【新人エンジニア研修】「平均値」を信じると痛い目に遭う?投資にも役立つ「べき分布」の教え方

こんにちは。ゆうせいです。

新人エンジニアの研修を担当されているみなさん、日々の講義お疲れ様です。技術的なスキルの伝達も重要ですが、エンジニアとしての「世界の見方」を教えるのも、先輩である私たちの重要な役割ですよね。

突然ですが、こんな質問を新人さんになげかけてみてください。

「身長10メートルの人間はいないけれど、資産1兆円の人間がいるのはなぜだと思う?」

この問いは、私たちが普段無意識に使っている「平均」という概念がいかに脆いかを気づかせるキラークエスチョンです。今日は、自然界や経済、そしてITシステムの世界を支配する「べき分布」について、直感的かつ実用的に教える方法をお伝えします。

投資のリスク管理からシステムの負荷対策まで、幅広く応用できるこの概念を、数式が苦手な新人さんにも楽しく理解してもらいましょう。

「平均」が通用する世界、しない世界

まずは、2つの異なる世界があることをイメージさせましょう。

1. 正規分布:身長の世界

ひとつは「身長」や「テストの点数」のような世界です。これを「正規分布」と呼びます。

ここには明確な「平均」があり、ほとんどの人がその平均の近くにいます。平均身長から少し離れる人はいますが、平均から10倍も背が高い巨人はいませんよね。

2. べき分布:お金の世界

もうひとつが、今日の本題である「べき分布(Power Law)」の世界です。

資産、Webサイトのアクセス数、地震の規模、そしてプログラムのバグの深刻度などがこれに当たります。

ここでは「平均」はほとんど意味を持ちません。

例えば、ビル・ゲイツが満員のスタジアムに入ってくると、そのスタジアムにいる全員の平均資産は一気に跳ね上がります。でも、実際にみんながお金持ちになったわけではありませんよね。

この「一部の極端な値が、全体の数字を支配する」のが、べき分布の特徴です。

シンプルな数式で見る「格差」の正体

ここで、少しだけ数式を出して、エンジニアらしく論理的に説明しましょう。数式に抵抗がある新人さんには、「形だけ見て!」と伝えてください。

べき分布は、一般的に以下のような式で表されます。

y = ax^{-k}

ここで、 x が起こる出来事の大きさ、 y がその頻度だと考えてください。

この式のポイントは、 x の右肩に乗っている -k という指数(べき乗)です。これがタイトルの「べき」の正体です。

このグラフを描くと、左端がすごく高くて、右に行くにつれて急激に滑り台のように下がっていき、最後はゼロにならずにずっと右へ伸びていく「L字型」になります。

これを「ロングテール(長い尻尾)」と呼びます。

Amazonが売れない本(尻尾の部分)を大量に揃えることで利益を上げている、あの有名なビジネスモデルもここから来ています。

なぜエンジニアがこれを学ぶべきなのか

「投資の話ですか? 僕たちに関係ありますか?」

そう思う新人もいるでしょう。ここで、エンジニアの業務に引き寄せて解説します。

バグの発見とパレートの法則

「パレートの法則(80:20の法則)」を聞いたことがありますか。これもべき分布の一種です。

ソフトウェアの世界では、「全体の20%の深刻なバグが、システム全体の80%のトラブルを引き起こす」と言われています。

つまり、平均的にバグを直すのではなく、影響力の大きい「一部の極端なバグ」を見極める力が求められるのです。

サーバー負荷とアクセス集中

Webサービスへのアクセスも、べき分布に従います。

ほとんどの時間はアクセスが少なくても、ある瞬間(テレビで紹介された時など)に、とてつもないアクセスが集中します。「平均的なアクセス数」に合わせてサーバーを設計していたら、その瞬間にシステムはダウンしてしまいますよね。

べき分布思考のメリットとデメリット

この考え方を持つことの利点と注意点を整理して伝えましょう。

メリット:優先順位が明確になる

「すべてを平均的に頑張る」のではなく、「結果を左右する重要な数パーセントに集中する」という戦略が立てられます。投資で言えば、少数の「大化けする銘柄」が資産全体を牽引することを理解できれば、分散投資の重要性が腹落ちします。

デメリット:「まさか」を軽視しがちになる

正規分布の感覚でいると、極端な出来事を「ありえない確率(異常値)」として無視してしまいます。

しかし、べき分布の世界では、リーマンショックのような大暴落や、東日本大震災のような巨大地震といった「ブラック・スワン(黒い白鳥)」が、思ったより高い頻度で発生します。「平均的には大丈夫」という油断が、致命傷になるのです。

指導のポイント:直感を裏切れ

実際に教えるときは、クイズ形式にするのがおすすめです。

「Webサイトのリンク数ランキング、1位と100位の差はどれくらいだと思う?」

「プログラムの処理時間、一番遅い関数は平均の何倍だと思う?」

おそらく、新人の想像をはるかに超える「桁違い」の差が出ます。その驚きこそが、べき分布への理解の入り口です。

今後の学習の指針

最後に、こう締めくくって新人の背中を押してあげてください。

これからのエンジニア人生、みなさんは「正規分布」の安心感と、「べき分布」の理不尽さの両方に出会うことになります。

学習においては、地道な積み重ね(正規分布的)が大切です。しかし、成果やトラブルは突然、桁違いの規模(べき分布的)でやってきます。

次は、実際に「パレート図」を作って、データの偏りを可視化する方法を学んでみてください。あるいは、投資に興味があるなら「ブラック・スワン」という本を読んでみるのも良いでしょう。

「平均」という色眼鏡を外して、世界をありのままの形で見つめられるエンジニアになってください。

それでは、またお会いしましょう。

セイ・コンサルティング・グループでは新人エンジニア研修のアシスタント講師を募集しています。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。