生成AIの頭脳は誰のもの?学習済みモデルのパラメータを巡る権利の話

こんにちは。ゆうせいです。

最近、文章を作ったり、絵を描いたり、私たちの生活にどんどん身近になっている生成AI。その驚くべき能力の源が「学習済みモデル」と呼ばれる、いわばAIの”頭脳”であることはご存知でしょうか?

このAIの頭脳の中には、「パラメータ」という膨大な数値データが詰まっています。このパラメータこそが、AIの知識や経験、個性のすべてを形作っているんです。

では、開発者が時間とコストをかけて作り上げたこの「パラメータ」、一体どんな権利で守られているのでしょうか?誰かが勝手にコピーして使ったら、どうなるのでしょう。

今日は、そんな最先端の技術と法律が交差する、ちょっと難しいけれどとても大切な「生成AIのパラメータと権利」の世界を、一緒に探検していきましょう!

AIのパラメータを守る「権利」の候補たち

さて、大切なものを守るための法律上の権利には、いくつか種類があります。生成AIのパラメータの場合、主に次の3つが候補として考えられています。

  1. 著作権
  2. 特許権
  3. 営業秘密(不正競争防止法)

なんだか難しそうな言葉が並びましたね。でも大丈夫!一つひとつ、身近な例え話を交えながら、どんな権利なのか、そしてAIのパラメータに適用できるのかを見ていきましょう。

権利候補①:著作権 ~AIの知識は「作品」なのか?~

専門用語解説:「著作権」とは?

まず、一番身近な「著作権」から見ていきましょう。

著作権とは、小説、音楽、絵画、映画といった「思想又は感情を創作的に表現したもの(著作物)」を保護するための権利です。作った人の許可なく、他の人がコピーしたり、インターネットで公開したりすることを防ぎます。ポイントは「創作的な表現」であることです。

パラメータは「著作物」にあたるの?

では、AIの学習済みモデルのパラメータは、この「著作物」と言えるのでしょうか?

結論から言うと、現在の日本の法律では「著作物とは言えない」という考え方が主流です。

なぜなら、パラメータは人間が「よし、この数字にしよう!」と創作的に作り出したものではなく、膨大なデータをコンピュータが統計的・数学的な処理を行って自動的に生成した「単なる数値の集合体」だからです。

例え話:優秀な料理人の「舌」

想像してみてください。長年の修行で、どんな料理でも一口食べれば隠し味まで分かるようになった、スーパー料理人がいるとします。彼のその驚異的な味覚、つまり「舌」の感覚そのものに、著作権を認めることができるでしょうか?

難しいですよね。彼の「舌」は、彼が創作した表現物というよりは、長年の経験と学習の結果として得られた「能力」や「データ」に近いものです。

AIのパラメータもこれと似ていて、学習の結果として得られた膨大な数値データそのものは、「創作的な表現」とは認められにくい、というのが現状なのです。

メリット(もし著作権が認められたら)デメリット(もし著作権が認められたら)
AI開発者の権利が強く保護される。誰もが自由にAIを改良しにくくなり、技術の進歩が遅れる可能性がある。

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権利候補②:特許権 ~AIの構造は「発明」なのか?~

専門用語解説:「特許権」とは?

次に「特許権」です。

特許権は、著作権が「表現」を守るのに対し、「技術的なアイデア(発明)」を保護する権利です。例えば、「こういう構造にすれば、もっと効率的に電力を生み出せる」といった新しい技術の仕組みを守るのが特許権の役割です。

パラメータは「発明」にあたるの?

では、パラメータは「発明」なのでしょうか?

これも残念ながら、パラメータそのものを「発明」として特許で保護するのは非常に難しいです。なぜなら、パラメータはアイデアというより、あくまで学習の結果として得られた「データ」だからです。

ただし、全く関係ないわけではありません!

パラメータそのものではなく、「そのパラメータを生み出すための独創的な学習方法」や「特定の課題を解決するための新しいAIの構造(アーキテクチャ)」といった「技術的なアイデア」の部分は、特許の対象になる可能性があります。

例え話:門外不出の「ラーメンのレシピ」

また料理の例えですが、あるラーメン屋さんが、誰も真似できない絶品のスープを開発したとします。

この場合、スープそのもの(パラメータに相当)に特許を取るのは難しいかもしれません。しかし、「豚骨と魚介を特定の比率と温度で8時間煮込む」といった、そのスープを作るための「調理方法(レシピ)」が新しくて画期的なものであれば、そのレシピ(AIの学習方法や構造に相当)は特許として認められる可能性があるのです。

メリットデメリット
独自のAI開発技術を持つ企業が、模倣されることから自社を守れる。権利関係が複雑になり、新しいAIを開発する際の障壁が高くなる可能性がある。

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権利候補③:営業秘密 ~最も現実的なガードマン~

専門用語解説:「営業秘密」とは?

さあ、いよいよ本命の登場です。それが「営業秘密」としての保護です。これは「不正競争防止法」という法律で定められています。

営業秘密とは、簡単に言うと「会社の秘密情報」のことです。次の3つの条件を満たす情報が、営業秘密として法的に保護されます。

  1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. 事業活動に役立つ技術上または営業上の情報であること(有用性)
  3. 公然と知られていないこと(非公知性)

パラメータを「営業秘密」として守る!

この「営業秘密」こそが、現状、学習済みモデルのパラメータを保護するための最も現実的で強力な方法だと考えられています。

多くのAI開発企業は、自社で開発した学習済みモデルのパラメータを、厳重なセキュリティで管理し、社外の人がアクセスできないようにしています。従業員には秘密保持契約を結ばせ、情報が外部に漏れないように徹底します。

まさに、会社の競争力の源泉である「秘伝のタレ」のように、パラメータを秘密として大切に管理することで、その価値を守っているのです。

例え話:コカ・コーラの原液レシピ

世界中で愛されているコカ・コーラ。その味の秘密である原液のレシピは、100年以上もの間、ごく一部の人間しか知らない「営業秘密」として厳重に管理されていると言われています。

レシピを特許で公開するのではなく、「秘密」にし続けることで、誰にも真似できない独自の価値を守り続けているわけです。AIのパラメータも、これと同じ戦略で守られているケースが多いのです。

メリットデメリット
企業が自社の競争力の源泉となるAIモデルを確実に守ることができる。技術がブラックボックス化しやすく、社会全体での技術共有や発展が進みにくい側面がある。

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まとめ:これからの学習に向けて

さて、ここまで生成AIのパラメータを保護する権利について見てきましたが、いかがでしたでしょうか?

現在のところ、パラメータそのものを著作権や特許権で直接守るのは難しく、多くの企業が「営業秘密」として、情報を厳重に管理することで自社の権利を守っている、ということがお分かりいただけたかと思います。

この分野は、技術の進歩に法律が追いついていない、まさに「今、ルールが作られている」最前線です。これから新しい法律ができたり、裁判で新しい判断が示されたりして、状況が大きく変わっていく可能性も十分にあります。

もし、このテーマにもっと興味が湧いたら、次は「不正競争防止法」について少し調べてみたり、経済産業省が出している「AI・データ契約ガイドライン」といった資料に目を通してみるのがおすすめです。

AIを使う側としても、作る側を目指すとしても、こうした権利の話を知っておくことは、きっとあなたの未来の武器になりますよ!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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