ソーシャルスタイルで変えるお客様への伝え方 ── 同じ提案が通る人と通らない人がいる理由
こんにちは。ゆうせいです。
IT営業向け連載の第3回です。前回は、SWOT分析とTOWS分析で自社の強みを言葉にし、「誰に何を提案するか」を決める方法をお伝えしました。今回は、決めた提案を「相手に合わせてどう伝えるか」がテーマです。お客様の行動特性を4つのタイプに分けるソーシャルスタイルという考え方を、商談での使い方まで解説します。
読者の疑問:同じ提案なのに、通る人と通らない人がいるのはなぜか
次のような経験はないでしょうか。
- 丁寧に根拠を説明したのに、お客様が途中で退屈そうな顔をした
- 結論だけを短く伝えたら、「もう少し詳しく説明してほしい」と言われた
- 将来の展望を熱く語ったら、「具体的な数字はありますか」と返された
提案の内容は同じでも、伝え方が相手に合っていないと、内容が届く前に会話が止まります。営業の説明が悪いのではなく、相手の受け取り方の「型」と、こちらの伝え方の「型」がずれているのが原因です。
結論:相手のタイプを見分け、相手が受け取りやすい形で伝える
先に結論をお伝えします。
人の行動特性は、「感情を表に出すか、抑えるか」と「自己主張が強いか、弱いか」の2つの軸で、4つのタイプに分けられます。この分類をソーシャルスタイルと呼びます。
営業がすべきことは2つです。1つは、自分のタイプを知ることです。もう1つは、相手のタイプを見分けて、相手が受け取りやすい形で伝えることです。自分のタイプのまま話すと、同じタイプの相手にしか届きません。
用語の説明:ソーシャルスタイルの4タイプ
ソーシャルスタイルは、1960年代にアメリカの産業心理学者デビッド・メリルらが提唱した、人の行動傾向を分類する考え方です。性格の良し悪しではなく、外から観察できる行動の傾向で分けます。
| タイプ | 感情 | 自己主張 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ドライバー(行動型) | 抑える | 強い | 決断が早い、結果重視、効率を好む |
| エクスプレッシブ(直感型) | 出す | 強い | 創造的、楽観的、話すことを好む |
| エミアブル(温和型) | 出す | 弱い | 人間関係を重視、協調的、聞き上手 |
| アナリティカル(分析型) | 抑える | 弱い | 論理的、慎重、データを重視 |
ここで言う「自己主張が弱い」は、意見がないという意味ではありません。自分から主張するより、相手の話を聞いてから判断する傾向が強いという意味です。
具体例:タイプ別の接し方と商談の進め方
4つのタイプそれぞれについて、接し方、商談での進め方、避けるべき行動を整理します。
ドライバー(行動型)のお客様
- 接し方:結論を先に、要点だけを伝える
- 商談:成果、投資対効果、スピードを訴求する
- 避けるべき行動:前置きが長い、選択肢を増やしすぎる
ドライバーのお客様には、「結論から申し上げます。導入後1年で年間300時間の作業が減ります」のように、最初の一言で成果を示します。
エクスプレッシブ(直感型)のお客様
- 接し方:将来像やビジョンを語る
- 商談:新しさや面白さで関心を引く
- 避けるべき行動:細かい仕様の議論で疲れさせる
エクスプレッシブのお客様には、「このシステムが入ると、御社の現場はこう変わります」と、導入後の姿を描いて見せます。
エミアブル(温和型)のお客様
- 接し方:相手の感情に寄り添う
- 商談:急いで決断を迫らず、安心感を提供する
- 避けるべき行動:詰問するような口調、数字だけで押し切る
エミアブルのお客様には、「導入された他社様も、最初は不安をお持ちでした。段階的に進めた結果、現場の方から喜びの声をいただいています」と、周囲の人の反応を伝えます。
アナリティカル(分析型)のお客様
- 接し方:根拠、数字、事例を準備する
- 商談:時間をかけて検討してもらう
- 避けるべき行動:曖昧な表現、感情に訴える説明
アナリティカルのお客様には、「3社の導入事例で、平均の工数削減率は27%でした。算出の根拠はこちらの資料にあります」と、データを揃えて渡します。
練習問題1
次のお客様の発言から、ソーシャルスタイルのタイプを推測してください。
- 「で、結局いくらで、いつまでにできるの?それだけ教えて」
- 「この数字の算出根拠を教えてください。前提条件が変わった場合の試算もありますか」
- 「面白そうですね。これが入ったら、うちの若手がどう使うか想像すると楽しみです」
- 「現場の皆さんがどう感じるか、少し心配なんです。他社さんはどうでしたか」
解答と解説
1はドライバーです。結論と期限だけを求め、説明の過程に関心を示していません。
2はアナリティカルです。根拠と前提条件を確かめようとしており、データを重視しています。
3はエクスプレッシブです。将来の姿を楽しそうに想像し、新しさに反応しています。
4はエミアブルです。周囲の人の感情を気にかけ、他社の反応という安心材料を求めています。
自分のタイプを知ることが出発点
相手のタイプを見分ける前に、自分のタイプを知ることが必要です。理由は、人は無意識に自分のタイプの伝え方をするからです。
たとえば、営業がアナリティカルであれば、根拠と数字を丁寧に説明する傾向があります。相手がドライバーだと、「長い」と感じられます。営業がエクスプレッシブであれば、将来像を熱く語ります。相手がアナリティカルだと、「根拠がない」と感じられます。
自分のタイプを知る簡単な方法は、次の2つの質問に答えることです。
- 会議で意見が分かれたとき、自分から主張する方か、相手の話を聞いてから判断する方か
- うれしいことや困ったことがあったとき、表情や声に出る方か、あまり出ない方か
1で「主張する」なら自己主張が強く、2で「出る」なら感情を出すタイプです。組み合わせで4タイプのどれかが分かります。
実務での使い方:商談前に「相手のタイプ」を1行書く
訪問前の準備に、次の1行を加えてください。
「〇〇様は(タイプ)なので、(伝え方)で始める」
例を示します。
- 情報システム部長は、アナリティカルなので、導入事例の数字と算出根拠を資料にして、最初に渡す
- 経営企画の担当者は、ドライバーなので、最初の1分で結論と投資対効果を伝える
- 現場のリーダーは、エミアブルなので、他社の現場担当者の声を紹介し、段階導入を提案する
初対面でタイプが分からないときは、最初の5分間は相手に話してもらい、話し方を観察します。話が速く結論を急ぐならドライバー、身振りが大きく話が広がるならエクスプレッシブ、穏やかで相づちが多いならエミアブル、質問が細かく慎重ならアナリティカルの可能性が高いと判断できます。
練習問題2
担当しているお客様を3人思い浮かべ、それぞれについて次の表を埋めてください。
| お客様 | 推測したタイプ | 根拠となる言動 | 次回の商談での伝え方 |
|---|---|---|---|
| (記入) | (記入) | (記入) | (記入) |
解答例
| お客様 | 推測したタイプ | 根拠となる言動 | 次回の商談での伝え方 |
|---|---|---|---|
| A部長 | ドライバー | メールの返信が短く、打ち合わせは30分以内に終わらせたがる | 1枚目に結論と効果を書いた資料を用意し、詳細は別紙にする |
| B課長 | アナリティカル | 前回の打ち合わせで前提条件を3回確認された | 試算の前提条件を一覧にし、条件を変えた場合の数字も用意する |
| C主任 | エミアブル | 現場の反応をたびたび気にしていた | 他社の現場担当者の声を紹介し、段階的な導入計画を提案する |
注意点:タイプ分けでやりがちな失敗
- タイプを決めつけて、相手の変化に気づかない
- タイプを「性格の良し悪し」として扱う
- 自分のタイプを変えようとして、不自然になる
ソーシャルスタイルは、相手を理解するための道具であり、相手にレッテルを貼る道具ではありません。同じ人でも、立場や状況で行動は変わります。訪問のたびに観察し直してください。
まとめ
- 人の行動特性は「感情を出すか抑えるか」「自己主張が強いか弱いか」の2軸で4タイプに分けられる
- ドライバーには結論から、エクスプレッシブには将来像を、エミアブルには安心感を、アナリティカルには根拠を伝える
- 出発点は自分のタイプを知ること。人は無意識に自分のタイプの伝え方をする
- 商談前に「〇〇様は(タイプ)なので(伝え方)で始める」と1行書く
- タイプは決めつけず、訪問のたびに観察し直す
相手のタイプに合わせて伝える準備ができたら、次は実際にお客様の話を聴く場面です。次回は、信頼関係を作るための傾聴・共感・共鳴の3つの柱と、課題を引き出す5W2Hの質問の順番について解説します。
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