学習内容を深く記憶に刻む「非流暢性」の仕組みと研修資料への応用
こんにちは。ゆうせいです。
研修の資料を作成する際、読みやすさや分かりやすさを追求することは一般的です。しかし、きれいに整えられた資料を配布したにもかかわらず、受講者が内容を覚えていないという事態が生じることがあります。心理学や認知科学の研究では、情報を処理する際のわずかな負荷が、かえって記憶の定着を促進する傾向が確認されています。今回は、認知の非流暢性について解説します。
認知の非流暢性とは何か
認知の非流暢性とは、文字の読み取りや情報の理解に一定の困難や負荷が伴う場合、人間の脳がより深い思考モードに切り替わり、結果として情報の分析や記憶の定着が促進される心理的な仕組みを指します。
高校生のテスト勉強を例に説明します。教科書のように、整った字体で分かりやすく整理された文章を読むとき、生徒はすらすらと文字を追うことができます。しかし、すらすら読めるがゆえに、脳は内容を完全に把握したと錯覚し、表面的な情報の処理で終わってしまいます。
反対に、文字の一部がかすれているプリントや、ところどころ空欄になっている穴埋め問題に取り組む場面を想像してください。生徒は、文字の形を推測したり、前後の文脈から適切な言葉を補ったりするために、立ち止まって思考を巡らせる必要があります。情報の読み取りに手間がかかる環境が、脳の深い処理を引き出し、記憶を強固にする状態が非流暢性に該当します。
流暢性を追求しすぎる不利益
資料の読みやすさのみを追求し、非流暢性の概念を取り入れなかった場合に生じるデメリットを列挙します。
- 美しく整理されたスライドを眺めるだけで学習が完結し、受講者が内容を完全に習得したと錯覚する
- 情報処理の負荷が低いため、研修内容が短期記憶にとどまり、数日後には大半を忘れてしまう
- 容易に答えが手に入る環境により、受講者が自ら疑問を持ち、深く考える機会が失われる
非流暢性を研修設計に活用する利点
情報処理にあえて負荷をかける仕組みを理解し、研修プログラムに組み込むメリットを示します。
- 重要なキーワードを空欄にして提示することで、受講者の注意を引きつけ、長期記憶への定着率を向上させられる
- スライドの表示を意図的に遅らせるなどの工夫により、受講者が次の展開を予測する思考プロセスを生み出せる
- 読み慣れない字体や少し複雑な表現を用いることで、直感的な思い込みを防ぎ、慎重な情報処理を促すことができる
適切な負荷を設定し学習を支援するステップ
非流暢性の働きを活用し、受講者の理解を深めるためには、以下の手順で情報の提示方法を調整する手法が有効です。
1. 負荷をかける情報を限定する
研修資料のすべての文字を読みにくくするのではなく、最も記憶に残したい中核となる概念やキーワードのみを選定します。
2. 物理的または認知的な負荷を設計する
選定したキーワードについて、資料を穴埋め形式にする、あえて普段使用しない少し読みにくいフォントに変更する、あるいは図解を省略して文章から構造を想像させるなどの加工を施します。
3. 処理のための時間を確保する
情報処理に負荷をかけると、読み取りや理解に時間を要します。受講者が立ち止まって考えるための沈黙の時間を研修プログラム内に意図的に設けます。
4. 負荷の度合いを調整する
処理の負荷が強すぎると学習への意欲が低下するため、受講者の反応を観察しながら、適切な難易度になるよう空欄の数や表現の複雑さを見直します。
情報を処理する際の手間は、学習を妨げるものではなく、記憶を定着させるための重要な過程となります。まずは、次回の研修で使用する配布資料の中で、受講者に最も覚えてほしい単語を一つだけ空欄にし、受講者自身にペンで書き込ませる手順から始めてください。適切な負荷を設計することで、表面的な理解を防ぎ、本質的な学習を促す環境の構築が可能になります。
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投稿者プロフィール

- 代表取締役
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セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。

