コンピュータの性能を爆発させる並列処理の心臓部!SIMD、SIMT、MIMDの違いを徹底解説
こんにちは。ゆうせいです。
「コンピュータって、どうしてあんなに速く計算できるんだろう?」
新人エンジニアのあなたなら、一度はそんな疑問を抱いたことがあるかもしれませんね。その速さの秘密は「並列処理」という技術に隠されています。そして、その並列処理の世界を理解する上で欠かせないのが、今回お話しする「SIMD」「SIMT」「MIMD」という3つのキーワードです。
なんだか難しそうなアルファベットの羅列に見えますか? 大丈夫!この記事を読み終える頃には、それぞれの違いを自分の言葉で説明できるようになっていますよ。それでは、一緒にコンピュータの心臓部を覗いてみましょう!
そもそも並列処理って何?
本題に入る前に、まずは「並列処理」という考え方について簡単におさらいしておきましょう。
もし、あなたが100ページの書類を一人でホチキス止めしなければならないとしたら、かなり時間がかかりますよね? でも、もし10人の友達が手伝ってくれて、それぞれが10ページずつ分担したらどうでしょう。単純計算で、作業時間は10分の1になります。
これが並列処理の基本的な考え方です。一つの大きなタスクを、たくさんの小さなタスクに分割して、複数の実行部隊で同時に処理することで、全体の処理時間を劇的に短縮する技術なのです。
コンピュータの世界では、この「実行部隊」にあたるのがCPUの「コア」やGPUの内部にある小さな計算ユニットです。そして、その実行部隊たちが、どのように命令を受け取り、どのようにデータを処理するのか、その「やり方」の違いがSIMD、SIMT、MIMDという分類につながってくるのです。
司令塔がたくさん!柔軟性の王様「MIMD」
まずは、一番イメージしやすいかもしれない「MIMD」から見ていきましょう。
MIMDは「Multiple Instruction, Multiple Data」の略です。日本語にすると「複数の命令」を「複数のデータ」に対して実行する方式、となります。
MIMDの例え話:個性豊かなシェフたちが集う巨大な厨房
MIMDを例えるなら、巨大な厨房で働くたくさんのシェフたちです。
Aシェフは、自分のレシピ(命令)に従って、自分の食材(データ)でカレーを作っています。
Bシェフは、全く別のレシピ(命令)で、別の食材(データ)を使ってケーキを焼いています。
Cシェフは、また違うレシピ(命令)で、パスタを茹でています。
このように、それぞれのシェフ(プロセッサ)が、完全に独立して、それぞれ違う仕事(命令)を、それぞれ違う材料(データ)に対して行えるのがMIMDの特徴です。
メリットとデメリット
- メリット:非常に柔軟性が高いことです。カレーもケーキもパスタも同時に作れるように、全く関連性のない、さまざまな種類のタスクを同時に実行するのに向いています。私たちが普段使っているパソコンのマルチコアCPUは、まさにこのMIMDの代表例です。ブラウザを見ながら音楽を聴き、裏でファイルをダウンロードする、といったことができるのはMIMDのおかげなのです。
- デメリット:柔軟性が高い反面、管理が複雑になることがあります。もしシェフ同士が連携して一つのコース料理を作る場合、「パスタが茹で上がるタイミングで、ソースを完成させておいて!」といったように、シェフ間のコミュニケーションや同期を取るのが大変になります。これを下手に管理すると、厨房全体が混乱してしまいますよね。
一つの号令で全員が動く!効率の鬼「SIMD」
次に紹介するのは「SIMD」です。
SIMDは「Single Instruction, Multiple Data」の略。「一つの命令」を「複数のデータ」に対して実行する方式です。
SIMDの例え話:一糸乱れぬ兵士たちの行進
SIMDを例えるなら、一人の指揮官の号令で、兵士たちが一斉に同じ動きをする様子です。
指揮官が「右向け、右!」という命令(一つの命令)を出すと、100人の兵士(複数のデータ)が全員、一斉に右を向きます。次に「前へ、進め!」と号令すれば、全員が一斉に前進します。
ここでのポイントは、兵士一人ひとりが違う動きをすることは許されない、という点です。指揮官の命令は絶対で、全員が寸分違わず同じ動作を実行します。
メリットとデメリット
- メリット:特定の処理を爆発的に高速化できる点にあります。例えば、画像の明るさを一斉に10%上げる、といった処理を考えてみましょう。画像はたくさんの画素(ピクセル)という点の集まりです。SIMDを使えば、「各ピクセルの輝度を1.1倍せよ」というたった一つの命令で、何百万個ものピクセルデータすべてを一度に処理できてしまうのです。これは非常に効率的だと思いませんか?
- デメリット:柔軟性のなさです。兵士の例で言えば、「3番隊だけ右を向け!」といった個別の命令は出せません。もし処理したいデータの中に「このデータだけは足し算、あのデータは掛け算」といったように、条件によって処理を変えたい場合にはSIMDは全く向いていません。
GPUの得意技!SIMDの進化系「SIMT」
最後に、少し応用編の「SIMT」です。
SIMTは「Single Instruction, Multiple Threads」の略。「一つの命令」を「複数のスレッド」で実行する方式です。GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)で採用されている考え方として非常に有名です。
「あれ? SIMDと何が違うの?」と思いましたか? 鋭いですね!
SIMTの例え話:臨機応変なベテラン兵士たち
SIMTは、先ほどのSIMDの兵士たちが、少しだけ賢くなった「ベテラン兵士」の集団だと考えてみてください。
指揮官は同じように「障害物を乗り越えよ!」という一つの命令を出します。
兵士たちの前には、それぞれ違う障害物があります。ある兵士の前には水たまりが、別の兵士の前には壁があります。
もし彼らがSIMDの兵士なら、「水たまりをどうする?」「壁をどうする?」という個別の判断ができず、立ち往生してしまいます。
しかし、SIMTのベテラン兵士たちは違います。彼らは「障害物を乗り越える」という共通の目的(命令)の中で、目の前の状況に応じて、「水たまりならジャンプする」「壁ならよじ登る」というように、自律的に最適な行動を選択できるのです。
ハードウェアのレベルでは、同じ行動(ジャンプする兵士たち、壁を登る兵士たち)をとるグループを効率的にまとめて処理しつつも、このような条件分岐を許容する仕組みが備わっています。
メリットとデメリット
- メリット:SIMDの持つ高い並列処理性能と、プログラムの書きやすさ(柔軟性)を両立している点です。プログラマはあたかも一つの命令を書くだけで良いのですが、ハードウェアが裏側でうまく条件分岐などをさばいてくれるため、SIMDよりも複雑な処理を効率的に実行できます。近年のAI計算や科学技術計算でGPUが多用されるのは、このSIMTの力が大きいのです。
- デメリット:兵士たちがバラバラの行動を取りすぎると、せっかくの並列処理の効率が落ちてしまうことがあります。全員が同じ行動をしている時が最も速く、条件分岐が増えれば増えるほど、一部の兵士が他の兵士を待つ時間(処理の無駄)が発生しやすくなります。
まとめ:三者の違いを表で確認しよう!
さて、ここまで解説してきた3つの方式の違いを、改めて表で整理してみましょう。
特徴 | MIMD | SIMD | SIMT |
正式名称 | Multiple Instruction, Multiple Data | Single Instruction, Multiple Data | Single Instruction, Multiple Threads |
命令の流れ | 複数 | 単一 | 単一 |
データの流れ | 複数 | 複数 | 複数 |
例え話 | 個性豊かなシェフ軍団 | 一糸乱れぬ兵士軍団 | 臨機応変なベテラン兵士軍団 |
主な搭載先 | マルチコアCPU | CPUの拡張命令(AVXなど) | GPU |
柔軟性 | ◎ とても高い | × 低い | ◯ そこそこ高い |
得意なこと | 汎用的なマルチタスク | 画像処理など単純な一括処理 | AI計算など分岐を含む大規模並列処理 |
これから学ぶあなたへ
今回は、並列処理の基本的な考え方であるMIMD、SIMD、SIMTについて解説しました。
- MIMDは、それぞれが違う仕事をする、柔軟性の高い方式。
- SIMDは、全員が同じ仕事をする、効率重視の方式。
- SIMTは、SIMDの効率性に、少しだけ柔軟性を加えたGPUの得意技。
この3つの違いを理解できると、なぜCPUにはコアがたくさんあり、GPUにはさらに膨大な数のコアがあるのか、そしてそれぞれの得意な処理がなぜ違うのか、といったことへの理解がぐっと深まるはずです。
もしさらに興味が湧いたら、次は「フリンの分類」というキーワードで調べてみてください。今回紹介した方式が、コンピュータアーキテクチャ全体の中でどのように位置づけられているのかを知ることができますよ。また、CPU向けの並列プログラミング(OpenMPなど)や、GPU向けのプログラミング(CUDAやOpenCLなど)の世界に足を踏み入れてみるのも、非常に面白い挑戦になるでしょう。
あなたのエンジニアとしての冒険は、まだ始まったばかりです。頑張ってください!
セイ・コンサルティング・グループの新人エンジニア研修のメニューへのリンク
投稿者プロフィール
- 代表取締役
-
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。
最新の投稿
山崎講師2025年9月22日「モデルの近似」という考え方「局所的な解釈」と「大域的な解釈」
山崎講師2025年9月22日XAIの具体的な手法である「Grad-CAM」と「Integrated Gradients」
山崎講師2025年9月22日「プルーニング」「蒸留」「量子化」を解説
山崎講師2025年9月22日AIの学習を加速させろ!分散深層学習の「データ並列」と「モデル並列」を徹底解説