人間関係から分子構造まで!グラフニューラルネットワーク(GNN)の世界へようこそ

こんにちは。ゆうせいです。

AIや機械学習を学んでいると、画像やテキスト、表形式のデータなどを扱うことが多いですよね。これらのデータは、ピクセルが規則正しく並んでいたり、単語が一列に並んでいたりと、構造がとても整っています。

では、もしデータが「誰と誰が友達か」という人間関係や、「どの都市とどの都市が道路で繋がっているか」という交通網のように、もっと複雑に絡み合っていたらどうでしょう?

そんな、要素と「つながり」で表現されるデータを扱うための技術が、今回ご紹介する「グラフニューラルネットワーク(Graph Neural Network, GNN)」なんです!

ちょっと難しそうに聞こえますか?大丈夫!

GNNの基本的な考え方は、実は私たちの日常にも通じる、とても直感的なものなんですよ。

GNNを理解する前に:「グラフ」って何?

まず、GNNが扱う「グラフデータ」とは何かを確認しましょう。

ここでいうグラフとは、棒グラフや円グラフのことではありません。数学の世界の「グラフ理論」に出てくる、以下の二つの要素で構成されるデータ構造を指します。

  • ノード (Node): 「点」や「要素」そのもの。SNSにおける「ユーザー」、交通網における「都市」、分子構造における「原子」などがこれにあたります。
  • エッジ (Edge): ノードとノードの「つながり」や「関係性」を表す線。SNSでの「友達関係」、交通網における「道路」、分子構造における「化学結合」などです。

つまり、世の中の様々な関係性は、この「ノード」と「エッジ」の集まりであるグラフ構造で表現できる、というわけです。

GNNの核心:「噂話はこうして広まる!」

従来のニューラルネットワークは、このグラフ構造をうまく扱えませんでした。なぜなら、各ノードの「友達」の数(エッジの数)はバラバラで、画像のように決まった形に落とし込めないからです。

そこで登場したGNNは、一体どうやってこの問題を解決したのでしょうか?

その核心的なアイデアを、SNSでの「噂話」に例えて説明しますね!

GNNの計算は、大きく分けていくつかのステップを繰り返すことで行われます。

ステップ0:みんな、最初は自分の意見を持っている

まず、ネットワーク上のすべてのノード(ユーザー)は、それぞれ何かしらの初期情報を持っています。これを「特徴量」と呼びます。

例えば、「Aさんはラーメンが好き」「Bさんは寿司が好き」といった、個人の好みだと考えてください。

ステップ1:「隣のあの人」の話を聞いてみよう

次に、各ノードは、エッジで直接つながっているお隣さん(=友達)の情報を集めます。

Aさんは、友達であるBさん(寿司好き)とCさん(カレー好き)の話を聞きます。この「情報を集める」ステップを「集約(Aggregation)」と呼びます。

ステップ2:自分の意見を更新する

情報を集めたら、Aさんはその情報を使って自分の考えを更新します。

「自分はラーメンが好きだけど、友達のBは寿司、Cはカレーが好きか…。なるほど、みんなそういうのが好きなんだな」というように、自分自身の初期情報と、友達から集めた情報を混ぜ合わせるのです。

この「情報を混ぜ合わせて新しくする」ステップを「更新(Update)」と呼びます。

重要なのは、この「集約」と「更新」を、ネットワーク上のすべてのノードが同時に行うことです!

ステップ3:噂がさらに遠くへ…

一度更新が終わると、Aさんの情報には、元々の友達であるBさんやCさんの好みが反映されました。

そして、この状態で、もう一度ステップ1と2を繰り返すとどうなるでしょう?

Aさんは再びBさんから話を聞きますが、この時のBさんの情報は、すでに「Bさんの友達」の情報が混ざったものになっています。

つまり、Aさんはステップを繰り返すことで、「友達の友達」という、より遠くのノードの情報も間接的に取り込むことができるのです。

まるで噂話が人から人へと伝わり、どんどん遠くまで広がっていくようですよね!

この「近所の情報を取り込んで自分を更新する」という処理を数回繰り返すことで、各ノードは、自分がグラフ全体のどこに位置し、どのような役割を持っているのかを表現する、賢い特徴量を獲得していくのです。

GNNは何がすごいの?(メリット)

GNNを使うと、これまで難しかった様々な問題が解けるようになります。

  • 高精度なレコメンデーション: 「この商品を買った人は、こちらも買っています」という推薦は、まさにグラフ構造です。GNNは、ユーザーと商品の複雑な関係性を学習し、あなたが次に何を欲しくなるかを高い精度で予測します。
  • 創薬・新材料開発: 分子は、原子(ノード)と結合(エッジ)からなるグラフです。GNNを使えば、ある分子が薬として有効か、あるいは特定の性質を持つかをシミュレーションで予測でき、開発プロセスを劇的に加速させます。
  • 交通量予測や金融犯罪検知: 道路網の渋滞予測や、不正な資金の流れ(怪しい個人・団体間のつながり)の検知など、社会のインフラを支える多くの分野で活用が進んでいます。

もちろん弱点もある(デメリット)

強力なGNNですが、万能ではありません。

  • 計算コストが高い: グラフが巨大(ノードやエッジが数百万以上)になると、すべてのノードの情報を計算するのに非常に多くの計算資源と時間が必要になります。
  • オーバーズムージング問題: 「噂話」のステップをあまりにも多く繰り返すと、ネットワークの端から端まで情報が行き渡りすぎて、最終的にすべてのノードが同じような特徴を持ってしまうことがあります。個性がなくなり、性能がかえって低下してしまうのです。

次のステップへ

グラフニューラルネットワークの魅力、少しは伝わったでしょうか?

それは、単体のデータだけでなく、その「関係性」に注目することで、より深く世界を理解しようとする、非常に強力なアプローチです。

もしGNNの世界にさらに足を踏み入れたいなら、次はこんなテーマを学んでみるのがおすすめです。

  • 代表的なGNNモデル: GNNの基礎となったGCN (Graph Convolutional Network)や、エッジの重要度も考慮するGAT (Graph Attention Network)など、具体的なモデルの仕組みを調べてみましょう。
  • 専門ライブラリに触れる: PythonにはPyTorch GeometricDGL (Deep Graph Library)といった、GNNを簡単に実装できる素晴らしいライブラリがあります。実際に手を動かして、グラフデータを扱う感覚を掴んでみてください。

GNNは今、世界中で非常に活発に研究が進められている分野です。

このエキサイティングな技術を学ぶことで、あなたのエンジニアとしての可能性は、間違いなく大きく広がるはずですよ!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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