新人エンジニア研修のオリエンテーション 当社の場合
新人エンジニア研修のオリエンテーションは、通常2~3ヶ月続く研修の冒頭に行われるだけに、新人の皆さんに何を伝えるかは非常に重要です。
受講者は大変緊張していますから、歓迎の言葉で新人を歓迎し、会社やチームの一員として受け入れられることを伝えることはとても重要なことです。
同時に、「鉄は熱いうちに打て」のたとえ通り、早期に学生気分を払拭することで社会人としての心構えを説くことも重要になります。
ここでは、弊社の場合の研修オリエンテーションの内容をお伝えしてみたいと思います。
冒頭で研修の目的と目標を示す
オリエンテーションの冒頭で研修の目的と目標を示すことは何より重要です。なぜなら、新人エンジニアたちはこの研修を通じて何を学ぶべきなのか、そして研修の最終的な成果が何であるのかを明確に理解することで、モチベーションを持って取り組むことができるからです。
また、目的と目標を明確にすることで、研修の中での優先順位や焦点を絞ることが容易になります。不明確な指示や期待は、新人たちにとって混乱や不安をもたらす要因となり得るため、始めの段階で方向性を与えることは、スムーズな研修の進行と新人の成長のために不可欠です。
さらに、明確な目的と目標を共有することで、人材育成担当者様や私達研修講師も研修の中でのサポートやフィードバックを適切に行うことが可能となり、全体として効果的な研修が実現されるのです。
なお、ここで目的とは、研修を行う背景や意味、根本的な「なぜ」を示すものです。大まかな方向性や背景の理由のことです。
また、目標とは、特定の期間内に達成すべき具体的な成果や結果を示すものです。測定可能で、「いつまでに、なにが、どうなったらよいか」を示すものです。多くは数値ですが、状態表現も可能です。
例えば、当社の新人エンジニア研修の例では、
目的:株式会社●●の社員として現場の上位者主導の下で情報システムの設計・開発・保守・運用ができる知識およびスキルを身につける
知識目標:①Webアプリケーションをチームで構築する ②基本情報処理技術者試験合格
スキル目標:①自ら考え行動できる ②主体的に報連相ができる ③PDCAサイクルを自分で回せる
のような例があります。
以下にスキル目標の説明を試みます。
新人社員の皆さんに求めたいのは「自ら考え行動できる:自立」ということです。
「AIと人間の違いは何でしょうか?」
それは目的の創造です。
単なるプログラムであるAIと違い、人間は自らの目的や意味を生み出す能力を持っています。
自立した人間は自らの生の目的や方向性を見つけ、それに基づいて行動することができるはずです。
しかし、社会人は単に自立していると言うだけでは十分ではありません。周囲と協力してチームとして顧客や社会に貢献する必要があります。
そこで大切なのが「報連相」です
「報連相」は、チームでの業務をスムーズに進めるための基本的なコミュニケーションのルールです。
報連相は聞いたことがあると思いますが、念のためここで確認すると。
報(報告)は、自分の行動や取り組み、進捗状況、結果などを上司や関連する人に伝えること。事前報告や事後報告など、タイミングに応じて情報を伝える。
連(連絡)は、予定の変更、問題点、確認事項などを関連する人に知らせること。無駄なミスや誤解を防ぐための情報の共有。
相(相談)は、自分だけでは決断できないことや、意見やアドバイスが必要なことについて、上司や関連する人と話し合うこと。
でしたね。
そして、この「報連相」は他者のためばかりとは限らないのです。
報連相は自分のためでもある
なぜなら、報連相を行うことで、自分自身の業務の進捗と優先順位を明確に理解することができるからです。
定期的に自分の作業を振り返ることで、計画の調整や優先順位の再評価が可能となり、効率的な業務遂行が期待できるからです。
問題が発生した際に早期に対応することで、将来的な大きなトラブルを防ぐこともできるかもしれません。
さらに、常に自分の仕事量を上司と共有していれば無茶振りの仕事を与えられる、ということも少なくなるものです。
報連相は単に上司に状況を伝えるだけでなく、自分自身の業務の見直しや自己評価の一環としても非常に役立つのです。
そして振り返りということに関しては、あまりに有名なPDCAサイクルという考え方がありますね。
PDCAを回し続ければ成長は約束されている
PDCAは「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(検証)」、「Act(改善)」の頭文字を取ったものでした。
継続的な改善や学習のプロセスを促進することを目的としています。
PDCA→PDCA→PDCAをまわし続けるとどうなるでしょうか?
だんだん悪くなるということがあるでしょうか?
もちろん、外部環境の変化によって悪くなることもあるかもしれません。
必ず成功するとはいえないかもしれません。
しかし、「成功は約束されていないが成長は約束されている」という言葉があります。
基本的にPDCAサイクルをまわし続けることで少しずつでも私達は成長していけるのです。
研修初期に研修全体の流れを伝える
研修の目的と目標を示した後は、研修全体の流れ、すなわち研修内容や研修カリキュラムを説明します。
なぜなら、研修の全体像や進行内容を知っていると、各セッションやトピックがどのような位置づけにあるのかを把握しやすくなり、より集中して取り組むことができます。
当社の例ですと最終課題がWebアプリケーションの制作である場合、Javaプログラムの知識だけでは十分ではありません。MySQLなどのデータベースやHTMLやCSS、JavaScriptなどのフロントエンドの知識も必要になります。それらの内容をどのような順番でどのような教材をつかって学ぶのか、ということを示す必要があるのです。
なかには関心な受講者がいて、予習をしてくる人もいます。この予習ということに関しては後でもう一度触れます。
また、何を学ぶのか、どのような方法で学ぶのかを事前に知ることで、不安や疑問を解消し、心の準備を整えることができる点も見逃せません。例えば、理系や情報系の学生であってもプログラミング以外の知識、例えばプロジェクト管理やシステム開発手法については大学や専門学校で学んでいないことも多々あります。そこで研修内容を事前に提示する必要があるのです。
参考までに当社の新人エンジニア研修の標準的な内容を以下のリンクからご覧いただけます。
1日の流れも受講者は気になっている
当社の新人エンジニア研修では、上記のようなスライドを使って一日の流れも説明します。
最初に朝は3分間スピーチから始めます
受講者一人ひとりにテーマを割り振って1日に2人程度、全員の前で3分間話をしてもらうのです。
目的の一つはプレゼンテーション能力の醸成です。3分間という短い時間内でのスピーチは、情報を簡潔に、要点を絞って伝える必要があります。
また、新人が親睦を図るためにお互いを知るというのも実は大きな目的です。
この3分間スピーチの内容は、最初は個々人の自己紹介から始まり、徐々に「プログラミングのTips」や「IDEの使い方」「私が遭遇したバグの原因と解消策」のように具体的にしていきます。
テストがあった翌日には罰ゲームとして間違えたところを解説
これもPDCAの一貫です。また、プレゼンテーションの練習でもあります。
当社の新人エンジニア研修の目標として基本情報処理技術者試験合格を目指していただきます。
ここで間違えた問題を間違えた本人が解説することで理解が深まります。
また、他者が間違えたところを追体験することは正解した受講者にとっても大きな学びになるようです。
反転学習を取り入れる
「反転学習」とは、伝統的な教育の手法を「反転」させた教育方法です。
具体的には、学習者が自宅で学習内容を予習し、学校や教室ではその内容に関する実践活動います。
反転学習のメリットは以下のとおりです。
研修受講者は、授業の前にビデオやテキストなどの教材を自宅や好きな場所で予習します。この段階で基本的な理解を深めます。
受講者が自宅で学んだ内容に基づいて、教室ではディスカッション、実践的な活動、グループワークなどを行います。講師はガイドとして受講者の理解を深めるためのサポートを行います。
受講者は自分のペースで学習することができ、講師は学習者のニーズに応じてサポートを提供できます。
学習者は自分の学習を自分のペースで進めることができるため、自律性や社会人としての責任感が育成される可能性があります。
この反転学習を成功させるためにはいかに示すようにクラスのルールをしっかりと浸透させることと、チームビルディングをすることが欠かせません。
クラスのルールを示す
反転学習を成功させるためにはクラスのルールを定めて、それを徹底することが重要です。
なぜなら、反転学習は受講者の自主性を重んじるため、ルールがないとグダグダになってしまうからです。
そこで、当社の研修では以下の5つのルールを示しています。
1.時間厳守
時間厳守は研修が定められた時間に正確に始められることを保証するルールです。
遅れることで他の参加者や進行に影響を及ぼすことがあるため、時間を守ることは基本的なマナーとなります。
また、時間厳守を徹底することで、今後社会人として計画的に物事を進める習慣が身につきます。
こんな不思議な通帳を想像してみてください。
その通帳には毎日0時に86,400円が振り込まれるのです。
しかし、その86,400円を引き出さないとその日の24時には全て消えてしまうのです。
皆さんだったらその86,400円を引き出しますか?
お察しの通り、86,400円というのは60秒×60分×24時間=86,400秒のことです。
時間はすべての人に等しく流れて元には戻りません。
今日より若い日はもう来ないのです。
ぜひ、時間を大事にしていただきたいと思います。
2.予習してから参画する
例えば、上司から「来週から始まるプロジェクトではC#を使うことになります」こう言われたらどうするでしょうか?
予習は、研修やミーティングの内容を事前に確認し、理解を深めるためのものです。
予習をしてから参加することで、議論の進行がスムーズになり、より具体的な質問や提案ができるようになります。
3.マナー厳守
教室やミーティング内での行動や態度が、他の参加者の学びや議論を妨げないように、適切な態度や行動を保つことを意味します。
例としては、他の人の発言を尊重する、不適切な言葉遣いを避ける、携帯電話のマナーモードをオンにするなどが挙げられます。
4.その日の疑問はその日のうちに解決する
このルールは、学びの効果を最大化するためのものです。
疑問や課題を放置すると、次回の学びに影響を及ぼすことがあるため、その日のうちに他の参加者や講師に質問し、解決を図ってください。
特にプログラミングの学習は数学の学習にも似て、積み上げ学習です。
前の単元がわからないと次の単元もわからないとなりがちですから気をつけてください。
5.健康管理に留意する
みなさんは、「1億円であなたの目玉を譲ってください」と言われたらどうしますか?
学びや仕事の効果を最大化するためには、皆さん個々人の健康状態が不可欠です。
適切な休息や食事、ストレス管理など、身体や精神の健康を維持することの重要性を強調したいと思います。
また、コロナウイルスや風邪などの感染症の場合、他の参加者への感染を防ぐために適切な対応が求められます。
チームビルディングをする
ルールを発表した後は以下の項目をチームごとに決めることでチームビルディングをします。
各チームを擬似的に会社組織にして、自律的に動くことを奨励します。
ポイントは、
- 会社名や経営理念は自分たちで考えてもらう点、
- 全員に役割を振り、特にマネジメント面のリーダーとしての「社長」と技術面のリーダーとしての「技術部長」の役割を分ける点
- チームのルールを人数分、つまり一人一つ作成して発表することで自律的な対応を奨励する点
です。
ラーニングピラミッドの話をして教え合いを促進する
チームが決まったらラーニングピラミッドについて解説します。
ラーニングピラミッドは、特定の教育手法や学習方法によって、情報の長期間記憶が異なるとするモデルです。
ラーニングピラミッドによれば、単に講義や読書だけで学習するよりも、ディスカッションを行ったり、実際に何かを実践したりすることで、より多くの情報が保持されるとされています。そして、他の人に何かを教える行為は、情報の保持に最も効果的であるとされています。
※しかし、ラーニングピラミッドのデータやパーセンテージは、実際のところ、明確な研究や根拠に基づいているわけではありません。これは教育や学習方法の選択に際して参考の1つとして考えるべきものであり、絶対的なものとして捉えるべきではありません。
必要なツールの使い方を解説する
その後研修で必要なツールの使い方を解説しますが、細かな内容ですので、ここでは解説を控えたいと思います。
以上、「新人エンジニア研修のオリエンテーション 当社の場合」を解説しました。
お役に立てる部分がありましたら大変嬉しく存じます。
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投稿者プロフィール
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セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。
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