ネゴシエーションとは?IT企業で重要視される理由から研修方法まで詳しく解説

これから自社がIT業界内で業績を伸ばしていくためには、ネゴシエーションのスキルが高い人材を育成していく必要があると聞いたけれど、自分もあまりネゴシエーションが好きな方ではないのでいまいち腑に落ちないと感じている人はいませんか?

この記事では、ネゴシエーションがIT企業で重要視される理由から研修方法まで詳しく解説します。

ネゴシエーションとは?

合意を目的として会議室でネゴシエーションを行う人たち

ネゴシエーション(negotiation)とは日本語に直訳すると「交渉」「折衝」となり、ビジネスの場では何らかの合意を目的として意見の調整を行う話し合いのことを意味します。

ネゴシエーションは相手との競争関係の中で行われるとイメージされがちですが、本来自分と相手がよりよい条件で合意するのを目的とするため、共創関係の中で行われるのが特徴的だと言えるでしょう。

双方が納得のいく条件で合意するためにも、ネゴシエーションでは数値で示せる定量的な目標を掲げ、それに向かって行うことが大切です。

参考:山崎有生「SEのための29歳からのスキル向上計画」

ネゴシエーションをIT業界で働く人が身に着けるメリット

IT業界でネゴシエーションを身に着けた2人

ネゴシエーションをIT業界で働く人が身に着けるメリットは次の通りです。

相手と自分がお互い納得のいく条件で合意できる

・相手とWin-Winの関係になれる

・相手との関係深化につながる

ITスキル標準に即したスキルアップにつながる

ITスキル標準では、ネゴシエーションを職種共通スキル項目の1つとして位置づけているため、IT業界においては汎用性の高いスキルの1つだと言えるのです。

ITスキル標準についても詳しく知りたい方は、次の記事もごらんください。

ITスキル標準とは?資格一覧からIT企業での活かし方まで詳しく解説 - セイコンサルティンググループ (saycon.co.jp)

参考:独立行政法人情報処理推進機構「ITスキル標準V3 2011 ダウンロード」

ネゴシエーション力を高めるためのフレームワーク

傾聴するIT人材

ネゴシエーション力を高めるためには、ネゴシエーションに使える武器の全体像を知っておくことが大切なので、5種類ある武器についてそれぞれご紹介します。

力関係

力関係とは、相手と交渉をする上であらかじめ有利なポジションに立っておくことと定義づけられます。

IT業界における会社間の関係に例えると、「相手の会社にとって自社がいなくなると困る度合い」とも言えるでしょう。

この力関係を分析する上で、経営学やWebマーケティングではよく「ファイブフォース分析」というフレームワークが用いられます。

ファイブフォース分析とは買い手(顧客)の交渉力、供給者の交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威、業界内の競争の5つの力から導き出す業界構造分析の手法のことです。

「競争戦略論」を著した、ハーバード大学経営大学院のマイケル・E・ポーター教授によって提唱されました。

ファイブフォース分析における5つの力の概要は次の通りです。

項目概要
買い手(顧客)の交渉力・買い手(顧客)が自社に対して持つ要求の強さ
・自社からしか手に入らない商品やサービスがあると弱くなり、他社からも手に入る商品やサービスがあると強くなる
供給者の交渉力・商品やサービスの供給者が自社に対して持つ要求の強さ
・景気が低迷すると弱まる
新規参入の脅威・業界内に新しい企業が参入する可能性がどのくらいあるのか
・IT業界は成長市場で参入障壁が低いため新規参入されやすい
代替品の脅威・買い手(顧客)のニーズを満たす自社の商品やサービス以外の代替品が登場する可能性がどのくらいあるのか
・発生する頻度は高くないが実現すると脅威となる
業界内の競争・業界内における既存の競合他社との競争はどの程度あるか
・前の4つの項目が競争関係に影響を与える

ファイブフォース分析をすると、相手の会社における自社の現在位置が明確になるため、力関係がわかります。

力関係がわかったら、次の4つの項目の中から1つを選ぶか、複数を組み合わせるかのどちらかの戦略を実行し、自社の力関係を強めましょう。

項目概要結果
自社の価値を高める・自社の商品やサービスの価値を高める・買い手(顧客)の交渉力を弱める
・より魅力的な取引業者となる・供給者の交渉力を弱める
・圧倒的に強い分野を持つ・新規参入の脅威や代替品の脅威が弱まる
選択肢を増やす・買い手(顧客)を増やす・買い手(顧客)の交渉力を弱める
・供給者の選択肢を増やす・供給者の交渉力を弱める
第三者を活用する・自社や顧客の中で味方になってくれる人を活用する
グループを形成する・業界内で共同仕入れをする・供給者の交渉力を弱める
・業界基準、業界標準、規制を作る・新規参入の脅威や代替品の脅威が弱まる

ファイブフォース分析をするだけではなく、戦略を立てて実行することが力関係を強めるのを覚えておきましょう。

心理

心理とは、好意的な言葉や行動で相手の心に強く訴えることと定義づけられ、具体例としては感謝、敬意、相手の立場を考えることなどがそれにあたります。

ネゴシエーションで自社の考えを買ってもらうためには、相手に好感を持ってもらうことが大切です。

相手に好感を持ってもらうために覚えておきたい心理学の知識をご紹介します。

項目概要
ラポール形成・信頼関係が構築された状態
バックトラッキング・ラポール形成を目的とし相手の話した「事実」「感情」「要約」を繰り返して言う
ミラーリング・ラポール形成を目的とし相手のしぐさや表情、言動などを観察してまねる
ペーシング・ラポール形成を目的とし話すテンポ、声のトーン、呼吸のリズムなどを相手に合わせる
傾聴・共感的理解(相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとすること)、無条件の肯定的関心(相手の話を善悪や好き嫌いの評価をせずに聴くこと)、自己一致(真意を確認する)に基づいて話を聴くこと
アンガーマネジメント・怒りを適切にコントロールするための手法や心理トレーニング
損失回避の法則・人間が「得をする」よりも「損をしない」を選んで行動してしまうこと

相手とのラポール形成でネゴシエーションができるような信頼関係を構築し、深く理解するために傾聴し、ネゴシエーションの場で感情的にならないためにアンガーマネジメントの手法を身に着けると考えるとわかりやすいでしょう。

論理

論理とは、理由、根拠、事実、データなどの客観的な情報を使って相手を納得させることと定義づけられます。

IT業界の人にとって論理はなじみやすいものですが、使い方によってはネゴシエーションの相手を言い負かしてしまい、自分も相手も後味の良くない思いをする場合があります。

そのため論理を使う際は次のような工夫をしましょう。

・ネゴシエーションをするのはビジネスの場でありディベートの場ではないのを意識する

・論理で勝ってビジネスで負けては意味がないのを理解する

論理は提案の形(「~ではいかがでしょう」など)で伝える

論理を押し付けすぎず、やわらかく伝える努力が大切です。

逆提案

逆提案とは、複数の条件がある場合ある条件で相手の主張を受け入れるのと引き換えに、他の条件では自分の主張を受け入れてもらうことと定義づけられます。

この場合の条件とは価格や納期などのことです。

ネゴシエーションの目的である自分と相手の双方が納得のいく条件で合意するためには、逆提案をしてみるのが重要だと言えるでしょう。

逆提案をする時に意識してほしいのは、「相手にとって価値のある条件と自分にとって価値のある条件を引き換えにする」ということです。

逆提案は相手にとって受け入れやすい提案と言えますが、必ず相手が受け入れてネゴシエーションが成功するとは限らないのを頭に入れておきましょう。

妥協

妥協とは、同じ条件で双方が主張の中間点を取って利益と痛みを分け合うことと定義されます。

ネゴシエーションにおいてはこの妥協案をあらかじめ考えておくことが、交渉決裂といった最悪の事態に備えるリスクマネジメントとなるでしょう。

妥協をする際は相手の条件を聴いてから自分の条件を提示し、少しでも自分が有利になるように話を進めるのがコツです。

参考:山崎有生「SEのための29歳からのスキル向上計画」

ネゴシエーションのITビジネスにおける望ましい使い方

ITビジネスにおいて行われるネゴシエーション

ネゴシエーションに使える5つの武器について理解した所で、ITビジネスにおいてはこれらをどのような使い方で用いるのが望ましいのでしょうか。

3つご紹介します。

信頼関係をベースに使う

ネゴシエーションは5つの武器の「心理」の項目でもご紹介したラポール形成=信頼関係をベースに使うようにしましょう。

信頼関係を構築するには相手とのコミュニケーションの場でバックトラッキング、ミラーリング、ペーシングなどのテクニックを使うのも大切ですが、日頃から約束を守る、期待を超えた提案やサービスを行う、相手が喜ぶ仕事をするといった基本的なことが何より重要です。

準備を整えてから使う

ネゴシエーションをする前に、事前準備として自分と交渉相手のことを前の項目まででご紹介した内容に即して書き出してみましょう。

例として次のような項目を埋められるように準備するのが大切です。

・ネゴシエーションの目的

・ネゴシエーションの目標

・力関係

・心理

・論理

・逆提案

・妥協

これらをバランス良く意識すると、交渉の場においてWin-Winの条件で同意しやすくなるでしょう。

リスクマネジメントをしてから使う

ネゴシエーションにおいては妥協案を事前にしっかりと準備しておくことが最大のリスクマネジメントです。

ネゴシエーションには相手がいるため、自分が思い描いた通りにばかりは進まないのを理解しましょう。

参考:山崎有生「SEのための29歳からのスキル向上計画」

セイ・コンサルティング・グループではIT技術者とDX推進者のためのネゴシエーション研修をサポートします

セイ・コンサルティング・グループでは、IT業界で働く人がネゴシエーションを身に着けるためには、実際の交渉事例に基づいた理論と実践両方を研修で行うのが大切だと考えています。

セイ・コンサルティング・グループのネゴシエーション研修では、個人ワーク、グループワークに加えて実際の事例を使ったネゴシエーションゲームやロールプレイングを行う方法で、周囲の人たちとコミュニケーションを取りながら楽しくネゴシエーション力を高めることができます。

また1日の最後に振り返りやフィードバックを行うので、参加者の知識が定着するよう、また不明点をそのままにしないよう配慮することが可能です。

研修参加者からいただいた質問への回答、また最新の感想もホームページに掲載しておりますので、受けてよかったと従業員に思ってもらえるネゴシエーション研修を行いたい方は、ぜひ次のページもごらんください。

1.2 IT技術者とDX推進者のためのネゴシエーション研修 - セイコンサルティンググループ (saycon.co.jp)

まとめ

ネゴシエーションとは日本語に直訳すると「交渉」「折衝」となり、ビジネスの場では何らかの合意を目的として意見の調整を行う話し合いのことを意味します。

取引先や協力会社とのよりよい共創関係を構築するためにも、従業員のネゴシエーション力を高めるよう意識を向けてみてください。