は実施しておらず今後はわからない2.7%
実施したことはないが今後実施してみたい24.9%
実施したことはなく今後も実施の予定はない30.9%
わからない6.1%

現在実施していて今後も継続の意向を示している人事担当者が23.2%のため、まだ360度評価はそれほど企業に浸透しているわけではないのが現状だと言えるでしょう。

参考:リクルートマネジメントソリューションズ「360度評価の背景と効果的な導入の仕方とは?」

360度評価をIT企業で行うメリット

同僚同士で360度評価をするイメージ

360度評価をIT企業で行うメリットは次の通りです。

  • 客観的で具体的な評価ができる
  • 従業員が評価に対して納得しやすくなる
  • 従業員全てが評価に関わるため当事者意識が高まる
  • 上司の目線だけでは気づけない従業員の長所や短所がわかる
  • 従業員エンゲージメントや規範意識が向上する
  • 部署内の人間関係が把握しやすくなる

例えば360度評価において部署内で一人だけが極端に客観性のない低い評価をされていた場合、周囲との人間関係がうまくいっていなかったり、パワハラやいじめなどが起こっていたりする可能性があるため、それを発見するきっかけにもなるでしょう。

360度評価をIT企業で行うデメリット

上司が360度評価を気にして面談での部下の指導を控えめにする様子

前の項目でご紹介した通り、リクルートマネジメントソリューションズのアンケートでは、360度評価を以前実施していたけれど今は実施していないという企業が6.7%ありましたが、これは360度評価にも何らかのデメリットがあったためこのような結果になったと言えます。

360度評価のデメリットは次の通りです。

  • 評価に労力や時間がかかる
  • 主観的な評価が含まれる可能性がある
  • 評価を気にする上司が部下の指導を控えめにする可能性がある
  • 従業員の間に不信感が生まれる可能性がある

デメリットの方が大きくなるという結果を避けるためには、人事担当が事前に360度評価の目的や具体的な方法を周知したり、時には従業員が適切な評価スキルを身に着けるための研修を行ったりすることが大切です。

360度評価の効果をIT企業でさらに高めるには?

360度評価でよい人材が発見された様子

IT企業において360度評価の効果をさらに高めるにはどのような工夫が必要なのでしょうか。

3つご紹介します。

導入の準備をしっかりと行う

360度評価の効果を高めるためには、導入後のデメリットを大きくしないようにするため導入前に準備をしっかりとしておく必要があります。

具体的には次のようなことをしておくのがよいでしょう。

  • 導入の目的を明確にする
  • 事例を含めた情報収集をする
  • 従業員に向けた説明会や評価スキルを身に着けるための研修を行う(導入後に評価結果を受け入れられないといったことを避けるためにも丁寧な説明が必要)
  • 評価基準を明確にする

導入してもすぐには成果が挙がらないことを経営陣、人事担当者、従業員が共通認識として持っておくことが大切です。

システムを使って人事評価を効率化する

360度評価のデメリットの1つに、評価に労力や時間がかかるというのがありましたが、360度評価の工数や評価データの紛失などのリスクを減らせるのが360度評価システムです。

360度評価システムには次の3つの種類があります。

項目概要
ツール提供型・360度評価に必要な機能が搭載されたツール
・運用からカスタマイズまで自社でできる ・比較的低予算で導入できる
コンサル支援型・ツールの提供だけではなく専任のコンサルタントがついて運用や評価実施後のフォロー、評価シートを基にした戦略立案までサポートしてくれる
タレントマネジメント型・タレントマネジメント機能の一環として360度評価機能が搭載されているツール
・360度評価以外の各種人事評価や研修計画、人材データベースの管理などもできる

360度評価システムを導入して効果を高めたいなら、まずは自社のニーズを整理しどのように効率化したいのかを考えてからシステムの種類を決めるようにしましょう。

360度評価の活用方法を見直す

リクルートマネジメントソリューションズのアンケートにおいて、360度評価をどのように活用しているのかをたずねた所、次のような結果が出ました。

項目割合
人事評価に反映させている54.5%
昇進・昇格の判断基準として活用している46.7%
昇進・昇格候補者を選定する基準として活用している40.0%
次世代リーダー候補の選抜に活用している36.5%
降格・ポストオフの判断に活用している18.3%
異動・配置転換の判断に活用している25.8%
対象者本人の気づき・育成に活用している35.3%
会社としての育成施策を検討する材料に活用している22.5%
上司のマネジメント・コミュニケーションツールとして活用している20.2%
その他0.7%

この中で注目したいのが、「次世代リーダー候補の選抜に活用している」という回答が36.5%を占めたことです。

360度評価を次世代リーダー候補の選抜に活用すると、上司だけではなく周囲の人全てに働きが認められる人がリーダーとしてその企業を引っ張っていけるというメリットがあります。

上司に認められる人がそのままリーダーになるのではなく、本当にリーダーシップを持つ人がリーダーに昇格できるきっかけとなりうるのではないでしょうか。

企業におけるリーダーシップの価値観が変わってきているのが垣間見える興味深い結果だと言えるでしょう。

参考:リクルートマネジメントソリューションズ「360度評価の背景と効果的な導入の仕方とは?」

360度評価の導入企業における成功事例

トヨタ自動車の本社

360度評価の導入企業における成功事例を3つご紹介します。

トヨタ自動車株式会社

愛知県豊田市トヨタ町に本社があるトヨタ自動車株式会社では、2017年に若手社員が亡くなるという事案が発生し、2019年に豊田労働基準監督署により労働災害と判断され、当時の上司によるパワーハラスメントを伴う、行き過ぎた指導があったことが認められました。

トヨタ自動車株式会社ではこれを踏まえて、パワーハラスメント撲滅を目指して次の5つの再発防止策に取り組んだのです。

  • 相談窓口と職場相談員の設置
  • 就業規則にパワーハラスメントの禁止を明確に記載
  • 人事評価情報の一元管理
  • 2020年4月より全ての幹部職・基幹職を対象にパワーハラスメント防止の再教育と役員、幹部職、基幹職に対して360度評価を実施
  • 休務者の円滑な職場復帰へのサポート体制の構築

360度評価を導入することで今までの評価基準を見直し、今まで以上に「人間力」があり、周囲に良い影響を与え信頼される力を持つ人を評価するようにしました。

適性がないと判断されれば昇格を見合わせたり、管理職から外したりする事例があり、評価のあり方自体を見直した効果が少しずつ出てきているのです。

参考:トヨタ自動車株式会社「労務問題の再発防止に向けた取り組みについて」

Adobe

1982年にアメリカのカリフォルニア州に本社があるコンピュータ・テクノロジーの会社ですが、Adobeでは多くの従業員が過小評価されていたのを改善するため、2012年より「アドビチェックイン」という独自のデジタルファーストな360度評価を行っています。

チェックイン導入前と導入後を比較すると次のような違いがあります。

項目導入前導入後
ドキュメンテーション・人事チームが手動で管理・全ての従業員が自分の目標、開発、成長を文書化するためのWebページを持っている
目標設定・年初に設定し見直しはない・定期的に見直されリアルタイム更新可能
フィードバック・関係者からのフィードバックを追跡しなければならない・いつでも誰とでもフィードバックを交換し結果を一元管理できる
キャリアアップ・社内求人を自分でチェックしなければならない・新しいキャリアパスがあることを通知で知らせてもらえる
パフォーマンスに関する会話・毎年行う・四半期ごとに行う
報酬の決定・各従業員を格付けしてランク付けする・マネージャーが業績に基づいて給与と資本を決定

チェックインを導入することで人事評価にかけていた労力や時間を大幅に削減し、従業員の評価に対する満足度も上がる結果となっています。

参考:Adobe「アドビが優れたパフォーマンスを発揮し、キャリアアップをサポートし続ける方法」

GMOインターネット株式会社

「すべての人にインターネット」を経営理念とするGMOインターネット株式会社では従業員を「パートナー」と呼び、2010年から360度評価を導入しています。

GMOインターネット株式会社では「ガラス張りの経営」という経営方針があるため、人事制度としてパートナー一人一人の役割・等級・給与額をオープンにしています。

この人事制度の下、パートナー一人一人が本当に自分の役割を担えているかを客観的に判断する材料として360度評価を実施しているのです。

参考:GMOインターネット株式会社「組織のコンディションチェック」

セイ・コンサルティング・グループでは360度評価導入の下準備としてレジリエンス向上研修をおすすめしています

セイ・コンサルティング・グループでは360度評価導入の下準備として、レジリエンス向上研修をおすすめしています。

360度評価では上司・部下・同僚など周囲の人全てから客観的に評価されるため、自分の強みも弱みも素直に受け入れることができなければ成立しません。

レジリエンス向上研修ではストレスなどに打ち勝つしなやかな心を育成し、従業員が360度評価をポジティブな気持ちで受け止められるようにしっかりとした土台を築きます。

興味のある方はぜひ次のページもごらんください。

4.2 IT技術者のためのレジリエンス向上研修 - セイコンサルティンググループ (saycon.co.jp)

まとめ

360度評価とは1人の従業員に対して上司、部下、同僚など複数の人で多角的に評価を行う制度ですが、それほど企業に浸透している制度ではありません。

しかし人事評価制度への当事者意識が高まり、次世代リーダー候補の選抜にも活かせる評価制度のため、自社に合うと感じたらぜひ導入を検討してみてください。