第4章 深層学習の基礎
近年、深層学習は画像認識、音声認識、自然言語処理など多くの分野で革新的な成果をもたらしています。従来の機械学習手法と比べ、より複雑なパターンや非線形な関係性を自動的に学習できる点がその大きな特徴です。本章では、まずニューラルネットワークの基本構造と動作原理を理解し、その後、初歩的なモデルであるパーセプトロンと、より柔軟性のある多層パーセプトロン(MLP)について学びます。さらに、ネットワーク内で重要な役割を果たす活性化関数と損失関数、そして学習アルゴリズムの中心となる誤差逆伝播法について解説します。
4.1 ニューラルネットワークの仕組み
ニューラルネットワークは、人間の脳神経細胞(ニューロン)の働きを模倣して設計された計算モデルです。以下の要素から構成されます。
- 入力層:
ネットワークへの情報(特徴量)が最初に与えられる層です。各ノードは入力データの各要素に対応します。 - 隠れ層:
入力層と出力層の間に位置する層で、複数配置されることが一般的です。各隠れ層のノードは前層からの出力を受け取り、重み付き和とバイアス項を計算した後、非線形な活性化関数を通じて次の層に信号を伝えます。隠れ層の数や各層のノード数が増えることで、モデルはより複雑なパターンを学習可能となります。 - 出力層:
問題の種類(分類、回帰など)に応じた形で結果を出力する層です。たとえば、分類問題では各クラスに対応した出力ノードが配置され、確率的な解釈を与えるためにソフトマックス関数が使われることが多いです。
各ノードでの計算は、以下のように行われます。
- 線形結合:
前層からの出力 に対し、対応する重みを掛け、バイアスを加えた値を計算します。 - 非線形変換(活性化関数):
線形結合の結果 zz に対して、活性化関数 を適用し、非線形な出力 を得ます。
このような層の積み重ねにより、単純な入力から複雑な特徴抽出が可能となります。
4.2 パーセプトロンと多層パーセプトロン(MLP)
4.2.1 パーセプトロン
パーセプトロンは、最も基本的なニューラルネットワークのモデルであり、1つのニューロンを用いて線形分類を行います。
- 動作原理:
単一のパーセプトロンは、入力に対して重み付き和を計算し、その値がある閾値以上であれば「1」、それ未満であれば「0」を出力します。 - 限界:
単純な線形分離が可能な問題には有効ですが、線形分離不可能な問題(例:XOR問題)には対応できません。
4.2.2 多層パーセプトロン(MLP)
多層パーセプトロンは、複数のパーセプトロンを層状に接続したモデルで、非線形な問題に対しても柔軟に対応できます。
- 構造:
入力層、1つ以上の隠れ層、出力層から構成され、各層間で前述の線形結合と活性化関数による非線形変換が行われます。 - 表現力の向上:
隠れ層を増やすことで、入力データの複雑なパターンや関係性を階層的に学習することが可能となり、線形分離が困難な問題に対しても高い精度で分類や予測が行えます。
4.3 活性化関数と損失関数
4.3.1 活性化関数
活性化関数は、各ニューロンで計算された線形結合に対して非線形性を付加する役割を果たします。代表的な活性化関数には以下のものがあります。
- シグモイド関数:
出力値が0から1の範囲に収まり、確率的な解釈が可能です。 ただし、勾配消失問題が生じやすいという欠点があります。 - ハイパボリックタンジェント(tanh):
出力が-1から1の範囲となり、シグモイドよりも中心がゼロに近いため学習が安定しやすいです。 - ReLU(Rectified Linear Unit):
計算が高速であり、勾配消失問題をある程度回避できます。入力が正の場合はそのまま、負の場合は0を出力します。 - ソフトマックス関数:
主に出力層で用いられ、各クラスに対する確率分布を生成します。
4.3.2 損失関数
損失関数は、モデルの出力と正解との誤差を定量化するための指標で、学習アルゴリズムにおいてパラメータ更新の基準となります。
- 平均二乗誤差(MSE):
主に回帰問題に用いられ、予測値と実測値の差の二乗平均を計算します。 - 交差エントロピー誤差:
分類問題において、予測された確率分布と実際の分布との乖離を測る指標として用いられます。特にソフトマックス出力と組み合わせることで効果を発揮します。
4.4 誤差逆伝播法(Backpropagation)の原理
誤差逆伝播法は、ニューラルネットワークの学習において各パラメータの勾配(微分値)を効率的に計算するアルゴリズムです。以下、その基本的な流れを説明します。
- 順伝播:
入力データから出発し、各層で計算を行って出力を得ます。
この過程で各ノードの出力(中間変数)を保存しておきます。 - 損失計算:
出力層で得られた予測値と正解との間で、損失関数を用いて誤差を計算します。 - 逆伝播:
チェーンルールを用いて、出力層から順に各層のパラメータに対する損失の偏微分(勾配)を計算します。
具体的には、各ニューロンの出力に対して、その影響を与える前層のパラメータへの勾配を連鎖的に伝播させて求めます。 - パラメータ更新:
得られた勾配に基づき、勾配降下法などの最適化アルゴリズムを用いて、重みやバイアスを更新します。
これにより、モデルは損失が低減する方向へと調整され、精度が向上します。
誤差逆伝播法は、層が深くなるほど計算量が増加するものの、効率的な実装(ミニバッチ学習、最適化アルゴリズムの工夫など)により、実際の大規模なネットワークでも広く用いられています。
まとめ
本章では、深層学習の基礎を形成する要素について解説しました。
- ニューラルネットワークの基本構造 では、入力層、隠れ層、出力層の役割と各層での計算の流れを理解しました。
- パーセプトロンと多層パーセプトロン(MLP) により、線形分離可能な問題から、非線形な問題への対応力が向上する仕組みを学びました。
- 活性化関数と損失関数 は、ネットワークの非線形性の付加と、学習の指標として重要な役割を果たします。
- 誤差逆伝播法 は、各パラメータの最適化を効率的に実現するための基本アルゴリズムとして、深層学習の成功の鍵となっています。
この基礎知識を踏まえることで、以降の章ではより高度なネットワーク構造や実践的な応用、最適化技術についてさらに詳しく学んでいきます。
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投稿者プロフィール
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セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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