「価格が高い」「今は不要」「上司に確認します」にYES, ANDで返す ── IT営業のテストクロージングと異論応酬

こんにちは。ゆうせいです。

IT営業向け連載の第7回です。前回は、提案の価値を3段階で語るSASフレームワークをお伝えしました。提案の後、お客様からは「価格が高い」「今は必要ない」「上司に確認します」といった言葉が返ってきます。今回は、こうした断り文句に対して、関係を壊さずに次へ進めるためのテストクロージングとYES, ANDの型を解説します。

読者の疑問:断り文句にどう返せばよいのか

提案の後に返ってくる言葉には、決まった型があります。

  • 「価格が高いですね」
  • 「今は必要ありません」
  • 「上司に確認します」
  • 「他社も検討しています」

こうした言葉に対して、営業は2つの失敗をしがちです。1つは、そのまま引き下がることです。もう1つは、反論して相手を説得しようとすることです。どちらも、お客様の本当の考えを聞けないまま商談が終わります。

結論:「No」を恐れず、温度を計りながら、否定せずに次へ進める

先に結論をお伝えします。

断り文句は、商談の終わりではなく、お客様の本当の考えを聞くきっかけです。2つの技術を使います。

1つはテストクロージングです。決断を迫る前に、「もし〇〇だったら」と仮定の形で、お客様の温度を確かめます。

もう1つはYES, ANDの型です。断り文句に対して「はい、でも(BUT)」ではなく「はい、そのうえで(AND)」で返します。相手を受け止めながら、次の質問につなげます。

用語の説明:テストクロージング

テストクロージングとは、本当のクロージング(契約の決断を求めること)の前に、仮定の質問でお客様の反応を確かめる技術です。

決断を迫る質問は「ご契約いただけますか」です。これに対して、テストクロージングの質問は「もしこのご提案で進むとしたら、ご懸念は何ですか」です。前者はYesかNoを迫りますが、後者はお客様が「進むとしたら」という前提で考え始めるので、隠れていた不安が表に出てきます。

代表的な問いかけを挙げます。

  • 「もしこのご提案で進むとしたら、ご懸念は何でしょうか」
  • 「仮に今期の実施だとすると、いつまでにお返事いただけますか」
  • 「〇〇様ご自身としては、どのようにお感じになっていますか」
  • 「導入時期は今期と来期、どちらがイメージに近いでしょうか」
  • 「決裁の場では、どの数字が一番見られそうですか」
  • 「他社様の事例を、もう少し詳しくお出ししましょうか」

テストクロージングには3つの効果があります。隠れた不安が早く表面化すること、Yesが出れば本当のクロージングに自然に進めること、Noが出ても関係を壊さずに原因を聞けることです。

具体例:テストクロージングの会話

営業「ここまでのご説明で、もしこのご提案で進むとしたら、気になる点はどのあたりでしょうか」
お客様「そうですね……現場が使いこなせるかどうかが心配です」
営業「現場の方の運用面ですね。具体的には、操作の習得でしょうか、それとも既存の業務の流れが変わることでしょうか」
お客様「業務の流れが変わることですね。今のやり方に慣れている人が多いので」
営業「承知しました。では、最初の1か月は今のやり方と並行して運用できる形で進め方を組み直します。それなら、現場の方の負担は小さくなりそうでしょうか」

この会話では、「ご契約いただけますか」とは一度も言っていません。しかし、お客様の不安(業務の流れが変わること)が表に出て、営業はその不安に対応する提案を出せました。

練習問題1

次の質問のうち、テストクロージングとして適切なものはどれでしょうか。

  1. 「本日、ご契約いただけますか」
  2. 「仮にこの案で進めるとしたら、社内でどなたの承認が必要になりますか」
  3. 「このご提案、良いと思いませんか」
  4. 「来週までにお返事をいただけないと、この価格ではご提供できません」

解答と解説

正解は2です。

2は「仮に進めるとしたら」という仮定の形で、決裁の流れを確かめています。お客様は進める前提で考え始め、決裁の情報が得られます。

1は決断を迫る本当のクロージングであり、不安が残っている段階ではNoを引き出します。3は同意を求めているだけで、お客様の本当の考えは聞けません。4は期限で圧力をかけており、信頼を損ないます。

YES, ANDの型

断り文句への返し方の基本は、YES, ANDです。

「YES, BUT(はい、でも)」は、受け止めたように見えて、その直後に反論しています。お客様は「否定された」と感じます。

「YES, AND(はい、そのうえで)」は、受け止めたうえで、確認の質問につなげます。お客様は「分かってもらえた」と感じ、本当の考えを話します。

「価格が高い」への返し

YES, BUTの例:「おっしゃることは分かりますが、他社と比べれば決して高くありません」

YES, ANDの例:「おっしゃるとおり、費用は重要な判断材料ですよね。そのうえで確認させてください。高いと感じられたのは、他社様の見積もりと比べてでしょうか。それとも、社内で想定されていた予算感と比べてでしょうか」

後者では、「高い」の意味を確かめています。他社比較なら利点(A)の説明が足りていないことになり、予算比較なら条件の調整が必要になります。対応が変わるので、確かめずに値引きの話を始めてはいけません。

「今は必要ありません」への返し

YES, ANDの例:「たしかに、今すぐ導入すべきかは慎重に見極めたいですよね。確認させてください。現在は大きな課題がない状態でしょうか。それとも、他の案件の優先順位が高い状態でしょうか」

「課題がない」のであれば仮説が外れていたことになり、仮説を作り直します。「優先順位が低い」のであれば、時期の問題なので、次に動くタイミングを確認します。

「上司に確認します」への返し

YES, ANDの例:「承知しました。社内でのご確認が必要ですよね。上司の方が特に気にされそうなのは、費用、導入効果、セキュリティ、現場の運用負荷のどのあたりでしょうか。資料に整理してお持ちします」

上司の関心を聞き出し、お客様が社内で説明しやすい資料を用意します。営業はお客様の「社内営業の伴走者」になります。

練習問題2

お客様から「他社も検討しています」と言われました。YES, ANDの型で返してください。

解答例

「複数社を比較されるのは当然のことですよね。そのうえで、差し支えなければ教えてください。比較の軸として重視されているのは、費用でしょうか、機能でしょうか、それとも導入後のサポート体制でしょうか。御社が重視される点に絞って、当社の情報を整理してお持ちします」

この返し方では、競合を否定せず、比較の軸を聞き出しています。比較の軸が分かれば、利点(A)の説明をその軸に合わせて組み直せます。

実務での使い方:断り文句の返しを事前に用意する

商談の前に、想定される断り文句と、YES, ANDでの返しを3つ書き出してください。

想定される断り文句YESの部分(受け止め)ANDの部分(確認の質問)
価格が高い費用は重要な判断材料ですよね他社比較ですか、予算比較ですか
今は必要ない慎重に見極めたいですよね課題がないのですか、優先順位の問題ですか
上司に確認する社内の確認が必要ですよね上司の方の関心はどこにありますか

事前に書いておくと、その場で反論してしまう癖を抑えられます。

注意点:異論応酬でやりがちな失敗

  • 「でも」「しかし」で返してしまう
  • 「高い」と言われた瞬間に値引きの話を始める
  • 断り文句を言葉どおりに受け取り、そのまま引き下がる
  • テストクロージングを何度も繰り返し、尋問のようになる

特に2つ目は、次回以降のネゴシエーションにつながる重要な点です。「高い」の意味を確かめる前に値引きを口にすると、お客様は「まだ下がる」と考え、交渉の基準が値引き額になってしまいます。

まとめ

  • 断り文句は商談の終わりではなく、お客様の本当の考えを聞くきっかけである
  • テストクロージングは「もし〇〇だったら」の仮定で温度を確かめ、隠れた不安を表に出す
  • 断り文句には「YES, BUT」ではなく「YES, AND」で返し、受け止めてから確認の質問につなげる
  • 「高い」の意味(他社比較か予算比較か)を確かめる前に、値引きの話を始めない
  • 想定される断り文句とYES, ANDの返しを、商談前に3つ書き出す

YES, ANDで受け止めた後、価格や条件の話になれば、そこからは交渉の領域です。次回は、IT営業のためのネゴシエーションの基礎として、交渉の目的と目標設定、撤退ラインの決め方を解説します。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。

学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。