システム開発の仕様書に記述した際に誤解されやすい日本語表現

システム開発の仕様書に記載される日本語表現は、曖昧さや解釈の違いによって誤解を招き、プロジェクトの遅延や不具合の原因となることがあります。特に、仕様書は多くの関係者が参照する文書であるため、正確で一貫性のある表現が求められます。ここでは、システム開発の仕様書において誤解されやすい日本語表現をいくつか挙げ、その理由や注意点を解説します。

1. 「可能」と「できる」

「可能」の意味

「可能」とは、技術的にある機能や動作が行えるかどうかを指します。仕様書で「可能」と書かれている場合、それが技術的に実現可能かどうかに焦点を当てています。

「できる」の意味

「できる」は、技術的に可能なことに加えて、実際にユーザーが操作を行ったり、システムがその動作を実行する状態にあることを指します。つまり、技術的に可能であることと、実際に利用できることの間には違いがあります。

間違いやすいポイント

「可能」という表現は、「技術的に可能だが、まだ具体的には実装されていない」場合にも使われることがあり、実際の運用面で「できる」状態にない場合もあるため、混乱を招く可能性があります。仕様書では、単に「技術的に可能」であることを示す場合は「可能」とし、実際に動作が確認され、運用できることを強調する場合は「できる」という表現を用いると誤解を防ぎます。

例:

  • 「本機能は利用者が任意のタイミングで実行可能です。」(技術的には可能だが、まだ実装されていないかもしれない)
  • 「本機能は任意のタイミングで利用者が実行できます。」(実際に利用可能な状態)

2. 「以上」と「以内」

「以上」の意味

「以上」は、基準となる数値や条件を含み、それよりも大きい、または同じという意味を持ちます。例えば、「5以上」と言えば、5も含み、それより大きい数値も対象となります。

「以内」の意味

「以内」は、基準となる数値や条件を含め、その範囲内に収まることを意味します。例えば、「10以内」は10も含み、それより少ない数値が対象です。

間違いやすいポイント

仕様書では「以上」と「以内」を間違えると、結果が大きく変わる可能性があります。例えば、「応答時間は5秒以内」という条件が「5秒以上」と混同されてしまうと、システムパフォーマンスに重大な影響を及ぼします。このような表現は、特に数値に関連する箇所で注意深く使う必要があります。

例:

  • 誤解しやすい例:「処理時間は5秒以上であること」(5秒を超えると良いのか悪いのかが曖昧)
  • 正確な表現:「処理時間は5秒以内であること」(5秒を超えない範囲で動作する必要がある)

3. 「未満」と「以下」

「未満」の意味

「未満」は、基準となる数値や条件を含まず、それよりも小さいという意味です。例えば、「5未満」は5を含まず、4やそれ以下が対象となります。

「以下」の意味

「以下」は、基準となる数値や条件を含め、それよりも小さい、または同じという意味を持ちます。例えば、「5以下」は5を含み、それ以下の数値を指します。

間違いやすいポイント

「未満」と「以下」は非常に似た概念ですが、特に上限や下限を定める場合に混同されやすいです。例えば、「許容量は100件未満」と書かれている場合、100件は許容範囲外ですが、「100件以下」と書かれていれば、100件も許容範囲に含まれます。この違いは、システムの許容量や制限に関わる重要な部分で誤解を招きやすいので、特に注意が必要です。

例:

  • 誤解しやすい例:「登録可能なデータは50件未満です。」(49件まで可能という意味だが、50件と誤解されることがある)
  • 正確な表現:「登録可能なデータは50件以下です。」(50件まで含まれる)

4. 「逐次」と「逐一」

「逐次」の意味

「逐次」とは、順を追って順番に進行することを指します。例えば、システム処理が一つずつ順番に実行される場合に「逐次処理」という言葉を使います。

「逐一」の意味

「逐一」は、一つひとつ詳しく確認したり報告したりする場合に使います。詳細にわたって情報を伝えるというニュアンスがあります。

間違いやすいポイント

「逐次」と「逐一」は音が似ているため、混同されやすいですが、意味が異なります。仕様書で「逐次」と書かれている場合は、順次処理されることを意味し、プロセスの進行に関することです。一方、「逐一」は個々の要素やステップごとに詳細を確認する場合に使います。

例:

  • 誤解しやすい例:「エラーメッセージは逐一表示されます。」(これは個々のエラーごとに詳細に表示されるという意味だが、順番に表示されるという誤解が生じる可能性がある)
  • 正確な表現:「エラーメッセージは逐次表示されます。」(順次エラーが発生する度に表示される)

5. 「考慮する」と「考慮しない」

「考慮する」の意味

「考慮する」とは、ある事柄を念頭に置いて、対応や判断を行うことを意味します。例えば、「この処理はパフォーマンスを考慮する」という表現では、性能に配慮しながら設計を進めることを示します。

「考慮しない」の意味

「考慮しない」とは、特定の事柄や条件を無視して、判断や設計を進めることを意味します。例えば、「この処理はパフォーマンスを考慮しない」という表現は、性能に関しては配慮しない(優先度が低い)という意味になります。

間違いやすいポイント

「考慮する」と「考慮しない」は、非常に重要な表現ですが、文脈によって誤解を生む可能性があります。「考慮する」と書いてあるからといって、必ず優先されるわけではなく、他の条件とバランスを取りながら実装される場合があります。また、「考慮しない」と書かれている場合、完全に無視していいのか、ある程度軽視するのかが曖昧になることがあるため、具体的な説明を付け加えると良いです。

例:

  • 誤解しやすい例:「この処理はセキュリティを考慮しますが、パフォーマンスは考慮しません。」(「パフォーマンスを無視して良い」と解釈される可能性がある)
  • 正確な表現:「この処理はセキュリティを最優先とし、パフォーマンスについては必要な範囲での最低限の考慮に留めます。」(具体的に何を優先するかを明確にしている)

6. 「常に」と「通常」

「常に」の意味

「常に」は、どのような状況や条件でも変わることなく、絶えず同じ動作や状態を保つことを意味します。仕様書で「常に〇〇が行われる」と書かれている場合、その機能や動作は例外なく実行されることが求められます。

「通常」の意味

「通常」は、特定の条件や標準的な状態において、一般的に行われる動作や振る舞いを指します。「通常〇〇が行われる」と記載された場合、特定の条件下では異なる動作が発生する可能性があり、必ずしも例外なく実行されるわけではありません。

間違いやすいポイント

「常に」と「通常」は、頻度や状況の違いを明確に区別しないと混同されやすいです。特に、システム動作や機能において、「常に」と書かれていると、どのような場合でも例外なくその動作が行われることが期待されます。一方、「通常」は例外的な状況が存在しうることを示しており、より柔軟な意味を持ちます。仕様書で「常に」を使う際には、その動作がどの条件下でも保証されるのかを確認し、「通常」を使う場合は例外があることを明示すると良いです。

例:

  • 誤解しやすい例:「システムは常にバックアップを取得します。」(例外がある場合に誤解が生じる可能性がある)
  • 正確な表現:「システムは通常、夜間に自動バックアップを取得しますが、障害時には手動で実施することも可能です。」(通常の動作と例外条件を明示している)

7. 「一時的」と「暫定的」

「一時的」の意味

「一時的」は、短期間にわたってある状態や動作が発生することを意味します。例えば、システムが一時的に停止する場合、それは短時間だけであり、すぐに復旧が見込まれる状況です。

「暫定的」の意味

「暫定的」は、最終的な決定や措置が確定するまでの間、仮に取られる対策や処置を指します。これは、長期間にわたる場合もあり、必ずしも短時間で解消されるわけではありません。

間違いやすいポイント

「一時的」は時間的に短い範囲を意味し、「暫定的」は一時的な措置であるが、長期間継続する可能性もあるという点で混同されやすいです。仕様書で「一時的」と記載する場合は、短期間の変化や影響が予想される状況に使い、「暫定的」は、最終的な決定や実装が確定するまでの仮措置としての意味で使用するのが適切です。

例:

  • 誤解しやすい例:「一時的にこの仕様を適用します。」(短期間しか有効でない印象を与えるが、実際には暫定的で長期間適用される可能性がある)
  • 正確な表現:「暫定的にこの仕様を適用し、正式な決定が下され次第、変更を行います。」(正式な措置が確定するまでの仮状態であることを明示)

8. 「できるだけ」と「なるべく」

「できるだけ」の意味

「できるだけ」は、可能な限りの範囲で最大限の努力をすることを意味します。具体的には、技術的、時間的、または資源的な制約の中で、最善を尽くすというニュアンスがあります。

「なるべく」の意味

「なるべく」は、できるだけ努力するものの、必ずしもその結果が達成されるとは限らない状況で使われます。「できるだけ」よりも達成の強制力が弱く、努力目標の一つとしての意味合いが強いです。

間違いやすいポイント

「できるだけ」は、実際に行動や結果が期待される状況で使われ、「なるべく」は、それが難しいかもしれないが努力をする、という意味になります。仕様書で「できるだけ」と書くと、関係者はその結果が必須であると考える可能性があるため、「なるべく」を使用して柔軟な対応を促すことも考慮する必要があります。

例:

  • 誤解しやすい例:「できるだけ早く対応してください。」(必ず早く対応しなければならない印象を与える)
  • 正確な表現:「なるべく早く対応してください。」(早く対応することを目指すが、状況によっては難しい場合もあることを示唆)

まとめ:仕様書で誤解を避けるための工夫

システム開発の仕様書では、曖昧な日本語表現が誤解を生み、プロジェクトの進行や成果物の品質に悪影響を与える可能性があります。特に、数値や時間、動作の範囲を示す表現には慎重さが必要です。次のような対策を講じることで、誤解を減らすことができます。

  1. 具体的な数値や範囲を示す:「以上」「未満」「以内」などは正確に使い分け、誤解が生じないように数値を明示します。
  2. 例外や条件を明示する:「通常」「常に」「暫定的」などは例外がある場合や、変更の可能性がある際には必ずその点を明記します。
  3. 曖昧な表現を避ける:「できるだけ」「なるべく」のような表現は、可能な限り具体的にし、どの程度の努力が期待されているかを明確にします。

仕様書の書き方に工夫を凝らし、曖昧さを排除することで、関係者間の誤解を防ぎ、プロジェクトの成功に近づくことができます。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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