「叱ると部下は育つ」は勘違い?人材育成に潜む「平均への回帰」の罠を体験シミュレーションで解き明かす
こんにちは。ゆうせいです。
人材育成を担当されている皆さんは、日々、部下や後輩の成長のために、どのような指導を心がけていますか?「良いパフォーマンスは褒めるべきか、それとも課題点を厳しく指摘するべきか…」指導方法に悩んだ経験は、一度や二度ではないはずです。特に、「厳しく叱った後に、パフォーマンスが改善した」という経験から、「やはり指導には厳しさが必要だ」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
でも、その感覚、もしかしたらただの「勘違い」かもしれませんよ。
今回は、そんな指導の効果について深く考えさせられる、非常に興味深いシミュレーションアプリケーションをご紹介します。簡単な操作で、私たちがいかに物事の因果関係を誤って捉えやすいか、そしてそれが人材育成にどのような影響を与えるかを、身をもって体験できるはずです!
アプリケーションへのリンクは以下から
https://saycon.co.jp/yuu/regression-to-the-mean.html
教師になって生徒を導け!「教師体験シミュレーション」とは?
このアプリケーションの目的はとてもシンプルです。あなたは架空のクラスの教師となり、20人の生徒を20日間にわたって指導します。
あなたのミッション
あなたの目標はただ一つ。生徒たちを毎朝8時30分までに登校させることです。
シミュレーションが始まると、毎日一人、代表の生徒の登校時刻が表示されます。その時刻が目標である8時30分より早いか、それとも遅いか。その結果を見て、あなたは次の3つのアクションから一つを選びます。
- 褒める 👍
- 叱る 😠
- 何もしない 😐
これを20日間、毎日繰り返すだけ。とても簡単でしょう?
さあ、まずは難しく考えずに、ご自身の教育方針や指導経験に基づいて、直感でアクションを選んでみてください。20日後、生徒たちの登校時間は、あなたの指導によってどのように変化していくでしょうか?
その効果は本物?シミュレーションが暴く「見せかけの因果関係」
20日間の指導、お疲れ様でした。いかがでしたか?
おそらく、多くの方がこのように感じたのではないでしょうか。
「遅刻した生徒を叱ったら、次の日はちゃんと時間通りに来ることが多かったな…」
「逆に、早く来た生徒を褒めても、次の日はまた遅くなったりして、あまり効果を感じなかった…」
そして、最終的に「生徒を時間通りに登校させるには、叱ることが最も効果的だった」という結論に至ったかもしれません。
…しかし、残念ながら、それは錯覚です。
実は、このシミュレーションでは、あなたが選んだ「褒める」「叱る」「何もしない」というアクションは、生徒の次の日の登校時間に一切影響を与えていません。
生徒たちの登校時刻は、シミュレーションを開始した時点で、すでに20日分すべてがランダムに決定されていたのです。
では、なぜ私たちは「叱る方が効果的だ」と錯覚してしまったのでしょうか。その謎を解くカギが、今回解説する専門用語、「平均への回帰」です。
人材育成担当者が知るべき「平均への回帰」という罠
「平均への回帰(へいきんへのかいき)」とは、一体どのような現象なのでしょうか。
難しそうに聞こえますが、心配しないでください!高校生でも理解できるように、身近な例を使って解説していきますね。
平均への回帰とは?
すごく簡単に言うと、**「一度、ものすごく良い(または悪い)結果が出たら、次はもっと平均に近い、普通の結果が出やすくなる」**という統計的な傾向のことです。
重要なのは、そこに特別な原因や理由がなくても、確率的にそうなりやすい、という点です。
テストの点数で考えてみよう!
もっと具体的に、学校のテストで考えてみましょう。
ある生徒が、実力は70点くらいなのに、前日の夜に勉強した部分がたまたま全部テストに出て、まぐれで100点を取ったとします。これは「ものすごく良い結果」ですよね。あなたなら、この生徒をきっと褒めるでしょう。
しかし、次のテストで、その生徒が再び100点を取る可能性は高いでしょうか?おそらく、本来の実力である70点に近い点数に戻る可能性の方が高いはずです。この時、私たちは「あれだけ褒めたのに、点数が下がってしまった…」と感じてしまうかもしれません。
逆に、別の生徒が、いつもは70点取れるのに、テスト当日に体調を崩してしまい、最悪の30点を取ってしまったとします。これは「ものすごく悪い結果」です。あなたはこの結果を見て、生徒を叱咤激励するかもしれません。
すると、次のテストではどうでしょう。体調が戻れば、その生徒は特別なことをしなくても、本来の実力である70点近くの点数を取る可能性が高いですよね。これを見て、私たちは「厳しく叱ったから、点数が上がったんだ!」と、指導の効果を実感するわけです。
シミュレーションで起きていたこと
もうお分かりですね。今回のシミュレーションで起きていたのも、全く同じ現象です。
- 極端に登校が遅い(悪い結果) 生徒が現れる。
- あなたは、その結果に対して「叱る」というアクションを取る。
- 次の日、その生徒の登校時間は、確率的に平均(8時30分)に近いマシな時間になる可能性が高い。
- 結果として、「叱ったから、登校時間が早くなった」という見せかけの因果関係が、あなたの頭の中に生まれてしまうのです。
これが、「平均への回帰」が引き起こす認知の罠の正体です。
なぜ「平均への回帰」を知る必要があるのか?
「なるほど、そういう統計的な現象があるのか。でも、それが人材育成とどう関係するの?」と感じたかもしれませんね。
この認知バイアスを知っているかどうかは、あなたの指導の質、ひいては部下の成長に大きな影響を与える可能性があるのです。
メリット:短期的な結果に惑わされなくなる
平均への回帰を理解していれば、部下のパフォーマンスが一時的に大きく落ち込んだとしても、すぐに「叱責」という手段に頼るのではなく、「何か特別な要因はなかったか?」「これは一時的な揺らぎではないか?」と冷静に分析する視点を持つことができます。
逆に、一度の大きな成功を手放しで称賛し、次の結果が平均に戻ったときに「天狗になっている」とか「やる気をなくした」などと誤解することも防げます。
人のパフォーマンスには波があることを前提とし、長期的な視点で、その部下の本質的な成長をサポートする、という本来の育成に集中できるようになるのです。
デメリット:誤った指導で信頼を失うリスク
もしこの現象を知らなければどうなるでしょうか。「叱れば部下は改善する」という誤った成功体験を積み重ねてしまうかもしれません。
その結果、部下のパフォーマンスが低下するたびに叱責を繰り返し、なぜ改善しないのかとさらに厳しく接してしまう…という負のスパイラルに陥る危険性があります。このような指導は、部下のモチベーションを奪い、あなたへの信頼を損なうだけでなく、最悪の場合、パワーハラスメントと受け取られかねません。
短期的な結果に一喜一憂し、誤った因果関係に基づいて指導を続けることは、育成担当者として非常に大きなリスクなのです。
まとめ:データや心理学の知識で、指導をアップデートしよう!
今回は、「教師体験シミュレーション」というアプリケーションを通して、「平均への回帰」という統計的な現象と、それが人材育成に与える影響について解説しました。
重要なメッセージは、「人の成長やパフォーマンスは一直線ではなく、常に平均を中心に揺れ動いている」ということです。私たち指導者は、その表面的な波に心を揺さぶられるのではなく、その奥にある本質的な傾向や成長のサインを見抜く冷静な目を持つ必要があります。
今回の「平均への回帰」は、私たちが陥りやすい数多くの「認知バイアス」の一つに過ぎません。もし興味を持たれたなら、ぜひ他の認知バイアスについても学んでみてください。
例えば、自分に都合の良い情報ばかりを集めてしまう「確証バイアス」や、一つの特徴で全体の評価を決めてしまう「ハロー効果」など、人材評価や育成の場面で無意識に働いてしまう心理的な罠はたくさんあります。
この分野の理解を深めるためには、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者、ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』などが、素晴らしい学びを与えてくれるでしょう。
感覚や経験だけに頼るのではなく、こうした統計学や心理学の知識を取り入れることで、あなたの指導はより客観的で、効果的なものへと進化するはずです。ぜひ、今日からあなたの視点をアップデートしてみてください!
アプリケーションへのリンクは以下から
https://saycon.co.jp/yuu/regression-to-the-mean.html