【AIの予習ノート】回答精度が劇的アップ!「知識生成プロンプティング」を新人エンジニアに解説
こんにちは。ゆうせいです。
「AIに質問したけど、なんだか答えが的外れだな……」
「常識的に考えればわかるはずなのに、なんで間違えるんだろう?」
エンジニアとしてプロンプト(指示出し)をしていると、こんなもどかしい場面に出くわすことがありますよね。
AIは膨大な知識を持っていますが、質問された瞬間にすべての知識を完璧に引き出せるわけではありません。私たち人間だって、いきなり「日本の税制について論ぜよ」と言われたら戸惑いますが、「まずは教科書で調べて、要点をメモしてから答えていいよ」と言われたら、ずっと良い回答ができますよね。
実は、AIにもこの「教科書を開いてメモを取る時間」を与える手法があります。
それが、今回解説する「知識生成プロンプティング(Generated Knowledge Prompting)」です。
これを使いこなせば、AIの「うっかりミス」を減らし、まるで専門家のような深い回答を引き出せるようになります。一緒にその仕組みを学んでいきましょう!
クイズ番組ではなく「持ち込み可のテスト」にする
まず、この手法のイメージを一言で表すとこうなります。
「即答させるのではなく、一度『予備知識』を書き出させてから、それを見ながら答えさせる」
普通のプロンプトと何が違うのか、例え話で比べてみましょう。
通常のプロンプティング
これは「早押しクイズ」です。
質問:「ゴルフをするのに適した場所は?」
AI(即答):(うーん、多分あそこ!)「公園です!」
→ 間違いや浅い回答になりやすい。
知識生成プロンプティング
これは「参考書持ち込み可のテスト」です。
質問:「ゴルフをするのに適した場所は?」
AI(知識生成):(まずはゴルフについて思い出そう……。ゴルフは芝生が必要で、広い土地が必要で、ボールが飛びすぎると危険で……という知識をメモ!)
AI(回答):(このメモを見ると、公園は危険だな)「専用のゴルフ場です。なぜなら広大な芝生と安全性が必要だからです」
→ 正確で論理的な回答になる!
このように、いきなり答え(Output)を求めず、ワンクッション挟んで知識(Knowledge)を生成させるのが最大の特徴です。
具体的な手順(2ステップ方式)
では、実際のエンジニアリングの現場でどう実装するのか、具体的な手順を見てみましょう。この手法は、大きく分けて2つの段階を踏みます。
ステップ1:知識の生成(Knowledge Generation)
まず、AIに対して、質問に関連する「知識」だけを書き出させます。
プロンプト例:
次の質問に答えるために役立つ知識をいくつか挙げてください。
質問:「サボテンを湿気の多い場所で育てるとどうなる?」
AIの出力(知識):
- サボテンは砂漠などの乾燥地帯原産の植物である。
- 植物は過剰な水分を与えられると、根腐れを起こす可能性がある。
- 湿気が多い環境はカビや細菌が繁殖しやすい。
ここではまだ、質問の答え(どうなるか)は求めません。「材料」を集めることに集中させます。
ステップ2:知識統合と回答(Knowledge Integration)
次に、集めた知識と元の質問をセットにして、AIに最終回答を求めます。
プロンプト例:
以下の「知識」を参考にして、「質問」に答えてください。
知識:
(さっきAIが出した知識をここに貼り付ける)
質問:
「サボテンを湿気の多い場所で育てるとどうなる?」
AIの最終回答:
サボテンは乾燥地帯原産であり、過剰な水分に弱いため、湿気の多い場所で育てると根腐れを起こして枯れてしまう可能性が高いです。また、カビなどの病気にもなりやすくなります。
いかがですか? 知識という「補助線」があるおかげで、論理の飛躍がない、しっかりした回答になっていますよね。
数式で見る「知識」の効果
エンジニアの皆さんには、このプロセスを簡単な数式のイメージで捉えてもらうとわかりやすいかもしれません。
通常のAIへの質問は、質問 から答え
を出す確率の勝負です。
これは、「 と言われたら
と返す確率」という意味です。
一方、知識生成プロンプティングはこうなります。
ここで増えた が「生成された知識」です。
つまり、「質問 だけでなく、知識
もある状態で、答え
を出す確率」に変わります。
条件(ヒント)が増えるわけですから、当然、正解にたどり着く確率は高まりますよね!
メリットとデメリット
非常に便利な手法ですが、万能ではありません。メリットとデメリットをしっかり理解して使い分けましょう。
メリット:常識推論に強くなる
AIは「空は青い」「鳥は飛ぶ」といった常識的な推論が、文脈によっては抜けてしまうことがあります。知識生成を行うことで、こうした「当たり前」の情報を明示的に呼び起こし、回答のアンカー(拠り所)にすることができます。
デメリット:手間とコストが増える
単純に「知識を作る」+「答える」という2回分の処理が必要になります。
APIを利用している場合、トークン(文字数)消費量が増え、回答までの待ち時間も長くなります。また、最初に生成した知識が間違っていた場合(幻覚/ハルシネーション)、最終的な答えもそれに引きずられて間違ってしまうリスクがあります。
検索(RAG)との違いは?
ここで勉強熱心な方は、「それってRAG(検索拡張生成)と同じじゃないの?」と思ったかもしれません。
鋭い質問です! でも、少し違います。
- RAG(ラグ): Google検索や社内データベースなど、「外部」 から情報をカンニングしてくる手法。
- 知識生成プロンプティング: AI自身の「内部」 にある記憶から、関連情報を引き出してくる手法。
インターネットが使えない環境や、外部データベースを作るほどではない「ちょっとした常識判断」をさせたい時には、この知識生成プロンプティングが手軽で強力な武器になります。
今後の学習の指針
いかがでしたか?
知識生成プロンプティングとは、AIに「いきなり答えずに、一度落ち着いて考えてごらん」と促す、一種のコーチングのようなテクニックでした。
「急がば回れ」という言葉がありますが、AIにとっても、ワンクッション置くことが正解への近道だったのですね。
さらに深く学びたい方は、以下のキーワードを調べてみてください。
- RAG(Retrieval-Augmented Generation): 外部知識を使う、今回の手法の「兄貴分」のような技術です。
- Few-Shot プロンプティング: 例題をいくつか見せて回答精度を上げる手法。今回の知識生成と組み合わせると最強です。
- Prompt Chaining(プロンプト連鎖): 複数のプロンプトを数珠繋ぎにして複雑なタスクをこなす技術。今回の「知識生成→回答」もこの一種です。
AIの「脳内の引き出し」を上手に開けてあげること。それが、これからのエンジニアの腕の見せ所ですよ!
それでは、またお会いしましょう。ゆうせいでした。
あなたができる次の一歩
まずはChatGPTなどで、「〇〇について教えて」と聞く前に、「〇〇について説明するために必要なキーワードを5つ挙げて」と頼んでみてください。そして、そのキーワードを使って「じゃあ、それを踏まえて〇〇を説明して」と指示を出してみましょう。回答の深さが変わるのを実感できるはずです!