「インフレ」と「失業率」のシーソーの関係【フィリップス曲線】を解説!

こんにちは。ゆうせいです。

経済ニュースを見ていると、「インフレ」や「失業率」という言葉がよく出てきますよね。実はこの二つ、かつては非常に美しいシーソーのような関係にあると考えられていました。その関係を一つのグラフで示したものが、今回ご紹介する「フィリップス曲線」です。

「経済学のグラフなんて難しそう…」と感じるかもしれませんが、大丈夫!

この記事では、新人エンジニアのあなたに向けて、フィリップス曲線が示す経済の面白い動きを、分かりやすく解説していきます。システムのトレードオフを考えるように、経済のトレードオフを覗いてみましょう!


フィリップス曲線とは?経済の二大テーマのトレードオフ

フィリップス曲線とは、ものすごくシンプルに言うと、「物価上昇率(インフレ)と失業率は、短期的には反比例の関係にある」という考え方を示した曲線です。

つまり、こういうことです。

  • 失業率が下がると、物価は上がりやすくなる(景気が良くて人手不足 → 賃金アップ → 物価アップ)
  • 失業率が上がると、物価は上がりにくくなる(景気が悪くて失業者多数 → 賃金ダウン → 物価ダウン)

まるで、シーソーの片方に「失業率」が、もう片方に「物価」が乗っているようなイメージですね。片方を下げようとすると、もう片方が上がってしまう。このように、両立が難しい関係を「トレードオフ」と言います。

フィリップス曲線は、政府や中央銀行が経済政策を考える上で、「失業率とインフレ、どちらを優先すべきか?」という悩ましい選択を迫る、非常に重要なコンセプトなのです。


なぜこのような関係が生まれるの?

では、なぜ失業率と物価はシーソーのような動きをするのでしょうか?そのメカニズムを、あなたの身の回りのIT業界に例えて考えてみましょう。

シナリオ:空前のエンジニアブームが到来!

  1. 景気が良くなる世の中の景気が良くなり、どの企業もDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しようと、新しいアプリやサービスの開発に乗り出します。
  2. 人手不足になる(失業率の低下)優秀なエンジニアの需要が爆発的に高まります。引く手あまたの状態で、世の中から「仕事を探しているエンジニア」がどんどん減っていきます。これが失業率の低下です。
  3. 賃金が上がる企業はエンジニアを採用するために、競争しなければなりません。「年収1000万円出します!」「いや、うちは1200万円だ!」というように、どんどんエンジニアの給料(賃金)が上がっていきます。
  4. 物価が上がる(インフレ)エンジニアの給料を上げた企業は、そのコストをどこかで回収しなければなりません。そのため、開発したアプリの利用料やサービスの価格に、上がった人件費を上乗せします。世の中の様々な企業が同じことを行うと、社会全体のサービスやモノの値段が上がっていきます。これが物価の上昇(インフレ)です。

どうでしょう?失業率が下がると、巡り巡って物価が上がるという流れがイメージできたでしょうか?

フィリップス曲線が示すのは、まさにこの経済の連鎖反応なのです。


現代のフィリップス曲線:理論は崩壊した?

「なるほど、すごく分かりやすい!」と思ったあなたに、少しショッキングな事実をお伝えしなければなりません。実は、この美しいシーソー関係は、1970年代以降、必ずしも成り立たなくなったのです。

スタグフレーションの衝撃

1970年代、石油価格が急騰した「オイルショック」をきっかけに、世界経済は奇妙な現象に見舞われます。それは、景気が悪いのに(失業率は高いのに)、物価だけが上がり続けるという、従来の理論では説明できない状況でした。

これを「スタグネーション(景気停滞)」と「インフレーション(物価上昇)」を組み合わせた造語で、「スタグフレーション」と呼びます。フィリップス曲線のシーソーが、両方とも上がったまま動かなくなったようなイメージですね。

「期待」が織り込まれる現代経済

なぜこんなことが起きたのでしょうか?

その大きな理由として、「人々の期待(インフレ期待)」が経済に大きな影響を与えることが分かってきたからです。

例えば、

  1. 労働者が「来年も物価が5%上がるだろう」と期待(予想)する。
  2. その期待を基に、「物価が上がるなら、生活が苦しくなるから給料を5%以上上げてほしい!」と会社に要求する(賃上げ交渉)。
  3. 企業はその要求を受け入れ、人件費の上昇分を製品価格に上乗せする。
  4. 結果として、人々の期待通りに、本当に物価が5%上がってしまう。

このように、人々が「物価は上がるものだ」と期待すること自体が、自己実現的にインフレを引き起こしてしまうのです。

この「期待」という要素を考慮に入れたのが、「期待を織り込んだフィリップス曲線」という、より現代的なモデルです。

現代では、フィリップス曲線は短期的な景気の動向を捉える一つのツールとしては有効ですが、それだけで経済の全てを語ることはできない、と理解されています。


まとめと今後の学習指針

最後に、今回のポイントをまとめておきましょう。

  • フィリップス曲線とは、失業率とインフレ率の間にトレードオフ(逆相関)の関係があることを示したもの。
  • メカニズム: 失業率低下 → 賃金上昇 → 物価上昇(インフレ)
  • 現代の課題: スタグフレーションの発生や「人々の期待」という要素により、単純なフィリップス曲線の関係は崩れつつある。

エンジニアであるあなたにとって、経済の仕組みを理解することは、自社のサービスが置かれている状況や、世の中の技術トレンドの背景を読み解く上で、強力な武器になります。

もしさらに興味が湧いたら、

  • NAIRU(インフレを加速させない失業率): フィリップス曲線と密接に関連する、より実践的な概念です。
  • 金融政策と財政政策: 政府や中央銀行が、このインフレと失業のバランスをどのように取ろうとしているのかを学んでみる。

といったテーマを深掘りしてみることをお勧めします。

システムの設計において、パフォーマンスとコストがトレードオフの関係にあるように、経済もまた、様々な要素のトレードオフの上に成り立っているのです。そのダイナミズムを感じ取ってみてください!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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