新人エンジニア研修の講師選びで失敗しないための評価項目と採用のポイント

こんにちは。ゆうせいです。

新しい研修講師を迎えるのですね。それは組織にとって非常に重要な決断です。新人エンジニアにとって最初の先生というのは、その後のキャリア観や技術への向き合い方を決定づける親のような存在だからです。

技術力がある人が、必ずしも教えるのが上手いとは限らないのがこの世界の難しいところですよね。では、どのような基準で講師を選べば、新人たちがすくすくと育つ環境を作れるのでしょうか。

今日は、ただコードが書けるだけではない、本当に新人を成長させられる講師を見極めるための評価項目について、具体的に提案させてください。

1. 専門用語の翻訳能力

まず最も重視すべきは、難しい技術用語をどれだけ日常的な言葉に翻訳できるかです。

エンジニアの世界は専門用語の塊です。サーバー、リクエスト、オブジェクト指向、デプロイなど、初心者には呪文のように聞こえます。これを「サーバーはサーバーだよ」と説明する講師では、新人は置いてけぼりになってしまいます。

評価するときは、あえて技術を知らない非エンジニア社員を面接官に入れ、次のような質問をしてみてください。

APIとは何か、おばあちゃんでもわかるように説明してください。

この質問に対し、技術的な正確さにこだわりすぎて専門用語を重ねてしまう人は要注意です。逆に、レストランのメニューとウェイターに例えるなど、相手の知っている概念に置き換えて説明できる人は、教育者としての高い素質を持っています。

2. 心理的安全性を醸成する力

次に大切なのが、質問しやすい空気を作る力です。これを心理的安全性と呼びます。

新人が成長を止めてしまう最大の原因は、こんなことを聞いたら怒られるんじゃないか、バカだと思われるんじゃないかという恐怖心です。良い講師は、この恐怖心を取り除く術を知っています。

評価の際は、過去の失敗談や、初心者がやりがちなミスに対してどう反応するかを見てみましょう。

模擬授業や面接で、わざと初歩的な質問を投げかけてみてください。そのとき、そんなことも知らないのですかという態度が少しでも見えたら危険信号です。いい質問ですねと受け入れ、なぜその疑問が生まれたのかを一緒に紐解いてくれる人こそ、新人が安心して背中を預けられる講師です。

3. 答えではなく考え方を教える姿勢

プログラミングにおいて、エラーが出たときにすぐに正解のコードを教える講師は、実はあまり良くありません。なぜなら、現場に出たら自分で答えを見つけなければならないからです。

評価したいのは、魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える姿勢があるかどうかです。

エラーの解決方法を聞かれたとき、どう指導しますかという質問をしてみてください。

エラーメッセージの読み方を教える、検索するキーワードの選び方を教える、デバッグ(不具合の原因探し)の手順を示す、といった回答が返ってくれば合格です。すぐに正解を教えますという人は、優しさの方向性を間違えている可能性があります。

4. ビジネス視点の有無

エンジニア研修といえども、技術だけを教えれば良いわけではありません。なぜそのシステムを作るのか、それがどうやって会社の利益になるのかというビジネス視点が必要です。

ただ動けばいいというコードを書く癖がつくと、後の工程で修正が大変になったり、使いにくいシステムができあがったりします。

評価項目として、技術選定の理由を説明できるかを確認しましょう。

なぜその言語やツールを使うのですかという問いに対し、流行っているからと答えるのではなく、開発効率が良いから、保守がしやすいからといった、ビジネス上のメリットを語れる講師は、新人の視座を高めてくれます。

採用におけるメリットとデメリットの整理

ここで一度、理想的な講師を採用することの影響を整理しておきましょう。

メリット

質の高い講師を採用できれば、新人の立ち上がりが圧倒的に早くなります。現場配属後に先輩社員が手取り足取り教えるコストが減るため、部署全体の生産性が向上します。また、学ぶ楽しさを知った新人は離職しにくくなるという大きな利点もあります。

デメリット

一方で、教育スキルと技術スキル、そして人間性を兼ね備えた人材は希少であり、採用コストや報酬が高くなる傾向があります。また、独自の教育論を持っていることが多く、既存のカリキュラムや会社の方針と衝突する場合もあります。事前のすり合わせが非常に重要です。

具体的な試験方法の提案

最後に、面接だけでは見抜けない部分を確認するための実技試験の導入をおすすめします。

15分程度の模擬授業

テーマを条件分岐や変数など基礎的なものに絞り、実際に授業をしてもらいます。聞き手はわざと理解していないふりをしたり、突っ込んだ質問をしたりして、臨機応変な対応力を見ます。

コードレビュー(添削)試験

わざとバグを含んだり、可読性の低いコードを渡し、どのように指摘するかを見ます。否定的な言葉を使わず、改善点を前向きに伝えられるかをチェックします。

講師採用評価シート

このシートは、大きく4つのカテゴリーに分かれています。面接中や模擬授業の際に、5段階(1:不十分 〜 5:非常に優秀)で点数をつけてみてください。

1. 翻訳力・伝達力(ティーチングスキル)

技術を知らない人に対して、どれだけわかりやすく伝えられるかを見る項目です。

評価項目チェックポイント評価 (1-5)
専門用語の噛み砕き専門用語を日常的な言葉や例え話に変換できているか
相手に合わせる力相手の理解度を確認しながら話すスピードを調整しているか
結論ファースト質問に対して、まず結論から簡潔に答えているか
論理構成話の順序が整理されており、聞いていて迷子にならないか

2. 心理的安全性・人間性(マインドセット)

新人が萎縮せずに質問できる空気を作れるかを見る項目です。

評価項目チェックポイント評価 (1-5)
傾聴の姿勢相手の話を最後まで遮らずに聞いているか
受容力初歩的な質問や勘違いを否定せず、一度受け入れているか
表情と態度威圧感がなく、話しやすい柔らかな表情をしているか
失敗への寛容さ失敗を学びの機会としてポジティブに捉えているか

3. 技術指導の方針(コーチングスキル)

答えを教えるのではなく、成長を促す指導ができるかを見る項目です。

評価項目チェックポイント評価 (1-5)
プロセス重視正解だけでなく、調べ方や考え方を教えているか
自走支援公式ドキュメントの読み方など、自力で解決する術を示しているか
コードの品質動くだけでなく、読みやすく保守しやすいコードを推奨しているか
なぜの追求なぜその技術を使うのか、背景や理由を説明できているか

4. ビジネス視点と組織適合性

会社の利益やチーム開発を意識できているかを見る項目です。

評価項目チェックポイント評価 (1-5)
技術選定の理由コストや納期、保守性を考慮して技術を語れるか
チームワーク独りよがりなコードではなく、チーム開発の規約を尊重できるか
学習意欲講師自身も新しい技術を学び続けているか

本音を引き出すための質問リスト

評価シートの項目をチェックするために、面接で投げかけるべき具体的な質問例も用意しました。

専門用語の解説力を測る質問

私のことをIT知識ゼロの新人だと思って、HTTPとは何かを説明してください。

(ポイント:郵便やレストランなどに例えて説明できるかを見ます)

指導スタンスを見る質問

研修中、ある新人が何度説明しても同じミスを繰り返しています。あなたならどう対応しますか。

(ポイント:新人のせいにせず、自分の教え方を変えたり、根本的な原因を探ろうとするかを見ます)

問題解決能力を見る質問

新人が書いたコードにバグがあり、どうしても動かないと相談に来ました。まずなんと声をかけますか。

(ポイント:すぐにPCを奪って直すのではなく、エラーログを見せてもらうなど、新人に考えさせるアクションを取るかを見ます)

失敗談を聞く質問

過去に技術的な失敗をした経験と、それをどう乗り越えたか教えてください。

(ポイント:失敗を隠さず話せるか、そこから何を学んだかを語れるかを見ます)


模擬授業(デモ)でのチェックポイント

面接だけでなく、10分から15分程度の模擬授業を行うことを強くおすすめします。お題は変数や条件分岐などの基礎的なもので構いません。

ここで見るべきは、以下の3点です。

タイムマネジメントができているか

決められた時間内で要点をまとめられるかは、カリキュラムを消化する上で重要です。

双方向のやり取りがあるか

一方的に喋り続けるのではなく、わかりますか?と確認を入れたり、問いかけを行ったりしているかを確認しましょう。

板書や資料の見やすさ

ホワイトボードや画面共有の使い方が雑ではないか、文字の大きさや色使いに配慮があるかも大切な要素です。

評価結果の活用方法と注意点

メリット:客観的な比較ができる

このシートを使うことで、Aさんは技術力は高いが威圧感がある、Bさんは技術はそこそこだが教え方が抜群に上手いといった特徴が可視化されます。チームで採用を検討する際の共通言語になります。

デメリット:点数が全てではない

点数はあくまで目安です。全ての項目が平均点の人よりも、一つ飛び抜けた情熱を持っている人の方が、新人の心を動かすこともあります。最終的には、一緒に働きたいと思えるかどうかの直感も大切にしてください。

今後の学習の指針

いかがでしたでしょうか。技術力はもちろん大切ですが、それ以上に人間力や翻訳力が問われるのが講師という仕事です。

まずは、今回挙げた項目の中から、自社の文化に最もフィットする要素を3つ選び出し、評価シートを作成してみることから始めてはいかがでしょうか。明確な基準があれば、面接官による評価のブレも防げます。

もし評価シートの具体的な項目作りで迷ったら、いつでも相談してくださいね。素晴らしい講師との出会いがあることを応援しています。

セイ・コンサルティング・グループでは新人エンジニア研修のアシスタント講師を募集しています。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。

学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。