抽象と具象の往復運動

こんにちは。ゆうせいです。

今回は「抽象と具象の往復運動」というテーマについて、新人エンジニア研修の講師向けに解説します。エンジニアとしての育成において、この考え方は非常に重要です。これを理解することで、問題解決能力や設計力をぐっと高めることができます。

「抽象と具象の往復運動」とは何かというと、ざっくり言うと全体像(抽象)と具体例(具象)を行き来しながら考えるプロセスです。この方法は、システム設計、プログラミング、プロジェクト管理、どの分野にも役立ちます。では、これを詳しく見ていきましょう。


抽象と具象とは?

抽象

抽象とは、物事を簡潔にまとめたり、共通点を見つけて全体を一つの概念としてとらえたりすることです。たとえば、「動物」という言葉は、犬、猫、鳥など具体的な動物をひとまとめにした抽象的な概念です。

エンジニアリングでは、以下のような場面が該当します:

  • 共通する部分を見つけて設計パターンに落とし込む
  • コードを関数やクラスで整理する
  • システム全体のアーキテクチャを考える

具象

具象とは、具体的な事例や実際のデータ、物理的なものを指します。たとえば、「犬」という単語でイメージする、特定の犬(柴犬やゴールデンレトリバーなど)が具象です。

エンジニアリングでは以下に該当します:

  • 実際のコードを書く
  • 具体的なエラーメッセージを見てデバッグする
  • ユーザーの操作やデータの流れを観察する

往復運動の重要性

新人エンジニアにとって、抽象的な考え方だけでは実務的なスキルが身につきません。また、具体的な作業だけに集中してしまうと、効率の悪いコードを書いたり、大きな視点を見失ったりします。だからこそ、**抽象と具象を行き来する「往復運動」**が重要です。

例:システム設計の場合

  1. 抽象
    顧客の要件を基に「予約管理システム」という全体像を設計する。
  2. 具象
    予約データを格納する具体的なデータベーステーブル(例:reservationsテーブル)を設計。
  3. 再び抽象
    予約機能全体をモジュール化して、他のプロジェクトでも使えるように一般化。
  4. さらに具象
    実際に動作するコードとしてAPIを実装する。

このように、設計→実装→フィードバック→改善のプロセスを繰り返しながら、抽象と具象の行き来を行います。


実践的なアプローチ

新人エンジニアに教える際には、以下のステップで進めると効果的です。

1. 抽象的な概念を説明する

まず、全体像を伝えましょう。「今から作るシステムの目的は何か」「どのようなユースケースを解決するのか」といった話をします。たとえば、「顧客が予約を管理できるシステム」と簡潔に説明します。

2. 具体例を示す

次に、具体的な部分を示します。たとえば、実際のデータ構造やコードサンプルを見せることで、概念を具象化します。

  • データベース設計例
  • サンプルコード
  • エラーハンドリングの具体例

3. 再び抽象化する

具体例を見た後は、「この機能は他の場面でも使えるのでは?」といった具合に、抽象化する力を鍛えます。「このコードを再利用するには、どう設計すればいいだろう?」と問いかけると良いです。


メリットと注意点

メリット

  • 柔軟な思考が身につく:問題解決の幅が広がります。
  • 効率的な設計ができる:無駄な作業が減り、再利用性が高まります。
  • 論理的なコミュニケーションが可能になる:チームメンバーとスムーズに議論できます。

注意点

  • 抽象に偏りすぎると実行可能性を見失います。
  • 具象に偏りすぎると全体の方向性が不明確になります。
  • 抽象と具象を行き来する際には、適切な粒度を意識することが重要です。

まとめと今後の指針

「抽象と具象の往復運動」は、新人エンジニアにとって欠かせないスキルです。この考え方を繰り返し実践することで、システム設計やコードの質が向上します。

研修では、まず小さな問題から始めて「抽象と具象」の思考を繰り返す練習を取り入れるのが良いでしょう。そして、フィードバックを通じて改善点を共有し、チーム全体で学びを深めていくことがポイントです。

次回は、具体的な「抽象化」や「具象化」の演習例について考えてみましょう!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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