連合学習の2つの顔!「クロスデバイス学習」と「クロスサイロ学習」の違いとは?

こんにちは。ゆうせいです。

以前の記事で、プライバシーを守りながらAIを賢くする「連合学習」の仕組みについて、料理クラブの例え話を使って解説しましたね。あの話、覚えてくれていますか?

実は、あの「連合学習」には、参加するメンバーの性質によって大きく2つのタイプが存在するんです。それが「クロスデバイス学習」と「クロスサイロ学習」です。

どちらも「データを手元に置いたまま学習する」という基本原則は同じですが、その舞台設定は全く異なります。この違いを理解すると、連合学習がどのような場面で、どのように使われているのか、より鮮明に見えてきますよ。それでは、連合学習の2つの顔を覗いてみましょう!


クロスデバイス学習:みんなのスマホが先生になる!

まず一つ目は、「クロスデバイス学習」です。これは、私たち一人ひとりが持つスマートフォンやスマートスピーカーといった、膨大な数のデバイスを舞台に行われる連合学習です。

例え話:1億人が参加する「新スナック菓子」のレシピ開発

クロスデバイス学習を例えるなら、「製菓会社が、1億人の一般家庭を対象に行う、新スナック菓子のレシピ開発プロジェクト」です。

  • 参加者:1億人の一般家庭のキッチン(=膨大な数のスマートフォン)。
  • データ:各家庭にある、ちょっとした隠し味や好みの情報(=個人の入力履歴など、少量でプライベートなデータ)。
  • 特徴
    • 料理に参加するかどうかは各家庭の自由。インターネットが繋がっていなかったり、キッチンのコンロが使われていたり(=スマホが充電中、通信状況が悪いなど)で、参加できないことも多々あります。
    • 各家庭のキッチンはごく普通のもので、プロ仕様の調理器具はありません(=デバイスの計算能力は限られている)。

このように、非常に数が多く、性能もバラバラで、いつ参加してくれるか分からないという、気まぐれなメンバーたちと協力して、少しずつレシピを改良していくのがクロスデバイス学習のイメージです。Googleのキーボードアプリ「Gboard」が、ユーザーの入力傾向を学習するのは、まさにこの方式の代表例ですね。


クロスサイロ学習:組織の壁を越える賢者たち

もう一つの顔が、「クロスサイロ学習」です。「サイロ」とは、元々は穀物を貯蔵する縦長の倉庫のことで、転じて「組織内に孤立し、連携できていないデータやシステム」を指す言葉として使われます。

つまりクロスサイロ学習は、病院や銀行、研究機関といった、少数の組織(サイロ)の間で行われる連合学習を指します。

例え話:ミシュラン星付きレストランチェーンによる「究極のフルコース」共同開発

クロスサイロ学習は、「世界に名だたる10のレストランチェーンが、それぞれの門外不出のレシピを出し合うことなく、究極のフルコースを共同開発するプロジェクト」に似ています。

  • 参加者:10の超一流レストランチェーン(=病院や銀行などの組織)。
  • データ:各チェーンが持つ、何千ページにも及ぶ秘伝のレシピ集(=膨大で質の高い、組織の機密データ)。
  • 特徴
    • 参加するのはプロの組織なので、常に最高の状態でプロジェクトに参加できます(=サーバーは常時稼働で信頼性が高い)。
    • 各チェーンの厨房は、最新鋭の設備が整っています(=計算能力が非常に高い)。

参加者の数は少ないけれど、一つ一つが非常にパワフルで信頼性が高く、大量のデータを持っている。そんなプロフェッショナルな賢者たちが、組織の壁を越えて協力するのがクロスサイロ学習です。例えば、複数の病院が、患者のプライバシーを守りながら共同で病気の診断AIを開発する、といったケースがこれにあたります。


まとめ:あなたはどちらのタイプ?

それでは、2つの学習方法の違いを改めて表で確認してみましょう。

特徴クロスデバイス学習クロスサイロ学習
アナロジー一般家庭のスナックレシピ開発高級レストランチェーンの共同研究
参加者(クライアント)数十万以上の一般デバイス数〜数百の組織・サーバー
信頼性・接続性低い(不安定)高い(安定的)
参加者あたりのデータ量少ない非常に多い
計算能力低い高い
主な使われ方スマホの予測変換、音声アシスタント医療AI、金融の不正検知

同じ連合学習でも、誰と協力するかによって、これだけ性格が違うのです。面白いですよね!


次のステップへ

クロスデバイス学習とクロスサイロ学習。この2つのシナリオの違いが分かると、ニュースなどで報じられるAI技術の裏側で、どんな挑戦が行われているのかを想像できるようになります。

  • クロスデバイス学習では、「どうやって気まぐれな数億台のデバイスをうまくまとめるか?」という点が大きな技術的課題になります。
  • クロスサイロ学習では、「競合する企業同士が、協力するメリットをどう作るか?」といったビジネス的な側面や、「各組織でバラバラなデータ形式をどう揃えるか?」といった問題が重要になります。

あなたがもし将来、連合学習に関わるプロジェクトに携わるなら、自分たちが取り組んでいるのはどちらのタイプなのか?そして、そのタイプ特有の課題は何なのか?を意識することが、成功への第一歩となるでしょう。

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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