【AIのハンドルを握る】回答の「脱線」を防ぐ!「方向性刺激プロンプティング」を新人エンジニアに徹底解説

こんにちは。ゆうせいです。

「AIに文章の要約を頼んだら、一番大事なポイントが抜けていた……」

「物語を作らせたら、思っていた結末と全然違う方向に話が進んでしまった……」

AIを使っていると、こんなふうに「答え自体は間違いじゃないけれど、僕が求めていたのはソレじゃないんだよなぁ」というモヤモヤを感じること、ありませんか?

AIは自由奔放な天才作家のようなもの。放っておくと、自分の書きたいように書いてしまいます。

そんなAIの手綱をしっかり握り、私たちの意図する方向へグイッと誘導するテクニックがあります。それが今回紹介する「方向性刺激プロンプティング(Directional Stimulus Prompting)」です。

名前は少しイカツイですが、やっていることは「タクシーの運転手さんへの指示」と同じなんです。

今日は、AIを思い通りにコントロールするための、この高度なテクニックについて一緒に学んでいきましょう!

タクシー運転手に「ルート」を指定する

まず、この手法のイメージを掴むために、タクシーでの会話を想像してみてください。

普通のプロンプティング

あなた:「東京駅までお願いします」

運転手:「はい、分かりました!(高速を使うか、下道を行くか、混んでる道を行くかはお任せあれ)」

→ 結果、目的地には着くけど、料金が高かったり時間がかかったりするかも。

方向性刺激プロンプティング

あなた:「東京駅までお願いします。ただし、皇居の横を通って、桜が見えるルートで行ってください」

運転手:「承知しました。そのルートで走りますね」

→ あなたの「意図」通りの体験が得られる!

この「皇居の横を通って」という具体的なガイドラインこそが、「方向性刺激(Directional Stimulus)」です。

単に入力(行き先)だけを渡すのではなく、AIが答えを生成するプロセスにおいて「ヒント」や「キーワード」という刺激(Stimulus)を与えることで、出力を望ましい方向(Directional)へ導く手法なのです。

なぜこの手法が必要なの?

最近の大規模言語モデル(LLM)は非常に賢くなりました。しかし、賢すぎるがゆえに、一つの質問に対して無数の答え方ができてしまいます。

例えば、長文の要約タスクを考えてみましょう。

  • 入力:「このニュース記事を要約して」
  • AI:「(政治面に注目して要約しようかな? それとも経済面かな?)」

ここでAIが迷わないように、「『インフレ率』と『雇用統計』という言葉を使って要約して」と、具体的な「刺激(ヒント)」を与えます。するとAIは、そのキーワードを含めるために思考を調整し、経済面に焦点を当てた要約を作ってくれるわけです。

具体的な仕組みをエンジニア視点で解説

では、もう少し技術的にどうなっているのか見てみましょう。

この手法は、実は「2つのAI(または機能)」が協力することで実現されることが多いです。

1. 編集者(ポリシーモデル)

まず、入力された文章を読み、「これを要約するなら、このキーワードが重要だよね」という「ヒント(刺激)」を作る役割です。

小さなAIモデルや、あるいは人間が手動で行うこともあります。

2. 作家(メインのLLM)

次に、実際に文章を書く役割のAIです。

「元の文章」と、編集者から渡された「ヒント」の両方を見て、最終的な答えを書きます。

流れのまとめ:

  1. 入力: 長いニュース記事
  2. 刺激の生成: 「重要キーワード:インフレ、利上げ」を抽出
  3. 推論: 「記事」+「キーワード」をLLMに入力
  4. 出力: キーワードを盛り込んだ的確な要約が完成!

数式で見る「誘導」の力

この関係性を、簡単な確率のイメージ数式で表してみましょう。

通常のAIは、入力 x だけで答え y を考えます。

P(y \mid x)

これだと、 x の解釈が広すぎて、 y がブレてしまいます。

方向性刺激プロンプティングでは、刺激 z (ヒント)を加えます。

P(y \mid x, z)

ここで重要なのは、 z がただの追加情報ではなく、ゴールへの「道しるべ」になっている点です。

条件 z が加わることで、AIが探索すべき回答の範囲がグッと絞り込まれ、私たちが欲しい答え(正解率の高い答え)が出る確率が劇的に上がるのです。

メリットとデメリット

「指示出し」がうまくなるこの手法ですが、良い点と悪い点があります。

メリット:ブラックボックスなAIを制御できる

ChatGPTのような巨大なAIの中身(パラメータ)を私たちが直接いじることはできません。しかし、この「刺激」という入力を工夫するだけで、AIの挙動を外側から細かくコントロールできます。再学習(ファインチューニング)なしで、特定のタスクに特化させることができるのが大きな強みです。

デメリット:ヒントを作るのが難しい

「良い要約」を作るためには、「良いヒント(キーワード)」が必要です。

もし的外れなヒントを与えてしまったら、AIはそれに引きずられて変な回答をしてしまいます。「どうやって適切なヒントを自動で作るか?」というのが、この技術の最大の課題であり、現在も研究が進められている部分です。

今後の学習の指針

いかがでしたか?

方向性刺激プロンプティングとは、AIという優秀な作家に対して、ただ「書いて」と頼むのではなく、「この要素を入れて書いてね」とメモを渡す編集者のような仕事だったのですね。

AIを使いこなすとは、単に命令することではなく、AIが迷わないように「道を作ってあげる」ことなのかもしれません。

さらに深く学びたい意欲的なエンジニアの方は、以下のキーワードを調べてみてください。

  • 強化学習(Reinforcement Learning): 論文では、この「最適なヒント」を作る小さなAIを育てるために、強化学習が使われています。
  • プロンプトエンジニアリング: 今回の手法を含め、AIへの指示出し全般を扱う技術分野です。
  • 要約タスク(Summarization): 方向性刺激プロンプティングが特に効果を発揮する分野の一つです。

AIとの対話を「運任せ」にせず、意図的にコントロールできるエンジニアを目指しましょう!

それでは、またお会いしましょう。ゆうせいでした。


明日から使えるアクションプラン

次にAIに「メールの文案」を作らせるとき、ただ「謝罪メールを書いて」と言うのではなく、「『迅速な対応』と『再発防止策』という言葉を使って、謝罪メールを書いて」と、含めてほしい要素(刺激)を具体的に指定してみてください。AIの動きが変わるのを実感できますよ!


セイ・コンサルティング・グループの新人エンジニア研修のメニューへのリンク

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。