傾聴・共感・共鳴と5W2H ── IT営業が信頼を作り課題を引き出すヒアリングの順番

こんにちは。ゆうせいです。

IT営業向け連載の第4回です。前回は、お客様のソーシャルスタイルに合わせて伝え方を変える方法をお伝えしました。今回は、伝える前の段階である「聴く」がテーマです。信頼関係を作る傾聴・共感・共鳴の3つの柱と、課題を引き出す5W2Hの質問の順番を、商談での使い方まで解説します。

読者の疑問:何を、どの順番で聞けばよいのか

ヒアリングが大切だと分かっていても、実際の商談では次のようなことが起きます。

  • 質問を用意したのに、お客様の答えが短く、会話が続かない
  • 聞きたいことを全部聞いたが、提案につながる情報が得られなかった
  • 予算を聞いたとたん、お客様の表情が硬くなった

ヒアリングがうまくいかない原因は、質問の内容ではなく、聞く順番と、聞く前の関係作りにあります。

結論:信頼を作ってから、Why・What・Whoの順に深掘りする

先に結論をお伝えします。

ヒアリングは、信頼関係ができてから機能します。信頼を作る柱は、傾聴、共感、共鳴の3つです。

信頼ができたら、5W2Hの枠組みで課題を整理します。ただし、7つを順番に聞くのではなく、Why(なぜ今)、What(何に効くか)、Who(誰が決めるか)の3つを先に深掘りし、How(どう実現するか)とHow much(いくらか)は商談の後半に回します。最初から金額を聞くと、お客様は身構えます。

用語の説明:信頼を作る3つの柱

傾聴(Listening)

相手の言葉を遮らず、最後まで聴くことです。聴いた内容を要約して返し、表情や声の調子など、言葉以外の変化にも注意を向けます。営業が話す割合は3割以下、お客様が7割以上を目安にしてください。

傾聴は「耳で聴く、目で聴く、心で聴く」の3つで成り立ちます。耳で言葉を聴き、目で表情や姿勢を見て、心で相手の気持ちを受け止めます。

共感(Empathy)

相手の立場、状況、感情を一度受け止めることです。「それは大変ですね」「お困りなのですね」といった一言を添えるだけで、お客様は「分かってもらえた」と感じます。解決策を急いで出す前に、まず受け止めます。

共鳴(Resonance)

相手の考えや立場を、自分のこととして捉えることです。「実は当社でも同じことがありました」「私も以前、同じ失敗をしました」のように、自分の経験を少し開示します。ただし、お客様の話を奪って自分の話を長くしてはいけません。相手の文脈に合わせて短く添えるのがコツです。

具体例:3つの柱を使った会話

お客様が「システムの問い合わせ対応に時間を取られている」と話した場面です。

お客様「最近、現場からの問い合わせが多くて、本来の仕事が進まないんです」
営業「現場からの問い合わせ対応で、本来の業務が進まない状況なのですね」(傾聴:要約して返す)
お客様「そうなんです。毎日のように同じような質問が来て」
営業「同じ質問に毎日答え続けるのは、気力も削られますね」(共感:感情を受け止める)
お客様「本当にそうです。マニュアルは作ったんですが、読んでもらえなくて」
営業「当社でも、マニュアルを作ったのに読まれないという経験がありました。そのとき分かったのは、読まれない理由が『どこにあるか分からない』だったことです。御社ではいかがですか」(共鳴:自分の経験を短く開示し、質問につなげる)

この流れで、お客様は「分かってもらえた」と感じ、その先の質問に答えやすくなります。

練習問題1

次の営業の返し方のうち、傾聴として適切なものはどれでしょうか。

お客様「今のシステムは古いので、そろそろ何とかしたいと思っています」

  1. 「古いシステムですね。では、当社の最新パッケージをご紹介します」
  2. 「そろそろ何とかしたい、とお考えなのですね。古さを感じるのは、どのような場面でしょうか」
  3. 「古いシステムは危険です。早く更新しないとセキュリティ事故につながります」
  4. 「分かります。当社も昔はそうでした。実は当社の場合は、5年前に大きな障害があって、そのときに全面的に刷新したんです。あのときは大変で……」

解答と解説

正解は2です。

2は、お客様の言葉を要約して返したうえで、具体的な場面を尋ねています。お客様は自分の言葉が受け止められたと感じ、続きを話しやすくなります。

1は、お客様の話を聞かずに商品説明に移っており、御用聞き型と変わりません。3は、お客様を不安にさせて動かそうとしており、信頼を損ないます。4は、共鳴のつもりが自分の話を長くしてしまい、お客様の話を奪っています。

5W2Hで課題を整理する順番

信頼関係ができたら、課題を5W2Hで整理します。それぞれの項目と、IT営業で聞くべき内容は次のとおりです。

項目聞く内容聞く時期
Why(なぜ)なぜ今、その課題に取り組むのか前半
What(何を)具体的にどの業務、どの数字に効くのか前半
Who(誰が)意思決定者と利用者は誰か前半
When(いつ)いつまでに、どの予算期で実現したいか中盤
Where(どこで)どの組織、拠点、システムが対象か中盤
How(どのように)どのような実現方法を想定しているか後半
How much(いくら)投資規模と期待する効果の感覚値後半

順番が重要です。Why、What、Whoを先に深掘りします。

Whyを聞くと、課題の背景と緊急度が分かります。「なぜ今なのか」に答えられないお客様は、まだ本気で動く段階ではありません。

Whatを聞くと、提案で効かせるべき数字が分かります。「問い合わせ対応の時間」なのか「システムの停止回数」なのか、効かせる対象によって提案が変わります。

Whoを聞くと、決裁の流れが分かります。目の前の担当者が決めるのか、上司が決めるのか、情報システム部門の承認が要るのかで、提案の持っていき方が変わります。

HowとHow muchは、お客様が課題を言葉にした後に聞きます。課題が整理される前に金額を聞くと、お客様は「売り込まれる」と感じて身構えます。

練習問題2

次の質問は、5W2Hのどれに当てはまるでしょうか。また、商談の前半と後半のどちらで聞くべきでしょうか。

  1. 「この件は、最終的にどなたがご判断されますか」
  2. 「予算の規模感は、どのくらいをお考えですか」
  3. 「この課題に、今年度中に取り組もうとお考えになった理由は何でしょうか」
  4. 「実現方法として、クラウドとオンプレミスのどちらをイメージされていますか」

解答と解説

1はWho(誰が)で、前半に聞きます。決裁者が分かると、以降の提案の組み立てが決まります。

2はHow much(いくら)で、後半に聞きます。課題が整理される前に聞くと、お客様が身構えます。

3はWhy(なぜ)で、前半に聞きます。課題の背景と緊急度が分かります。

4はHow(どのように)で、後半に聞きます。実現方法の話は、課題が整理されてから行います。

古今東西法:時間軸で聴く

5W2Hと合わせて使える質問の引き出しとして、古今東西法を紹介します。次の3つを順番に聞く方法です。

  1. 「過去はどうでしたか」
  2. 「今はどうですか」
  3. 「これからはどうしたいですか」

時間軸で並べて聞くと、お客様自身が課題と理想の姿を整理しやすくなります。たとえば、「以前は担当者が2人いたので回っていた。今は1人で限界に近い。来年は業務を増やす予定なので、このままでは立ち行かない」という話が出てくれば、課題(人手不足)と理想(業務を増やしても回る体制)と提案の切り口(業務の自動化)が見えてきます。

実務での使い方:ヒアリングシートの作り方

訪問前に、次の形でヒアリングシートを用意してください。

項目事前の仮説当日の確認結果
Why:なぜ今か(記入)(記入)
What:何に効くか(記入)(記入)
Who:誰が決めるか(記入)(記入)
When:いつまでか(記入)(記入)
Where:どこが対象か(記入)(記入)
How:どう実現するか(記入)(記入)
How much:いくらか(記入)(記入)

「事前の仮説」の欄は、第1回でお伝えした仮説構築の結果を書きます。「当日の確認結果」の欄には、お客様の言葉をそのまま書きます。仮説と結果のずれが、次の提案の材料になります。

注意点:ヒアリングでやりがちな失敗

  • 質問を一方的に並べ、尋問のようになる
  • お客様の答えをすぐに解決策につなげてしまう
  • 最初から予算や実現方法を聞く
  • 営業が話す時間が長くなる

特に2つ目は、多くの営業が無意識にやっています。お客様が課題を話した直後に「それなら当社の製品で解決できます」と返すと、お客様はそれ以上話さなくなります。課題の全体像が見えるまで、解決策は口に出さないでください。

まとめ

  • ヒアリングは、傾聴・共感・共鳴で信頼を作ってから機能する
  • 営業が話す割合は3割以下、お客様が7割以上
  • 5W2HはWhy・What・Whoを前半に深掘りし、How・How muchは後半に回す
  • 古今東西法(過去・今・これから)で聞くと、お客様自身が課題を整理しやすい
  • 課題の全体像が見えるまで、解決策は口に出さない

ヒアリングで課題が整理できたら、次は仮説提案の中身です。次回は、訪問前にお客様を調べて仮説を作るための道具であるリサーチシートと、仮説を3つに絞る方法を解説します。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。