オープンイノベーションとは?IT企業で取り組むメリットから成功事例までご紹介

競争の激しいIT業界においては、自社の従業員だけの知識や技術だけで革新的な商品やサービスを提供し続けるのは難しいので、オープンイノベーションの考え方を少しずつ取り入れていきたいけれど、何から始めればよいかわからず困っている人はいませんか?

この記事では、オープンイノベーションにIT企業が取り組むメリットから成功事例まで詳しくご紹介します。

オープンイノベーションとは?

オープンイノベーションにおいてアイデアを集結するイメージ

2020年5月に更新された「オープンイノベーション白書第3版」では、オープンイノベーションを「企業内部と外部のアイデアを結合し、新しい価値を生み出すという意味を持っている」としています。

元々は経営学者のヘンリー・チェスブロウによって組織内のイノベーションを促進するために、組織内で生み出されたイノベーションを組織外にも展開するイノベーションモデルを指す言葉として提唱されました。

オープンイノベーションと逆の意味を表す言葉にクローズドイノベーションがありますが、この2つの考え方の違いは次の通りです。

 オープンイノベーションクローズドイノベーション
人材・イノベーションを起こすのに社内に優秀な人材は必ずしも必要ではない
・社内に限らず社外の優秀な人材と協働すればよい
・イノベーションを促進するためには優秀な人材を雇わなければならない
研究開発・社外の研究開発で大きな価値を創造できる
・社内の研究開発は価値の一部を確保するために必要
・利益を得るためには必ずしも基礎から研究開発をする必要はない
・研究開発から利益を得るためには発見、開発、商品化まで自社で行わなければならない
・自社で発明すれば一番早く市場に出した企業が成功する
マーケット・優れたビジネスモデルを構築する方が商品やサービスを最初にマーケットに出すよりも重要・イノベーションを最初にマーケットに出した企業が成功する
アイデア・社内と社外のアイデアを最も有効に活用できた企業が成功する・業界でベストのアイデアを出した企業が成功する
知的財産権・他社に知的財産権を使用させることで利益を得たり、他社の知的財産権を購入することで自社のビジネスモデルを発展させたりすることも考える・知的財産権をコントロールし他社は排除する

オープンイノベーションをクローズドイノベーションと比較すると、社内と社外のリソースを有効活用してより多くの価値を創造しようとしているのがわかります。

参考:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「オープンイノベーション白書」

オープンイノベーションにIT企業が取り組むメリット

税制の優遇

オープンイノベーションにIT企業が取り組むと、どのようなメリットがあるのでしょうか。

3つご紹介します。

税制面から国の後押しを受けられる

オープンイノベーションにIT企業が取り組むと、「オープンイノベーション促進税制」の適用を申請して税制上の優遇措置を受けることができます。

オープンイノベーション促進税制には次の2種類があります。

項目対象法人概要
新規出資型株式会社やそのCVCとスタートアップ企業株式会社やそのCVCがオープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得価格の25%を課税所得から控除できる制度
M&A型株式会社やそのCVCとスタートアップ企業株式会社やそのCVCがスタートアップ企業のM&A(議決権の過半数の取得)を行った場合、取得した発行済株式の取得価格の25%を課税所得から控除できる制度

IT企業としてオープンイノベーションで新しい事業に取り組みたいけれど、税金が重くて二の足を踏んでいる場合にはぴったりの制度だと言えるでしょう。

また申請手続きは「gBiz FORM」という電子申請サービスから行うことができます。

オープンイノベーション促進税制が適用できるかどうかの詳細な要件や電子申請サービスの利用方法は経済産業省のホームページ、オープンイノベーション促進税制の詳細については国税庁のホームページで確認してみましょう。

参考:経済産業省「オープンイノベーション促進税制」

参考:国税庁「No.5575オープンイノベーションを促進するための税制」

他社と差別化できる

「オープンイノベーション白書第3版」において日本の企業300社を対象にイノベーションに対する取り組みの効果についてたずねた所、次のような結果が出ました。

 大企業中小企業スタートアップ
大きく効果が出ている25%14%12%
多少効果が出ている53%42%61%
あまり効果が出ていない15%23%9%
まったく効果が出ていない0%5%0%
自社事例にはあてはまらない2%5%6%
効果が出ているかわからない4%12%12%

「多少効果が出ている」と回答した企業がどの企業規模においても一番多い結果となり、イノベーションに対してあまり積極的に取り組めていない現状が垣間見えます。

また中小企業では「あまり効果が出ていない」「まったく効果が出ていない」とする企業が合計28%あるため、このような企業でオープンイノベーションに取り組んで成功できれば、差別化につながるでしょう。

一方創業から短期間で大きな成果が上がるのを特徴とするユニコーン企業の数を調査した所、日本ではPreferred Networks、スマートニュース、QUONIEのわずか3社でした。

ユニコーン企業の条件は次の4つです。

  • 評価額10億ドル以上
  • 創業10年以内
  • 未上場
  • テクノロジー企業

IT業界において前の項目でご紹介したオープンイノベーション促進税制などを活用し、ユニコーン企業になるほどの成果を上げると競合他社と大きく差別化できるでしょう。

参考:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「オープンイノベーション白書」

変化に対応しやすくなる

近年「VUCAの時代」という言葉をよく耳にしますが、VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、予測が難しく変化が激しい社会や経済情勢を表す言葉です。

企業内と企業外のアイデアを集結してオープンイノベーションに取り組めば、IT業界に今までなかったサービスを新しく生み出して世の中の激しい変化に対応していけるのではないでしょうか。

オープンイノベーションの成功事例

名古屋大学の外観

オープンイノベーションの成功事例を3つご紹介します。

名古屋大学未来社会創造機構オープンイノベーション推進室

名古屋大学未来社会創造機構オープンイノベーション推進室では、産学連携でオープンイノベーションに取り組み、獲得資金による研究活動の強化を目指しています。

「わたしたち名古屋大学は未来社会創造機構を中心に、産業界・地域と共創し、先進的地域集約型産業とそれらを生み出す基盤を創出していきます」をビジョンに掲げ、「モビリティ研究所」「ナノライフシステム研究所」「マテリアルイノベーション研究所」で共同研究を行っているのです。

一方オープンイノベーションに取り組みながら、そのノウハウについてオープンイノベーションセミナーを定期開催して発信するなど、新しくオープンイノベーションに取り組みたい人たちへの教育にも積極的に取り組んでいます。

大学の「研究」「教育」という役割とオープンイノベーションを組み合わせて成功した好事例だと言えるでしょう。

参考:名古屋大学未来社会創造機構オープンイノベーション推進室公式ホームページ

ナゴヤイノベーターズガレージ

ナゴヤイノベーターズガレージは中部経済連合会と名古屋市が設立した会員制のイノベーションハブです。

ホームページで「法人会員一覧」を見ると会員企業の業種が幅広く、IT企業が会員になった場合今までにない着想を得られる可能性があるのがわかります。

またワークショップやセミナー、マッチングイベントなどを多数開催しているので、それらに参加するだけでオープンイノベーションへのヒントが得られます。

地域のネットワークやコミュニティ作りに目を向け、オープンイノベーションの土台作りに成功した好事例と言えるでしょう。

参考:ナゴヤイノベーターズガレージ公式ホームページ

AICHI MATCHING

AICHI MACHINGとは愛知県企業と全国のスタートアップ企業のオープンイノベーションを活用した新規事業創出プログラムです。

多岐に渡るジャンルの愛知県企業20社が共創パートナーを募集し、応募して書類選考を通過したスタートアップ企業が担当者と事業共創を見据えたオンラインディスカッションに参加できる仕組みです。

これまでの成果は愛知県のホームページにまとめて紹介されているので、オープンイノベーションのパートナーが見つからない企業が参考にしたい事例と言えるでしょう。

参考:AICHI MATCHING2023公式ホームページ

参考:愛知県「AICHI MATCHINGに関する過去の情報」

オープンイノベーション推進における課題

オープンイノベーションを推進する上での課題に気づき悩むビジネスマンのチーム

オープンイノベーション白書では、今後オープンイノベーションを推進する上で次のような課題があるとしています。

分類項目概要
組織戦略外部連携をするかどうかの判断基準・明確化されていないか明確化されているが徹底されていない
・外部連携が全社的な取り組みになっていない
対外的な情報発信・経営トップのコミットメントが不十分
組織のオペレーション専門組織・設置されていないか設置されていても機能していない
外部連携先の探索・従来の手段に頼っており新しい手法(ビジネスコンテスト、ハッカソン、アイデアソン、CVCなど)を活用できていない
国内の組織と外部連携をする場合の課題・適当な連携先を見つけられない ・費用分担や知財の取り扱いで合意できない
・協業で目指す所やスピード感が合わない
ソフト面の要素推進する仕組みの問題点・課題・人員や予算が足りない
・研究開発部門の理解や外部連携先の探索が難しい
オープンイノベーションを推進するにあたっての阻害要因・マインド面の問題
・プロセスやリソースの問題

自社でオープンイノベーションが進まないけれど理由がなかなかつかめない場合、この表に記載されたような課題がないかを考えてみるのもよいでしょう。

参考:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「オープンイノベーション白書」

社内への浸透はまだ先でもオープンイノベーションの土台を築きたい方はセイ・コンサルティング・グループへご相談ください

経営トップがあまり乗り気ではなく、現時点でもリソースは足りないけれどオープンイノベーションを起こす土台を少しずつ作りたい方は、セイ・コンサルティング・グループにご相談ください。

オープンイノベーションを生み出しやすくなる思考方法を学ぶ「デザイン・シンキング研修」、アイデアを着想する方法から学べる「アイデアの発想転換法研修」で、従業員の皆様の意識を少しずつでも変えていくサポートができます。

IT業界におけるオープンイノベーションの波に自社が乗り遅れるのではないかという危機感を少しでも感じた方は、次のページもごらんください。 

IT技術者のためのデザイン・シンキング研修

アイデアの発想転換法

まとめ

オープンイノベーションとは企業内部と外部のアイデアを結合し、新しい価値を生み出すという意味を持ちますが、変化の激しいVUCAの時代でIT企業が生き残るためには理解しておきたい戦略の1つだと言えるでしょう。

この記事も参考にして、ぜひ自社に合った形でオープンイノベーションを進めてみてください。