【なぜ微分?】機械学習の心臓部!誤差関数を微分する3つの方法を徹底解説

こんにちは。ゆうせいです。

機械学習のモデルを訓練するとき、「誤差関数を微分してパラメータを更新する」という説明をよく聞きますよね?この一文は、AIが学習する仕組みのまさに心臓部です。

でも、そもそもなぜ微分が必要なのでしょうか?それに、その「微分する」という操作は、コンピュータの中で具体的にどのように行われているのか、疑問に思ったことはありませんか?

今回は、機械学習における「微分」の役割と、その代表的な3つの計算方法(数値微分、解析的微分、自動微分)について、新人エンジニアのあなたに向けて分かりやすく解説していきます!

そもそも、なぜ誤差関数を微分する必要があるの?

AIの学習のゴールは、モデルの予測と正解のズレ(これを「誤差」と呼びます)をできるだけ小さくすることです。この誤差の大きさを数式で表したものが「誤差関数」ですね。

では、どうすれば誤差を小さくできるでしょうか?

ここで、一つ例え話をしてみましょう。

あなたは今、濃い霧がかかった広大な山脈のど真ん中に立っていると想像してください。あなたの目的は、山の一番低い谷底(つまり誤差が最小の地点)にたどり着くことです。しかし、霧で視界が悪く、谷底がどの方角にあるのか全く分かりません。

さあ、あなたならどうしますか?

おそらく、まず自分の足元を調べて、「今いる場所で、最も急な下り坂はどっちか?」を探すのではないでしょうか。そして、その最も傾斜が急な方向へ、少しだけ足を進めるはずです。これを繰り返していけば、いつかは谷底にたどり着けそうですよね。

この「今いる場所の、最も急な下り坂の方向と傾き」を数学的に教えてくれる道具こそが、何を隠そう「微分」なのです!

誤差関数を微分することで得られる「勾配(gradient)」は、まさにその山の傾き情報です。AIは、この勾配を頼りに、誤差が最も小さくなる方向へ、モデルのパラメータ(重みやバイアス)を少しずつ更新していくのです。これが、有名な「勾配降下法」の基本的な考え方です。

方法1:シンプルだけど大変?「数値微分」

では、具体的にどうやって微分、つまり勾配を計算するのでしょうか。最も直感的で分かりやすいのが「数値微分」です。

これは、高校の数学で習った微分の定義にとても近い考え方です。

「xがほんの少しだけ変化したとき、関数の値はどれくらい変化するか?」を計算することで、傾きを近似的に求めます。

数式で書くと、このようになります。(より精度の高い中心差分近似で紹介しますね)

f'(x) \approx \frac{f(x+h) - f(x-h)}{2h}

これを日本語にすると、

関数の傾き ≈ (xを“h”という微小な値だけ増やした時の関数の値 - xを“h”だけ減らした時の関数の値) ÷ (2 × h)

となります。先ほどの山の例で言えば、自分の位置から右に微小な一歩、左に微小な一歩を進んでみて、その標高差から今の場所の傾斜を「だいたいこんな感じかな?」と計算するようなものです。

  • メリット:
    • 考え方が非常にシンプルで、実装も簡単です。
  • デメリット:
    • あくまで近似値なので、正確な値ではない(hの選び方によっては大きな誤差を生む)。
    • 計算量が非常に多い!パラメータが100万個あれば、そのすべてに対して最低2回は計算をやり直す必要があり、現実的ではありません。

そのため、数値微分は、後述する他の方法が正しく実装できているかを確認するための「答え合わせ」として使われることがほとんどです。

方法2:数学で解く!エレガントな「解析的微分」

次に紹介するのは「解析的微分」です。

これは、私たちが数学のテストでやっていた、あの「手計算による微分」そのものです。

微分の公式(x2を微分すると2xになる、など)を駆使して、誤差関数を表現する数式を、厳密な「勾配を求めるための数式」へと変形させます。

山の例えで言うなら、山の完璧な地形図(誤差関数の数式)を持っている数学者が、微分という道具を使って、どの地点にいても傾斜をピタリと計算できる万能な公式を導き出すようなものです。

  • メリット:
    • 計算すれば、誤差のない正確な勾配が得られます。
    • 一度導関数を求めてしまえば、勾配の計算は非常に高速です。
  • デメリット:
    • 人間の手で計算するのが絶望的に大変!現代のニューラルネットワークは数百万、数億というパラメータを持ちます。その誤差関数の式はとてつもなく複雑になり、手計算で微分するのは事実上不可能です。

方法3:現代のデファクトスタンダード!「自動微分」

数値微分は遅すぎるし、解析的微分は人間には不可能…。そこで登場するのが、現代の深層学習フレームワーク(PyTorchやTensorFlow)の心臓部となっている「自動微分」です!

自動微分は、解析的微分の「正確さ」と、コンピュータによる「自動化」を両立させた、まさに夢のような技術です。

コンピュータは、私たちが定義した計算(足し算、掛け算、sin、cosなど)の一つ一つが、どのように微分できるかを知っています。自動微分は、この単純な計算の微分(連鎖律、つまりチェインルール)を、まるでドミノ倒しのように繋ぎ合わせていくことで、どんなに複雑な関数の微分でも、最終的に自動で、かつ正確に計算してしまうのです。

自動微分の核心:誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)

この自動微分をニューラルネットワークで効率的に行うためのアルゴリズムが、かの有名な「誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)」です。

これは、ゴールからスタートへ遡っていくアプローチを取ります。

  1. まず、通常通りに計算を進めて、最終的な誤差を求めます(順伝播)。
  2. 次に、その最終的な誤差が、ゴール直前の計算からどれだけの影響を受けたのかを、解析的に(つまり正確に)計算します。
  3. そして、その影響の度合いを、さらに一つ前の計算、また一つ前の計算…と、まるで伝言ゲームのように逆向きに伝播させていきます。

最終的な答えのズレ(誤差)が、どの計算ステップで、どれくらいの影響を与えたのかを、ゴールからスタートに向かって連鎖的に計算していくのです。この「責任の所在」を逆向きに追いかけていくことで、各パラメータが誤差にどれだけ貢献したか(=勾配)を、効率よく正確に求めることができます!

  • メリット:
    • 解析的微分と同じく、正確な勾配が得られます。
    • どんなに複雑なモデルでも、計算を自動化できます。
    • 計算効率が非常に良いです。
  • デメリット:
    • 仕組みをゼロから実装するのは複雑です。(だからこそ、私たちはフレームワークの恩恵を受けるのです!)

各微分方法の比較まとめ

比較項目数値微分解析的微分自動微分 (誤差逆伝播法)
精度近似値正確正確
計算速度非常に遅い速い速い
実装の手間簡単非常に困難フレームワークが実行
主な用途他手法の検算用理論的な証明実際のモデル学習

まとめ:私たちは何を学ぶべきか

さて、ここまで3つの微分方法を見てきました。

新人エンジニアのあなたにとって、最も重要なのは「自動微分」のコンセプト、特に「誤差逆伝播法」が何をやっているのかを、イメージとして掴んでおくことです。

「AIの学習とは、山頂から谷底へ、勾配というコンパスを頼りに下っていく旅のようなものだ。そして、そのコンパスの役割を、現代では自動微分という賢い仕組みが担ってくれている」

まずは、このイメージを持ってください。

PyTorchやTensorFlowを使っている限り、あなたが微分計算をゼロから実装する必要はほとんどありません。loss.backward()と一行書くだけで、フレームワークが裏側でこの複雑な自動微分(誤差逆伝播)をすべて実行してくれます。なんと素晴らしいことでしょう!

これからの学習ステップとしては、まずフレームワークを信頼して使いこなし、様々なモデルを構築してみるのが良いでしょう。そして、少し余裕が出てきたら、自動微分の核心である「連鎖律(チェインルール)」について数学的に復習してみると、AIの学習の仕組みがさらに深く、面白く感じられるはずです。

この知識が、あなたのAIエンジニアとしてのキャリアの確かな一歩となることを願っています!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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