研修講師のためのフリーランス法入門 契約・報酬・中止時の扱いを実務目線で整理

こんにちは。ゆうせいです。

研修講師として業務委託で仕事を受けていると、次のような経験はないでしょうか。

登壇日は決まっているのに、契約書が届かない。報酬の振込が研修の3か月後になる。営業用のデモ研修を無償で頼まれる。研修が中止になったが、キャンセル料の話が出ない。

これらはすべて、フリーランス法が扱う論点です。

この記事では、研修講師が業務委託で仕事を受けるときに知っておくべき内容を、実務の順序でまとめます。発注する側である研修会社、人材育成担当者の方に向けた内容も後半に含めました。

なお本記事は2026年10月28日時点で公表されている情報をもとにしています。筆者は弁護士ではありません。個別の契約やトラブルの判断は、弁護士または記事末尾の相談窓口へご確認ください。

結論 研修講師が押さえるべき5点

番号押さえる点
1口頭発注は違法。登壇前に書面またはメールで取引条件の明示を受ける権利がある
2報酬は登壇日から60日以内。翌々月末払いは違反の疑いがある
32026年1月以降の委託では、振込手数料の差引きは報酬の減額にあたる
4無償のデモ研修や範囲外の教材作成は、禁止行為に該当しうる
5教材の著作権はフリーランス法の対象外。契約書で決めるしかない

この5点を理解すれば、実務の大半は対応できます。

以下、順に説明します。

フリーランス法とは何か

名称の整理

まず名称が複雑なので、整理します。

呼び方内容
正式名称特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
政府が使う通称フリーランス・事業者間取引適正化等法
一般的な通称フリーランス法、フリーランス新法

本記事では、フリーランス法と呼びます。

施行日と目的

2024年11月1日に施行されました。

目的は2つです。

目的内容
取引の適正化契約条件の明示、報酬の支払期日、禁止行為
就業環境の整備ハラスメント対策、育児介護への配慮、中途解除の予告

所管は、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省です。取引の適正化は公正取引委員会と中小企業庁、就業環境の整備は厚生労働省が担当します。

なぜできたのか

従来、事業者間の取引を守る法律として下請法がありました。

しかし下請法は、発注者の資本金の額で適用対象を決める仕組みでした。資本金1000万円以下の会社が発注する場合、下請法の対象外になります。

研修業界では、資本金の小さい研修会社が講師に委託するケースが珍しくありません。この場合、講師は法律上まったく保護されていませんでした。

フリーランス法は、資本金ではなく従業員の有無で判断します。これにより、保護の空白が埋まりました。

自分は対象か 2つの判定

フリーランス法が適用されるかどうかは、2つの判定で決まります。

判定1 自分は特定受託事業者か

対象になるのは、従業員を使用しない事業者です。

形態該当するか
個人事業主で、従業員を雇っていない該当する
個人事業主で、従業員を雇っている該当しない
法人で、代表者以外に役員がおらず従業員もいない該当する
法人で、役員が2名以上いる、または従業員がいる該当しない

業種による限定はありません。研修講師も当然に含まれます。

注意点を2つ挙げます。

一つ目は、短時間のアルバイトを雇っている場合です。週20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる従業員がいると、対象から外れます。事務作業を頼む人がいる場合は、雇用形態を確認してください。

二つ目は、家族に手伝ってもらっている場合です。雇用契約を結んでいなければ、通常は従業員にあたりません。

判定2 発注者はどちらか

発注者側は、2つに分かれます。ここで義務の範囲が大きく変わります。

発注者の種類定義課される義務
業務委託事業者従業員を使用していない取引条件の明示のみ
特定業務委託事業者従業員を使用しているすべての義務

つまり、相手が一人で運営している研修会社の場合、明示義務だけが課されます。報酬の60日ルールや禁止行為は適用されません。

研修会社の多くは従業員を雇っているため、実務上はすべての義務が適用されるケースが大半です。

判定の手順

迷ったら、次の順で確認してください。

順番確認すること
1自分は従業員を雇っていないか
2相手は従業員を雇っているか
3委託期間は1か月以上か
4委託期間は6か月以上か

3と4で、適用される義務が変わります。次に説明します。

義務の一覧と、発生する条件

ここがフリーランス法の理解で最もつまずく部分です。

義務は8つありますが、発生する条件がそれぞれ違います。

義務発生条件
取引条件の明示すべての業務委託
報酬の支払期日発注者が従業員を使用している場合
7つの禁止行為1か月以上の継続的業務委託
募集情報の的確表示募集を行う場合
育児介護等への配慮6か月以上(6か月未満は努力義務)
ハラスメント対策すべての業務委託
中途解除等の事前予告6か月以上の継続的業務委託
報復措置の禁止すべての業務委託

研修講師にとって重要なのは、禁止行為の条件です。

1日だけの単発登壇の場合、1か月以上の継続的業務委託にあたらないため、禁止行為の規定が適用されません。

一方、年間を通じて複数回登壇する契約や、教材作成を含む数か月の委託であれば、禁止行為の規定が適用されます。

確認問題

次の記述が正しいかどうか、〇か✕で答えてください。

問1 従業員を雇っていない個人の研修会社から委託を受けた場合、報酬の60日ルールは適用されない。

問2 1日だけの単発登壇の場合でも、取引条件の明示義務は発注者に課される。

解答 問1は〇 問2は〇

問1の解説です。報酬の支払期日の義務は、特定業務委託事業者、つまり従業員を使用している発注者に課されます。従業員を雇っていない個人事業主からの委託では、明示義務のみが課されます。

ただし、明示義務は免除されません。相手が一人で運営している会社でも、書面またはメールでの条件提示を求めることができます。

問2の解説です。明示義務は、委託期間の長短や発注者の規模を問わず、すべての業務委託に課されます。単発の1日研修でも、明示を受ける権利があります。

これは実務上きわめて重要です。「1回だけだから口頭で」という運用は、法律違反です。

取引条件の明示 確認すべき項目

何を明示する義務があるか

発注者は、業務委託をした後、直ちに取引条件を明示しなければなりません。

明示事項は次のとおりです。

項目内容
当事者の名称発注者と受注者の名称
業務委託をした日発注日
業務の内容何をする委託なのか
納期、作業期日いつまでに、いつ行うのか
納品、作業の場所どこで行うのか
検査完了期日検査を行う場合のみ
報酬の額いくら支払うのか
支払期日いつ支払うのか
支払方法金銭以外の方法で支払う場合

明示の方法

方法について、誤解が多い点を整理します。

方法認められるか
契約書認められる
発注書、メール認められる
チャットツール、SNSのメッセージ認められる
口頭認められない
自社のブログやWebページへの掲載認められない

重要なのは、契約書である必要はないという点です。

正式な契約書の締結に時間がかかるケースはよくあります。しかし、メール1本でも明示義務は果たせます。「契約書の準備に時間がかかっている」は、明示をしない理由になりません。

書式の決まりもありません。

研修講師の場合の記載例

抽象的だと使いにくいため、埋めた見本を示します。

項目記載例
当事者の名称委託者 株式会社○○/受託者 ○○(屋号・氏名)
業務委託をした日2026年11月5日
業務の内容新人エンジニア向けJava研修の講師業務。対象者20名、2日間、計12時間。教材の作成を含む。事前打合せ1回(オンライン60分)
納期、作業期日登壇 2027年4月13日・14日 各9時30分から16時30分/教材提出 2027年3月31日まで
納品、作業の場所○○株式会社 東京本社3階会議室
検査完了期日教材について、提出後5営業日以内
報酬の額講師料 1日あたり○○円(2日間で○○円)/教材作成費 ○○円/交通費・宿泊費は実費を別途精算
支払期日2027年5月29日
支払方法指定口座への振込

研修講師の場合、とくに次の3点を明確にしてください。

一つ目は、業務の範囲です。教材作成が含まれるのか、事前打合せは何回までか、アンケートの集計や報告書の作成は含まれるのか。ここが曖昧だと、後から無償の作業が増えます。

二つ目は、報酬の内訳です。講師料と教材作成費を分けておくと、研修が中止になった場合に教材作成分の請求根拠が明確になります。

三つ目は、交通費と宿泊費の扱いです。報酬に含むのか、実費精算なのか。実費精算の場合、上限があるのか。

条件が未定のとき

研修の委託では、受講者数や会場が未定のまま日程だけ先に決まることがよくあります。

この場合、未定の項目について次の対応が求められます。

時点発注者の対応
当初未定である理由と、決定する予定の日を明示する
決定後直ちに、決定した内容を明示する

つまり「未定」で済ませることはできません。いつ決まるのかを示す義務があります。

明示がない場合に送るメール文例

実務で使える形にしておきます。角が立たない表現にしています。

件名:4月13日・14日の研修について、発注内容のご確認

○○様

お世話になっております。

4月13日・14日の新人エンジニア向けJava研修につきまして、準備を進めております。

つきましては、下記の内容をメールでご確認いただけますでしょうか。フリーランス法に基づく取引条件の明示として、記録を残しておきたく存じます。

・業務の範囲(教材作成、事前打合せの回数、報告書の有無)
・報酬の額と内訳
・支払期日
・交通費、宿泊費の取扱い

正式な契約書のご準備にお時間がかかる場合は、メールでのご連絡でも問題ございません。

お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

このメールの意図は、相手を責めることではありません。記録を残すことです。

後でトラブルになったとき、このメールのやりとりが証拠になります。

報酬の支払期日 60日ルール

原則

報酬は、給付を受領した日から起算して60日以内に支払わなければなりません。

研修講師の場合、給付を受領した日は通常、登壇した日です。教材の納品が先にある場合は、委託内容の構成によって判断が分かれます。

細かいルール

実務で問題になりやすい点を整理します。

論点ルール
期日の書き方「○日以内」ではなく、具体的な日を特定する
請求書が遅れた場合定めた期日までに支払う義務がある
できる限り短く60日以内であればよいのではなく、できる限り短い期間に定める
金融機関の休業日順延が2日以内で、事前に書面等で合意していれば認められる扱いがある

請求書が遅れた場合の扱いは、覚えておく価値があります。

「請求書が届いていないので支払えない」という説明を受けることがあります。しかし、定めた支払期日までに支払う義務は、請求書の提出とは独立しています。

もちろん、請求書は速やかに出すべきです。ただし、遅れたことを理由に支払期日を過ぎることは、発注者側の義務違反になります。

翌々月末払いは違反か

研修業界でよく見るのが、翌々月末払いです。

これが60日以内に収まるかを計算します。

登壇日60日後翌々月末判定
4月1日5月31日6月30日30日超過
4月15日6月14日6月30日16日超過
4月30日6月29日6月30日1日超過
1月15日3月16日3月31日15日超過
1月31日4月1日3月31日収まる

結論を述べます。

翌々月末払いは、ほとんどの場合60日を超えます。2月を挟む月末登壇のときだけ、かろうじて収まります。

一方、翌月末払いであれば、どの月でも確実に収まります。

なお、日数の数え方について細かい解釈の議論はあります。断定は避けますが、翌々月末払いの契約を提示された場合は、確認する価値があります。

再委託の場合の特例

研修業界では、元請の研修会社が受注し、そこから講師に再委託する構造が一般的です。

この場合、特例があります。

項目内容
原則給付受領日から60日以内
再委託の特例元委託の支払期日から30日以内

ただし、特例を使うには条件があります。発注者が次の3点を明示している必要があります。

番号明示事項
1再委託である旨
2元委託者の名称
3元委託の支払期日

この3点の明示がなければ、原則の60日ルールが適用されます。

つまり、特例を主張するなら、元請の情報を開示しなければなりません。開示せずに「元請からの入金待ちなので」と支払を遅らせることはできません。

確認問題

研修講師への報酬支払について、適切なものを選んでください。

番号選択肢
1請求書の提出が遅れた場合、支払期日は後ろにずれる
2支払期日は「登壇月の翌々月末まで」と記載すればよい
3元請からの入金が遅れても、定めた期日に支払う義務がある
460日以内であれば、支払期日は自由に設定して問題ない

解答 3

解説します。

3 が適切です。発注者の資金繰りや元請からの入金状況は、支払義務を免れる理由になりません。再委託の特例を使う場合は、元委託の情報を事前に明示する必要があります。

1 は誤りです。請求書の提出と支払期日は独立しています。定めた期日までに支払う義務があります。

2 は2点で不適切です。「○日まで」という表記ではなく具体的な日を特定する必要があり、かつ翌々月末は多くの場合60日を超えます。

4 も不適切です。60日以内という上限に加えて、できる限り短い期間に定めることが求められています。60日ぎりぎりに設定することが推奨されているわけではありません。

2026年の新論点 振込手数料の差引き

何が変わったか

2026年1月1日以降に委託した取引について、重要な変更がありました。

振込手数料を報酬から差し引くことが、報酬の減額にあたる扱いになりました。

委託の時期振込手数料の差引き
2025年12月31日以前の委託事前の書面等による合意があり、金融機関に支払う実費の範囲であれば認められる
2026年1月1日以降の委託フリーランスの同意があっても、報酬の減額に該当する

なぜ重要か

同意があっても違反になる点が重要です。

従来は、契約書に「振込手数料は受注者負担」と記載し、合意していれば問題ありませんでした。この運用が、2026年1月以降の委託では認められません。

金額は1回数百円です。しかし、報酬の減額は7つの禁止行為のひとつであり、勧告の対象になります。

研修講師の立場では、契約書にこの記載が残っていないか確認してください。発注する立場の方は、契約書のひな形と経理の運用を見直す必要があります。

単価の据え置きについて

もう1点、価格に関する論点があります。

コストの上昇を理由に単価の改定を申し入れたにもかかわらず、発注者が理由を示さず据え置いた場合、買いたたきに該当するおそれがあるとされています。

さらに2026年1月施行の取適法では、価格協議に応じない一方的な代金決定が明確に禁止されました。これは後述します。

単価改定を申し入れるメール文例を示します。

件名:2027年度の講師料についてのご相談

○○様

お世話になっております。

2027年度の研修につきまして、講師料のご相談をさせていただきたく、ご連絡いたしました。

現在の単価は2022年度から据え置きとなっております。この間、教材作成に用いる開発環境やツールの費用、ならびに移動にかかる費用が上昇しております。具体的には下記のとおりです。

・(費用の増加について具体的に記載)

つきましては、2027年度より○%の改定をご検討いただけますでしょうか。

ご事情もあるかと存じますので、一度お話しさせていただく機会をいただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

重要なのは、理由を具体的に書くことです。根拠のない値上げ要求と、コスト上昇に基づく改定の申入れは、法律上の扱いが異なります。

7つの禁止行為を研修の現場に当てはめる

7つの内容

1か月以上の継続的業務委託の場合、次の7つが禁止されます。

番号禁止行為
1受領拒否
2報酬の減額
3返品
4買いたたき
5購入・利用強制
6不当な経済上の利益の提供要請
7不当な給付内容の変更・やり直し

ここで押さえてほしいのは2点です。

一つ目は、合意があっても違反になりうることです。「講師も納得していた」は抗弁になりません。

二つ目は、違法性の認識がなくても違反になりうることです。悪意の有無は問われません。

研修現場での具体例

抽象的な条文を、現場の言葉に置き換えます。

研修現場で起きること該当しうる禁止行為
発注者の都合で研修が中止され、報酬が支払われない受領拒否
「予算が削られた」と事後に講師料を下げられる報酬の減額
受講者アンケートの評点が低いことを理由に報酬を減らされる報酬の減額
振込手数料を差し引かれる報酬の減額
営業用のデモ研修を無償で実施させられる不当な経済上の利益の提供要請
無償で会場の下見や事前訪問をさせられる不当な経済上の利益の提供要請
契約範囲外の教材改訂を無償で求められる不当な給付内容の変更・やり直し
発注者の自社教材や認定資格の購入を求められる購入・利用強制
相場から著しく低い講師料を一方的に決められる買いたたき

実際の勧告事例

無償の業務については、実際に勧告が出ています。

2026年5月19日、公正取引委員会は、音楽教室を運営する事業者に対し、フリーランスの講師に無償で体験レッスンを行わせたことが不当な経済上の利益の提供要請に該当するとして、法第8条第5項に基づく勧告を行いました。対象となった特定受託事業者は1,674名です。

この事案は、中小企業庁長官からの措置請求を受けて公正取引委員会が調査したものです。

研修業界でも、同じ構造が起こりえます。

営業提案のためのデモ研修、見込み顧客向けの無償セミナー、既存受講者向けのフォローアップ。これらが契約の範囲外であり、かつ無償で求められている場合、同じ論点になります。

断っておきますが、すべての無償業務が違法というわけではありません。自分の営業活動として自発的に行う場合は別です。問題になるのは、発注者の利益のために、発注者の求めに応じて無償で行う場合です。

研修が中止になったときの扱い

研修講師にとって最も切実な論点です。

整理すると、次のようになります。

状況考え方
契約にキャンセル規定があるその規定に従う
契約にキャンセル規定がない受領拒否の論点になりうる

重要なのは、契約にキャンセル規定があることが前提だという点です。

フリーランス法は、発注者が一方的に受領を拒むことを禁じています。しかし、キャンセル時にいくら支払うかを定める法律ではありません。

したがって、実務上の対策は契約でキャンセル規定を入れることです。

一般的な3段階の例を示します。

時期キャンセル料
実施日の30日前まで無償
実施日の29日前から8日前まで報酬額の50%
実施日の7日前以降報酬額の100%

加えて、教材作成費については、作成が完了していれば全額を請求できる旨を明記しておくと確実です。

この規定を自分から提示してください。発注者側のひな形には、講師に不利な条件しか書かれていないことがあります。

就業環境に関する3つの義務

取引条件以外にも、発注者には義務があります。

中途解除の事前予告

6か月以上の継続的業務委託の場合、次の義務があります。

項目内容
予告解除または契約を更新しない場合、少なくとも30日前までに予告する
方法書面、ファクシミリ、電子メール等
理由の開示フリーランスから請求があれば、遅滞なく理由を開示する

年間契約で複数回登壇している講師にとって、重要な規定です。

「来年度はお願いしないことになりました」という連絡が年度末ぎりぎりに来るケースがあります。6か月以上の継続的業務委託であれば、30日前までの予告が必要です。

また、理由を聞く権利があります。理由が分かれば、次に活かせます。

ハラスメント対策

発注者には、次の体制整備が義務づけられています。

項目内容
方針の明確化と周知ハラスメントを行ってはならない旨の方針を定め、周知する
相談対応体制相談窓口を設け、適切に対応する
事後対応事実関係の確認、被害者への配慮、再発防止
不利益取扱いの禁止相談したことを理由に不利益に扱わない

研修講師にとって実務的な問題は、ハラスメントの行為者が誰かという点です。

研修先の受講者や担当者からハラスメントを受けた場合、どこに相談すればよいのかが分かりにくくなります。

委託元の研修会社の相談窓口に伝えることが起点になります。契約時に、相談窓口の連絡先を確認しておいてください。

育児介護等への配慮

6か月以上の継続的業務委託の場合、妊娠、出産、育児、介護と業務の両立への配慮が義務です。6か月未満の場合も、努力義務があります。

配慮の内容は、フリーランスからの申出に応じたものになります。具体例としては、研修日程の調整、オンライン実施への変更、打合せ時間の配慮などが考えられます。

重要なのは、申出が起点になることです。黙っていては配慮されません。

報復措置の禁止

行政機関に申出をしたことを理由に、契約の解除や取引の停止といった不利益な取扱いをすることは禁止されています。

これは、相談をためらう必要がないという意味です。実務上、報復を受けた場合はそれ自体が新たな違反になります。

2026年1月施行の取適法との関係

何が起きたか

2026年1月1日、下請法が改正され、名称が変わりました。

項目変更前変更後
法律名下請代金支払遅延等防止法(下請法)中小受託取引適正化法(取適法)
発注者の呼び方親事業者委託事業者
受注者の呼び方下請事業者中小受託事業者

研修講師に関係する改正点

改正点内容
従業員基準の追加資本金基準に加え、常時使用する従業員数でも適用。役務提供委託等は100人
協議応諾義務の新設価格協議を求められたのに応じない、説明せずに一方的に代金を決めることが禁止
手形払い等の禁止手形払い、支払期日までに現金化しにくい電子記録債権や一括決済方式が禁止
遅延利息支払遅延には年率14.6%の遅延利息
発注内容の明示電子メール等でも可能になり、受注者の承諾が不要に
取引記録の保存作成し、2年間保存する義務

従業員基準の追加が重要です。

従来は資本金で判断していたため、資本金の小さい会社は下請法の対象外でした。改正後は、役務提供委託等で従業員100人を超える会社であれば、資本金に関わらず対象になります。

2つの法律の関係

両方に該当する場合はどうなるのか。

フリーランス法と取適法の両方に違反する行為については、原則としてフリーランス法が優先して適用されます。

実務上の整理は、次のとおりです。

自分の状況適用される法律
従業員を雇っていないフリーランス法
従業員を雇っている(会社として受注)取適法の可能性がある

従業員を雇って研修事業を行っている場合、フリーランス法の対象からは外れますが、取適法で保護される可能性があります。自分が対象外だと決めつけず、両方を確認してください。

フリーランス法では守られないもの

この記事で最も重要なセクションかもしれません。

フリーランス法は万能ではありません。守られない領域があります。

対象外の項目

項目扱い
教材やスライドの著作権の帰属契約で定める
二次利用、録画の利用範囲契約で定める
競業避止義務契約で定める
守秘義務の範囲と期間契約で定める
再委託(代理講師)の可否契約で定める
損害賠償の上限契約で定める
キャンセル料の金額契約で定める
インボイス制度、消費税税法の領域
源泉徴収税法の領域
社会保険、年金社会保険法令の領域

研修講師にとって最大の論点は著作権

研修講師の場合、教材の著作権が最も重要です。

フリーランス法は、報酬の支払いや契約条件の明示を守ります。しかし、作った教材を誰が持つかについては何も定めていません。

典型的なトラブルを示します。

講師が自分のノウハウで教材を作り、研修を実施した。その後、研修会社がその教材を使って別の講師に研修をさせた。講師には何も支払われない。

契約に著作権の定めがなければ、争いになります。

確認すべき条項は次のとおりです。

項目確認する内容
著作権の帰属講師に残るのか、発注者に移るのか
譲渡の範囲全部譲渡か、利用許諾か
利用範囲当該研修のみか、他の研修でも使えるか
改変の可否発注者が内容を変更してよいか
講師名の表示教材に講師名を表示するか
録画の扱い録画するか、録画の利用範囲はどこまでか
既存教材の扱い講師が持ち込んだ既存教材の権利は移らない旨

最後の項目が実務的に重要です。

自分が以前から使っている教材を持ち込む場合、「本業務で新たに作成した部分の著作権のみ譲渡し、受託者が従前から有する教材の著作権は移転しない」という趣旨の条項を入れてください。

契約書で確認すべき10項目

番号項目
1業務の範囲(教材作成、打合せ回数、報告書の有無)
2報酬の額と内訳
3支払期日(具体的な日)
4交通費、宿泊費の扱い
5キャンセル規定(時期別の料率)
6著作権の帰属と利用範囲
7録画の有無と利用範囲
8競業避止義務の有無と範囲
9損害賠償の上限
10再委託(代理講師)の可否

8の競業避止義務には注意してください。

「研修終了後2年間、同業の研修会社から同種の研修を受託しない」といった条項が入っていることがあります。範囲が広すぎる場合は、交渉の対象になります。

確認問題

フリーランス法の適用範囲について、適切なものを選んでください。

番号選択肢
1教材の著作権の帰属は、フリーランス法では定められていない
2競業避止義務の範囲は、フリーランス法が上限を定めている
3インボイス制度への対応も、フリーランス法の義務に含まれる
4研修中止時のキャンセル料率は、フリーランス法が定めている

解答 1

解説します。

1 が適切です。著作権の帰属は著作権法と契約の領域です。フリーランス法は取引条件の明示や報酬の支払いを規律しますが、権利の帰属は扱いません。

2 は誤りです。競業避止義務の有効性は、範囲や期間の合理性によって判断されます。フリーランス法に上限の規定はありません。

3 は誤りです。インボイス制度は消費税法の領域です。ただし、インボイス登録をしていないことを理由に報酬を一方的に減額する行為は、報酬の減額として問題になりえます。

4 も誤りです。フリーランス法は一方的な受領拒否を禁じていますが、キャンセル料の金額を定めていません。契約で定める必要があります。

補足します。フリーランス法で守られるのは、取引の手続きと最低限のルールです。金額や権利の内容は、依然として契約交渉で決まります。法律ができたから契約書を読まなくてよい、ということではありません。

労働者性の問題

業務委託でも労働者になる場合がある

契約書の形式が業務委託でも、働き方の実態が労働者であれば、労働基準法などの労働法が適用されます。

この場合、フリーランス法ではなく労働法の問題になります。いわゆる偽装フリーランスです。

判断の要素

労働者かどうかは、契約の名称ではなく実態で判断されます。主な要素は次のとおりです。

要素労働者性が強まる場合
仕事の依頼への諾否の自由断る自由がない
業務遂行上の指揮命令進め方を細かく指示される
時間的、場所的な拘束勤務時間や勤務場所が決められている
代替性自分以外の人に代わってもらえない
報酬の性格時間単位で計算される
機械、器具の負担発注者が用意する
専属性他社の仕事を受けられない

研修講師の場合

研修講師は、登壇の進め方について裁量が大きいため、通常は労働者にあたりにくい職種です。

ただし、論点になりやすいケースがあります。

ケース懸念される点
特定の企業に常駐し、毎日出勤して研修や指導を行う時間的、場所的な拘束
研修以外の業務(事務、営業同行)も指示される指揮命令
他社からの受託を禁じられている専属性
報酬が月額固定で、稼働時間に連動している報酬の性格

これらに複数該当する場合は、専門家に確認する価値があります。

労働者と認められれば、社会保険、有給休暇、残業代、解雇規制などの適用を受けます。一方で、裁量は失われます。どちらが有利かは状況によります。

トラブルが起きたときの窓口と手順

相談先

窓口内容
フリーランス・トラブル110番弁護士に無料で相談できる。契約全般、トラブルの初期相談に適する
公正取引委員会の違反申出窓口フリーランス法違反の申出。取引条件の明示、報酬の支払い、禁止行為
中小企業庁取引適正化に関する相談
労働局ハラスメント、育児介護への配慮、中途解除の予告

迷ったら、まずフリーランス・トラブル110番が入口になります。

相談前に揃える資料

相談の質は、資料の有無で変わります。

番号揃えるもの
1契約書、発注書、条件が書かれたメール
2やりとりの時系列メモ(日付、相手、内容)
3請求書の控えと、送付した日の記録
4入金の記録(通帳、振込明細)
5口頭でのやりとりがあった場合、その直後に送った確認メール

5が重要です。

口頭での約束は証拠になりません。打合せの後に「本日お話しした内容を確認させてください」というメールを送っておくと、記録が残ります。

これは相手を疑う行為ではなく、双方の認識を合わせる業務上の習慣です。

報復を心配しなくてよい

相談をためらう理由として最も多いのが、仕事を失うことへの不安です。

行政機関への申出を理由とする不利益な取扱いは、法律で禁止されています。また、相談内容が発注者に知られることはないと案内されています。

とはいえ、現実の判断は本人のものです。まずは匿名で相談し、情報を得てから判断するという進め方もできます。

発注する側の方へ 研修会社・研修担当者の実務対応

ここからは、外部講師に委託する立場の方に向けた内容です。

チェックリスト

番号確認すること
1発注時に、明示事項を記載した発注書またはメールを送る運用になっているか
2口頭やチャットでの依頼が、後から書面化される仕組みがあるか
3支払サイトが登壇日から60日以内に収まっているか
4支払期日が具体的な日で記載されているか
5振込手数料を講師負担としている契約書のひな形が残っていないか
6無償の打合せ、デモ研修、下見を求めていないか
76か月以上の委託で、不更新の30日前予告ができる社内スケジュールになっているか
8講師が使えるハラスメント相談窓口を案内しているか

とくに優先すべき3点

一つ目は、3の支払サイトです。

翌々月末払いの運用は、多くの場合60日を超えます。経理の締めのサイクルと合わせて見直してください。元請からの入金が後になる場合は、再委託の特例を使うために元委託の情報を明示する必要があります。

二つ目は、5の振込手数料です。

2026年1月以降の委託では、講師の同意があっても差引きができません。契約書のひな形と、経理の振込実務の両方を確認してください。1件あたり数百円ですが、報酬の減額は勧告の対象です。

三つ目は、6の無償業務です。

2026年5月の勧告事例は、無償の体験レッスンが問題となったものでした。研修業でも、営業提案のためのデモ研修を講師に無償で依頼する慣行があります。契約の範囲外の業務を無償で求めることは、不当な経済上の利益の提供要請に該当しうる行為です。

有償にするか、契約の範囲に含めて報酬に反映するか。いずれかの形に整理してください。

違反した場合

フリーランス法に違反した場合、勧告、公表、命令という段階を踏みます。命令に違反した場合は50万円以下の罰金が科される場合があります。

ただし、実務上のリスクは罰金ではありません。公表です。

研修会社にとって、講師への支払いや無償業務の強要が公表されることは、採用と受注の両面に影響します。講師が集まらなくなれば、事業そのものが成立しません。

発注者にとっての実利

法令対応をコストと捉えないでください。

条件を明示し、支払いを早め、無償業務を求めない会社には、良い講師が集まります。研修事業の品質は講師で決まります。

実際、講師の間では、支払いの早い会社と遅い会社の情報は共有されています。法令対応は、講師の確保という競争力に直結します。

まとめ

研修講師が押さえるべき5点を、改めて示します。

一つ目は、取引条件の明示です。口頭発注は違法です。契約書である必要はなく、メール1本でも構いません。「契約書の準備中」は明示をしない理由になりません。

二つ目は、報酬の支払期日です。登壇日から60日以内です。翌々月末払いは多くの場合これを超えます。期日は具体的な日で特定されている必要があり、請求書が遅れても期日までに支払う義務があります。

三つ目は、振込手数料です。2026年1月以降の委託では、同意があっても差引きは報酬の減額にあたります。

四つ目は、無償業務です。デモ研修、範囲外の教材作成、無償の下見は、不当な経済上の利益の提供要請に該当しうる行為です。2026年5月には、無償の体験レッスンについて実際に勧告が出ています。

五つ目は、フリーランス法の限界です。教材の著作権、競業避止、キャンセル料は、フリーランス法では守られません。契約書で決めるしかありません。

次の行動

この記事を読み終えた後に、3つの行動を提案します。

一つ目は、直近の契約書を1通取り出し、支払期日を確認することです。登壇日から60日以内に収まっているか。期日が具体的な日で書かれているか。振込手数料を講師負担とする条項が残っていないか。

二つ目は、著作権条項の有無を確認することです。記載がなければ、次の契約時に確認してください。既存教材を持ち込む場合は、その権利が移転しない旨の条項を入れてください。

三つ目は、確認メールの習慣をつけることです。口頭で条件を聞いた後、その日のうちに内容を箇条書きで送ってください。相手を疑う行為ではなく、認識を合わせる業務です。この習慣が、最も確実な自衛策になります。

法律は、知っていれば使えます。知らなければ、守られていても気づきません。

参考リンク

本記事は、次の公的資料および報道をもとに作成しました。最新の情報は一次資料でご確認ください。

本記事は2026年10月28日時点の情報に基づきます。筆者は弁護士ではありません。個別の契約やトラブルの判断については、弁護士またはフリーランス・トラブル110番へご相談ください。法令および運用は変更される場合があります。


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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。