行動力と実行力は何が違うのか 0→1の力と1→100の力

こんにちは。ゆうせいです。

人事評価のコメントを書くとき、「行動力がある」「実行力が高い」という言葉を使ったことはないでしょうか。

では、この2つは何が違うのでしょうか。

研修でこの質問をすると、答えがきれいに割れます。「ほぼ同じ意味」と答える方が半数、「違うけれど説明できない」が半数です。

この2つを区別できないと、育成の打ち手を間違えます。今回は、その違いを整理します。

結論

行動力と実行力は、別の能力です。

項目行動力実行力
担当する区間0→11→100
言い換えゼロから動き出す力最後までやり抜く力
働く場面着手するとき継続するとき
不足したときの症状始まらない終わらない

そして、どちらが欠けても成果は出ません。

成果は「始めること」と「終わらせること」の両方がそろって初めて生まれます。片方だけでは、作りかけが増えるか、指示待ちが増えるかのどちらかです。

なぜ区別する必要があるのか

区別しないと、処方箋を間違えるからです。

よくある場面を挙げます。

期限までに成果物が出てこない部下がいたとします。上司は「もっと積極的に動いてほしい」と伝えます。

しかし本人の問題が「着手はしているが途中で止まる」ことだった場合、この助言は的外れです。本人はすでに動いています。足りないのは継続する力のほうです。

逆のケースもあります。「指示待ちで困る」と言われている部下が、実は任されたタスクは確実に完遂しているとします。この人に必要なのは、やり抜く訓練ではありません。最初の一歩を踏み出す訓練です。

症状が違えば、打ち手も違います。

現場から出てくる声

研修のディスカッションで「動けないと感じる瞬間」「やり抜けないと感じる瞬間」を挙げてもらうと、次のような声が出ます。

動けない瞬間やり抜けない瞬間
何から手を付ければいいか分からない途中で飽きてしまう
失敗が怖くて一歩が踏み出せない別のタスクに目移りする
完璧を求めて動けない成果が出ずモチベーションが下がる
他人の目が気になる忙しさで後回しにする

並べてみると、性質がまったく違うことが分かります。

左は着手の問題です。まだ何も始まっていません。

右は継続の問題です。一度は始まっています。

確認の問い

次の状態は、行動力と実行力のどちらが不足していますか。

(1) 新しい技術の検証を任されたが、調べるだけで2週間が過ぎた
(2) 検証は始めたが、別案件が入ってから3週間触っていない

解答を示します。

(1) は行動力の不足です。手を動かす段階に入れていません。調査が終わらないのは、着手のハードルが高いままだからです。

(2) は実行力の不足です。着手はできています。継続が途切れています。

補足します。この2つは、本人の性格ではなく状態として区別してください。同じ人でも、案件によってどちらにもなります。

行動力とは何か

0から1を生む力です。4つの要素に分けられます。

要素内容
即断即決最初の一歩を踏み出す
未知への挑戦経験のない領域へ躊躇なく飛び込む
小さく試す素早く試し、素早く学ぶ
瞬発力発想を「形」に変える

IT の現場での例

抽象的なままでは使えないので、開発の現場に置き換えます。

新しいフレームワークの採用を検討する場面を考えてください。

行動力のある人は、まず動くものを作ります。1時間でサンプルを動かし、「ここは楽になる」「ここは詰まる」を実感してから議論に入ります。

行動力の低い人は、比較記事を集め続けます。情報は増えますが、判断材料としての手触りがありません。

障害対応でも同じです。一次切り分けを始められるか、原因の仮説を立てる前に固まってしまうか。ここが分かれ目です。

実行力とは何か

1を100にする力です。こちらも4つの要素に分けられます。

要素内容
持続力計画を確実に完遂する
障害の克服問題を乗り越え、成果に転換する
改善PDCA を回し、精度を高める
結果責任最後まで責任を負う

IT の現場での例

結合テストの終盤を思い浮かべてください。

残っているのは、再現性の低い不具合や、仕様の解釈が割れている箇所です。派手さはありません。しかし、ここを片づけないとリリースできません。

実行力とは、この地味な区間を走り切る力です。

ドキュメントの整備、残課題の消し込み、運用手順の引き継ぎ。いずれも新しさはありませんが、ここが抜けると成果は形になりません。

確認の問い

行動力と実行力の説明として、適切なものを選んでください。

番号選択肢
1行動力が高い人ほど、実行力も高くなる
2行動力は0→1、実行力は1→100の力である
3実行力は経験年数に比例して自然に伸びる
4行動力は性格、実行力は能力の問題である

解答 2

解説します。

2 が正しい説明です。担当する区間が違います。

1 は誤りです。この2つは独立しています。始めるのが速い人が、終わらせるのも速いとは限りません。むしろ逆のことがよくあります。

3 は誤りです。年数を重ねても、後回しの癖は自動では直りません。意識的な訓練が要ります。

4 は誤りです。どちらも性格ではなく、技法と仕組みで改善できます。この点は連載の後半で扱います。

業務シーンごとに必要な力は違う

どちらが優れているという話ではありません。場面によって必要な比率が変わります。

業務シーン行動力実行力
新規事業の立ち上げ必須重要
既存プロジェクトの完遂重要必須
新規顧客の開拓・営業必須補助的
品質改善・オペレーション補助的必須

開発工程に置き換えると、さらに分かりやすくなります。

工程主に必要な力
要件定義・技術検証行動力
基本設計・実装両方
結合テスト・リリース実行力
運用・保守実行力

同じプロジェクトの中でも、前半と後半で求められる力が入れ替わります。

前半で評価されていた人が後半で失速する、あるいはその逆が起きるのは、この切り替わりが原因であることが少なくありません。

確認の問い

自分が今担当している業務を1つ思い浮かべてください。その業務は、行動力と実行力のどちらをより必要としていますか。そして、自分はそちらの力を発揮できているでしょうか。

この問いに即答できない場合、次回のセルフチェックが役に立ちます。

片方だけでは成果にならない

2つの失敗パターンを挙げます。

行動力だけが高い場合、次のようになります。

新しいことには真っ先に手を挙げます。周囲からは積極的に見えます。しかし完成したものが少なく、着手済みで止まっているタスクが増えていきます。

実行力だけが高い場合は、こうなります。

任されたことは確実に終わらせます。信頼されます。しかし、自分から新しい提案が出てきません。範囲が広がらず、役割が固定されます。

どちらも、本人は真面目に働いています。それでも成果が頭打ちになります。

両輪で回して初めて、成果が前に進みます。

育成の現場でどう使うか

人材育成の担当者として、この整理は3つの場面で使えます。

一つ目は、評価コメントの具体化です。

「積極性が足りない」という表現は、本人に何も伝えません。「着手は速いが、完遂率が低い」と書けば、次の行動が決まります。

二つ目は、配置の判断です。

立ち上げフェーズに実行力型を置き、安定運用に行動力型を置くと、どちらも力を発揮できません。人の優劣ではなく、相性の問題として扱えます。

三つ目は、本人の自覚を促すことです。

改善の出発点は、自分がどちらに偏っているかを知ることです。他者からの指摘より、自分で気づいたほうが行動が変わります。

注意点

3つ補足しておきます。

一つ目は、優劣の話ではないことです。行動力が高いほうが優秀、という誤解が生まれやすい領域です。実際には、組織の成果の大部分は実行力が支えています。

二つ目は、固定的な性格だと決めつけないことです。同じ人でも、業務内容や体調、職場環境によって変わります。

三つ目は、原因を本人の中だけに求めないことです。動けない理由が、時間やリソースの不足といった環境側にあることは珍しくありません。この点は連載の第3回で詳しく扱います。

まとめと次の学習ステップ

行動力と実行力は、別の能力です。

行動力は0→1、ゼロから動き出す力です。実行力は1→100、最後までやり抜く力です。

不足したときの症状も違います。行動力が足りなければ始まりません。実行力が足りなければ終わりません。症状が違う以上、打ち手も変わります。

そして、どちらが欠けても成果は出ません。両輪で回すことが近道です。

次の学習ステップとして、3つを提案します。

一つ目は、自分の偏りを知ることです。次回は10問のセルフチェックで、4つの行動タイプのどれに当てはまるかを判定します。改善は自覚から始まります。

二つ目は、直近で止まっている仕事を1つ思い出すことです。それは着手で止まっているのか、継続で止まっているのか。どちらかを判定してみてください。

三つ目は、チームのメンバーを思い浮かべることです。「積極性がない」と評価していた人が、実は実行力型だっただけかもしれません。見方が変わると、かける言葉も変わります。

次回は、自分がどのタイプかを10問で判定します。

あなたはどのタイプか 10問でわかる4つの行動タイプ

前回は、行動力と実行力が別の能力であることを整理しました。行動力は0→1、実行力は1→100です。

違いは分かった。では、自分はどちらに偏っているのでしょうか。

ここが分からないまま技法だけを学んでも、効果は出ません。着手で止まっている人がやり抜く技法を学んでも、使う場面が来ないからです。

今回は、10問のチェックで自分のタイプを判定します。

結論

行動力と実行力の高低で、4つのタイプに分かれます。

実行力が高い実行力が低い
行動力が高い両輪型花火型
行動力が低い完璧主義型受動型

それぞれの特徴を一言で表すと、次のようになります。

タイプ一言で言うと
両輪型動き、やり抜く
花火型動くが、続かない
完璧主義型動かないが、やり抜く
受動型動かず、続かない

そして、これは性格診断ではありません。今の自分の状態を測るものです。この点は後半で詳しく説明します。

まず10問に答える

深く考えず、直感で答えてください。迷ったら「できていない」側に倒すほうが、後の改善に役立ちます。

行動力チェック(5問)

当てはまるものにチェックを入れてください。

☐ 思い立ったら、すぐ動く
☐ 未経験の仕事も引き受ける
☐ 完璧より、まず着手する
☐ 断られてもすぐ切り替える
☐ 提案を口に出せる

判断に迷ったときの目安を添えます。

設問迷ったときの目安
すぐ動く直近1週間で、思いついた日に着手したことがあるか
未経験を引き受ける自信がない仕事を、この半年で引き受けたか
まず着手する情報収集が終わる前に手を動かせるか
すぐ切り替える提案が通らなかった翌日に、別案を出せるか
口に出せる会議で、求められる前に発言したことがあるか

チェックの数を数えてください。これが行動力の点数です。

実行力チェック(5問)

同じように答えてください。

☐ 決めた計画を最後までやる
☐ 期限を守り抜く
☐ 障害があっても諦めない
☐ 定期的に進捗を確認する
☐ 小さな改善を積み重ねる

こちらも目安を添えます。

設問迷ったときの目安
最後までやる今年立てた目標のうち、完了したものがあるか
期限を守る直近3件の締切を、すべて守ったか
諦めない予期せぬ障害が出たとき、代替案を探したか
進捗を確認する週に1回以上、自分の進捗を点検しているか
改善を積み重ねる同じ作業を前回より速くする工夫をしたか

チェックの数が実行力の点数です。

判定

2つの点数を次の表に当てはめてください。

点数判定
0〜2低い側
3〜5高い側

2点と3点は境界です。どちらにも寄りうるので、両方のタイプの説明を読んでみてください。

4つのタイプ

両輪型(行動力が高い・実行力が高い)

動き出しが速く、最後までやり切るタイプです。

強みは、任せた仕事が形になることです。新しい取り組みでも、既存の改善でも成果を出します。

つまずきは、周囲との速度差です。自分のペースで進めてしまい、チームが置き去りになることがあります。また、自分ができるために、できない人の理由が分からないことがあります。

このタイプの次の課題は、自分の実行ではなくチームの実行です。

花火型(行動力が高い・実行力が低い)

始めるのは速いが、続かないタイプです。

IT の現場では、次のような振る舞いとして現れます。

新しい技術が出ると真っ先に試します。検証環境を立てるところまでは速い。しかし本番適用の手前で熱が冷め、次の技術に目が移ります。手元には動くところまで作ったリポジトリが何本も残ります。

強みは、着手の速さと発想です。立ち上げ期には貴重な存在です。

つまずきは、完遂率の低さです。周囲からは「言うだけ」と見られがちですが、本人は本気で始めています。終わらせる仕組みがないだけです。

このタイプが読むべきは、第5回(やり抜く力)と第6回(後回しを防ぐ仕組み)です。

完璧主義型(行動力が低い・実行力が高い)

着手は遅いが、始めたら確実に終わらせるタイプです。

現場では、こう現れます。

タスクを振られると、まず全体を把握しようとします。仕様を読み込み、影響範囲を洗い出し、不明点を潰してから手を動かします。着手までに時間がかかりますが、始まった後の手戻りは少ない。

強みは、品質と信頼性です。運用やレビューを任せると力を発揮します。

つまずきは、着手の遅さと機会損失です。情報がそろうまで動けないため、スピードが求められる場面で出遅れます。また、完璧を求めるあまり、本人の中で基準が上がり続けることがあります。

このタイプが読むべきは、第4回(動き出す技法)です。

受動型(行動力が低い・実行力が低い)

動き出しも継続も弱いタイプです。

ここで注意が必要です。この結果が出たとき、本人の意欲の問題だと決めつけないでください。

実際には、環境が原因であることが珍しくありません。業務量が多すぎて新しいことに手が出ない。判断に必要な情報が共有されていない。失敗が責められる雰囲気がある。こうした状況では、誰であっても受動型の結果が出ます。

強みは、指示が明確であれば動けることです。言い換えれば、前提条件を整えれば改善の余地が大きいということです。

このタイプが読むべきは、第3回(動けない3つの真因)です。

確認の問い

次のうち、花火型の説明として適切なものを選んでください。

番号選択肢
1着手は遅いが、始めれば確実に終わらせる
2指示があれば動くが、自分からは始めない
3始めるのは速いが、完遂する前に熱が冷める
4動き出しも継続も安定しており、成果が出る

解答 3

解説します。

3 が花火型です。着手は得意、継続が苦手という組み合わせです。

1 は完璧主義型です。花火型とは逆の偏りを持ちます。

2 は受動型です。自発的な着手がない点が花火型と異なります。

4 は両輪型です。どちらの力も高い状態を指します。

補足します。花火型と受動型は、どちらも「成果物が出ない」という同じ症状に見えます。しかし原因は正反対です。前者は始めすぎ、後者は始めていません。ここを取り違えると、助言が逆効果になります。

タイプ別の処方箋

判定結果ごとに、次に取り組むべきことをまとめます。

タイプ最優先の課題この連載で読む回
両輪型チームの実行力を上げる第8回
花火型完遂する仕組みをつくる第5回・第6回
完璧主義型着手のハードルを下げる第4回
受動型動けない原因を特定する第3回

ここで大切なのは、自分の弱いほうから手を付けることです。

得意なほうを伸ばしたくなりますが、成果は低いほうに引きずられます。行動力が5点で実行力が1点の人は、行動力を6点にしても成果は変わりません。

確認の問い

行動力が4点、実行力が1点でした。次のうち、最初に取り組むべきものを選んでください。

番号選択肢
1決めたタスクを週次で点検する習慣をつくる
2新しい技術の検証を積極的に引き受ける
3会議で自分から発言する回数を増やしていく
4興味を持った分野の情報収集を日課に加える

解答 1

解説します。

この人は花火型です。低いほうは実行力なので、継続を支える仕組みから着手します。1 は進捗の点検であり、実行力に直接効きます。

2、3、4 はいずれも行動力を高める取り組みです。すでに4点ある力をさらに伸ばしても、完遂率は変わりません。むしろ着手案件が増え、やりかけが積み上がります。

補足します。花火型の人が「もっと頑張ろう」と考えると、たいてい新しいことを始めます。それが状況を悪くします。増やすのではなく、終わらせるほうへ力を向けてください。

育成の現場でどう使うか

チーム全員に実施すると、3つのことが見えます。

一つ目は、チームの分布です。

花火型が多いチームは、企画は出るが形にならない傾向があります。完璧主義型が多いチームは、品質は高いが立ち上がりが遅くなります。個人の問題に見えていたことが、チームの偏りだったと分かることがあります。

二つ目は、フェーズとの相性です。

立ち上げ期に完璧主義型を配置すると、本人も周囲も苦しみます。逆に、安定運用のフェーズに花火型を置くと、本人が退屈します。能力の問題ではなく配置の問題として扱えるようになります。

三つ目は、面談の材料です。

「積極性が足りない」という伝え方は、本人に何も残しません。「着手は速いが、完遂率が課題」と具体的に伝えられると、次の行動が決まります。

実施するときは、結果を評価に直結させないでください。評価に使うと分かった瞬間、全員が高めに自己申告します。測定の意味がなくなります。

注意点

4つ補足します。

一つ目は、性格診断ではないことです。

測っているのは今の状態です。半年後に同じ10問に答えれば、違う結果が出ることがあります。むしろ変わらなければ、取り組みが足りていないということです。

二つ目は、自己申告の限界です。

自己評価は、本人の基準に依存します。基準の高い人は低く出ますし、その逆もあります。可能であれば、上司や同僚の見立てと突き合わせてください。ずれている箇所に、気づいていない課題があります。

三つ目は、業務内容によって結果が変わることです。

同じ人でも、担当案件によって判定が動きます。「自分は花火型だから」と固定的に捉えると、改善の機会を逃します。

四つ目は、受動型の扱いです。

繰り返しになりますが、受動型の結果が出たときに本人の意欲を責めないでください。環境が原因である可能性を先に検討してください。この点は次回のテーマです。

まとめと次の学習ステップ

行動力と実行力の高低で、4つのタイプに分かれます。

両輪型は動き、やり抜きます。花火型は動くが続きません。完璧主義型は動かないが、やり抜きます。受動型はどちらも弱い状態です。

改善の出発点は、自分の偏りを知ることです。そして、得意なほうではなく、低いほうから手を付けてください。成果は低いほうに引きずられます。

ただし、この結果は性格ではなく状態です。固定的に捉えず、半年後にもう一度測ってください。

次の学習ステップとして、3つを提案します。

一つ目は、10問に実際に答えることです。読むだけでは判定できません。紙に書き出すか、チェックの数を数えてみてください。

二つ目は、自分の判定を同僚の見立てと比べることです。ずれがあれば、そこが自覚できていない課題です。

三つ目は、受動型と判定された場合、すぐに自分を責めないことです。原因が環境にあるかもしれません。

次回は、動けない原因を3つの層に分けて特定します。スキル、マインド、環境のどこに原因があるかで、打ち手がまったく変わります。

動けない原因は3つの層のどこかにある スキル・マインド・環境

前回は、10問のセルフチェックで4つのタイプを判定しました。受動型と判定された方には、すぐに自分を責めないでくださいとお伝えしました。

今回はその続きです。

部下が動かない。自分も動けない。このとき多くの人が最初に疑うのは「やる気」です。

しかし、やる気を原因だと判断した瞬間、打つ手がなくなります。やる気は直接操作できないからです。

動けない原因は、3つの層のどこかにあります。層を特定できれば、打ち手は具体的になります。

結論

動けない原因は、次の3つに分類できます。

層本人の状態典型的な言葉
スキルやり方が分からない「どう進めればいいか分からない」
マインドやる気になれない「気が進まない」
環境動ける状況にない「時間がない」

重要なのは、層が違えば打ち手がまったく違うことです。

スキルの問題に精神論で対応しても改善しません。環境の問題を本人の努力で解決させようとすれば、消耗するだけです。

そして最も多い誤診が、スキルや環境の問題をマインドの問題だと判断してしまうことです。

なぜ誤診が起きるのか

外から見える症状が、3つとも同じだからです。

着手しない。進捗が出ない。質問してこない。

この3つの症状は、どの層が原因でも現れます。症状だけを見ると区別がつきません。

さらに、マインドの問題だと判断するのが最も簡単です。本人の内面は見えないので、反証もされません。「やる気がない」という結論は、どんな場合でも成立してしまいます。

成立してしまう説明は、たいてい誤診です。

スキルの層

「やり方が分からない」状態です。

要素内容
手順・段取りが不明何から始めればよいか分からない
経験・ノウハウ不足やったことがない
判断基準を持たないどこまでやれば完了か分からない
適切なツールを知らない手段を持っていない

現場での例

若手に「詳細設計書を書いておいて」と依頼したとします。

3日経っても何も出てきません。本人は真面目に机に向かっています。

このとき起きていることは、たいていこうです。設計書の書式を知らない。どの粒度まで書くのか分からない。過去の成果物を見たことがない。完了の基準が分からない。

本人は「分からない」と言い出せずにいます。言えば評価が下がると思っているからです。

これはスキルの層の問題です。やる気は十分にあります。

見分け方

次の質問で判定できます。

「同じ作業を、過去にやったことはありますか」

ないと答えたなら、スキルの層を疑ってください。

打ち手

打ち手内容
手本を見せる過去の成果物を渡す
粒度を示すどこまで書けば完了かを具体的に伝える
最初の一歩を一緒にやる15分だけ横について着手させる
判断基準を言語化する迷う分岐点をあらかじめ示す

精神論は不要です。情報を渡せば動きます。

確認の問い

次のうち、スキルの層の問題である可能性が最も高いものを選んでください。

番号選択肢
1何度も経験した作業を、今回だけ着手していない
2会議が続き、まとまった作業時間が取れていない
3前回のレビューで指摘が多く、提出をためらう
4初めて担当する工程で、完了の基準が不明である

解答 4

解説します。

4 がスキルの層です。経験がなく、判断基準も持っていません。情報を渡せば解決します。

1 は違います。経験がある作業で止まっているので、原因は別の層にあります。

2 は環境の層です。時間というリソースが不足しています。

3 はマインドの層です。失敗への不安が着手を妨げています。

補足します。1 のように「できるはずのことができていない」場合は、マインドか環境を疑ってください。スキルがある人が動かないときは、別の理由があります。

マインドの層

「やる気になれない」状態です。

要素内容
失敗への恐れ・不安うまくいかないことが怖い
完璧主義・自己批判不十分なものを出したくない
目的意識の希薄化なぜやるのか分からない
自己効力感の低下自分にはできないと感じている

自己効力感は、心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した概念です。「自分はこれをやり遂げられる」という見込みを指します。この見込みが下がると、能力があっても行動が起きにくくなります。

現場での例

コードレビューで毎回20件以上の指摘を受けた若手がいたとします。

次第に、プルリクエストを出すまでの時間が延びていきます。手元で何度も見直し、完璧になるまで出しません。結果として、レビューに回るのが遅くなり、手戻りがさらに増えます。

本人に聞けば「もう少し整えてから出したい」と答えます。実際には、指摘を受けることへの不安が着手と提出を遅らせています。

見分け方

次の質問で判定できます。

「やり方は分かっていて、時間もあるのに、手が動かない状態ですか」

そうだと答えたなら、マインドの層です。

打ち手

ここで注意が必要です。マインドの層に対して「やる気を出せ」は打ち手になりません。

打ち手内容
成功体験を小さく積む確実にできる範囲から始めさせる
失敗の扱いを変える指摘を人格評価と切り離して伝える
目的を再確認するこの作業が何につながるかを共有する
完了の基準を下げる60点で出してよいと明示する

最後の項目が効きます。完璧主義の人は、基準を自分で上げ続けます。外から基準を示すことで、提出できるようになります。

環境の層

「動ける状況にない」状態です。

要素内容
時間・リソース不足物理的に手が空いていない
誘惑・妨害要因が多い割り込みが頻繁に入る
支援・仲間の不在聞ける相手がいない
評価・報酬設計の欠如やっても評価されない

現場での例

改善提案を出してほしいと伝えているのに、誰からも出てこないとします。

調べてみると、こうなっていました。

全員が稼働率90%以上で詰まっている。提案を出しても実行する時間が取れない。過去に出した提案が3件とも棚上げになっている。提案しても評価項目に入っていない。

この状況では、誰も提案しません。意欲の問題ではなく、構造の問題です。

見分け方

次の質問で判定できます。

「時間とリソースがあれば、できますか」

できると答えたなら、環境の層です。

打ち手

打ち手内容
時間を確保する他の業務を外す。会議を減らす
割り込みを遮断する集中時間を予定として確保する
聞ける相手を決める質問先を明示する
評価に組み込むやったことが評価に反映される設計にする

ここが重要な点です。環境の層は、本人には直せません。

権限を持つ側が動かない限り、状況は変わりません。本人に努力を求めても、消耗するだけです。

層を見分ける順番

ここからが今回の要点です。

3つの層は、疑う順番が決まっています。

順番層理由
1環境観察できる。本人の内面を推測せずに判定できる
2スキル経験の有無で判定できる
3マインド上の2つを消去した後に、はじめて検討する

なぜこの順番なのか。

環境とスキルは、事実で確認できるからです。稼働時間、担当履歴、過去の成果物。いずれも調べれば分かります。

マインドは見えません。見えないものから疑うと、推測が結論になります。そして推測は、たいてい「やる気がない」という形に落ち着きます。

マインドの層を最後に置くことで、安易な誤診を避けられます。

確認の問い

部下が新しい調査タスクに2週間着手していません。原因を特定するとき、最初に確認すべきことを選んでください。

番号選択肢
1本人にやる気があるかどうかを面談で確認する
2この2週間の稼働状況と割り込み件数を確認する
3過去の評価結果を見て本人の傾向を確認する
4本人が仕事に意味を感じているかを確認する

解答 2

解説します。

2 が正解です。環境の層から確認します。稼働状況は記録で分かるので、推測が入りません。

1 と 4 はマインドの層の確認です。順番としては最後です。先に行うと、環境やスキルの問題を見落とします。

3 は過去の傾向であって、今回の原因ではありません。「この人はいつもそうだから」という判断は、個別の原因を見えなくします。

補足します。面談でいきなり「やる気はあるか」と聞かれると、本人は「あります」としか答えられません。情報が得られないうえ、信頼も損ないます。

層は連鎖する

もう一つ押さえておきたいことがあります。

3つの層は独立していません。連鎖します。

典型的な流れはこうです。

スキルが足りない状態で任される。うまくいかない。指摘を受ける。自己効力感が下がる。次から着手が遅れる。

出発点はスキルの層でした。しかし3か月後に観察すると、マインドの層の問題に見えます。

このとき、マインドだけに対処しても元に戻りません。根にあるスキルの不足を埋めない限り、同じことが繰り返されます。

逆方向の連鎖もあります。

環境が悪い。時間が取れない。品質が落ちる。評価が下がる。意欲が下がる。

ここでも、出発点は環境です。

今見えている層が、原因とは限りません。いつからそうなったかを遡ってください。

育成担当者と管理職の役割

3つの層のうち、本人が自力で変えられるのはスキルの一部だけです。

層本人が変えられるか
スキル一部可能。ただし学ぶ機会は与えられる必要がある
マインド技法次第で可能。ただし環境の影響を強く受ける
環境ほぼ不可能

環境の層は、権限を持つ側の責任です。

「主体性が足りない」と評価する前に、主体的に動ける状況が用意されているかを確認してください。順番が逆になっている職場は少なくありません。

注意点

3つ補足します。

一つ目は、複数の層が同時に問題になっていることが多いという点です。単一の層だけが原因であることは、実際にはあまりありません。優先順位をつけて、手を付けられるものから対処してください。

二つ目は、本人への確認の仕方です。「なぜやらないのか」と問うと、本人は理由を探して答えます。多くの場合、本当の原因ではなく、答えやすい理由が出てきます。「何があればできるか」と問うほうが、実態に近い答えが得られます。

三つ目は、自分自身に適用するときの難しさです。自分の動けない理由を分析すると、環境のせいにしたくなります。他人を見るときとは逆のバイアスがかかります。自分に対しては、スキルの層を先に疑ってみてください。

まとめと次の学習ステップ

動けない原因は、スキル、マインド、環境の3つの層に分かれます。

スキルの層は「やり方が分からない」状態です。情報を渡せば動きます。

マインドの層は「やる気になれない」状態です。完了の基準を下げることが効きます。

環境の層は「動ける状況にない」状態です。本人には直せません。

そして、疑う順番は環境、スキル、マインドです。見えるものから確認し、見えないものは最後に回してください。順番を逆にすると、「やる気がない」という結論に飛びつきます。

次の学習ステップとして、3つを提案します。

一つ目は、いま止まっている自分の仕事を1つ選び、3つの質問に答えることです。やったことがあるか。時間はあるか。やり方は分かっているか。この3つで層が絞れます。

二つ目は、動いていない部下について、環境の確認から始めることです。稼働状況と割り込み件数を調べてください。面談はその後です。

三つ目は、過去にさかのぼることです。今マインドの問題に見えている状態が、いつ始まったかを確認してください。出発点に別の層があるかもしれません。

次回からは、具体的な技法に入ります。第4回は、動き出せない人のための3つの技法です。ベビーステップ、5秒ルール、環境設定を扱います。

動き出せない人のための3つの技法 ベビーステップ・5秒ルール・環境設定

前回は、動けない原因を3つの層に分けました。スキル、マインド、環境です。

今回から、具体的な技法に入ります。

対象は、こういう状態の方です。やることは分かっている。時間もある。それでも手が動かない。

第2回のセルフチェックで完璧主義型と判定された方は、ここが課題です。

結論

動き出せないときは、意志を強く持とうとしないでください。

代わりに、着手のハードルを下げます。方法は3つです。

技法考え方一言で言うと
ベビーステップ最初の一歩を極限まで小さくする小さくする
5秒ルール思いついたら5秒以内に動く速くする
環境設定意志力ではなく仕組みで動く摩擦を減らす

3つとも、本人の性格を変えようとはしません。着手の条件を変えます。

なぜ意志に頼ると失敗するのか

「明日から本気を出す」と決めても、翌日になると同じ状態に戻ります。経験のある方は多いと思います。

理由は2つあります。

一つ目は、意志が消耗することです。

判断や我慢を重ねると、意志の力は目減りしていきます。朝は動けても、夕方には動けません。意志を前提にした計画は、1日の後半で崩れます。

二つ目は、意志が働く前に脳が言い訳を用意することです。

大きなタスクを前にすると、脳は回避の理由を探し始めます。「情報が足りない」「今は集中できない」「先にメールを片づけよう」。いずれも正論に見えます。

意志と言い訳が戦うと、言い訳が勝ちます。言い訳のほうが具体的だからです。

したがって、戦わない方法を取ります。

技法1 ベビーステップ

最初の一歩を、極限まで小さくします。

やり方

タスクを、着手に抵抗を感じないところまで分解します。

元のタスクベビーステップ
企画書を書くタイトルだけ書く
詳細設計書を書く見出しを5つ並べる
リファクタリングする対象ファイルを開く
技術調査をする検索キーワードを3つメモする
障害報告をまとめる発生時刻だけ書く

右側を見て「これならできる」と感じるなら、適切な大きさです。少しでも重く感じるなら、まだ大きすぎます。

大きさの判定基準

分解の目安は、2分です。

2分で終わらないなら、さらに割ってください。「2分で終わるか」を基準にすると、分解しすぎることがありません。

なぜ効くのか

着手してしまえば、続きやすくなるからです。

ファイルを開いただけのつもりが、気づくと30分書いていた。この経験は多くの方にあると思います。

止まっているものを動かすときに最も力が要ります。動き始めた後は、同じ力は必要ありません。

現場での例

新機能の実装を任された若手が、3日間設計で止まっていました。

本人に「今日は、関数の名前だけ決めてください」と伝えました。コードは1行も書かなくてよいと添えました。

その日の夕方には、骨組みが動いていました。

名前を決めるために、入出力を考える必要があります。入出力を考えると、処理の流れが見えます。小さな一歩が、次の一歩を引き出しました。

確認の問い

次のうち、ベビーステップとして適切なものを選んでください。元のタスクは「顧客向けの障害報告書を作成する」です。

番号選択肢
1報告書のファイルを作り、日付だけ入力する
2原因分析を終わらせ、再発防止策までまとめる
3関係者に確認を取り、内容の合意を得ておく
4過去の報告書を3件読み、書き方を比較検討する

解答 1

解説します。

1 が適切です。2分以内に終わり、抵抗もありません。そして次の一歩につながります。

2 は分解になっていません。元のタスクとほぼ同じ重さです。

3 は他人の都合に依存します。自分だけで完結しない作業は、最初の一歩に向きません。

4 は一見小さく見えますが、3件読むと30分かかります。また、情報収集は着手の先延ばしに使われやすい作業です。

補足します。4 のような「準備」は、完璧主義型の方が無意識に選びがちです。準備をしている間は、失敗しません。しかし前には進みません。

技法2 5秒ルール

思いついたら、5秒以内に動きます。

やり方

やるべきことが頭に浮かんだら、5、4、3、2、1と数えて、1で体を動かします。

考えません。数えて、動きます。

背景

この手法は、メル・ロビンスが提唱したものです。

考え方はこうです。何かを思いついてから数秒のうちに、脳はやらない理由を作り始めます。その前に体を動かしてしまえば、言い訳が間に合いません。

カウントダウンは、意識を「やるかどうか」から「数を数えること」へ逸らす役割を持ちます。

ただし、効果の科学的な検証は十分とは言えません。有効性を保証するものではなく、試す価値のある方法として扱ってください。実際に合う人と合わない人がいます。

現場での例

5秒ルールが効くのは、次のような場面です。

場面5秒以内にやること
レビュー指摘が届いた該当ファイルを開く
質問しようと思ったチャットの入力欄を開く
不具合を見つけた課題管理ツールを開く
会議で発言しようと思った手を挙げる、またはミュートを外す

共通しているのは、どれも最初の動作が物理的だということです。

頭の中で「やろう」と思うだけでは5秒ルールになりません。何かを開く、何かを押す。体の動きを伴わせてください。

向いていない場面

この技法は、判断が必要な場面には向きません。

本番環境への適用、人事に関わる発言、契約条件の返答。こうした場面で5秒で動くと、事故になります。

5秒ルールは、やると決まっているのに動けないときに使うものです。やるかどうかを決める場面では使わないでください。

技法3 環境設定

意志力ではなく、仕組みで動きます。

やり方

行動の摩擦を減らし、妨害を増やします。

目的具体策
やりたい行動の摩擦を減らす道具を出しておく。ファイルを開いたままにする
やりたくない行動の摩擦を増やすスマートフォンを別室に置く。通知を切る

着手に必要な動作が1つ減るたびに、着手率は上がります。逆に、妨害に必要な動作が1つ増えるたびに、妨害は減ります。

現場での例

開発の現場で効果が出やすいものを挙げます。

設定効果
終業時にエディタを開いたまま終わる翌朝、起動と環境の呼び出しが不要になる
翌日の作業ブランチを前日に切っておく朝一番の判断が1つ減る
通知を集中時間だけ切る割り込みによる中断を防ぐ
スマートフォンを引き出しに入れる手に取る動作が1つ増える
作業中のメモをデスクに開いたままにする中断しても再開点が分かる

1つ目は特に効きます。

終業時にきれいに片づけると、翌朝は何も残っていません。そこから思い出す作業が必要になります。この「思い出す」が着手の壁になります。

あえて途中で止めると、翌朝の再開が楽になります。小説家のヘミングウェイが、次に書く内容が分かっている状態で筆を置いたという逸話があります。考え方は同じです。

環境設定が効く層

ここで第3回の内容とつながります。

ベビーステップと5秒ルールは、マインドの層に効く技法です。不安や完璧主義による躊躇を緩めます。

環境設定は、環境の層に直接効きます。

したがって、原因が環境にある場合、前の2つでは解決しません。割り込みが1日20回入る状況で、5秒ルールを使っても無駄です。

3つの使い分け

どれを使うかは、状況で決まります。

状況使う技法
タスクが大きく、どこから手をつけるか分からないベビーステップ
やることは決まっているが、先延ばししている5秒ルール
同じ場面で毎回動けなくなる環境設定

判断の軸は、繰り返すかどうかです。

今日1回だけの問題なら、5秒ルールで乗り切れます。毎日起きる問題なら、環境設定が必要です。

毎日起きることに毎日気合いで対処するのは、続きません。

確認の問い

次の状況に最も適した技法を選んでください。状況は「毎朝、作業を始めるまでに40分かかる。メールとチャットを見ているうちに時間が過ぎる」です。

番号選択肢
1タスクを2分で終わる単位まで細かく分解する
2動こうと思った瞬間に5秒数えて体を動かす
3朝はメールとチャットを開かない設定にする
4始業前に今日やることを紙に書き出してみる

解答 3

解説します。

3 が適切です。毎朝繰り返し起きている問題なので、環境設定で対処します。開かない設定にすれば、意志の力を使わずに済みます。

1 はベビーステップです。タスクの大きさが原因ではないので、この問題には効きません。

2 は5秒ルールです。1回限りの先延ばしには有効ですが、毎朝のこととなると毎朝気合いが必要になります。続きません。

4 は準備としては有効ですが、メールを開いてしまう問題そのものは解決しません。

補足します。繰り返す問題に対しては、必ず環境設定を検討してください。意志で対処し続けると、消耗して元に戻ります。

注意点

3つ補足します。

一つ目は、技法が効かない層があることです。

やり方が分からない状態、つまりスキルの層の問題に対して、この3つは効きません。ベビーステップで分解しようにも、分解の仕方が分からないからです。この場合は、手本を見ることが先です。

二つ目は、ベビーステップを準備に使わないことです。

「資料を集める」「先行事例を調べる」は、一見小さな一歩に見えます。しかし、これらは着手の先延ばしに使われます。最初の一歩は、成果物に直接つながるものを選んでください。

三つ目は、環境設定を一度に多く変えないことです。

通知を切り、スマートフォンを別室に置き、席を変え、ツールを入れ替える。同時に変えると、どれが効いたか分かりません。1つずつ試して、効いたものを残してください。

まとめと次の学習ステップ

動き出せないときは、意志を強く持とうとしないでください。着手のハードルを下げます。

ベビーステップは、最初の一歩を2分で終わる大きさまで小さくします。動き始めてしまえば、続きやすくなります。

5秒ルールは、思いついてから5秒以内に体を動かします。脳が言い訳を作る前に着手します。ただし、判断が必要な場面では使わないでください。

環境設定は、行動の摩擦を減らし、妨害の摩擦を増やします。毎回起きる問題には、これが必要です。

使い分けの軸は、繰り返すかどうかです。1回限りなら5秒ルール、毎回起きるなら環境設定を選んでください。

次の学習ステップとして、3つを提案します。

一つ目は、いま止まっているタスクを1つ選び、2分で終わる最初の一歩に分解することです。紙に書いてみてください。頭の中だけでは分解できません。

二つ目は、明日の終業時にエディタを開いたまま帰ることです。翌朝の着手がどう変わるかを観察してください。

三つ目は、自分が毎回つまずく場面を1つ特定することです。毎回なら、環境に原因があります。何を1つ減らせば動きやすくなるかを考えてみてください。

次回は、やり抜く力を扱います。タスク分解、PDCA、そしてGRITです。第2回で花火型と判定された方は、次回が本題になります。

やり抜く力を鍛える タスク分解・PDCA・GRIT

前回は、動き出すための3つの技法を扱いました。ベビーステップ、5秒ルール、環境設定です。

今回は逆側です。始めることはできる。しかし終わらない。

第2回のセルフチェックで花火型と判定された方は、ここが本題になります。

結論

やり抜くために必要なものは、3つです。

技法性質役割
タスク分解仕組み大きな山を階段に変える
PDCA仕組み短く速く回して精度を上げる
GRIT姿勢困難を乗り越える思考習慣

順番が重要です。

仕組みを先に整えて、姿勢は後です。姿勢から入ると、精神論になって続きません。

なぜ続かないのか

続かない理由は、意志の弱さではありません。

典型的な失敗は、こうです。

「このプロジェクトを成功させる」という大きな目標を立てます。最初の1週間は進みます。2週目に入ると、何をすれば前進なのか分からなくなります。進んだ実感がないので、モチベーションが落ちます。3週目に別の案件が入り、そのまま止まります。

ここで起きているのは、目標が大きすぎて進捗が見えないことです。

人は、進んでいる実感がないものを続けられません。意志の問題ではなく、構造の問題です。

技法1 タスク分解

大きな山を、階段に変えます。

ベビーステップとの違い

前回のベビーステップと混同しやすいので、先に区別します。

技法対象目的
ベビーステップ最初の一歩だけ着手する
タスク分解全体完遂する

ベビーステップは、動き出すための技法です。最初の一歩だけを小さくします。

タスク分解は、やり抜くための技法です。最後までの道のりを、すべて段差の低い階段に変えます。

花火型の方は、ベビーステップだけでは足りません。着手はできるからです。必要なのは、2週目以降も進捗が見える構造です。

やり方

3つの原則があります。

原則内容
1日単位・1時間単位まで細分化する「今日やること」が明確になる大きさまで割る
次にやることを1つに絞る同時に複数を見ない
進捗が見える形にする終わったものに印をつける

現場での例

「ユーザー登録APIを実装する」というタスクを分解します。

順番タスク想定時間
1エンドポイントの仕様を1枚に書く30分
2リクエストの型定義を書く30分
3入力値の検証処理を書く1時間
4永続化処理を書く1時間
5異常系の処理を書く1時間
6単体テストを書く2時間
7動作確認して記録を残す30分

分解前は「APIを実装する」という1つの塊でした。進捗を聞かれても「やっています」としか答えられません。

分解後は、7段階のうち何段目かが言えます。

粒度の判定基準

1つの目安は、1時間から半日です。

1日以上かかる項目が残っていたら、まだ割れます。逆に、10分単位まで割ると管理が重くなります。

もう1つの基準は、完了が自分で判断できるかどうかです。

「設計を考える」は完了を判断できません。「設計を1枚にまとめる」なら判断できます。成果物の形で書いてください。

確認の問い

次のうち、タスク分解として最も適切なものを選んでください。元のタスクは「既存システムの性能改善」です。

番号選択肢
1性能を調査する、改善する、効果を測定する
2遅い処理の上位5件を一覧にして1枚にまとめる
3チーム全員で改善案のアイデアを出し合ってみる
4性能改善の一般的な手法を書籍で学習しておく

解答 2

解説します。

2 が適切です。成果物の形になっており、完了を自分で判断できます。所要時間も見積もれます。

1 は分解に見えますが、各項目がまだ大きすぎます。「改善する」が何日かかるか分かりません。

3 は他人の都合に依存します。また、アイデア出しは完了の判断が難しい作業です。

4 は学習であって、タスクの前進ではありません。前回も触れたとおり、準備は先延ばしに使われやすい作業です。

補足します。分解したつもりで動詞を並べただけ、という状態がよく起きます。「調査する」「検討する」「対応する」は、分解の結果ではありません。名詞で終わる成果物に直してください。

技法2 PDCA

短く、速く、何度も回します。

考え方

Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4段階です。

ここで強調したいのは、サイクルの長さです。

多くの職場では、PDCAが四半期単位や年単位で回っています。この長さでは、気づいたときには手遅れです。

週次にしてください。金曜日の15分で十分です。

振り返りの3つの問い

週次で確認するのは、次の3点です。

問い目的
今週、進んだことは何か前進の確認
止まったことは何か、なぜ止まったか障害の特定
来週、最初にやることは何か次の一手の確定

3つ目が重要です。

振り返りを感想で終えると、翌週も同じ状態が続きます。次の行動を1つ決めてから終わってください。

振り返りがないとどうなるか

やりっぱなしになります。

同じところで3回つまずいても、気づきません。毎回「今回は運が悪かった」と解釈して次に進みます。

振り返りの価値は、繰り返しに気づくことです。1回目は偶然ですが、3回目はパターンです。パターンには対策が打てます。

現場での例

毎週金曜の16時45分から15分、カレンダーに固定で入れてしまうのが確実です。

内容は3行で構いません。

進んだ:APIの異常系まで完了
止まった:テストデータの作成。本番相当のデータが手元にない
来週最初:月曜9時に、データ準備をインフラ担当へ依頼

この記録が4週間たまると、自分がどこで止まりやすいかが見えてきます。

技法3 GRIT

ここから姿勢の話になります。

用語を正確に整理する

GRIT という言葉は、日本では2通りの説明がされています。混乱しやすいので、先に整理します。

原典は、心理学者アンジェラ・ダックワースの研究です。

ダックワースの定義では、GRIT は「長期的な目標に対する情熱と粘り強さ」を指します。1つの英単語であり、頭字語ではありません。構成要素は情熱と粘り強さの2つです。

一方、日本のビジネス書や研修では、次の4語の頭字語として紹介されることがあります。

文字語意味
GGuts度胸
RResilience回復力
IInitiative自発性
TTenacity執念

この4語の解釈は、日本で広まったものです。原典にはありません。

どちらが正しいという話ではなく、出典が違います。研修で説明する立場の方は、この区別を押さえておいてください。受講者から指摘されることがあります。

本記事では、原典の2要素を核としたうえで、実務で使いやすい形に整理した5つの要素で説明します。

やり抜く力を構成する5つの要素

要素内容
情熱目標に継続的な関心と愛着を持ち続ける
粘り強さ困難に直面しても簡単に諦めない
長期的視点数年単位で目標を追い続ける
成長マインドセット失敗を「今はまだできていない」と捉える
回復力落ち込んでも立ち直り、学んで次に活かす

最初の2つが、ダックワースの原典にあたります。

4つ目の成長マインドセットは、心理学者キャロル・ドゥエックの概念です。能力は固定ではなく伸ばせるという信念を指します。

5つ目の回復力は、レジリエンスと呼ばれるものです。

実務でどう使うか

5つのうち、意識的に鍛えられるのは成長マインドセットと回復力です。

情熱と長期的視点は、仕事の内容そのものに左右されます。本人の努力で変えにくい部分です。

成長マインドセットは、失敗の解釈を変える習慣です。

レビューで20件指摘されたとき、「自分には向いていない」と解釈するか、「このパターンをまだ知らなかった」と解釈するか。後者であれば、次に活かせます。

これは性格ではなく、言葉の選び方です。訓練できます。

自分のGritを測る

当社では、Gritを測定する診断ツールを公開しています。

第2回のセルフチェックが行動力と実行力のバランスを測るものだったのに対し、こちらはやり抜く力そのものを測ります。

確認の問い

GRIT の説明として、適切なものを選んでください。

番号選択肢
14つの英単語の頭字語としてダックワースが提唱した
2短期的な集中力の高さを測る指標として開発された
3才能の有無を判定し、適性を見極めるために使われる
4長期的な目標に対する情熱と粘り強さを指す概念である

解答 4

解説します。

4 が原典の定義です。情熱と粘り強さの2要素で構成されます。

1 は誤りです。4語の頭字語としての解釈は日本で広まったもので、ダックワースの原典にはありません。

2 は誤りです。GRIT は長期的な継続を扱う概念であり、短期的な集中力とは別です。

3 も誤りです。才能の判定ではありません。むしろ、才能よりも継続が成果を左右するという主張が出発点です。

補足します。研修でこのテーマを扱う講師の方は、1 の誤解が受講者側にあることを前提にしてください。先に出典を整理しておくと、後の議論が混乱しません。

3つの関係

最後に、3つの技法の関係を整理します。

技法層先にやるべきか
タスク分解仕組み最初
PDCA仕組み次
GRIT姿勢最後

よくある失敗は、GRIT から入ることです。

「やり抜く力が足りない」という診断から始めると、打ち手が精神論になります。そして本人は、すでに頑張っています。頑張りが足りないという結論は、本人を追い詰めるだけです。

先に構造を整えてください。

分解されていない仕事は、誰であっても続きません。振り返りのない仕事は、同じ失敗を繰り返します。この2つを整えたうえで、それでも続かない部分に姿勢の問題が残ります。

順番を守ると、GRIT の話が精神論になりません。

注意点

3つ補足します。

一つ目は、GRIT の効果についてです。

近年の研究では、GRIT が成果を予測する力は、当初言われていたほど大きくないという指摘があります。また、性格特性のひとつである誠実性と重なる部分が大きいという分析もあります。

この指摘は、GRIT が無意味だという意味ではありません。姿勢だけを鍛えても成果は出にくい、ということです。だからこそ、仕組みとセットで扱う必要があります。研修で扱う際は、精神論に寄せすぎないでください。

二つ目は、タスク分解のやりすぎです。

分解に時間をかけすぎると、それ自体が先延ばしになります。10分単位まで割る必要はありません。また、分解した計画は途中で変わります。最初に全体を完璧に割ろうとせず、次の2段階だけ細かく割れば十分です。

三つ目は、PDCA の形骸化です。

週次の振り返りを続けていると、記録を書くこと自体が目的になることがあります。防ぐには、3つ目の問いを必ず書いてください。来週の最初の行動が書かれていない振り返りは、感想文です。

まとめと次の学習ステップ

やり抜く力は、仕組みと姿勢の2層でできています。

タスク分解は、大きな山を階段に変えます。1時間から半日の単位で、成果物の形に割ってください。動詞を並べただけでは分解になりません。

PDCA は、週次で回します。金曜の15分で十分です。進んだこと、止まったこと、来週の最初の一手。この3つを書いてください。

GRIT は、長期的な目標に対する情熱と粘り強さを指します。日本で広まっている4語の頭字語は、原典にはない解釈です。実務では、成長マインドセットと回復力が鍛えやすい部分です。

そして順番は、仕組みが先、姿勢が後です。構造を整えずに姿勢を問うと、精神論になります。

次の学習ステップとして、3つを提案します。

一つ目は、いま抱えている最も大きなタスクを、1時間から半日の単位に分解することです。成果物の名詞で書いてください。

二つ目は、今週の金曜日にカレンダーを15分押さえることです。3つの問いに答えるだけで構いません。4週間続けると、自分のつまずきのパターンが見えます。

三つ目は、Grit診断を受けてみることです。やり抜く力の現在地が数値で分かります。

次回は、後回しを防ぐ仕組みを扱います。2分ルール、即予定化、即確認の3技法に加えて、頭の中のタスクを外に出す方法と、1日の流れの作り方まで扱います。連載で最も実務に直結する回になります。

後回しをなくす6つの技法 2分ルール・即予定化・即確認

前回は、やり抜く力を扱いました。タスク分解、PDCA、GRITです。

今回は、実行力を落とす最大の原因を扱います。後回しです。

連載のなかで、最も実務に直結する回になります。今日から変えられる内容だけで構成しました。

結論

後回しをなくす技法は、3つです。第4回の3つと合わせて、6つになります。

番号技法内容
1ベビーステップ最初の一歩を小さくする(第4回)
25秒ルール考える前に動き出す(第4回)
3環境設定動ける状況を先に作る(第4回)
42分ルール2分で終わることは、その場で終わらせる
5即予定化「後で」を「いつ」に変える
6即確認曖昧な指示は、その場で5項目を確認する

貫いている原則は1つです。

頭の中にタスクを残さないことです。

なぜ後回しが実行力を下げるのか

後回しの害は、その仕事が遅れることではありません。

害1 頭の中に残り続ける

「後でやろう」と判断した時点で、そのタスクは頭の中に居座ります。

メールの返信が1件、確認が1件、見積りの依頼が1件。それぞれ数分で終わる仕事でも、未完了のまま5件たまると、常に5件を抱えた状態になります。

未完了のタスクは、忘れないように意識の片隅で保持し続ける必要があります。これが疲労の原因です。

害2 集中力を奪う

この状態で、本来やるべき設計作業に取りかかります。

集中しようとしても、頭のどこかで「あの返信、まだだった」という信号が出ます。作業に戻るたびに切り替えのコストがかかります。

結果として、2分で終わる仕事を5件後回しにしたために、3時間の設計作業の質が落ちます。

押さえてほしい一言

仕事が速い人は、すべてを覚えている人ではありません。

覚えておく必要がない状態を、先に作っている人です。

これが今回の全体を貫く考え方です。

技法4 2分ルール

2分以内に終わることは、その場で終わらせます。

出典

この技法は、デビッド・アレンの『Getting Started』ではなく『Getting Things Done』で示されたものです。日本語では『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』として知られています。

原典では「2分以内に終わるなら、その場でやる」と説明されています。数字そのものに厳密な根拠があるわけではなく、目安です。

なぜ効くのか

2分で終わる仕事を後回しにすると、管理コストのほうが高くなります。

項目その場でやる後回しにする
作業時間2分2分
管理の手間なしメモする、思い出す、再び判断する
頭の負荷なし完了まで残り続ける

後回しにすると、同じ2分の仕事に、記録と想起と再判断が追加されます。

現場での例

次のようなものが、2分以内の仕事です。

仕事所要時間
「承知しました、月曜に対応します」の返信30秒
会議の出席可否の回答30秒
プルリクエストに承認を出す1分
確認事項をチャットで投げる1分
カレンダーに締切を入れる1分

とくに最後の2つが重要です。

質問を投げる、締切を登録する。この2つを後回しにすると、後の手戻りが大きくなります。

注意点

2分ルールには、使ってはいけない場面があります。

集中作業の途中です。

設計を考えている最中に、2分の仕事を10件片付けると、集中が完全に途切れます。2分ルールは、作業の切れ目に適用してください。

具体的には、メールやチャットを確認した直後が適用のタイミングです。確認したその場で、2分で終わるものはすべて処理します。残ったものだけを、次の技法に回します。

確認の問い

2分ルールの使い方として、適切なものを選んでください。

番号選択肢
1設計作業に集中している途中でも、届いた依頼は即処理する
22分を超える仕事も、勢いがあるうちに続けて片付けておく
3メールを確認した直後に、2分で終わるものだけ処理する
41日分をためておき、終業前にまとめて一気に処理していく

解答 3

解説します。

3 が適切です。確認した直後という切れ目で適用し、2分で終わるものに限定しています。

1 は誤りです。集中作業の中断は、2分ルールの最も避けたい使い方です。切り替えのコストが、節約した管理コストを上回ります。

2 も誤りです。2分という上限に意味があります。上限を外すと、重い仕事に流されて本来の予定が崩れます。

4 は後回しそのものです。確認した時点で判断を終えていないため、頭の中に残り続けます。

補足します。2分ルールの効果は、処理の速さではなく、判断の回数を1回に抑えることにあります。見た瞬間に処理するか予定に入れるかを決めれば、同じ案件を二度考えなくて済みます。

技法5 即予定化

2分を超える仕事は、いつやるかを決めます。

「後で」を「いつ」に変える

後回しの正体は、実行の予定が決まっていないことです。

言い方状態
後でやります実行されない可能性が高い
明日中にやりますまだ不十分
明日の10時から30分でやります実行される

カレンダーに入れてください。タスクリストに入れるだけでは弱いです。

タスクリストは「やること」の一覧です。カレンダーは「やる時間」の確保です。時間を確保しないタスクは、他の予定に押し出されます。

現場での例

上司から「来週までに、あの障害の原因をまとめておいて」と言われた場面です。

後回しになる対応は、こうです。頭の中に「来週までに障害報告」と記録して、作業に戻ります。

即予定化する対応は、こうです。その場でカレンダーを開き、木曜の14時から1時間を押さえます。件名に「障害報告の作成」と書きます。

後者であれば、木曜の14時に自動的に思い出します。それまで、頭の中から追い出せます。

予定の入れ方

3つの原則があります。

原則理由
締切の日ではなく、作業する日に入れる締切日に入れると当日まで動かない
所要時間を見積もって幅で押さえる時間を決めないと着手が遅れる
締切の2日前までに終わる位置に置く想定外の割り込みに耐える

3つ目が重要です。

締切の当日に作業予定を入れると、その日に別件が入った瞬間に崩れます。バッファを前提に置いてください。

確認の問い

「金曜締切の報告書」について、即予定化として最も適切なものを選んでください。

番号選択肢
1水曜の10時から2時間を、作成時間として押さえる
2金曜の朝に、報告書を提出するという予定を入れる
3タスクリストに「金曜までに報告書」と追加しておく
4空き時間ができたタイミングで着手すると決めておく

解答 1

解説します。

1 が適切です。作業する日時を決め、所要時間を確保し、締切の2日前に置いています。

2 は締切の記録であって、作業の予定ではありません。提出する予定を入れても、作成する時間は確保されていません。

3 はタスクリストへの記録です。やることは残りますが、時間が確保されていないため、他の予定に押し出されます。

4 は即予定化の反対です。空き時間は、意図して作らない限り発生しません。

補足します。1 を実行した結果、水曜に別件が入ることはあります。そのときは予定を木曜に動かしてください。重要なのは、動かす判断ができることです。予定がなければ、動かす対象すら存在しません。

技法6 即確認

曖昧な指示は、その場で確認します。

なぜ後回しの原因になるのか

指示が曖昧なまま受け取ると、着手できません。

「あの件、進めておいて」と言われた場合、何から手を付けるべきか分かりません。分からないものは着手が遅れます。そして、分からないことを質問するのを後回しにします。

第3回で扱った真因の3層で言えば、これはスキルの層の問題です。やり方が分からない状態です。

確認する5項目

受けた時点で、次の5つを確認してください。

項目確認する内容
担当誰がやるのか。自分だけか、分担があるか
範囲どこまでやるのか。含まないものは何か
期限いつまでか。中間報告は必要か
成果物何を出せば完了か。形式は何か
確認者誰のレビューを受けるのか

この5つが埋まれば、着手できます。埋まっていなければ、どこかで止まります。

現場での例

「あの件、進めておいて」に対する確認は、こうなります。

項目確認の言い方
担当私が主担当で、設計レビューは田中さんという理解でよいでしょうか
範囲今回は検索機能のみで、一覧画面は次回という整理でしょうか
期限11月7日の定例で報告する前提で進めます
成果物設計書1枚と、動作する試作でよいでしょうか
確認者提出前に部長の確認は必要でしょうか

その場で30秒から1分です。後の手戻りを考えれば、圧倒的に安いコストです。

頭の中から外に出す

ここまでの3つの技法は、すべて同じ考え方に立っています。

脳は倉庫ではなく作業台

脳は、記憶を保持する装置としては不安定です。考える装置としては優秀です。

であれば、記憶は外に置いて、脳は考えることに使うべきです。

置き場を決めておいてください。

覚えておきたいもの置き場
締切、作業予定カレンダー
小さなタスクタスク管理ツール
聞きたいこと質問メモ
学んだことノート、社内Wiki
繰り返す手順チェックリスト

重要なのは、迷わないことです。

何かを思い出したときに「これはどこに書くべきか」と考える状態では、書かずに済ませてしまいます。置き場が1対1で決まっていれば、反射で書けます。

質問メモが効く理由

若手エンジニアに最も効果があるのは、質問メモです。

作業中に疑問が出たとき、すぐ聞けるとは限りません。相手が会議中のこともあります。そのとき、頭の中に留めておくと忘れます。

質問メモに1行書いてください。そして、相手が空いたタイミングでまとめて聞きます。

これには副作用もあります。書いている途中で自己解決することがあります。言語化すると、調べるべき対象が明確になるためです。

質問の型と時間の上限

後回しのもう1つの形が、質問の先延ばしです。

質問の型

聞き方が決まっていないと、質問そのものが重い作業になります。4項目の型を使ってください。

項目内容
目的何をしようとしているのか
困っていることどこで止まっているのか
確認したこと何を調べ、何を試したのか
聞きたいこと何を教えてほしいのか

3つ目があると、相手の答え方が変わります。調べていない人への説明と、調べた人への説明は違います。

詰まる時間に上限を設ける

もう1つ決めておいてほしいのが、時間の上限です。

状況行動
15分調べて方向性が見えない質問する
30分試しても進まない相談する

数字は目安です。チームで合意して決めてください。

上限を決める意味は2つあります。

1つは、無駄な時間を減らすことです。もう1つは、質問してよいという判断基準を本人に与えることです。

多くの若手は、どのタイミングで聞いてよいか分からずに迷っています。上限が決まっていれば、迷いません。15分経ったから聞く、という判断ができます。

育成を担当される方は、この上限をチームのルールとして明示してください。本人の性格に任せると、聞けない人は何時間も抱え込みます。

後回しを防ぐ1日の流れ

6つの技法を、1日の中に配置します。

時間帯やること使う技法
朝カレンダーを確認し、今日やることを3つに絞る即予定化
午前最も重い仕事に着手する。通知は切る環境設定、タスク分解
昼メールとチャットを確認し、2分のものを処理する2分ルール、即予定化
午後会議、質問、確認など人が関わる仕事を置く即確認、質問の型
夕方翌日の最初の一手を決め、環境を整えて帰る環境設定

設計の意図を説明します。

午前に重い仕事を置くのは、判断力が高い時間帯だからです。ここに細かい処理を入れると、1日の生産性が大きく下がります。

メールの確認を昼に寄せるのは、朝の集中時間を守るためです。朝一番にメールを開くと、他人の依頼で午前が埋まります。

午後に人が関わる仕事を置くのは、相手の都合に合わせやすい時間帯だからです。

夕方に翌日の一手を決めるのは、第4回の環境設定です。翌朝の立ち上がりが変わります。

この型は、職種によって調整が必要です。問い合わせ対応が主な方は、午前を確保できません。自分の仕事の性質に合わせて、重い仕事を置く時間帯を1つ決めてください。

注意点

3つ補足します。

一つ目は、ツールを増やしすぎないことです。

置き場を決めるという話をしましたが、ツールが5つに分散すると、どこに書いたか分からなくなります。カレンダー、タスク管理、メモの3つに収めてください。

二つ目は、即確認を質問攻めにしないことです。

5項目を機械的に全部聞くと、相手が構えます。明らかに自明な項目は飛ばしてください。確認したいのは、埋まっていない項目だけです。

三つ目は、6つを同時に始めないことです。

今回紹介した技法は、どれも単独で効きます。まず1つ選んでください。花火型の方には即予定化、完璧主義型の方には2分ルール、受動型の方には即確認が入口になりやすいです。

まとめと次の学習ステップ

後回しの害は、仕事が遅れることではありません。頭の中にタスクが残り、集中力を奪うことです。

2分ルールは、2分で終わる仕事をその場で終わらせます。管理コストのほうが高いからです。適用するのは、作業の切れ目です。

即予定化は、「後で」を「いつ」に変えます。カレンダーに、作業する日時を押さえてください。締切の2日前までに終わる位置に置きます。

即確認は、担当、範囲、期限、成果物、確認者の5項目を、受けた時点で確認します。

そして全体を貫く原則は1つです。覚えておく必要がない状態を、先に作ることです。

次の学習ステップとして、3つを提案します。

一つ目は、今日の終業前に、明日の最初の1時間をカレンダーに押さえることです。件名に、具体的な作業名を書いてください。

二つ目は、質問メモを1つ作ることです。紙でもテキストファイルでも構いません。明日1日、疑問が出たらすべて1行で書いてください。

三つ目は、チームで時間の上限を決めることです。15分と30分の数字を、口頭で共有するだけでも変わります。

次回は、続く人と続かない人の差を扱います。Will-Can-Mustの枠組みと、継続を支える4つの心理メカニズムです。技法ではなく、技法が機能する土台の話になります。自分のためだけでなく、部下や後輩が続かない理由を理解したい方にも役立つ回です。

続く人と続かない人の差 Will-Can-Mustと4つの心理メカニズム

前回まで、6つの技法を扱いました。ベビーステップ、5秒ルール、環境設定、2分ルール、即予定化、即確認です。

今回は、技法の話をしません。

技法を試したのに続かなかった、という状態を扱います。技法が機能する土台の話です。

部下や後輩が続かない理由を理解したい方にも役立つ回になります。

結論

続く人と続かない人の差は、意志の強さではありません。

次の2つが揃っているかどうかです。

要素役割枠組み
方向なぜやるのかが本人の中で説明できるWill-Can-Must
動力続けるための心理的な仕組みが働いている4つの心理メカニズム

技法は、方向と動力があって初めて機能します。

方向がない状態で技法を導入すると、やらされ仕事が効率化されるだけです。動力がない状態では、3日で止まります。

Will-Can-Must

まず方向です。

3つの問い

要素問い
Will自分は何をやりたいのか
Can自分は何ができるのか
Must自分は何を求められているのか

この3つが重なる領域に仕事があると、人は続きます。

重なりがない仕事は、どれだけ技法を使っても続きません。

出典について

Will-Can-Mustは、日本の人材開発の現場で広く使われている枠組みです。企業研修やキャリア面談で頻繁に登場します。

ただし、単一の学術的な原典を特定しにくい枠組みです。類似の発想として、エドガー・シャインのキャリア・アンカー論などがありますが、Will-Can-Mustという3語の形で普及したのは日本の実務領域です。

研修で使う際は、有用な整理の道具として扱うのが適切です。理論的な裏付けを強く主張すると、質問されたときに答えられません。

書き出してみる

抽象的な話で終わらせないために、実際の書き方を示します。

入社2年目のエンジニアの例です。

要素記述例
Willユーザーが使いやすいと感じる画面を作れるようになりたい
CanHTMLとCSSで指定どおりの画面が作れる。JavaScriptは基本的な処理まで
Must今期は既存システムの画面改修を6件、期限内に完了させる

この3つを並べると、重なりが見えます。

画面改修という Must は、使いやすい画面を作りたいという Will とつながっています。Can の範囲でも対応できます。

であれば、この仕事は続きます。意味づけができているからです。

重なりが見えない2つの型

実務でよく見るのは、次の2つです。

一つ目は、Willが空欄になる型です。

若手に多く見られます。やりたいことを聞かれても、本当に分からない状態です。これは異常ではありません。経験の幅が狭い時期に、やりたいことを明確に言えるほうが珍しいです。

この場合の対処は、Willを無理に作らないことです。かわりに「やりたくないこと」と「やっていて苦痛でないこと」を書き出します。Willは、Canが増えるにつれて後から見えてきます。

二つ目は、MustだけがあってWillとつながらない型です。

これは中堅以降にも起きます。与えられた仕事はこなせるが、意味を感じられない状態です。

この場合の対処は、Mustの中にWillとの接点を探すことです。仕事そのものを変えられなくても、取り組み方は選べます。画面改修に意味を感じられないなら、改修のついでに設計の改善を試す、という余白を作ります。

確認の問い

Will-Can-Mustの使い方として、適切なものを選んでください。

番号選択肢
1Willが明確でない若手には、まずWillを決めさせてから動かす
2Canの範囲を超える仕事は、重なりがないので割り振らない
3Mustを減らして、WillとCanだけで仕事を組み立てていく
4Willが空欄なら、Canを増やしながら後から見える前提で進める

解答 4

解説します。

4 が適切です。Willは経験の蓄積とともに形になります。先に決めさせる必要はありません。

1 は現場で起きやすい失敗です。Willを言えるまで動かさないと、経験が増えないため、いつまでもWillが見えません。順序が逆です。

2 は誤りです。Canを少し超える仕事こそ、成長と自己効力感につながります。大きく超えると挫折しますが、超えないと伸びません。

3 は現実的ではありません。Mustは組織から与えられるものであり、本人が減らせるものではありません。Mustの中に接点を探すのが実務的な対処です。

補足します。3つの円が完全に重なる状態は、ほとんど実現しません。重なりが2割でも、本人が説明できていれば続きます。完全一致を目指すと、かえって不満が強くなります。

4つの心理メカニズム

次に動力です。継続を支える仕組みが4つあります。

メカニズム働き
自己効力感自分にはできるという感覚
内発的動機外からの報酬ではない、内側からの動機
成長マインドセット能力は伸ばせるという信念
習慣化意志を使わずに繰り返せる状態

順に見ていきます。

メカニズム1 自己効力感

概念の説明

自己効力感とは、特定の課題に対して「自分にはこれができる」と感じられる度合いです。

心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念です。英語ではセルフ・エフィカシーと呼びます。

自信という言葉と似ていますが、違いがあります。自信は漠然とした全般的な感覚を指すことが多いのに対し、自己効力感は課題ごとに決まります。

同じ人が、設計には高い自己効力感を持ち、顧客への説明には低い自己効力感しか持たないことがあります。

なぜ継続に効くのか

自己効力感が低いと、着手の段階で止まります。

第3回で扱った真因の3層のうち、マインドの層にあたります。できる気がしない仕事には、人は手を付けません。

4つの源泉

バンデューラは、自己効力感を高める要因を4つ挙げています。

源泉内容効果
達成経験自分で実際にやってできた経験最も強い
代理経験似た立場の人ができているのを見る中程度
言語的説得他者から「できる」と言われる弱い
生理的状態体調や緊張の度合い補助的

ここで重要なのは、効果の順序です。

最も強いのは達成経験です。実際にやってできた、という経験に勝るものはありません。

言語的説得は、最も弱いです。

育成の現場でよく行われるのは、この最も弱い手段です。「君ならできる」と励ますことです。無意味ではありませんが、それだけでは変わりません。

現場での打ち手

自己効力感を上げる最も確実な方法は、小さな達成経験を作ることです。

ここで第4回のベビーステップがつながります。ベビーステップは、着手を容易にするだけの技法ではありません。達成経験を量産する技法でもあります。

育成担当の方への具体的な提案です。

できるか微妙な仕事を丸ごと任せるのではなく、確実にできる部分を切り出して先に任せてください。1つ終わるたびに完了を認識させます。

2番目の代理経験も使えます。1年先輩が同じ仕事をやっている場面を見せることです。自分と遠すぎる人の成功例は効きません。近い立場の人である必要があります。

確認の問い

自己効力感を高める方法として、最も効果が高いものを選んでください。

番号選択肢
1上司が繰り返し「君なら必ずできる」と声をかけ続ける
2確実にできる範囲の仕事を任せ、完了を本人に確認させる
3社外の著名なエンジニアの成功事例を資料で共有しておく
4本人の緊張をほぐすため、面談の場を定期的に設定する

解答 2

解説します。

2 が最も効果が高いです。達成経験にあたります。4つの源泉のうち最も強い要因です。

1 は言語的説得です。4つのうち最も弱い手段です。効果がないわけではありませんが、これだけでは不足します。

3 は代理経験に見えますが、対象が遠すぎます。代理経験が機能するのは、自分と似た立場の人を見た場合です。著名人の事例は、むしろ距離を感じさせることがあります。

4 は生理的状態への働きかけです。補助的な効果にとどまります。

補足します。1 と 4 を否定しているのではありません。順序の問題です。2 を軸にしたうえで、1 と 4 を添えるのが正しい使い方です。

メカニズム2 内発的動機

概念の説明

内発的動機とは、報酬や評価のためではなく、その活動そのものから生じる動機です。

対になるのが外発的動機です。給与、評価、罰則などによる動機づけがこれにあたります。

外発的動機が悪いわけではありません。ただし持続しにくく、報酬が止まると行動も止まります。

3つの要素

心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した自己決定理論では、内発的動機を支える基本的な欲求として3つが挙げられています。

要素内容
自律性自分で選んでいるという感覚
有能感うまくできているという感覚
関係性他者とつながっているという感覚

用語について1点注記します。

この3要素を「自律・熟達・関係性」と紹介する資料もあります。これは、ダニエル・ピンクが『モチベーション3.0』で示した「自律性・熟達・目的」という整理と混ざったものです。

自己決定理論の原典では、3つ目は関係性です。ピンクの整理では3つ目が目的になります。どちらも実務では有用ですが、出典が違います。研修で説明する立場の方は、区別しておいてください。

現場での打ち手

3つの要素それぞれに、現場でできることがあります。

要素打ち手
自律性やり方を本人に選ばせる。手段まで指定しない
有能感できるようになった点を具体的に伝える
関係性その仕事が誰の役に立つのかを見せる

自律性について補足します。

若手に仕事を任せるとき、目的と期限と成果物は明示すべきです。しかし手段まで細かく指定すると、自律性が失われます。

「この手順でやってください」ではなく「この成果物を、11月7日までに。進め方は任せます。15分詰まったら聞いてください」という渡し方です。

第6回の即確認と、時間の上限がここで生きます。手段を任せる代わりに、詰まったときの出口を用意しておくわけです。

関係性について補足します。

社内システムの改修は、利用者が見えにくい仕事です。意味を感じにくくなります。

一度、実際の利用者に会わせてください。あるいは、利用者からの問い合わせ内容を見せてください。自分の仕事の先に人がいることが分かると、動機が変わります。

メカニズム3 成長マインドセット

概念の説明

成長マインドセットとは、能力は努力によって伸ばせるという信念です。

心理学者キャロル・ドゥエックが提唱しました。対になるのが固定マインドセットです。能力は生まれつき決まっているという信念です。

第5回でGRITの要素として触れました。ここでは継続との関係を扱います。

なぜ継続に効くのか

失敗の解釈が変わります。

状況固定マインドセット成長マインドセット
レビューで20件指摘された自分には向いていないこのパターンをまだ知らなかった
顧客説明でうまく答えられなかった自分は人前が苦手だ想定問答の準備が足りなかった
3回やって3回失敗した才能がないやり方を変える必要がある

左の解釈をすると、継続する理由がなくなります。向いていないものを続ける意味はありません。

右の解釈をすると、次の一手が出てきます。

鍛える方法

マインドセットは性格ではありません。言葉の選び方の習慣です。

最も実務的な方法は、「まだ」を付けることです。

言い方変更後
できないまだできていない
分からないまだ分かっていない
向いていないまだ慣れていない

言葉遊びに見えるかもしれません。しかし、この1語があるかないかで、次の行動が変わります。

「できない」は結論です。「まだできていない」は現在の状態です。状態には、変える手段があります。

育成の現場では、本人の発言を言い換えて返すことができます。「これ、できないです」と言われたときに「まだ慣れていないということですね。どこで詰まりましたか」と返す。これを繰り返すだけで、本人の言葉が変わっていきます。

誤解しやすい点

成長マインドセットは、何でも努力で解決するという主張ではありません。

向いていない仕事は存在します。また、努力の方向が間違っていれば結果は出ません。

成長マインドセットが効くのは、失敗の直後です。失敗を能力の証拠と解釈して検証を止めてしまう状態を避けるためのものです。検証した結果として方向転換するのは、固定マインドセットではありません。

メカニズム4 習慣化

概念の説明

習慣とは、意志を使わずに繰り返せる状態です。

継続の最終形はここです。意志で続けているものは、いずれ途切れます。習慣になったものは、やらないほうが違和感を覚えます。

3つの要素

習慣は、次の3つの連鎖でできています。

要素内容
トリガー行動のきっかけとなる合図
行動実際にやること
報酬行動の直後に得られるもの

この循環は、チャールズ・デュヒッグが『習慣の力』で習慣のループとして紹介したものです。

ジェームズ・クリアーの『Atomic Habits』では4段階に整理されていますが、基本の考え方は共通しています。

設計のしかた

習慣を作りたいときは、3つを明示的に決めてください。

第6回で扱った週次の振り返りを、習慣にする例です。

要素設計
トリガー金曜16時45分のカレンダー通知
行動3つの問いに答えて3行書く
報酬書き終えたらその週の記録が1行増える。終業する

ここで重要なのは、トリガーを時刻や既存の行動に紐づけることです。

「気づいたときにやる」は、トリガーがない状態です。これは習慣になりません。

既存の行動に紐づける方法が有効です。「昼食から戻ったらメールを確認する」「朝パソコンを開いたらカレンダーを見る」のように、すでに毎日やっていることの直後に置きます。

報酬についても補足します。

報酬は大きなものでなくて構いません。チェックリストに印が付く、記録が1行増える、その日の作業が終わる。この程度で機能します。

重要なのは、行動の直後にあることです。3か月後の成果は報酬として機能しません。

どのくらいで習慣になるか

21日で習慣になる、という説を聞くことがあります。

この数字には確かな根拠がありません。研究によって、行動の種類や個人によって大きく異なることが示されています。数週間で定着するものもあれば、数か月かかるものもあります。

研修で説明する際は、具体的な日数を断定しないほうが安全です。「行動の種類によって幅がある」と伝えてください。

確認の問い

習慣化の設計として、適切なものを選んでください。定着させたい行動は「毎日の作業記録を書くこと」です。

番号選択肢
1記録を続けた成果を、半年後の評価面談で確認してもらう
2毎日忘れずに書こうという意識を、朝礼で全員に共有する
3業務終了の操作の直後に書き、書いたら退勤記録を付ける
4記録の重要性を理解するため、まず関連書籍を1冊読む

解答 3

解説します。

3 が適切です。トリガーが既存の行動に紐づいており、報酬が直後にあります。

1 は報酬が半年後です。行動の直後ではないため、習慣のループとして機能しません。

2 は意識に頼る方法です。トリガーがないため、忙しい日に飛びます。意識で続けるものは習慣ではありません。

4 は準備にあたります。第4回で触れたとおり、学習や準備は先延ばしの形を取りやすい行動です。

補足します。3 の設計で続かない場合は、行動が大きすぎる可能性があります。記録の項目が10個あれば、負担が大きく飛ばします。3行に削ってください。

4つの関係

4つのメカニズムは、独立したものではありません。

メカニズムいつ効くか
自己効力感着手の前。できる気がするかどうか
内発的動機継続の途中。やる意味があるかどうか
成長マインドセット失敗の直後。どう解釈するか
習慣化定着の段階。意志を使わずに回るか

時間の流れに沿って並んでいます。

着手できない人には自己効力感、途中で飽きる人には内発的動機、失敗後に止まる人には成長マインドセット、続いているのに波がある人には習慣化です。

育成担当者のための見立て表

部下や後輩が続かないとき、どこに原因があるかを見立てる表です。

本人の発言不足している可能性打ち手
できる気がしません自己効力感確実にできる範囲を切り出して任せる
何のためにやるのか分かりません内発的動機利用者を見せる。手段を任せる
自分には向いていないと思います成長マインドセット「まだ」を付けて言い換えて返す
やろうと思っているのですが忘れます習慣化トリガーを既存の行動に紐づける
何をすればいいか分かりませんスキル(第3回)手順を示す。タスクを分解する
時間がありません環境(第3回)業務量を見直す。優先順位を示す

この表の使い方について1点だけ。

本人の発言をそのまま受け取るのではなく、発言の背後を見てください。「時間がありません」と言う人が、実際には着手できていないだけのことがあります。

判断材料は、過去の記録です。第6回の質問メモと週次の振り返りが残っていれば、本人のつまずきのパターンが見えます。

注意点

3つ補足します。

一つ目は、メカニズムを本人に説明しすぎないことです。

自己効力感や内発的動機という言葉は、育成する側が理解していれば十分です。本人に理論を教えても、行動は変わりません。打ち手だけを実行してください。

二つ目は、精神論に転化させないことです。

マインドセットの話は、本人の努力不足という結論に流れやすいです。しかし第3回で見たとおり、原因は環境の層にあることが少なくありません。業務量が過多な状態で「成長マインドセットを持て」と言っても意味がありません。

三つ目は、Will-Can-Mustを面談の場だけで使わないことです。

年1回のキャリア面談で書かせて終わりにすると、形式的な作業になります。日常の仕事の割り振りのなかで、Mustとの接点を言葉にして渡してください。

まとめと次の学習ステップ

技法が続かないのは、意志の問題ではありません。方向と動力が足りていないからです。

Will-Can-Mustは、方向を整える枠組みです。3つが重なる領域に仕事があると続きます。Willが空欄の若手には、Canを増やしながら後から見える前提で進めてください。

自己効力感は、着手の前に効きます。最も強い源泉は達成経験です。励ましは最も弱い手段です。

内発的動機は、自律性、有能感、関係性の3つで支えられます。手段を任せ、できた点を具体的に伝え、仕事の先にいる人を見せてください。

成長マインドセットは、失敗の直後に効きます。「まだ」を付ける習慣から始めてください。

習慣化は、トリガー、行動、報酬の3つを明示的に設計します。トリガーは既存の行動に紐づけてください。

次の学習ステップとして、3つを提案します。

一つ目は、Will、Can、Mustを3行ずつ書き出すことです。15分で構いません。Willが書けなければ、やりたくないことを書いてください。

二つ目は、直近で止まった仕事を1つ選び、見立て表のどこに当てはまるかを確認することです。原因が特定できれば、打ち手は表のとおりです。

三つ目は、習慣にしたい行動を1つ選び、トリガーを決めることです。既存の毎日の行動の直後に置いてください。

次回が最終回です。ここまでの内容を、研修としてどう設計するかを扱います。行動力と実行力をテーマにした研修の全体構成、1日の時間配分、ワークの組み立て方、効果測定の方法までまとめます。人材育成を担当される方、社内で勉強会を企画される方に向けた回になります。

行動力・実行力研修の設計 社内で実施するための全体像

最終回です。

ここまで7回にわたって、行動力と実行力の内容を扱ってきました。今回は、これを研修としてどう組み立てるかを扱います。

対象は、人材育成を担当される方、社内で勉強会を企画される方、研修講師の方です。1日研修の構成、時間配分、ワークの型、効果測定まで、そのまま使える形で示します。

結論

研修設計の原則は3つです。

原則内容
診断から入る技法の説明から始めない。自分の型を特定させる
1人1技法に絞る6つ全部を持ち帰らせない。1つ選ばせる
事後を設計する当日で完結させない。2週間後の確認までを設計に含める

全体構成は、次のとおりです。

章内容時間
導入動けない瞬間の共有30分
1行動力と実行力の定義50分
2自己診断と真因の特定60分
3行動力を鍛える3技法60分
4実行力を鍛える・後回しをなくす70分
5継続の土台50分
6アクションプランと振り返り40分

1日6時間相当です。休憩を含めると、9時30分開始、17時終了の枠に収まります。

設計の前提 単発研修では行動は変わらない

最初に、設計の土台になる考え方を述べます。

研修で学んだことが現場で使われる割合は低い、という指摘は古くからあります。具体的な数値には諸説あり、断定はできません。ただし、現場の実感としては多くの方が同意されるはずです。

行動変容を扱う研修では、この問題が特に深刻になります。知識研修なら、知らなかったことを知るだけで価値があります。しかし行動力の研修は、行動が変わらなければ価値がゼロです。

そこで、3点セットで設計します。

時期内容所要
事前課題の提出(1週間前)受講者15分
当日研修本体6時間
事後実践と報告(2週間後)受講者10分

事後が最も重要です。

当日だけで終わる研修は、満足度は高くても行動は変わりません。2週間後に報告する約束があるだけで、実践率が大きく変わります。

導入 動けない瞬間を共有する

設計意図

いきなり技法の説明に入らないでください。

受講者の多くは、行動力が足りないと言われることに抵抗があります。すでに頑張っているからです。説明から入ると、説教として受け取られます。

まず、動けない瞬間が誰にでもあることを共有します。自分だけの問題ではないと分かると、構えが解けます。

ワークの型

次の2つを提示して、自分に当てはまるものを選ばせます。

動けない瞬間やり抜けない瞬間
何から手を付ければいいか分からない途中で飽きてしまう
失敗が怖くて一歩が踏み出せない別のタスクに目移りする
完璧を求めて動けない成果が出ずモチベーションが落ちる
他人の目が気になる忙しさで後回しにする

進め方は、次のとおりです。

手順内容時間
1個人で、当てはまるものに印を付ける3分
2ペアで、具体的な場面を1つずつ話す6分
3全体で3名程度に発表してもらう8分

講師の注意点

ここで出てきた具体例を、メモしておいてください。

研修の後半で技法を説明するときに、この具体例を引用します。「先ほど○○さんが言われた、レビューが怖くて共有を遅らせてしまう場面では」という形です。

受講者自身の言葉を使うと、技法が自分の話として入ります。

第1章 行動力と実行力の定義

設計意図

2つの力を区別させます。

区別しないまま進めると、「行動力がない」という漠然とした自己評価で終わります。どちらが課題なのかで、打ち手が変わります。

力範囲内容
行動力0から1即断即決、未知へ飛び込む、小さく試す、発想を形にする
実行力1から100計画を完遂する持続力、障害を成果に転換する、PDCA、結果責任

ケーススタディ

場面ごとに必要な力が違うことを示します。

場面行動力実行力
新規事業の立ち上げ必須重要
既存プロジェクトの完遂重要必須
新規顧客の開拓必須補助的
品質改善、オペレーション補助的必須

ここでの気づきは、どちらも必要という結論ではありません。

自分が今いる場面で求められているのはどちらか、という問いです。品質改善の担当者に行動力を求めても、成果にはつながりません。

ワークの型

受講者に、自分の現在の業務を1つ挙げさせます。そして、その業務で求められる力が行動力か実行力かを判定させます。

所要10分です。ペアで互いの判定に意見を言わせると、見落としに気づきます。

第2章 自己診断と真因の特定

ここが研修の中心です。

セルフチェック

10問に5段階で答えさせます。

行動力の5問
思い立ったらすぐ動く
未経験の仕事も引き受ける
完璧よりまず着手する
断られてもすぐ切り替える
提案を口に出せる
実行力の5問
決めた計画を最後までやる
期限を守り抜く
障害があっても諦めない
定期的に進捗を確認する
小さな改善を積み重ねる

各5問の合計点で、4象限に配置します。

型行動力実行力特徴
両輪型高高動き、やり抜く
花火型高低動くが、続かない
完璧主義型低高動かないが、やり抜く
受動型低低動かず、続かない

真因の3層

型が分かっただけでは、打ち手が決まりません。原因の層を特定させます。

層本人の感覚具体的な内容
スキルやり方が分からない手順が不明、経験不足、判断基準がない、ツールを知らない
マインドやる気になれない失敗への恐れ、完璧主義、目的意識の希薄化、自己効力感の低下
環境動ける状況にない時間不足、妨害要因、支援者の不在、評価設計の欠如

ワークの型

手順内容時間
1セルフチェック10問に回答8分
24象限のどこに入るか確認2分
3直近で止まった仕事を1つ思い出し、3層のどれが原因か判定10分
4同じ型の受講者同士でグループを作り、原因を共有15分
5全体で、型ごとに代表1名が発表15分

4が重要です。

同じ型の人を集めてください。花火型の人同士で話すと、同じつまずきが出てきます。自分だけではないと分かることが、受け入れの条件になります。

講師の注意点

環境の層が原因だと判定した受講者には、注意して対応してください。

業務量が過多である、支援者がいない、といった原因は、本人の努力では解決できません。ここで技法を押し付けると、不満が強くなります。

この研修で扱えるのは、環境を自分で変えられる範囲に限られます。それを明示してください。そして、本人の裁量を超える部分は、研修後に上司へ上げる前提で記録させてください。

育成担当の方には、研修後にこの記録を回収することを提案します。組織側の課題が見える貴重な情報になります。

第3章 行動力を鍛える3技法

技法内容
ベビーステップ最初の一歩を2分で終わる大きさに分解する
5秒ルール判断の不要な場面で、考える前に動き出す
環境設定繰り返す行動は、環境を変えて自動化する

設計意図

3つを並べて教えるだけでは、現場で使い分けられません。判断の軸を渡してください。

状況使う技法
1回限りの行動で、気が重い5秒ルール
毎回やることで、毎回おっくう環境設定
着手できないほど大きいベビーステップ

ワークの型

受講者に、いま着手できていない仕事を1つ挙げさせます。そして、ベビーステップに分解させます。

分解の基準は、2分で終わるかどうかです。

ここで必ず起きるのが、分解が不十分なケースです。「資料を作る」を「構成を考える」に分解して終わる受講者が出ます。

ペアで互いの分解を見せ合わせてください。他人の分解を見ると、自分の分解が粗いことに気づきます。

所要20分です。

第4章 実行力を鍛える・後回しをなくす

内容

分類技法
実行力タスク分解、PDCA、GRIT
後回し防止2分ルール、即予定化、即確認

この章が最も情報量が多くなります。70分確保してください。

設計意図

技法の数が多いため、全部を定着させようとしないでください。

扱う順序は、仕組みから姿勢へです。タスク分解とPDCAと3つの後回し防止技法を先に扱い、GRITは最後に短く触れます。

GRITから入ると精神論になります。

GRITを扱うときの注意

2点あります。

一つ目は、用語の出典です。GRITをGuts、Resilience、Initiative、Tenacityの頭字語として説明する資料がありますが、これは日本で広まった解釈です。アンジェラ・ダックワースの原典では、長期的な目標に対する情熱と粘り強さを指す1語であり、頭字語ではありません。

受講者から指摘される可能性があります。先に説明しておいてください。

二つ目は、効果の扱いです。GRITが成果を予測する力は、当初の主張ほど大きくないという研究上の指摘があります。性格特性のひとつである誠実性との重複も指摘されています。

これを隠す必要はありません。むしろ、だからこそ仕組みとセットで扱うという説明に使えます。

ワークの型

即予定化の実習を入れてください。

手順内容時間
1研修後にやる必要がある仕事を3つ挙げる5分
2その場でスマートフォンや手帳を開き、作業日時を入れる10分
3ペアで、入れた予定を見せ合う5分

その場で実際に入れさせることが重要です。

「後で入れてください」と伝えると、入れません。研修中に手帳やカレンダーを開く時間を、設計として確保してください。

第5章 継続の土台

内容要素
Will-Can-Must方向の整理
4つの心理メカニズム自己効力感、内発的動機、成長マインドセット、習慣化

設計意図

この章は、受講者の層によって扱い方を変えてください。

受講者扱い方
新人、若手Will-Can-Mustを中心に。Willは空欄でもよいと明示する
リーダー、管理職4つのメカニズムを中心に。部下の見立てに使う形で

新人に心理メカニズムの理論を詳しく教えても、行動は変わりません。自分の方向を整理するほうが役に立ちます。

一方、リーダー層には4つのメカニズムが有効です。部下が続かない理由を見立てる道具になります。

リーダー層向けの見立て表

部下の発言不足している可能性打ち手
できる気がしません自己効力感確実にできる範囲を切り出して任せる
何のためにやるのか分かりません内発的動機利用者を見せる。手段を任せる
自分には向いていないと思います成長マインドセット「まだ」を付けて言い換えて返す
やろうと思っているのですが忘れます習慣化トリガーを既存の行動に紐づける

この表をワークシートに載せ、実際の部下1名を想定して記入させてください。所要15分です。

第6章 アクションプラン

研修の締めです。ここの質が、研修全体の成果を決めます。

5項目

項目問い
WHYなぜそれをやるのか
WHAT何をやるのか
HOWどうやるのか
WHENいつやるのか
最初の一歩明日、最初にやることは何か

悪い例と良い例

受講者が書くアクションプランは、放っておくと抽象的になります。必ず例を示してください。

悪い例です。

項目記述
WHY仕事の効率を上げたいから
WHAT後回しをなくす
HOW2分ルールを使う
WHENこれから
最初の一歩意識して取り組む

良い例です。

項目記述
WHY設計の時間が細かい依頼で削られ、残業が増えているから
WHATメール確認の直後に、2分で終わるものをその場で処理する
HOW11時と16時の2回だけメールを開く。それ以外は通知を切る
WHEN10月27日から。11時と16時にカレンダーの繰り返し通知を設定
最初の一歩今日の帰り際に、繰り返し通知を2件登録する

違いは3点です。

WHYが自分の具体的な困りごとになっている。WHENに日付と時刻が入っている。最初の一歩が今日できる大きさになっている。

1人1技法に絞る

6つの技法から1つだけ選ばせてください。

複数選ぶと、どれも定着しません。研修直後は意欲が高いため、受講者は3つも4つも書こうとします。講師が制限してください。

選び方の目安を示すと、スムーズです。

自己診断の型おすすめの入口
花火型即予定化
完璧主義型2分ルール、ベビーステップ
受動型即確認
両輪型環境設定、習慣化

全体の振り返り

最後に伝えるメッセージは、1つに絞ってください。

動き出す力と、やり抜く力。両輪で、成果は生まれる。

技法を6つ覚えて帰ることよりも、この1文が残ることのほうが価値があります。

事前課題と事後フォロー

事前課題

1週間前に、次の3つを提出させます。

項目内容
1最近、着手が遅れた仕事を1つ
2最近、途中で止まった仕事を1つ
3その原因として自分が思うこと

所要15分程度です。負荷を上げすぎると提出率が落ちます。

この課題には3つの効果があります。

当日のワークの材料になります。受講者が自分の課題を自覚した状態で参加します。そして講師が、受講者層の傾向を事前に把握できます。

3つ目が実務的に大きいです。花火型が多い集団と受動型が多い集団では、当日の時間配分を変えるべきです。

事後フォロー

2週間後に、次の2つを報告させます。

項目内容
1アクションプランの最初の一歩を実行したか
22週間続いたか。続かなかった場合、どこで止まったか

所要10分です。

2が重要です。止まった場所が分かれば、次の打ち手が決まります。そして、止まったことを責めない運用にしてください。報告しにくい設計にすると、報告自体が来なくなります。

育成担当の方への提案です。この報告を上司経由ではなく、研修事務局に直接出す形にしてください。上司に見られる前提だと、できたという報告しか集まりません。

効果測定

4段階で考える

研修効果の測定には、ドナルド・カークパトリックが示した4段階のモデルが広く使われています。

段階測るものこの研修での測り方
1 反応受講者の満足度研修直後のアンケート
2 学習知識の習得技法の使い分けを問う確認テスト
3 行動現場での行動変化2週間後、3か月後の実行報告
4 結果業務成果への影響残業時間、納期遵守率などの変化

実務的にどこまで測るか

結論を言うと、段階3までを現実的な目標にしてください。

段階4は、研修以外の要因が多すぎて因果関係を示せません。残業時間が減ったとしても、研修の効果か業務量の変化かを分離できません。

段階4を約束すると、後で説明に困ります。

段階2の測り方

知識の確認は、暗記ではなく使い分けを問う形にしてください。

出題例です。毎朝の日報作成がおっくうで後回しにしてしまう場合、最も適した技法はどれか。選択肢は、5秒ルール、環境設定、ベビーステップ、2分ルール。

正解は環境設定です。毎日繰り返す行動だからです。

このように、場面を示して技法を選ばせる形式が適しています。

段階3の測り方

2週間後だけでなく、3か月後にも1回聞いてください。

2週間は意欲で続きます。3か月続いていれば、習慣になっている可能性が高いです。

質問は2つで足ります。いまも続いているか。続いていない場合、いつ止まったか。

短縮版 90分の社内勉強会

1日研修の枠が取れない場合の構成です。

時間内容
5分導入。動けない瞬間の提示
20分セルフチェック10問と4象限
10分真因の3層
25分技法を3つに絞って説明(2分ルール、即予定化、ベビーステップ)
20分アクションプランの記入
10分ペアで共有、締め

削るべきものと、削ってはいけないものを示します。

扱い内容
削ってよいケーススタディ、GRIT、Will-Can-Must、心理メカニズムの詳細
削ってはいけないセルフチェック、真因の3層、アクションプラン

セルフチェックを削ると、自分の課題が特定できません。技法だけ聞いて帰る研修になります。

アクションプランを削ると、行動が変わりません。時間が足りなければ、技法の説明を削ってアクションプランを残してください。

確認の問い

問1

行動力・実行力研修の設計として、適切なものを選んでください。

番号選択肢
1最初に6つの技法を説明し、その後で自己診断を行う
2受講者の意欲が高いうちに、技法をすべて実践させる
3効果測定は業務成果への影響を主な指標として設定する
4自己診断で型と原因を特定してから、技法の説明に入る

解答 4

解説します。

4 が適切です。自分の課題を特定した状態で技法を聞くと、どれを使うべきかが判断できます。

1 は順序が逆です。課題が不明な状態で技法を聞くと、自分に関係のない情報として処理されます。

2 は定着を妨げます。研修直後は意欲が高いため複数を選びがちですが、同時に始めるとどれも続きません。講師が1つに絞らせる必要があります。

3 は測定として困難です。業務成果には研修以外の要因が多く影響するため、因果関係を示せません。現実的な目標は行動変化の段階までです。

問2

受講者が「業務量が多すぎて時間がない」と原因を特定した場合の対応として、適切なものを選んでください。

番号選択肢
1自分で変えられる範囲を扱うと示し、裁量外は記録して組織へ上げる
2時間がないのは優先順位の付け方の問題だと説明して技法に戻す
3環境の問題は研修の対象外なので、その場では触れずに進める
4業務量の削減を上司に交渉する方法を、研修の中で指導する

解答 1

解説します。

1 が適切です。扱える範囲を明示したうえで、裁量を超える部分は組織側の課題として回収します。この記録は、育成担当者にとって有用な情報になります。

2 は押し付けになります。本人の工夫で解決できない水準の業務量は実際に存在します。すべてを本人の問題に帰すと、研修への信頼が失われます。

3 は不十分です。触れずに進めると、受講者は自分の状況が無視されたと感じます。扱えないことを明示するのと、触れないのは違います。

4 は研修の範囲を超えています。交渉の指導は別のテーマです。また、研修で推奨した交渉が現場で機能しなかった場合、受講者の立場を悪くします。

連載のまとめ

全8回を振り返ります。

回テーマ
1行動力と実行力は別の力である
2自己診断と4つの型
3動けない原因の3層
4動き出すための3技法
5やり抜くための3技法
6後回しをなくす3技法
7続く人と続かない人の差
8研修としての設計

連載を通じて一貫して述べてきたのは、次の点です。

動けないことも、続かないことも、本人の性格や意志の強さの問題ではありません。構造の問題です。

構造であれば、変えられます。

技法は6つ紹介しましたが、覚えていただきたいのは1つの原則です。

意志に頼らない仕組みを、先に作ることです。

そして最後に、研修テキストの締めの一文を置きます。

動き出す力と、やり抜く力。両輪で、成果は生まれる。

次の学習ステップ

この連載を読み終えた後の提案を、立場別に3つ示します。

研修を企画される方は、まず90分の短縮版から試してください。1日研修の枠を取る前に、社内勉強会として1回実施すると、受講者層の傾向が分かります。その結果をもとに本格的な研修を設計すると、無駄がありません。

チームを率いる立場の方は、第7回の見立て表を手元に置いてください。部下が止まったときに、原因の層を特定する習慣が付きます。

ご自身の実行力を上げたい方は、第6回の即予定化から始めてください。今日の終業前に、明日の最初の1時間をカレンダーに押さえる。これだけです。

長い連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。

このテーマの研修をご検討される場合は、当社までお問い合わせください。

研修コンセプト

心を動かす「体験」が、 技術者を「リーダー」に変える。 私たちは、AI時代の最先端ITスキルと真のヒューマンスキルを融合させた 「感動体験型研修」を提供します。 単な…

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。

学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。